163 ワイバーン討伐戦②
遅くなって大変申し訳ありませんでした。
ぐっすりと寝ていると、突然爆発音と悲鳴が聞こえ、私はベットから跳び起きた。
「あ、普通に起きた」
「珍しいですね。姫様敵襲です。どうやらワイバーンが何処かで人の味を覚えたようです」
私が起きると、アノンちゃんとアリシアさんがビックリしていた。私だって危ない時は直ぐに起きるよ。
どうやら目的のワイバーンは人の味を覚えて村を襲撃してきたようだ。しかも夜明けギリギリの時間を狙ってきた。つまりボスは賢いと言う事だ。
それと魔物は人を襲うタイプと襲わないタイプがある。ワイバーンは基本的に人間を襲わないタイプだ。繁殖に必要でもないし、魔物を食べるだけで生きていけるので、手出ししなければ何もしない場合が多い。
今回は村の家畜だけ襲っていたので人を襲った事の無いワイバーンの筈だが、誰かが手を出したか偶然食べられたかのどっちかだろう。
因みにクート君が最近ハマってるお肉のイノセント・バッファローは草食なので、こちらが襲わない限り無害である。最近アーランドで家畜化しようとしてるらしい。殺す時に悲鳴を他の個体に聞かせない&見せなければ問題ない上に、割と上質の魔玉が取れるのだ。更に魔物なので飼育も難しくない。お肉と魔玉の生産を行うのに適してるのだとか。
話を戻そう。まず襲撃してきた数は闇夜で不明だ。もうすぐ日の出なので直ぐに分かるが、直ぐに戦闘を始めないと犠牲が増えるだろう。私もアノンちゃんもアリシアさんも身支度を整える。
私は宝物庫からポーチを取り出して2人に渡す。
「これは」
「これはワイバーンの毒の解毒ポーションと治療用のポーション一式だよ。
流石にワイバーンの集団相手だと、私も治療が間に合わない可能性があるから用意したの。多分アリシアさんの持ってる奴よりは効果的だよ」
私は何時も魔道具ばかり作ってる訳じゃ無い。アイリスの知識は医術もそれなりに揃ってるのだ。ワイバーンの毒から効果的な解毒剤くらい直ぐに作れる。
「流石にワイバーンの毒を解毒出来るポーションは私も持ってないから助かるよ」
アノンちゃんは普通に受け取る。アリシアさんはポーチを少し眺めると、腰のベルトに括り付けた。
「さて、まずはアノンちゃんは村人の護衛をお願いできる? 昨日見た集会所辺りが避難場所になってるはずだから、そこの村人を守って。
アリシアさんは村人の救助と集会所への誘導をお願い」
「それでは姫様がワイバーンと対峙するのですか! 」
「新魔法を用意した私に隙は無いよ」
新しい魔法は私の短所を補う魔法だ。それと使いこなせないグラディウスも、これを使えば使いこなせる……いや、グラディウスが主体の魔法だ。
グラディウスは少なくとも数百年。下手をすると数千年の歴史を持っている剣だ。詳しくは何も語らない……ただ笑うだけの魔剣なので不明だが、多くの使い手がグラディウスを使ってきた。彼等の剣術はグラディウスにしっかり刻み込まれている。
私には剣術の才能は無い。まともに剣を振るう筋力も無い。魔法で体を強化しても才能が無ければ、力任せに振るうだけだ。身体強化を行ってもアーランドの兵士にすら勝てないだろう。
だから私はグラディウスを使いこなす魔法を作った。
「『小帝』を使う」
『小帝』それが私の新しい魔法だ。エイボンから教わった分身魔法は魔力を一時的に物質化する。私の魔力から私のコピーを作れる魔法だ。
それを解体して改造した結果、ある種のパワードスーツ的な魔法を作った。
グラディウスは私を支配出来ない。私は精霊女王だからだ。その精神は何人も立ち入れない聖域的な物らしい。精霊達がそう言ってるから多分そう。
しかし『小帝』をグラディウスに支配させる事は出来る。グラディウスに刻まれた多くの使い手の剣術をグラディウスが使いこなすのだ。
最も欠点がある。まず、魔力消費が多い事だ。これは私自身が膨大な魔力を持ってるので何とかなるのだが、『小帝』の外殻部分が爆発反応装甲っているので、味方が近くに居ると巻き込む恐れがあるのだ。
結界魔法と魔力の物質化の合成魔法。それが『小帝』だ。
「また変わった魔法を作りましたね」
「うぅアリスに剣術だけは勝ってたのに……何で差を広げようとするのかなぁ」
アノンちゃんよ。私は負けるのが嫌いなのだよ。
それにアーランドの魔法使いは正直ショボいので、良い印象が無いんだよね。お母様は怖いし『幸福』とか言う謎魔法は天変地異を普通に起こすし。なんだよ侵攻してきた帝国軍を見てただけで帝国軍内部゛だけ゛に疫病が蔓延して撃退したとか訳が分からないよ。
まあ私には幻想結界で無効化出来るからヘーキヘーキ。弱点突かれると私の精神にダメージ入るから滅多に使わないけどね。
尚『小帝』と言う名前の通り、これは小型だ。『大帝』と言う魔法もあるが、あれは制御出来る自信が無いので封印した。グラディウスの力を借りても制御出来ない……いや、限定制御が精一杯だ。
