16 盗賊より怖いもの
「辛かったら何時でも帰って来なさい…むしろいつまでも家に居て欲しいのだが…」
まだお父様は私の入学が嫌らしい。
「諦めなさい。」
いい加減、面倒になってきたのかお母様がお父様をアイアンクローで物理的に黙らせてる。目の前でやられるとこっちが怖くて震えてくるんですけど。
「お嬢様?私に抱き付いてると押し倒してしまいますよ?」
やはりアリシアさんは変だ…いやきっと私が抱き付いてるとバランスを崩して倒れると言ってるのだろう。
「じゃあ行ってきます。お父様も無茶しないでね」
「長期の休みには必ず帰ってくるんだぞ?来ないと親衛隊を迎えに送るからな‼それと手紙を定期的に送ってくれ寂し過ぎる‼」
「さあ?」
面倒なので適当に返事したらお父様が白目を向いて倒れた。メンタル弱すぎでは?顔に豆腐メンタルと日本語で書きたくなるけど転生の事は話してないから我慢しよう。
「アリスちゃんはアリシアも付いてるし大丈夫だと思うけど年に一回は帰って来てね。私も寂しいから。帰ってきたら色々とお話ししましょうね、向こうで出来たお友達とか色々と話題が出来るでしょうから」
「…分かった」
「お嬢様、絶対にめんどくさいって思ってますよね。王妃様、お任せください私が必ず連れ帰るので」
「任せるわ、向こうでもアリスちゃんをよろしくね。きっとこの子はトラブルに巻き込まれるか巻き込まれに行くから貴女が止めるかアリスちゃんの助けになりなさい」
失礼な!それじゃあ私がトラブルメーカーだと言ってるようなものだ。確かにトラブルに会う事は多いが決して私のせいじゃないはず…だと思う。
「それではお嬢様、馬車の用意が終わったので学園に向かいます。途中に国境を超えるので到着は2週間ほどです」
この世界の移動方法は徒歩か馬車の2択しかない。いちお飛竜を使った籠もあるけどあれは王族とかが使う物だし私はフルール伯爵令嬢と言う立場で入学するのでそんな目立った事は出来ない。しかも馬車は揺れるし道はデコボコなのが普通なので移動だけで疲れるのだ。スタンビードの時は飛竜に乗っていったんだけどね私とお母様だけで。
「めんどくさい…飛竜が良い」
「良し飛竜を用意しろ‼」
「止めてください。速攻で身分を疑われますよ。継承権を持つ殿下が既に学園に在籍してるのですからお嬢様だけ飛竜で行くのはありえません」
確かにお兄様は学園に通ってるし入学するのに馬車で行ったので私だけが飛竜で行くのは目立つだろう自分の国じゃないし。
お兄様の事だから学園でも私の事を話してる。伯爵家の長男が馬車で長女だけ飛竜籠…うん辞めておこう。
「…馬車で行く」
「お嬢様はそんなに嫌そうな目をしないでください。もう少し表情を動かしましょうよ。目だけで感情が読める人などほんの少しなのですから」
そうですね。私の表情から感情を読む人は余り居ない。別に不愛想では無いと思うが余り表情に出ないのだ。どうでもいいけど。
さて2週間の旅に出よう。
「ぎゃはははは金と女を置いて行けば命だけは助けてやらねえ事も無いぜ、大人しくしな」
「そうっすよ兄貴は直ぐに殺しちゃうからな!まあ女は飽きたら娼館行きだがな。ぎゃっははは」
旅に出て一週間。国境を越えた辺りから一気に治安が悪化した。
うちの国では盗賊の討伐が騎士団の訓練扱いなので余り居ないのだがヒュール学園がある中立国オストランドはうちの国ほど治安が良いわけじゃない(うちの国も治安が悪い地域は当然存在するが)だから一般の人は生涯生まれた町から出ない人も多いらしい。当然街道でも危険なので商人は護衛をつけるしお金を払ってその商人や商隊に同行するのが基本的な旅だとか。
私も国の親衛隊が冒険者として護衛してくれてるが身分を隠すために騎士の格好ではない。全員騎兵と言う目立つ構成だけど。
「お嬢様、見てはなりません。あれはお嬢様の視界に入れる価値のない害虫です」
そう言うと外を見てた私の目をふさぐアリシアさん。怖いかって?別に、だって護衛の人達明らかに盗賊より鍛えてるもの。皮鎧や軽鎧だけど鎧の隙間から見える体は明らかにマッチョ、盗賊みたいに痩せてたり太ってたりしてないんだよ?怖くないよね。
「オイ‼そこのアマ‼待ってろ俺様の上でヒイヒイ言わせてやるぜ!ぎゃはっはは」
「嗚呼どうしましょう。お嬢様の耳を塞ぎたいのですが手が足りません。みなの者!これ以上はお嬢様の教育に悪いので即刻捕縛しなさい!」
「分かりました。みなの者‼俺の問に答えろ‼我らの存在意義は何だ?」
「「「「姫様の笑顔を守る事だ」」」
「こいつ等をこれ以上姫様の近くに存在する事が許されるか?」
