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158 冒険者とのイザコザ

 雪の季節は働く人は少ない。この世界では冬は休む季節なのだ。しかし冒険者はそうは言ってられない。働かないとお金が無くなり、宿代も払えなくなる。冒険者は稼げる仕事だが、生活費が高いのだ。まずは宿代。これが無いと暮らせない。そして武器や防具の維持費や更新費も掛かる。後は医薬品も必要だ。これだけで、どれほどお金が掛かるのだろうか。

故に働き者がそれなりに多い職業だ。更に言えば、悪さを余りしない。何故なら、市民を敵に回せば仕事が減るからだ。私の様に狩りを主として偶に収集を行う冒険者は少ないらしい。


「冒険者の半分以上は狩猟を行いません。戦闘が苦手な人も多いので、町の中での仕事や、薬草や鉱石の収集を本業とする冒険者が多いのです」


 アリシアさんはそう言っていた。私もアーランドで会う冒険者は割と礼儀正しい人たちなので、目の前のアホが実在するとは思ってなかった。いや、冒険者も人が多いから駄目な人も居るんだろうけどね……


「だからよ~ちょっと俺達と酒でも飲もうや」


「そうそうちょっとだけこっちに来ようね」


「や、やめてください」


 武器を持ったおっさん集団が若い女性数人を取り囲んでナンパしていた。これだけならまだ黙認範囲だ。ナンパも自由だろう……女性たちの連れの男の人が倒れて居なければの話だけどね。


「シアさん」


「……まあ、ああいう下種も稀に居るのですよ。ただ、やり過ぎるとギルドからギルドカードを剥奪されるので少ないのですが」


 冒険者ギルドも客が居てこその商売だ。荒くれ者だから成れる職業では無い。寧ろルールを守らない荒くれ者には慈悲の無い組織だ。そうしなければ商人も市民も誰も冒険者ギルドに仕事を頼まない。


「ただ、高ランクの冒険者は別です。数が少ないので、早々ギルドカードを剥奪されません。そう言う場合は他の高ランク冒険者がお話(物理)で矯正するのですが……あれはAランクパーティーの銀の牙ですね」


「銀の牙って脆そう」


銀を牙にしても柔らかすぎると思うんだ。そう言えば私達のパーティーも名前を考えるべきだろう。謎の仮面っ子とか言われてるし。アリシアさんに至っては暴君だしね。私にちょっかいをかけるとアリシアさんの逆鱗に触れるので暴君と名付けられた。因みにお父様の昔の渾名でもある。


「そうですね……確か現在王都にはあれを超える冒険者が居ないので調子に乗ってるのでしょう嘆かわしい。アーランドであれば、あの程度の連中など警備隊で〆れるのに」


 警備隊がAランク冒険者に匹敵する戦力なのはおかしいと思う。まあ単独では無く、警備隊と言う集団ならばあの人達を普通に逮捕するだろうけど。


「だから止めてください! 」


「っち、いい加減こっちにこいってんだよ! 」


「俺達の我慢もそろそろ限界だぜ」


 女性が冒険者の手を振り解くと、倒れている男性の元に行こうとする。恋人かな? 流石に、放置する訳にもいかない。知らない所で冒険者の評判が悪くなると私も迷惑だ。


「ヘリオス」


「心得た」


 フルプレートアーマーを付けたヘリオスが一瞬で冒険者と女性の間に入る。


「それ以上の狼藉は許さんのである」


「何だテメエは! 」


 ヘリオスの乱入に冒険者が怒声を上げる。


「同じ冒険者として貴様等の行いは許せんのである。これはギルドに報告するのである」


「ガッツさん。コイツあの仮面の魔法使いのパーティーメンバーですよ」


「ヤバいっす。あのホロウとか言う魔法使いは王家に顔が利きます」


 ほほう。私を知ってるのかね。まあ相手が悪いと思われるのは良い事だ。面倒事も向こうから避けてくれる。

 私は倒れてる男の人2人に【ヒール】を掛ける。肋骨が2本程折れていた。明らかにやり過ぎだ。


「ここは私達で何とかするから逃げちゃって良いよ」


「……でも」


 女性が躊躇う。


「私達も冒険者だからね。寧ろごめんね。あんなアホだけが冒険者じゃない事は理解してほしい。連中にはしっかりとお仕置きしておくから」


 あれは無い。私も一応女だ。力づくで言う事を聞かされるのは嫌なのだ。なのでお仕置きを敢行する。

 女性は暫く考えると、フラフラしながら立ち上がった男性に肩を貸し、頭を下げてから立ち去った。


「さて、大人しくギルドで反省文でも書きなさい」


 悪さをすると反省文を書くのはギルドでもある。私だってマダムに何度もごめんなさいさせられた。屈辱である。ちょっと小屋を吹き飛ばしたり、城を魔改造する程度は許して欲しいものだ。


「テメエ……俺達より下のランクの癖に」


「ランクは関係ない」


 ランク至上主義は周りを敵にまわすから止めた方が良い。普通に俺Aランクだから偉いって他の冒険者に言ってみると分かるよ。あからさまにウゼェって顔をされるから。第一、冒険者のランクは絶対ではない。町の中での雑用や、森などでの収集ではCランクまでしか行けないが、彼等はそう言う業務のプロなのだ。私はアルバイト何て出来ないよ? 収集は出来るけど、専門の人はそれだけでかなり稼げる人達だ。