私達が外に出ると村人達は大パニックに陥っていた。秩序無く逃げ惑い、ワイバーンに良いように襲われている。
「さあクート君狩りの時間だよ。地を這うトカゲを好きなだけ食べていいよ。
ヘリオスは私の頭上を飛んでる飛竜を〆てきて。気に食わないから」
今さっき私の頭上を悠々と飛んでいたのが目についたのだ。たかが飛竜の分際で生意気である。
「たまにはワイバーンも乙だな」
「心得た直ぐに処理するのである。吾輩の頭上を飛ぶとは良い度胸である」
ドラゴンの生態には、上位竜の上空を低位の竜が飛ぶだけで宣戦布告と受け取られるのでヘリオスの額に青筋が浮かんでいた。ヘリオスは直ぐに村の外に走って行った。村の中で元の姿に戻る事を選ばないのは良い事だ。
クート君は元の姿にも戻らずに目の前のワイバーンに飛びかかる。ワイバーンの喉に噛みつくと鱗毎噛み砕く。己の血に沈むワイバーンは驚愕した顔でクート君を見たが、飛びあがったクート君の犬パンチが叩きつけるように振り下ろされると頭部が爆散した。これが格の違う魔物の戦いだ。戦闘にすらならない。
第一にクート君はプライドが高い銀狼? だ。彼は空を飛ぶ魔物を嫌う。目障りなんだって。
アリシアさんとアノンちゃんも少しだけクート君の戦いに圧倒されたが、直ぐに各々の役目を思い出して走り出した。私は詠唱を始める。長い詠唱だ。1分程掛かる。
そして詠唱が終わると私は黄金の輝きを放つ3m程の鎧を纏っていた。尚、首を出してるだけで、胸のあたりで座っている感じだ。
「目立ち過ぎぃ。グラディウス! 」
「ギャハ、ギャハハハハハ」
黄金の鎧がグラディウスを握ると、握った右腕から全体に黒い魔力が広がる。数秒で黄金の輝きを放つ鎧は漆黒の鎧に変わった。私の頭部を保護するように黒い兜も出現するが、内部からは普通に外が見えるので問題ない……但し、どう見ても魔王である。
と言うかグラディウスよ、カッコいいのは同意するが、勝手に鎧のフォルムを変えないで欲しい。どっちも目立つから大差ないけど。
小帝はグラディウスの支配下になった。既に私は支配権をグラディウスに渡してるので中で寛いでる。最も魔力が結構な勢いで減ってるが、総量が膨大なので問題ない。このレベルなら倒れる事も無いだろう。
グラディウスは上空20m程を飛んでるワイバーンに目を付ける。勢いよくジャンプし、ワイバーンを殺しにかかる。
ワイバーンがこちらを見た。鋭い牙から涎が垂れる。小癪な人間が自分のテリトリーである空で勝負を仕掛けてきたと嘲笑する。
「『シールド』」
私は足元に最下級の防御魔法を発動する。小帝はそれを足場に更に上昇。ワイバーンは小帝のスピードに付いて行けずに私を見失う。
小帝がグラディウスを振り下ろす。鋭い振り下ろしだ。ワイバーンは何が起きたのかすら理解出来ずに首を切り落とされた。
「やっぱりグラディウスは私が使うより自由に動いた方が役に立つよね」
「……」
ギロリとグラディウスの目が私を睨む。「お前が弱すぎるんだよ」とでも言ってるようだ。いや、私は魔法使いなんだけど。なんでグラディウスが私を所有者に選んだのか分からないよ。せめて私が剣士ならば文句を言われるのは仕方ないのだが、理不尽過ぎる。
グラディウスはワイバーンなど相手にならないとばかりに一撃で切り捨てる。私は足場が必要な時だけ『シールド』を出す。
しかし久しぶりのまともな戦闘でグラディウスは慢心していた。気が付いたら3匹のワイバーンに囲まれたのだ。もっと戦略練ろうよ。
「一匹は私が処理してあげるよ」
私はニヤニヤをグラディウスを見ると、剣が少し震えていた。グラディウスはまず目の前のワイバーンを処理しようと走り出す。背後のワイバーンが鋭い動きで毒のトゲが付いた尻尾を小帝に叩きつけようとする。最もその程度じゃ効かないし毒も小帝内部には入らないだろう。
しかし衝撃は鬱陶しい。
「『アイス・ジャベリン』×30発」
小帝の背後に魔法陣が30個出現すると、氷の槍が飛び出しワイバーンに突き刺さる。一匹くらい余裕だ。
グラディウスは背後も気にせずに目の前の噛みつこうとしたワイバーンに刀身を突き刺す。そしてワイバーンの牙が小帝に触れると第一装甲が爆散し、ワイバーンの口の中をズタズタにする。
左に居たワイバーンも同様に左腕を食い千切ろうとしたが、左腕も爆散し、口の中を引き裂かれた。どうやら脳に結界の破片が到達したのだろう。直ぐに倒れて動かなくなる。目の前のワイバーンはグラディウスの刀身が脳に突き刺さっているので動かない。
私は安全だ。小帝は複層結界を常に纏っており、オリハルコンの鎧以上に固いのだ。これで最前線に出てもアリシアさんも安心出来るだろう。
小帝はグラディウスの支配下なので、軽く手放しても支配は解けない。パキ゚パキ゚と新しい結界が張られていく腕で再びグラディウスを握ると、村の中に居る他のワイバーンに向かって走り出す。今度は囲まれないように一匹ずつ確実に倒して私がやる事は大人しく動力源になってる程度だった。




