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166 とある家の事情

「私のクッションを奪うは王都の門番は買収されてはでこの国は間違ってると思う」


 馬車に乗せられるとクッションを奪われ、王都へドナドナされた。しかも門番はウザル男爵に買収されているらしく、私を見ても助けるそぶりも見せなかった。王様から干渉するなと命令が出てる筈なのにだ。普通は事情を聴いて王宮に報告するだろう。

 そのままショボい屋敷の地下牢に閉じ込められた。これもおかしい。犯罪者扱いなら騎士団に引き渡しだ。

 そして地下にはメタボでパンツ一丁の変態野郎が鞭を持ってスタンバイしていた。

 ウザル男爵は「コイツからワイバーンを取り上げろ! 」と叫ぶと頭部を押さえて走り去った。


「それでお嬢様に何をする御積もりですか? 」


「ムゴ、ムウウ! 」


 ブヒブヒ言いながら私とアノンちゃんに近づいてきた変態野郎は先に牢屋に入れられたアリシアさんが鉄格子を曲げて脱出(木製の手錠は普通に壊していた)したアリシアさんにボコボコにされて三角の乗り物に乗せられている。しかも角材でおもいっきり殴るなどの暴行も受けている。


「それは私もおかしと思うよ。でもあのメイドさんも普通じゃないよね? 鉄格子曲げてたよ」


 何か小さい棒状の物を持っていたのが気に入らなかったんだよ。それを見た瞬間、手錠を粉砕して牢屋から出てきたアリシアさんはバーサーカーだった。まあ、出て来なくても私の精霊達が殺気を放っていたのでただでは済まないけどね。しかし見た事の無い物体を持っていたな。短いから叩かれても余り痛く無さそう。まあ、アリシアさんが火魔法で塵になるまで燃やしたので真相は不明だ。持ってた人も喋れる状況じゃないし。


「ホラホラホラ私のお嬢様にナニをしようとしてたのか話してみなさい。殺してやります! 」


「不味いよホロウ。あのメイドさん殺す気だ」


 次第に攻撃が激しくなっていくアリシアさんにアノンちゃんは顔面蒼白だ。ああ、爪を剥がし始めたよ止めないと。


「はいはいストップストップ。適当に気絶させて奥の牢屋にでも仕舞っておけば? 」


「駄目です。コイツだけは殺させてください」


 血走った眼をしたアリシアさん。仮面を付けてる(この仮面はつけた本人しか外せない)ので恐怖が倍増するよ。チェーンソー持ってる殺人鬼に見える。


「私の前で血生臭い事しないで欲しいけど」


「では奥で殺してきます。ご安心ください血の匂いも消しますし、悲鳴もあげさせません」


「いいから死なない程度に治して牢屋に仕舞っておくの! 」


「はい直ちに」


 アリシアさんは前言撤回すると、拷問官の頭を掴み、牢屋の方に引きずっていった。

 そして「少しでも声をあげたら次はもっと辛い目にあいますよ」と言い牢屋の扉を閉める。どうやら最低限の手加減はしていたようだ。甚振る為だと思うけど。


「それであの棒は何だったの? 」


「知る必要はありません。私は絶対に応えませんし、誰かに聞いてもいけません。品位を疑われる汚らわしい汚物です」


 アリシアさんはそう言うと一切教える気は無いと言う雰囲気を出している。アノンちゃんも知らないようだ。多分拷問道具だったのだろうと納得する事にした。どうせ近づいたら精霊達が殺しそうな雰囲気だったし害は無いので興味も無い。


「良し状況を確認しよう。私達は不当に拘束された。今後どう動くかだよ」


「普通に王城に行けばウザル男爵程度なら親父が一発で終わらせてくれるよ」


「暗部を放ち奴をアーランドに拉致しましょう。きっと彼も喜びますよ♪ 」


 アノンちゃんは兎も角、アリシアさんの策は絶対に殺してくれ! って泣き叫ぶと思うんだ。うちの騎士達や真っ当な貴族は絶対にこの件を許さないだろうし。

 まあ、この件は私がウザル男爵の横暴に対する報復として捕まったので表に出す気は無い。アーランドの冒険者をオストランドが不当に拘束したと言う感じで終わらせる予定だ。しかし……


「残念。まずは牢屋を探索だよ。きっと抜け道とか余罪の証拠とか見つかるかもしれないよ。それにそろそろクート君がこっちに来るし」


 探索だよ! きっとカッコいい抜け道とか色々ある筈だよ!