 Aランク冒険者は魔物狩りに特化してるだけだ。魔物が狩れないとBランクから上には行けないしね。


「クソ、行くぞ。俺達を敵にした事を後悔させてやる」


 銀の牙の人達は地面に唾を吐くと立ち去った。それが正解だ。そろそろアリシアさんの怒りが凄い事になる。私の背後から殺気を出すのは止めていただきたい。震えちゃうよ。

 その後私は王都のギルドに向かう。ゴーレムの楽園に居た普通の魔物を売却する為だ。


「またいっぱい持って来たよ」


「これは……何時も何時も凄い数ですね。魔玉はいつも通りですか? 」


 私がカウンターに幾つもの収納カバンを置くと、受付嬢が中身を確認する。


「魔玉は使うからね。何時も通り素材だけ買取で」


 儀式系の魔法は余り行わない私は魔物の素材が不要だ。いや、別にやっても良いんだけど、魔物の心臓とか使う関係で、周りが嫌がるんだよね。解体すらアリシアさんに禁止されてるし……折角解体用に大型ナイフを作ったのに。最も私は解体した事が無いので素人だけどね。

 受付の人が、カバンを解体を行う冷凍倉庫に持っていくと、暫くして戻って来た。魔玉は後で受け取りだ。


「確認しました。これが買い取り金額となります」


「それで良いよ」


 ずっしりと金貨が詰まった袋をアリシアさんが受け取ると、腰のポーチに仕舞う。


「それといい加減パーティー名を決めてくださいよ」


「じゃあそれもやっちゃおう。用紙頂戴」


 そろそろパーティー名を決めようと思っていたのだ。パーティー名は私の自由で構わないとヘリオスとアリシアさんから言われてるので、ペンをクルクル回しながら考える


『ワンニャンクラブ』


 これで行こう。


「わ、ワンニャンクラブですか」


「私はペットが大好き。犬も猫も飼ってる」


「主よ……我は犬では無いのだが。それに城に残ってる奴等も魔猫であるぞ。全員魔獣なのだが。それと我は使い魔だ」


 クート君が床をペシペシ叩きながら抗議するが、彼の言葉は私にしか通じない。私の後ろではアリシアさんとヘリオスが笑いを堪えていた。良いじゃん。

 こうしてBランクパーティー『ワンニャンクラブ』が結成した。

 次にさっきの銅の牙の事を話す。


「えっと銀の牙では? 取りあえずギルマスに報告しておきます」


「そんな名前だった気がするけど、何であんな事してるの? 」


 普通、冒険者は悪さしない様に王国から監視されている。高位冒険者だから好き勝手出来るわけでは無い筈だ。と言うかナンパくらい脅迫無しでやろうよと言いたい。


「それは……すみません。私からは」


「おう仮面っ子じゃねえか。俺が教えてやんよ。連中はあの王子側についてんだよ。馬鹿だよな」


 後ろでお酒を飲んでいた他の冒険者が不機嫌そうに教えてくれた。


「……」


 受付嬢が渋い顔して黙り込む。面白い顔だ。


「ギルドが無視してりゃ俺達にも悪評が付くんだから何とかしてくれや。鬱陶しくてかなわんぜ」


 ギルド側は王族の後ろ盾があるせいで動き難いようだ。他の冒険者からも錫の牙を非難してる。どうやら私が居ない間にかなりやらかしてるようだ。

 一体どうなってるんだろう。王族の後ろ盾ってそんなに大事かね?


「普通は厄介毎ですね。いくら後がなくとも、王籍を剥奪されなければギルドも文句言えないでしょう。アーランドとは違います」


 そうなんだ。私が後ろ盾になったとしても、悪さされれば、私がお説教を受けるから、こういう事ってアーランドではないんだよね。マダムのお説教は怖いし、お父様も冒険者上がりだから、悪さする冒険者大嫌いだし。

 しかし、冒険者の後ろ盾って何か役得あったっけ?珍しい物が手に入りやすい? でもあの王子じゃ使い道が無いし。

 もしかして立場がヤバい状況になっていて、それを何とかする為に戦力を集めてるとか?俺の後ろにはこれだけの手下が居るぞって無言の圧力を掛けようとしてるのかな。

 でもそれって、即反逆罪になるような……面倒だから関わらなければ良いか。


「すみません。現在王都に他のAランク冒険者が居ないのです。職員がいくら言っても聞いていただけず、現在矯正できる冒険者を地方から呼ぶ事を検討してます。多分今回の事もあの……名前を忘れましたが、第5王子に握り潰されるかと」


 名前を忘れられる王族が実在するとは。まあ第5王子で通じるし、仕方ないね。それと粘土の牙はギルドにお仕置きされるのが確定してるようだ。しかもお話(物理)である。


「それならそのホロウに任せればよいだろう」


 ギルドの2階から老人が降りてきた。そして私に任せると爆弾発言を行った。何故私が。

 私達『ワンニャンクラブ』は忙しいのだよ。クート君に新しい芸を覚えさせるとか、魔物を狩ったりとか。と言う訳で……


「面倒だからパス」


「話しくらい聞け」


 私は面倒事を押し付けて来る老人にクート君を放った。逆立ちで老人の周りをグルグル回るクート君の攻撃は効果的だ。老人は右手で額を押さえていた。

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