161 発覚と新しいメンバー
「アリス何してるの? 」
聞きなれた声が聞こえた。後ろを見るとアノンちゃんが居た。私のあげた装備を着けてる。他は自前の防具だろう。何故武装してるのか気になるが、それどころでは無い。
何故バレた! 顔は隠してるし、髪の色も声も変えてる。瞳の刻印も隠してるし、背中に背負ってるグラディウスと竜杖は大人しくしたうえで普通の杖と剣に偽装する魔法もかけている。私だと分かる筈がない。
「ひ、人違い。私は謎の冒険者ホロウだよ」
「いや、私は誤魔化せないよ。アーランドの第一王女で副王家ムググ! 」
おっとその名前はここで言ってはいけない。人通りのある道なのだ。アリシアさんが即座に拉致し、路地裏に入った。入口はそれと無く人が立っていて誰も入ってこれない。立ってるのは暗部の人だろう。3回程顔を見たので間違いない。だってアーランド人はオストランドに興味ないからね。アーランドの王都に居るはずの人が私をサポートする動きをオストランドでする筈がない。
しかし私にバレ無いように度々人を変えるのは大丈夫なのだろうか? ってそれどころじゃない。
「私の名前はホロウ。その名前は出しちゃいけない。この国だと大事になるんでしょう? 」
何故か知らないがオストランドでは私は聖女らしい。迷惑な話だよ。聖女だと言われると聖教が五月蠅いと思うんだ。
「だから分かってるって。それで何でそんな変な格好してるの? 横のウルフは新しい使い魔? 」
「違う。私は王女じゃない」
何とかして誤魔化さないと。アノンちゃんは割と単純だから問題ないが、ケーナちゃんとシャロンちゃんにバレれば絶対に怒る。危ない事しちゃ駄目って言われちゃうよ。それ以外にもアーランドに冒険者やってる事が流れると過保護な人達に連れ戻されるだろう。最近私は休憩しろとか危ない事をしちゃ駄目とか貴族・平民問わず言い出す人が居るのだ。
冒険者をやって出稼ぎしてるのはごく一部しか知らないので発覚すると、私の安全保障上の問題で強制送還は間逃れない。いや、冒険者自体危険なんだけど、王国の外だと身の安全が保障出来ないのだ。
現在は良い。私がアーランド内に居ると思われてる。分身の殆どは城で色々とやらかしてるので居ないとは思われない。だからオストランドに居るのだ。
城内で暮らしてる分には問題ないだろう。多分王都内でも問題ない。但し、冒険者として出稼ぎを行うならば王都の外に出なければならない。それは不可能だった。
王都の内部までは安全を保障出来る。誘拐の可能性は限りなく減らせるらしい。但し王都の外だと、その警備状態を維持出来ないのだ。だから裏をかいて国外に居るのだ。
「ふ~ん。でも私は騙せないけどね。多分シャロンも無理。ギリギリでケーナなら騙せると思うけどね。アイツ頭硬いからアリスが此処に居るはずがないって思うだろうし」
それは同意見。と言うか3人とも大丈夫だと思ってた。
「アリスってさぁ、会った時は髪の色とか目の刻印消してたじゃん? それに普段から表情余り変えないから仮面付けてても分かるんだよね。アリスは雰囲気が色々とお喋りだからね。今後は気を付ける事をお勧めするよ。さあ白状しろ~ 」
アノンちゃんは私に抱き付くと脇腹とか色々とくすぐり出した。止めて! 一見反応して無いようだと言われるけど、私はくすぐるのに弱いのだ。ピクピクする。
「ち、違う……よ」
「良し白状させてやる」
アリシアさん助けて……諦めてる! まだバレてないよ。まだ確定的な証拠はない。っあ電話が鳴った。
「ちょ、ちょっと忙しい」
うっかりくすぐられながら電話に出るが何の返答も無い。怪訝に思うと背後のアノンちゃんが携帯を私に見せる。
「何でアリスに電話したのにホロウが出るのかな? 」
ひょいっと背後から私の前に移動するアノンちゃん。その手には携帯が握られていた。画面を見ないで操作できるとは思わなかった。アノンちゃんは携帯音痴だと思っていたのだ。
「きっと間違い。同時に掛かっただけだよ」
「でもその携帯にアリスティアって名前が書かれてるんだよね。諦めなよ」
誤魔化す事は不可能だった。仕方なく何故居るのか説明する。邪魔だったので仮面は外した。
「出稼ぎ! 王族のする事じゃないよね! 」
「何時から私がただの王族だと錯覚していた。私は公務を行わない王族なのだよ。公務は宰相と部下に任せてきた」
宰相さんは喜んでたよ。ヒップホップな感じで踊ってたよ。
「えっと、何かアーランドって今凄い忙しいんだよね。アリスって商会作ったって聞いてるけど」
「そっちは既存の商会を買収しただけだからね。それに経営の素人である私は経営に口出ししない。君臨しても統治はしないのだ。その方が上手くいく」
ふふん。私は楽をする事も覚えているのだ。
「だからってさ~普通出稼ぎする? と言うかそれ程稼げるの? 私も結構稼げたけど、アリスが必要な程は稼げないよ」
「森にゴーレムを放てば勝手に狩りを行う。私は待ってるだけ。まあ、魔法の実験とかするから、戦う事もあるけどね」
アノンちゃんは溜息を吐くと私のほっぺを伸ばし始めた。止めて痛い。
「何で黙ってたのか大体分かるよ。普通止めるもんね。でもメイドさんなんで止めなかったの! 危ない事じゃん」
「賛成した覚えはありませんが、姫様は反対しても我を貫かれますからね。それに強引に事を進める可能性があります。前回の様にご自分一人で動くなど、絶対に認められません。なので私はこうして同行してるのです。
止めれるのならば止めて頂きたい。私は断固反対です。王女の行う事ではありません」
「う、裏切るの」
信じてたアリシアさんが敵になった。
「姫様の安全を考えれば当然の判断です。私は姫様にがいちゅ……コホン。余計な敵が近寄らない様に王城で過ごして欲しいのです。あの魔城ならば安全です」
「魔城って」
まるで我が家が魔王の城みたいじゃないか!
