162 ワイバーン討伐戦①
朝王都の城門でアノンちゃんと集合した。私は頑張った方だと思うよ。凄い眠いのだ。これは目的地に着くまでダンジョンの時みたいにピヨロストでも出して仮眠を取ろうと思ったのだが、アリシアさんに反対された。
曰く「王都の外は危険で溢れてるのでおやめください」だそうだ。
確かに寝てると危険だね。魔物も盗賊も居るのだ。
「眠そうだね……」
「アノンちゃんこそ……」
どうせ眠れなかったんでしょって聞くと正解らしく顔を背けた。無論私もだ。
「うぅ~アリス飛行機出して」
「滑走路が無いよ。前に均した所は雪で埋まってるじゃん。あれは助走をつけないと飛べないんだよ。今度垂直離着出来る航空機作っておくね」
最も今操縦すれば居眠りで墜落すると思うけど。
さて門から外に出ると相変わらずの忌々しい雪景色。私は冬は嫌いだ。しかし今年は平気。だって精霊に助けてもらってるもん。火の精霊が空気を温めて風の精霊が熱を逃がさない。曰く「言ってくれれば何時でもやってあげたのに」との事だ。
今までお願いされなかったので何もしていなかったのだ。更に土の精霊が街道の雪を除去してくれるので快適だ。
私とアノンちゃんはクート君に乗って、アリシアさんとヘリオスはシャドウ・ウルフに乗って行く。速度は100キロを軽く超えてるので、目的地にも直ぐに着くだろう。
「ところであの騎士みたいなのは護衛なの? 」
クート君に乗って移動しているとアノンちゃんがヘリオスの事を聞いて来た。そう言えばフルプレートアーマーを付けてるのと、ヘリオスが喋らないので気がついて無いようだ。
「あれはヘリオスだよ」
「マジで! 」
まあヘリオスは少年執事みたいな風貌だから、あんなふうにガチガチの鎧を着れるとは思わないんだろうね。
クート君達のお蔭で目的地の近くの村に夕暮れ前に到着した。情報収集の為に村長に話しを聞こう。シャドウ・ウルフは私の影に入る。あれは危険種なので、村人を混乱させる恐れがあるのだ。クート君はウルフに擬態してるし、首輪をつけてるから使い魔だと分かるので問題ない。
「すみませんが村長居ますか? 」
「んあ? ああ旅人か。この季節に珍しいな。多分家に居るぜ。ついてきな」
近くを歩いてる村の人に村長の事を尋ねると案内してくれた。暫く歩くと少し大きめの家が見えてきた。
「おーい村長、旅人が訪ねてきたぞ」
暫くするとドアが開き、老人が顔を出した。
「なんじゃ、こんな季節に旅人が来る訳なかろう。騒ぐとワイバーンが襲撃してくるぞ」
「そのワイバーンの討伐に来た冒険者です。これが依頼書とギルドカードです」
「ふむ……若いのに優秀そうじゃな。しかし生き急ぐと死んでしまうぞ」
最初は不審そうだったが、ギルドカードを見ると納得してくれた。
「まあ最低でも村の被害が減る程度には間引きますよ。出来れば宿を紹介して欲しいのですが」
「喜んで案内しよう。詳しい話は宿の食堂でしよう」
村に一軒だけある宿屋には他に客は居なかった。冬は大体こんな感じらしく、受付すら居なかった。村長さんが慣れた足取りで宿の奥に歩いて行くと暫くしておばさんが驚いた顔で出てきた。それほど冬は暇なのだろう。
昼食はスープとパン。お肉は保存食をスープに混ぜてある。食の向上も必要そうだ。アーランドでも変わらなそうだからね。
食事を終えると村長さんから詳しい話を聞いた。スタンピードが興って近くの町に避難していたが、収束して戻って来ると近くの岩山にワイバーンが巣を作っていたそうだ。何度か討伐の依頼を出したが、数が数なので冒険者があまり来ない上に、来ても返り討ちにあっているらしい。
オストランドの軍は現在再編中なのと、冬は軍も殆ど動けないらしく、春になるまで家に籠っているしかないそうだ。
被害は現在家畜のみらしく、王国からは家畜に関しては保障するから絶対に刺激するなと言われてるらしい。冒険者は自業自得なので対象外。
ワイバーンも家畜の方がお肉が多いので、視界に入らなければ基本的に家畜を持って帰るだけのようだが、春になれば活動が活発になるので分からない。
「ふむ、属性竜が統率してるとかはありますか? 」
「村人や冒険者の証言では居ないそうじゃが、他のワイバーンより大きい飛竜が居るらしい。多分それが群れのボスじゃろう」
飛竜か。無属性の衝撃波の様なブレスを撃って来る奴だ。雑魚である。クート君の犬パンチを一撃でも耐えれれば褒めてあげよう。これは良い稼ぎになりそうだ。ワイバーンも最下級とはいえ、ドラゴンだから高値で売れるし、私は素材を残さずに持ち帰れる。お父様が竜の谷に定期的に狩りに行くのも頷けるね。最もあそこには30匹なんてレベルじゃないくらいドラゴン居るけど。どういう生態系なんだろうね。
「まあ飛竜なら問題ないでしょう。では予定通り明日討伐に向かいます」