「牢屋にそのような物があるとは思えませんが……」


「探検! ホロウ天才だよ。そうだよ私達には冒険が足りないんだ! 」


 私とアノンちゃんはがっちりと握手した。


「でも薄暗いし埃っぽい。ちょっと何とか出来る? 」


――りょうかーい――


――確かにアリスが居るには相応しくないよね私達が改造してあげる――


 風の精霊が埃を集めると拷問官の所に押し込む。水の精霊が地下室の汚れを落とし、土の精霊が牢屋を地下ホールの様に広げていく。そして光の精霊が光を放ち、明るくする。


――では私が上の連中が不審がらないようにちょっと手を加えてこよう――


 闇の精霊はこの屋敷の使用人や警備の人間に暗示を掛けて誰も来ないようにし、何が起きても不信感を抱かないようにしてしまった。


「抜け道無いね……」


「普通は抜け道作ると思うんだ。私も城中に私用の抜け道作ったし」


「見つけ次第破棄する事になるので城に変な通路を作らないでください。どうせ悪戯用ですよね」


 うん、マダムやお母様に捕まると怖いんだよ。因みに執務室の私の机は後ろの窓と連動したカタパルトが設置されている。緊急時には私を射出して脱出させる仕組みだ。それ以外にも廊下の壁や床に抜け道があったりする。NINJA屋敷みたいにしているのだ。


「私悪くないもん。お父様がお城を改造して良いって言ったんだもん。それに侵入者が入った時には魔獣がそこを通って迎撃に出れるんだよ」


 色々な所から高位魔獣が出てくるのは襲撃する側からしたら脅威だ。特にお城で待機してるにゃんこ部隊は狭い場所でも戦える。


「……」


「良いの! 」


――アリス~何か変な牢屋があったよ~――


――隠し部屋だよ隠し部屋――


 私が唸るアリシアさんを説得していると、部屋を拡張してる精霊が秘密の部屋を見つけたらしい。もしかして凄い物があるかもしれない! ほら、先代とか先々代の秘宝とか。


「そんな物を置いておくとは思いませんが……」


 地の精霊がこのままだとその隠し部屋も拡張範囲に入って邪魔だと言うので確認する事にした。

 巧妙に隠された岩の壁の向こうに扉がある。多分何処かの仕掛けを動かすと岩の壁も動くのだろう。


「ワクワク」


「ワクワク」


 私が下でアノンちゃんが私の頭の上から中を覗きこむ。その中には……


「あら珍しいお客様ね」


 一人の貴婦人が居た。

 その部屋は牢屋と言うより小部屋と言う感じで、しっかりとした調度品などが置かれている。更に私達の出た扉は、部屋の中からは棚になってる隠し扉のようだ。目の前に正規の扉らしき物があるが、どう見てもこの婦人を閉じ込めている類の頑丈な扉だった。


「えっと、お邪魔します」


「良いのよ。暫く誰とも話せなくて退屈だったの。でもそんな所に隠し通路があったのなら父も教えてくれれば良かったのに……」


「えっと私は」


「知っているわよ。シェフィルド家の令嬢でしょう?お母様そっくりね。隣の子は……ちょっと見た事が無いわ」


 私とアノンちゃんは誰だろうと首を傾げる。ただ敵では無いようだ。

 その後色々と話をしてみると、ウザル男爵夫人だと言う。敵じゃん!私達は即座に距離を取った。


「アラアラ嫌われてしまったわ。私はあの男の味方では無いわよ。寧ろ邪魔だったからここに閉じ込められたの……長く続いたウザル家ももうお終いでしょうね。父や母に御先祖様には申し訳ないのだけど……ね」


