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164 何処にでも居るような貴族

村の広場にはワイバーンの死骸が山積みになっている。襲撃してきたワイバーンは43匹。ヘリオスがボスの飛竜を〆に行っているが、どうやら巣を他のドラゴンに強奪されたせいで食料が無くなったのが原因らしい。ヘリオスを見て逃げた飛竜を追っていると飛竜はブレイブ・ドラゴン2匹の番に殺されたようだ。

 ブレイブ・ドラゴンは勇気あるドラゴンとも呼ばれているが、実際は目に入った生き物を強さ関係なく襲うアホなドラゴンである。属性は無いが飛竜よりは強い。

 案の定ヘリオスが古龍だと分かっていても襲い掛かってきたので返り討ちにされた。人の姿になったヘリオスが二匹のブレイブ・ドラゴンの尻尾を掴んで引き摺って来たのに村人はドン引きである。普通は持ち歩けない。


「主よ、どうやらこいつ等結構な財宝を集めていたぞ。ブレイブ・ドラゴンの物も巣に移動されているのである! 」


 ヘリオスが予想外の物を見つけてきたようだ。クート君に自分の方が役に立つぞとアピールしている。

 それを聞いたクート君が悔しそうに唸り声をあげた。


「我だって巣を襲えれば見つけられるわ! 」


 まあまあとクート君を落ち着けるように撫でると拗ねてしまってそっぽを向くクート君。


「そう言えばヘリオスの巣にも財宝ありそうだよね」


 そう言えばドラゴンってカラスと同じで光る物が大好きだったっけ。

 ヘリオスはおっとした顔をした。


「そう言えば吾輩も巣に宝物を集めていたのである。宜しい後で全て持ってこよう」


「良いの? 」


 略奪品だと思うがヘリオスの所有物だ。


「構わぬ。吾輩も集めていただけで使い道が無い。吾輩達が宝を集めるのは単なる趣味である。恐らく巣にある宝物も残って居るであろうよ。

 吾輩の巣に手を出す輩はおらぬからな」


 良し、ならば王国の資金にしてしまおう。これで公共事業が更に出来るよ。きっと大量の財宝を集めているはずだ。ヘリオスに今度お礼をしないと。


「……我だって言ってくれればいくらでも奪って来るぞ」


「クート君、奪うって何処から奪うのよ。悪さすれば討伐対象になっちゃうよ。

 クート君達だって十分役にたってるんだから誇りに思って良い」


 ヘリオスはドラゴンに戻ると非常に目立つ。人型だと盾にしかならない。反面クート君達は斥候も護衛も出来るし、鼻も良いので不意打ち対策も出来る優秀な護衛だ。


 暫くすると村長が出てきた。少し被害が出たそうだ。

 ワイバーンは家畜ばかり狙っていたが、何人かが食べられたり倒壊した建物の下敷きになって亡くなったそうだ。


「おかげさまで被害が最小限で済みました。本当に感謝します」


「こちらこそもう少し早く来れば被害を出さずに済んだのにごめんなさい」


 あと一日早く到着してれば被害を出さずにワイバーンを討伐出来ていたのに……

 村長は少しだけ躊躇うと苦笑いをする。


「長年村長をしていればこういう事もあります。貴女方のお蔭で村が壊滅しなかったのです。謝罪は不要です。昼に活動するワイバーンが明け方に襲撃するなど予想も出来ません。

 ですが、ギルドの方にはワイバーンの行動の報告をお願いします。同じことが起きないように」


 ドラゴンは基本的に明るい時に動く。夜に飛んでる事はあるのだが、夜だと余り見えないらしく襲撃はしてこないのだ。実際何も無い畑で暴れていた個体も居た。

 村人は忙しそうに壊された建物から使える物の回収や、葬儀の手配などを行っている。

 私達も手伝おうとしたが「恩人にこんな事はお願いできません」と断られてしまった。

 日が昇ると村人達が集まって死者の葬儀を行う。教会はスタンピードの時に神官が逃げたそうで村長が聖書を読んでいた。


「行きましょう」


「そうだね。長居するとしんみりしちゃうよ」


 暫くして私達も村を出る準備をする。広場に纏めておいたワイバーンなどの死骸を回収しないといけない。どうしよう…広場に村人が居るから宝物庫が出せない。

 あれは非常に目立つ。この世の物とは思えない豪華絢爛な門が出てくるのだ。魔道具だと思われても普通の冒険者が持っているレベルの物じゃ無い。

 それにギルドに売り払う時も同じだ。これは大型の収納袋を作る必要がありそうだ。幸い材料は揃ってるから戻りながら作って、王都の外で入れ替えれば問題ないだろうが、この場をどうするか。

 暫く考えてると馬車の走る音と鎧のガチャガチャと言う音が村に響いてきた。今頃になって領主が動いたのかな?


