160 判決 モアイでグルグルのち晒し者。そして発覚
遅れてすみません。次は早くします。今書いてるので許してください!
今なんと言った?
いや、分かる。クート君は獣だ。普人にお前は普人だと言っても悪口では無い。しかしアリシアさんを獣と言ったな。獣人は人だ。獣じゃない。獣の特性を持った人なのだ。つまり……
「絶対にユルサナイ」
背後からガチャガチャと五月蠅い音がしたので振り返れば、ギルドの職員とギルドマスター。それと野次馬の冒険者達の一部が倒れていた。意識がある人もジリジリと後ろに下がってる。
左を向くと、ヘリオスが私から100m程離れて大楯を私に向けて震えていた。何が起こったの?
「クート君……何してるの?狼なんでしょ? 誇りはどうしたの? 」
下を見ればクート君は私にお腹を向けながら前足で顔を隠して震えている。なんで行き成り降参してるのかな?
右を向けばアリシアさんが居るのだが……白目になって、立ったまま気絶していた。ワンニャンクラブが戦闘前なのに壊滅しているではないか。
「あ、ある……主よ……殺っ……ブクブク」
クート君も気絶した。これは私一人で相手をしなければならないのか。まあ、お父様も昔は大手のクラン(構成員500人)を素手でお仕置きしたって聞いた事あるしヘーキヘーキ。
「面倒だから直ぐに終わらせるね」
何故か物凄い動揺してる銀の牙?に向けて懐から出すふりをして、宝物庫から大量の札を取り出す。
「即席ゴーレム・レギオン」
雪で覆われた地面に札が突き刺さると、土で出来たゴーレムが出て来る。これは土でゴーレムを作る札だ。数は100体程だ。
形状は勿論モアイ像である。
地面からモアイの顔が勢いよく出て来るのは壮観だね。相手も戦闘開始だと気が付いたようだ。
「お前ら落ち着け。土のゴーレムなんざ簡単に倒せる。サラスはゴーレムの相手をしろ。俺がガキの相手をする」
私と戦う?それはゴーレム達を突破すると言う事だ。君達には不可能だよ。私は追加でどんどん札を投げてモアイ像を量産する。あっという間に数が1000を超えた。
「陣形指示、鋒矢の陣にて突撃せよ」
ゴーレム達は矢じりの様な陣形を取ると銀の牙に突撃する。
「クソ、陣形を使うだと! 」
「硬い! 唯のゴーレムじゃないぞ! 」
「ギャアアア! 」
突撃したモアイ像はパーティー毎に固まっていた銀の牙を貫く。冒険者は陣形とかパーティー単位でしか取れない。それはクランでも同じだ。故に銀の牙は2つ分断される。そして分断した直後に鋒矢の陣を解くと、両脇にはさみを広げる様に広がった。既に相手は大混乱。数が違い過ぎてこちらに来る人は居ない。
そして魔力で強化された土ゴーレムであるモアイ像は岩程では無いが、並の土ゴーレムより硬い。剣で破壊するのは困難だ。
何人かが魔法を撃ち込むが、魔法使いもゴーレムの軍勢に飲まれる。2つに分断した時点で魔法使いを守れる人員が減ってるのだ。私はゴーレムに指示を与える。内容は銀の牙の構成員を捕縛する事だ。殺す必要は無い。彼等には反省して冒険者の評判を下げた償いをさせる必要があるのだ。
次々に倒れる冒険者。モアイ像は倒れた冒険者を掴み上げると、ズブズブと頭の上に埋め込んでいく。そしてモアイの頭から首だけが出している。無論拘束だ。土に埋め込まれると、いくら力が有り余っていても動けないからね。
そしてモアイ像は両腕を真横に広げると回転を始めた。
「止めてくれええええええええええええええええええええええ! 」
高速で回転するモアイ像から悲鳴が聞こえるが、大人しく反省しない彼等が悪い。彼等のせいで冒険者は王都の住民に睨まれているのだ。私は見た目が謎なので何も言われた事ないけどね。不審な格好の冒険者には誰も近寄らんのさ。
1時間後。全てのクランメンバーはモアイ像に捕まっていた。高速回転してるせいで、捕まった冒険者が周囲に汚物をまき散らしていたので私は距離を取っている。アリシアさんは未だに起ったまま気絶している。
「ッハ私は何を」
「やっと起きたんだ。行き成り気絶したから驚いたよ」
取りあえず捕まえた冒険者を王都の外壁外に陳列させようと考えていたらアリシアさんが目を覚ました。
「いえ、何やらこの世の終わりを予感したような気がしました。不思議ですね」
「私は何も感じなかったけど。ヘリオスとクート君も様子がおかしかったから、後で検査ね。もしかしたら病気かもしれない」
もしかしたら病気になったのかもしれないからね。私がしっかり診断してあげよう。