「「「「「否」」」」」
「よろしい‼ならば殲滅だ‼者ども俺に続け~~~」
「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」
雄叫びをあげると私の護衛を残し皆が突撃を敢行した。前口上に異議を申したいがこの混乱の中で私の声は届かないだろう。だって護衛は50人居て盗賊は100人近く居る普通なら逃げる場面なのにこっちから突撃したうえ盗賊を返り討ちにしてるっぽい。何で確定じゃないって?アリシアさんが私の目を後ろから抑えて何も見えないからだ。人が死ぬところは見たくないけど仕方ない事だと思う悪い人達だから。
「うちの姫様をテメエ等が視界に入れて良い訳無いだろう‼‼身の程をしれ!それに我等が至宝でもある姫様を娼館に売るだと?絶対に許さん‼」
「おらぁ‼泣いて許しを乞え、貴様等は手を出すどころか見る事も許されん御方に牙を向けた事を泣いて謝れ!」
「こいつ等狂ってますぜ兄貴!この人数差で何で突っ込んでくるんだよ。ありえねぇしかもかなり強いですぜ逃げましょう」
「待て!せめてあのメイドだけでも捕まえろ高く売れるぜ~あの白い髪に耳と尻尾。多分狐族だ、見た目が良いからなへへ。それにあの餓鬼さえ押さえればこっちの勝ちらしいしな」
うわ!こっち来た。でも私の近くの人達はフルプレートの鎧を完全に着こなすような人ですよ、無謀ですね。あとアリシアさんを捕まえるとか許せん。
「皆頑張って~~」
目を塞がれながらも護衛達が戦ってる方向に手を振ってみる。
「ぬおおおおおお総員再度突撃‼姫様に下郎を近づけるな~」
「「「「死にさらせぇ‼」」」」
流石に怖いので馬車の中に隠れてよう…決して味方が怖い訳じゃない。盗賊とかも怖いけど流石にアリシアさんに危ないからと馬車の中に押し込まれたのだ。
この馬車、乗り心地は最悪だが強固な防御魔法が掛かってるので襲撃が終わるまで大人しくしてよう。
「お嬢様?この程度の襲撃ならこちらに死者は出ませんから落ち着いてください。それにしても護衛の人選を誤りましたね…姫様を護れる人材を用意したのですが少々姫様に心酔してるメンバーが集まったようです」
確かにあれはドン引きだ。守ってくれる事や慕ってくれるのはうれしいけど行き過ぎじゃね?って思うんだ。何かちらっと見た限り味方は全員目が血走って盗賊は青褪めてた…実力派の騎士達に睨まれたらああなるだろう。たまに私も泣きそうになるし。
「アリシアさんを捕えるって…」
「他の国では我等は亜人と呼ばれ一人で歩けば人さらいに会うのが当たり前なのです。この国も表向きには禁止されてても守らない人は多いらしいです。ですので私はこのように手袋をしています。これは所有者…主に貴族の所有物である事の証です。この手袋は規定の方法でしか外せず手袋をつけた奴隷を誘拐するのは重罪になります」
アリシアさんはこの旅でずっと手袋をつけていたがそんな理由があったのか。確かにフルール家の家紋が手の甲辺りに編み込まれているから家の関係者って分かりやすいね。
「ご安心を、あの程度の連中に捕まるほど私は弱くないです。お嬢様を5人位なら守りつつ盗賊を殲滅出来ますよ」
「それも凄いね、私には出来ない」
「姫様が本気になれればこの数倍は余裕なんですけどね。普通に姫様だけでも全員捕縛は出来るのでは?」
うん、出来るね中級の拘束魔法で全員捕まえれるけど捕まえてもどうにも出来ないと思うんだ。だって護送するにも私一人じゃ無理だしそれ以前に皆怖い顔だから近寄りたくない。
「アリシア、敵の殲滅を終了した。こちらは負傷者無し、盗賊も投降した者達は予定通り馬車に放り込むぞ」
「ん?」
「そう言えばお嬢様に言ってませんでしたね。今回空の馬車が数台用意されてるので捕まえた盗賊は拘束して放り込みます。学園に着き次第騎士団に引き渡す予定なのです。まあ多すぎた場合は縛った後走らせる予定ですが」
盗賊の人達も可哀そう。だって手足縛られた上に物のように馬車に積み上げられてる。きっと今までの事を後悔してるのだろう皆暗い顔してる。人によっては賞金首なんだろうな。
「喜べ貴様等!俺たちが町に着くまでに立派な同志にしてやる‼姫様の良さを知れば今までのような悪事等出来ないだろう。アンシンシロキサマラは町に着くマデ俺達とお・は・な・しすれば良いんだ。」
騎士団は騎士団で盗賊を洗脳しようとしてないか?ちょっとどころじゃないレベルで味方が怖いんだけど。思わずアリシアさんにしがみついちゃっても仕方ないと思う。
「おや、お嬢様はやっと私の想いに気が付いてくれたんですね?」
「周りが怖すぎる」