「村長は居るか! 」


「は、はい。ここにおります」


 馬に乗った騎士――恐らく領主に任命された騎士だろう――が偉そうに村長を呼び出す。と言うかさぁ普通葬儀してるって見れば分かるじゃん。少し待とうよ。


「追加で税を徴収する事になった。この様に提出せよ」


 偉そうな騎士が追加で収める物の書かれた紙を掲げる。

 村中が凍り付いた。普通冬に税金取りに来ないでしょ。と言うかこの村は貧しいと言う程ではないが、この時期に追加の税を払える余裕があるとは思えない。


「申し訳ありません。今朝がたにワイバーンの襲撃を受けて村の倉庫が一部壊されました。追加の税を納めると我々が飢えてしまいます。

 それに亡くなった者の遺族にもある程度の保証が必要です。出来れば来年の税を少し減らして貰えないでしょうか……」


 村の倉庫まで被害を受けたのか……何匹かワイバーンをあげるべきかもしれない。流石に不憫過ぎる。

 だが、騎士の男は馬から下りると村長を殴りつける暴挙に出た。


「この馬車にはこの地の領主様とお世継ぎ様が乗っておられるのだぞ。領民として喜んで差し出すのが務めであろう! 」


「お……お許しを」


 唸る村長を踏みつけながら叫ぶ騎士。私はアノンちゃんを見る。こんな領主をオストランドは飼っているのか。アーランドなら領地を剥奪して貴族議会に隔離するけど。


「流石に私も初めてだよ……と言うかあの紋章ってウザル男爵家の紋章じゃん。金使いが荒いので有名だけど遂にやっちゃったか。普通に違法だよ。王様に報告すれば少なくとも領地は没収だね」


 まあ、領主だからって何度でも税を徴収できるわけないもんね。よし、私が一肌脱いで王様に密告してあげよう。ついでに減税もお願いしてあげる。


「姫様に見られた以上は厳罰は避けられませんね。オストランドの品位を疑われますから」


 アリシアさんが小声で囁いた。だよね。オストランドってアーランドが重要視してる同盟国だけど、変わりは居るんだよね。内部が腐ってると思われたら同盟や経済協力に傷がつく。あの王様なら容赦なく切り捨てるだろう。


「貴様等が生きていけるのも領主様のおかげであろう! 今すぐに手配するのだ。それとお世継ぎ様が女子をお望みだ相応しい者を手配せよ」


 いや、領主居なくても人は生きて行けるし。まあ安全等も自分でどうにかしないといけないけどね。

 と言うか下種い奴等だな。私は反射的に腰のホルスターに入れてあるリボルバーに手を掛ける。


「殺しますか? 」


 流石のアリシアさんもゴミを見る目で相手を見つめている。殺すのに一切の慈悲を与える事は無いだろう。女の敵過ぎる。


「出来れば捕まえたいけど私が動くと問題が起こる。身元がバレると内政干渉だし……アノンちゃん」


「ふえ、私だって無理だよ。親父が居れば一発逮捕出来るけど私にはなんの権限もないし……ボコって捕まえるくらいかな? 」


 そうだよね。令嬢って実際なんの権限も持ってないもんね。アノンちゃんでも今すぐじゃどうにもならないか。実力行使しか選択肢無いけど、この場で行うと私達が犯罪者にされると思うんだよな。


「まだ徴収できんのか」


 馬車の窓から領主と思われるデブが顔を出す。どう見ても悪役顔だよ。それも三下の奴だ。

 騎士はペコペコ頭を下げながら言い訳する。どれも村人が悪い・逆らう等の言い訳だ。最悪の連中だな。

 領主は騎士の発言に怒りだし、騎士の顔に魔法で空気弾を撃ち込む。


「さっさとせぬか! 儂は直ぐに王都のリディマス様の下に戻らねばならんのだぞ」


 リディマスって誰よ。


「第5王子だよ。私も名前忘れてたから多分だけどね」


「不思議な事に名前だけ皆忘れているんです」


 そうかあの男か。私も顔を思い出せないけど鬱陶しい奴だったよ。まさか食肉にもならない豚を飼う趣味があったとは思わなかった。私の中で第5王子の好感度がストップ安から上場廃止まで下がった。

 それとアノンちゃんが第5王子の近況を教えてくれた。

 何でも最近王家での権力争いが激化してるそうだ。王様は王太子を次の国王にすると明言してるし、他の王族……王太子の兄妹も反対する者は余り居ない。但し、第5王子派だけは猛烈に抵抗してるそうだ。

 おかげで廃勅もままならないのだとか。有力な貴族の一部が背後に居るせいで邪魔されてるんだって。王の勅命使おうよ。

 おかげで貴族達の派閥争いも激化してるそうだ。

 まあスタンピードの影響で軍とか経済にダメージが入ってるせいで有力貴族に強く物申せないのだろう。


「パパ、こんな村からさっさと出て王都に戻ろうよ」


 キノコみたいな髪型の男が退屈そうに顔を出した。多分アレが男爵家の嫡男なのだろう。歳は30代半ばくらいかな? と言うかその歳になってパパ呼びはちょっと……


「おおすまんな息子よ。こ奴等が抵抗しなけりゃ直ぐに戻れるのだが」


「早く王都に戻り……父上! ワイバーンがあんなに! 」


 キノコみたいな髪型の嫡男はワイバーンの死骸を見つけたようだ。

 面倒な事になりそうだな。

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