「ところで、この連中は如何致しますか? ご所望でしたら二度と日の目を拝めない生活を送らせますが」
「物騒だね。外壁の外に2日ぐらい晒しとくだけで良いよ。流石に二度と悪さしないでしょ……ね? 」
「もう……悪い事しない……故郷に帰る」
「あは……あはは、あり得ない。もうヤダお家帰る」
冒険者は無駄に強いし、執念深い事があるから、争う時は徹底的に心をへし折らないと、恨んで仕返しする事が多いらしい。だから私もしっかりと心に恐怖を刻み込んでおいた。少なくとも今後彼等は今までの様な好き勝手な行動はしないだろうと言える。
まあ、私が暇だったら同じ罰を受けるのは理解出来ただろう。オストランドに来ることはそれなりに多いから、偶に反省してるか他の冒険者に確認を取ればいいかな。
「それじゃお願いできる? 」
――2日で良いんでしょ? 出来るよー ――
私と契約してる精霊も大分カタコトじゃ無くなってきた。闇の精霊曰く、私が全然頼らないのも原因なんだとか。だって大概の事は自分で出来るから仕方ないね。
それに何でもお願いするのはよくないと思うんだ。精霊とは仲良しで居たいけど、頼り過ぎると自滅する事案が多いのだ。実際精霊の加護を持った国も昔は有ったが、頼り過ぎたせいで破滅してる。
精霊は国を愛さない。人を愛するのだ。精霊の加護とは個人に与えられる。そして精霊は気まぐれでもあるので、頼り過ぎると加護が消える事もある。(尚私は精霊の女王的存在なのであり得ないと精霊が断言してるけど)だから依存し過ぎないようにしつつ、彼等が寂しがらない程度の付き合いである。
後は精霊が万能なのも理由の一つだ。大抵のお願いを叶えてくれるし、一人の精霊で出来ないと、それこそ軍勢の様に集まって来て混乱が起きる。今は契約してる精霊に頼んで集まり過ぎないようにしている。
火の精霊が雪を溶かし、モアイ像の周囲が温かくなる。心地よい気温だろう。2日程モアイ像と一緒に反省してなさい。
「これで良い? 」
「うむ、これで連中も二度と悪さはすまい。晒してる間の護衛はこちらで出そう。これが報酬だ」
私はまた大金を獲得した。何に使おうかな? 良し、皇国涙目の大聖堂を建てよう。アーランドの正教会の聖堂がかなり痛んでると言う報告があったはずだ。
アーランドの正教は聖教と同じ女神を信仰しているが、多種族の排斥は断固として禁じている。破れば立場関係なく破門を取るのだが、聖教の悪評が強いせいで監視も厳しい。国民の殆どが信者であり、監視者なのだ。故に寄付金とかもギリギリ。これでは可哀そうであろう。
悪い事をする組織じゃないので、彼等も少しはいい暮らしをするべきだ。それと教会に恩を売って関係を良くするのも良い事だ。無論調子に乗らない様にお兄様を交渉の場に呼ぶけどね。
「このお金を元手に大聖堂を建てたい。今すぐ親方達に皇国を上回る優美な大聖堂を設計させよう。但し成金趣味の無いようにね」
「……またとんでもない物を作らせようとしてますね」
帰り道。アリシアさんが私の新たな野望を聞いて呆れていた。良いじゃん副王商会連合からジャンジャン報酬が入ってるのだ。
魔導レンジは副王商会連合の所有物では無い。大臣達が土下座でそれだけはやめて欲しいと懇願されたのだ。
曰く国宝に認定されてもおかしくない。
曰く何処の国家も所有していない夢の魔道具
そんな貴重な物を商会所有にすると後々厄介な事になりかねないそうだ。最も200個くらい稼働してるし、順次生産してるのだが。最終的には10万個程度は生産するだろう。作って欲しい物が多いのだ。それと生産量は是非とも増やしたい。私の懐的な事情でね。
もう一つ理由がある。偶に城の神官が何とも言えない表情で私を見ているのだ。アリシアさんに聞いても全面的に獣人貴族が悪いとしか教えてくれない。関係を改善すれば変な目を向ける事も無いだろう。
一応嫌な目では無いけどね。不満はあるけど、私に言う程でもないと言う目だ。敵意は無いし、多分原因の獣人貴族が何かやらかしてるのかもしれないが、誰も何をしたのか教えてくれないのだよ。それと神殿の建物には近寄っちゃいけないらしい。まあ私も血走った眼でまだかまだかと神殿の前で並んでる獣人には近寄らないけどね。怖いじゃん。
「アリス何してるの? 」
ムフフ、と大聖堂を想像して居たらこの場で聞く筈の無い声が聞こえた。汗がツーっと流れる。私は錆びたように動かない首をギギギと音が聞こえる幻聴を聞きながら振り返った。背後にアノンちゃんが困惑した顔で立っていた。何故バレたし!