「余り無理をしないようにするのじゃぞ」
村長さんは家に帰って行った。その後部屋で作戦会議を行う。
「アリスはワイバーン倒せるんだよね? 」
「無論私は将来的には大魔導士になるくらいだし、ワイバーンなんて油断しなければ余裕。駄目だったらクート君にわんこーず召喚させればワンサイドゲームになる」
実際わんこーずにかかればワイバーンなんて骨付き肉程度の認識だし。但し、彼等を出すとワイバーンのお肉は食べられてしまうのでNGだ。売り上げが減る。
「まずは飛んでるワイバーンを地面に落とす必要があります」
「対空機銃で撃ち落とすとどうやって落としたかギルドが五月蠅そうだよね。よし私が叩き落とす。新魔法を用意した。アノンちゃんは落ちてきたワイバーンをお願い」
「飛ばなければ私だってワイバーンくらい問題ないし」
ニシシっと笑うアノンちゃん。もしかしてアノンちゃんって戦闘狂なんじゃ……
「一応アリシアさんはアノンちゃんの護衛ね。今回は私は安全だから護衛要らないし、近くに居ると巻き込むから」
「また何か悪い魔法を作りましたね」
私の継続戦闘力が決して低い訳じゃ無い事を証明してあげよう。
「それとアノンちゃんの装備は全部出来てるからそっち付けて。ワイバーンの尻尾には毒があるから良い装備を着けるべき。今付けてるのよりは軽く感じるよ。但し貸出だからね」
「うぅ……もう勉強は嫌だよぅ」
ちゃんと勉強しないと駄目だと思う。計算と文字を覚えるのは重要なんだよ。自分の名前を書くのに唸ってるようじゃ、まだまだだ。(稀に自分の名前の字を忘れるらしい)
後は計算も殆ど直感でやってる。
その後、新防具の説明を行う。マントはつけてると風魔法が発動して飛べる。グリーブはその補助で加速出来る。無論バランスを崩さなければ走る時にも使える。
更に鎧には魔法を吸収して防具に魔力を送れる。岩を浮かべるなどして来たのは無理だが、魔法で一時的に作った物を飛ばしてきただけならば吸収出来る。更に手首に装着する小さい盾は熱線を出せるよ。ティアラは頭部に魔法防御を行いつつも遠くを見れる遠見の魔法が込めてある。全身魔道具かされてるのだ。
「……凄い」
「………」
私はアノンちゃんにサムズアップした。手抜きはいけないと思うんだ。因みに盾は壊れても爆発しないのだ問題ない。そして全部に軽量化の魔法が込められてるので、布の服と変わらない重さだ。
「どうよ」
「これならワイバーンくらい倒せるよ。油断はしないけど」
「ひ、姫様は一体彼女を何にしようとなさっているのだろうか」
「まあ一応背中に濃縮魔晶石ついてるけど、それだけは壊されないようにね。爆発とかは無いけど、全部の防具の魔力は魔晶石から供給されてるから」
「背中を守る程度なら問題ないよ」
壊されると魔力が抜けて自分で魔力を流さないと普通の頑丈な鎧になる。因みにフルプレートでは無く、軽装鎧なので服とか露出するが、魔法防御が入ってるので問題ない。見た目防具なしの部分でもしっかり守られてるのだ。
アノンちゃんは寝る前まで宿の庭で空を飛んだりして新装備の感触をつかんでいたのだった。私は新魔法があるからヘーキだし。鎧は要らないよ。
グラディウスを研いで、グラディウスに新しい魔法を説明する。グラディウスは楽しそうに笑っていた。この剣も、私が満足に振るえないと暇だろう。明日はようやく活躍出来るよと言うと大笑いしだしたので直ぐに宝物庫に戻した。やはり静かになるように改良が必要かもしれない。
ヘリオスはいつも通り棍棒で叩き潰すだけなので、問題ないし、アリシアさんは隠蔽魔法で隠れてワイバーンの死角から攻撃するだろう。アリシアさんの剣もアノンちゃんの剣もワイバーン程度の鱗は真っ二つに出来る業物だから大丈夫だ。私は一応の保険としてワイバーン用の毒消しポーションなどを全員のポーチに入れとく。怪我なら私が治せるから問題ないのだ。
「これなら問題ないかな? 」
安全策は幾つか用意した。アノンちゃんの剣術は相当なレベルなので問題ない。ヘリオスは心配無用だし、アリシアさんも同様だ。念の為にクート君も護衛に付けよう。大丈夫だと思うけど、アノンちゃんは未知数なのだ。保険は重要。
「いいクート君、アノンちゃんが危なくなったら本気を出してね」
「心得た」
クート君とアリシアさんが居れば大丈夫だと確信できる。ヘリオスは戦ってる時はヒャッハーになりやすいので護衛向きじゃない。戦うと闘争本能の塊になるのだ。だからクート君に笑われるんだけどね。クート君は本気でも役目を忘れないし。そして夜が明けるとワイバーンの討伐戦が始まった。
それは奇襲だった。外から物を粉砕する音と人の叫び声が聞こえてきたのだ。どうやら家畜だけでなく人も襲おうとしてるようだ。
 