「姫様が好き勝手に大改修を行ったせいですよ。色々な物を取り付けたり、あっちこっちに研究所と言う名の隠し部屋を作ったり。苦情で溢れてるので秘密の部屋を量産しないでください」
成程。監視カメラとか落とし穴とか転移トラップとか認識票を持ってないと危険なお城だから仕方ない。私は現場の要望を聞いただけだよ。それと。
「秘密の部屋は脱走した奴等が作った奴だと思うから見つけ次第地下に送れば良い。地下で労働刑にすべし」
私の分身魔法は予想通り変質してエイボンから受け継いだ。私はエイボンみたいに他の分身を制御出来ない。いや、一応制御出来るが、口頭で命令する必要がある。念話でも出来るが、携帯では無理。なので何人か逃げてるのだ。ちょっと消えるまで地下労働を命じるてるだけなのに逃げるとは許せん。
それと、私の分身はエイボンと違って実体がある様で無い。魔力で作ったゴーレムに私の思考をトレースしてるだけだ。私はこういうように動くだろうとゴーレム自身が判断してる。知識は共有だ。但し完全に独立してるので命令しないと私らしい動きを勝手にするのだ。
尚、魔力で作られたゴーレムなので殺す事は不可能である。元々命は無い。首を刎ねても問題ないし、食事もとらない上に毒も効かない。術式を破壊するか魔力が尽きるまで動き続けるだろう。
「誰が使えるべき王族に奴隷も逃げ出す強制労働を科す事が出来ますか? 騎士の連中が泣きますよ」
「アリス地下でなに作ってるのよ……」
「色々と作らせてるよ……フフ、知りたいかね。全部語るには日が暮れるよ」
「国家機密ですよ姫様」
ムフフと笑う私と頭を抱えるアリシアさん。それとアノンちゃんなら話しても大丈夫だよ。2割も理解出来ないからね。あれから防具が増えていないのが証拠だよ。この様子だとテストサボってるな。全部集めると凄い事になるのに勿体ない。空飛べるよ。ビーム出せるよ。転移だって出来る。まるで勇者の装備なのに。
「む~……よし! 私も仲間になる! 」
「なんで。嫌じゃないけど危ないよ」
アノンちゃんは少し考えると行き成り仲間になる宣言をした。私は基本的に大量討伐だから危険です。私はゴーレムに護られてる事が多いけどね。壊れても惜しくない兵士は良い物だ。全く心が痛まない。
「私だってもうCランクなんだよ。アリスを守る事だって出来るよ」
「私はBランク。効率的に狩ってるもん」
凄いだろう。
私が冒険者のギルドカードを見せるとアノンちゃんは悔しそうだ。私もアノンちゃんも負けず嫌いなのは同じだからね。
「で、でもアリスってあれだよ、えっと継続戦闘力? 低いじゃん。本気出すと直ぐに倒れるし。護衛はもっと増やすべきだよ」
「ぬぐ」
た、確かに本気を出すと一戦で潰れるね。分身魔法を解析する事で新しい魔法を考えたけど、それでも継続戦闘力が低いのは事実である。
「アリスもしかして私の事嫌いなの? だったら諦めるけど……」
アノンちゃんは悲しそうにこっちを見る。しかしアノンちゃんよバレバレの演技は止めなさい。明らかに演技であるのは分かるのだが、それは心が痛む。
「仕方ない。私のパーティー『ワンニャンクラブ』の副会長の座を与えよう。
それと、明日はルルイエ山に住み着いたワイバーンの殲滅に行くから朝の4時に集合ね」
ルルイエ山とは王都から歩いて3日程の場所にある岩山だ。標高はそれ程でもない。丘より少し大きい程度だ。そこに前回のスタンピードの時に逃げたワイバーンが巣を作ったようだ。数は恐らく50体程である。
アノンちゃんに依頼内容を説明すると、暫く硬直した後に笑い出した。とても楽しそうだ。
「やっぱりアリスと居ると面白いよ。絶対に遅れないように今日は直ぐに寝るね。 それと『ワンニャンクラブ』なら私も狼系の魔物か猫系の魔物を使い魔にした方が良いかな」
「多分クート君に怯えて役にたたないと思うよ。わんこーずも基本的にクート君の絶対王政状態だからね。逆らうと平気で食べちゃうし」
「こわっ! ってそれクートだったのか。良しジャーキーをあげよう」
クート君は意外とグルメなので匂いを嗅ぐだけでそっぽをむいた。最近はお魚のお肉にハマってるんだよ。来週にはジャーキーに戻るだろう。幾つかの食べ物をループしてハマるタイプらしい。
「じゃあ明日ね~絶対に置いてかないでね! 」
「ケーナちゃんとシャロンちゃんには内密にお願いね」
「大丈夫! 私も冒険者やってる事は内緒にしてるから! 」
それは良いのだろうか……と言うかアノンちゃんの性格上家族にも話してない可能性が……考えないでおこう。多分問題ないのだろう。
こうしてアノンちゃんが『ワンニャンクラブ』の副会長になった。