 涙を流しながら頭をさげる夫人。どうやら訳ありのようだ。これは少し方針を変えるべきだろう。私は話を聞く事にした。

 どうやらウザル男爵家はお家乗っ取りを受けているようだ。ある時領地が不作で飢饉が起きた。王国は減税や補助金を出す事で被害は最低限であったが、ウザル男爵家は被害が大きく、貯蓄と補助金だけでは民が飢えてしまう程の被害だったようだ。政府も全額出せる訳じゃ無いらしい。まあ補助金が出るだけマシなのだとか。

 困った先代のウザル男爵にとある公爵が自分の一族の者を婿にする条件で援助を出すと申し出た。貴族の政略結婚は珍しく無く、目の前のマリア夫人が公爵の3男と結婚したのだ。暫くして、飢饉が過ぎるとその苦労から両親が病で他界する。あっという間だったようだ。


「その頃から公爵の要求がエスカレートし始めたのよ……」


 やれ自分の部下を受け入れろとか婿にもっと権限を与えろとかだ。ウザル男爵家はマリア夫人が継いでいる為、婿の男には力が無かった。最初は一緒に頑張ろうとしたが金使いが荒い上に女性関係でも問題ばかりで直ぐに領地運営から追い出される。あの男は王都の別邸。つまりこの屋敷で暮らしてるだけのヒモ野郎なのだ。

 因みにキノコ頭は奴の隠し子だとか。マリア夫人との間に子供が出来なかったので隠し子を嫡男にしようとしてるのだ。


「無論それは出来ない事よ。ウザル家の当主はあくまで私です」


 そう。これを許可出来るのはマリア夫人だけだった。夫同様に無能の極みの男を後継者には選べなかったのだ。


「あの痴れ者を後継者にすればいずれ領地領民に苦難が訪れる。だから私は公爵家からの要請と言う名の命令もずっと断っていたのよ」


 しかしスタンピードが発生した。マリア夫人は軍の指揮も執れるらしく領地はほぼ被害が無かったようだ。魔物の侵攻ルートから外れていたのも大きいが。

 しかしマリア夫人の下にあの男が負傷したとの報告が入った。ずっと領地に籠っていた彼女も嫌ってる夫であっても社会の目があるので見舞いに行くと、その場で拘束されたのだ。邪魔だから監禁すると言う強硬手段を取られたのだ。挙句領地には疲れから病を発病してるので王都の屋敷で静養してると嘘の報告も入れているらしい。

 このままだと無理やりあの男に領地と爵位を奪われる。なんとかして脱出して王城に行きたいのだと彼女は語った。


「お家簒奪は重罪です。あの男と息子にウザル家は渡せません」


「成程、じゃあ領地の方はあの男と関係ないんだね」


「多分直ぐにどうにかなるとは思えません。父の代から使えている者達はあの男の命令を聞きませんから……ただ、領民達に悪さをしてなければ良いのですが……」


 めっちゃ悪い事してたよ。村長蹴ってたよ。領民に夜伽を命じてたよ。やっぱあの禿追い出そう。

 私は携帯を取り出す。通信先はアーランドの在オストランド大使だ。


『はい』


『私が誰か分かる? 』


『無論でございます我等が姫君』


『お願い事があるんだけど……もうそっちにも鉄道の件は話がいってるよね? それを使ってやって欲しい事が有る』


 私が詳しい内容を話すと大使が怒りの声をあげたが、私があえて捕まった事を教えると少し冷静になった。


『了解しました。直ちにオストランドへ警告を行い姫様を解放させてみせます』


 王様よ、少し苦労するだろうが頑張って欲しい。反撃を始めよう。

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