アノン視点。
アノンもアリスティアと同じく冒険者活動をしていた。理由は強くなりたいからだ。オストランドの騎士は脆弱なのでアノンの鍛錬相手に相応しくないのである。
今日アノンは初めてオーガを倒した。最もアノンの持っている騎士剣はオーガの筋肉も紙の様に切り裂く大業物と言える最高峰の剣であり、アノンの実力とあわせると1体程度は余裕であった。
「ニシシ、これで私もアリスに少しは近づけたかな? 」
将来アリスティアの友人に相応しい強さを手に入れると決めたアノンは将来大人になったアリスティアの隣に立ってる自分を想像して上機嫌であった。尚、所属国が違うので妄想である。
勝手に屋敷から持ち出した複数の収納袋には魔物がぎっしりと入っている。報酬で美味しい物も食べられるので上機嫌である。アノンの家では令嬢らしい生活などしない。オヤツもないし、ドレスを着てお茶会も開かない。オストランドでは唯一とも言える武術一辺倒の家なのだ。故にアノンも甘味に飢えていた。彼女も女の子なのだ。
「なにあの変な像」
上機嫌で王都に帰還したアノンが見たのは奇妙な像であった。近づくと看板があり、彼等が迷惑行為を繰り返したので罰を与えると言う看板が建っていた。アノンも知ってる銀の牙達がお仕置きを受けたようだ。
アノンもこの連中は嫌いだ。と言うか少し王都から離れたのも彼等とイザコザを起こしていたのだ。アノンがアリスティアの友人であるのが原因だが、アノンは気にしない。
「アハ、アハハハ何してんのこいつ等」
だからだろう。アノンはお腹を抱えて笑っていた。モアイ像に埋め込まれた冒険者達の無残な姿は笑いを誘うのだ。しかも余程甚振られたのか全員ぐったりしている。
ひとしきり笑うとアノンはギルドで魔物の素材の売却と依頼達成報酬を受け取る。ギルドから出ても笑いが治まらなかった。同様にギルドに居た冒険者達も大笑いしながら酒を飲んでいた。
「あ~楽しかった。誰だろうあのアホ王子を敵にまわしてもお仕置きを執行したのは……あの子だっけ」
アノンから少し離れた所に3人の人が居た。全身鎧の男に黒いメイド服を着た女性。狐の仮面とローブを着て、杖を背負ってる自分と同じ程度の少女? 多分スカートをはいてるので女の子だろうとアノンは考えた。最も国によっては男性もスカートの様な民族衣装を着るので断言できないが。
「うそ……アリスじゃん」
アノンの対アリスレーダーは目の前の少女を隣国の王女にして副王家当主のアリスティア・フォン・アーランドであると見抜いた。髪も目の色も違う近づくと声も違う。でもアリスティアであると確信出来た。
アリスティアは入学してきた時は髪も瞳の色も刻印も消していたのだ。声を変えるのも不可能では無いし、杖の形状も違うが直ぐに分かった。何故なら気配がアリスティアであったからだ。アリスティアと親友と呼べるアノンの直感が告げたのだ。
アノンは溜息を吐く。金も権力もあるし、実力だって同年代で勝てる相手は大陸に存在しない少女が何故冒険者になってる事はアノンでも理解不能である。
しかし分からなければ本人に聞けばいい。
「アリス何してんの? 」
振り返った少女の表情は分からない。但し気配が物凄く動揺していた。間違いなくアリスティアであると確信した。仮面を付けてなくても表情はたいして変わらないのだ。しかしアリスティアの雰囲気は表情以上にお喋りであった。




