155 パーティーの裏側
社長「今週は定時だと言ったなあれは嘘だ(機械トラブルによる工程遅れ発生)」
後は風邪をひきました。遅れてすみません。
アーランド王国にはお祭りが多い。その中でも最大のお祭りは建国祭と王族の誕生祭だ。建国祭は当然盛大に行われるが、アーランドの隣国である連邦が滅びて、帝国と隣接してからは予算不足で誕生祭は余り盛大には行われない。予算不足である。
しかし今年は少しだけ予算が増やされた。お祭り大好きの国民が経済が上手くいってる事からもっと盛大にやろうぜ! と国に懇願したのだ。本音は好きなだけ酒を飲んで騒ぎたいだけである。
王族の誕生祭は存命の王族のみである。他界した王族の誕生祭も行うべきと言う主張も多いが、これは飲んだくれの戯言なので却下だ。本音を隠すべきだろう。後、お金が無い。
そんな王国も現在は少しだけ豪華に誕生祭が行える。理由は今年は結構な豊作で税収も良かったのと、アリスティアのお蔭である。アリスティアが個人資産を王国に献上し、その金で公共事業を行う事で停滞していた経済は回復どころか成長を始めてる。
今王都に住んでる多くの住民は忙しさで暇が無いが懐は温かいのだ。王都拡張事業も長年暇だった歴代国土大臣が綿密に計画しており、それをアリスティアの技術を組み込んだだけなので、既に着工が始まってる。王都中で毎日工事が入ってるのだ。
更に飛空船事業の好調もある。アリスティアは王国に現れたビッグな財布なのだ。いくらでも富を作り出せる。そして市場に盛大にばら撒いている。
副王商会連合も多くの雇用を生み出している。しかも長年税金を払えなかったスラム民を優先して雇用してるので、来年からは彼等からも税金が取れる。笑いが止まらないとはこの事だろう。
「今年はいい年でしたな」
「ええ。来年がこれほど楽しみなのは初めてですな」
普段は来年も国が続くか怖がっていた領主達の表情は明るい。一歩間違えば帝国に滅ぼされる恐怖も、今は明日への希望が持てた。
領主達もスラム民を出稼ぎに送るなど色々と恩恵を受けてるのだ。無論出稼ぎはスラム民だけでは無い。多くの労働者が王都に集まって稼いでいるのだ。彼等が領地に戻ってこれば、その金が領地を潤す。
更に言えば獣人とドワーフの貴族はアリスティア側だと認識されている。アリスティア自身は面倒事を嫌う為に派閥を作らないが、王家に匹敵する派閥を作ろうと思えば直ぐに作れるのだ。
無論、それを行わないアリスティアは領主にはありがたい。王家が荒れれば、その流れはいずれ王国を飲み込むからだ。面倒事は無いに限る。
「しかし連中も愚かな事だ」
「左様ですな。上手くやればバルド準男爵の様に恩恵を受けれた物を……何故姫様に喧嘩を売って勝てると思ったのだ」
アリスティアから全面支援を受けるバルド準男爵は多くの領主に囲まれ、緊張しながら領地の事や、アリスティアから供与された魔道具の事を他の貴族に話していた。
相手の貴族も有用な魔道具に興味深々で、いつか自身の領地に取り入れたいと力説している。その為に、現在アリスティアと交流のあるバルド準男爵と繋がりを作る貴族は多かった。アリスティアは向こうから来るので、貴族の方から繋がりを作るのは難しいのだ。王家が徹底的に護ってるので近寄る事も出来ないし、そもそも何処で何をしてるのか知らない貴族も多い謎の王女である。
「副王家の後ろ盾は護国会議のメンバーと王家が居るのだ。残ってる事を感謝すべきですな」
「それが出来れば貴族議会なんぞに送られる事も無いのだがな」
壁際に集まってる馬鹿共を嘲笑う貴族達。それを憎々しいような目で睨む議員。彼等は制服制なので分かり易い。制服制なのは令嬢がアホに騙されないように隔離してますよと言う意味がある。本人達は選ばれた者だけが着用できると妄想して現実逃避をしている。そうしなければ惨め過ぎたのだ。
「だが、辛気臭いのはあそこにも居るが……」
「言ってやるな。あれは領主の激務でああなったのだ。何も言わぬのが紳士と言うものだ」
ダンスをせずに壁際に集まってるのは議員だけでは無い。他にも一つの勢力が居た。それは殆ど普人貴族で構成された中堅派閥である。
彼等は髪の一部の色が違う。主にてっぺんの辺りと、脇の辺りで、よく見れば作り物を乗せてるのがまる分かりだ。仕方ないのだ。この世界では頭部を偽装する道具が未熟で直ぐに分かる残念仕様なのだ。
しかし、それを知っていても指摘しないのが紳士である。
「まあ、あんな事があったのだ。警戒してダンスなど出来ないだろう」
きっかけは数年前の社交界での出来事だ。ダンス中にアレが頭部から外れた事件が発生したのだ。そして禿が発覚した貴族は領地から出て来なくなった。
あの時の彼等は荒れ狂っていた。そして同じ屈辱を受けないように固まって忙しそうに話してるふりをしてるのだ。
少しでも頭部に視線を向ければ挙動不審に陥る彼等には同情しか無かった。一応有能なのだ。しかし、有能故の職責は彼等の草原を破壊し、死の荒野へと変貌してしまった。普人どうして直ぐに禿げるの?
今一番アリスティアに会いたいのは彼等だろう。アリスティアならば死の荒野を豊かな草原に戻す薬を作れる。実際前世でも暇潰しに作って特許料で大儲けしてるので不可能では無い。面倒だから魔法薬にするだろうが。
しかし、前提条件が厳しいのだ。まず、アリスティアと接触すると言う条件。迂闊に動けば壁際のアホ共と同じ末路を辿るだろう。
そして、次に頭部の事を告白しなければならない。他人が困ってると言う言い訳は出来ないだろう。アリスティアは王族だ。周りが「じゃあ本人を連れてこい不敬だろう」と言われるのは確実だ。又、6歳の幼女に禿を治してくださいとは言えなかった。彼等にもプライドはあるのだ。
「姫様の気まぐれが起こると良いな」
「そうだな」
アリスティアの気まぐれで薬が誕生する可能性は0では無い。知らない人間に興味の無いアリスティアなので、限りなく0に近いが、0では無いのだ。
そんな事を話していると周囲が静かになった。
「どうしたんだ? 」
「お、おい。姫様がパーティーに参加なさっている」
アリスティアは王族の公務は行わない事でも有名だ。他で有能さを示してるの上に、多くの利権を貴族に与えてるので批判出来ない貴族は多い。だから今回のパーティーにも出て来る事は無いだろうと噂されていた。
アリスティアとの繋がりは欲しい貴族がアリスティアに近づこうとして、後ずさった。
「プクゥ」
アリスティアは明らかに不機嫌だった。よく考えれば分かる筈だ。面倒だから社交界に出ないと公言してるアリスティアがこの場に居るのは誰かに強制された結果なのだ。
「マダム・スミスか……面倒な事を」
「何故姫様を怒らせるような事を……近づくな巻き込まれるぞ」
背後を歩くマダム・スミスの姿で全てを悟った貴族達は誰もアリスティアに近寄らなかった。今話しかけても嫌われる可能性が高い。
尚、獣人貴族はひっそりと跪いていたが、誰もがそれを無視した。最近の彼等はウザいのだ。話してもアリスティアを崇拝するような言動しかしない。王家の求心力も上がってるので構わないが、鬱陶しい事この上ないのだ。暫く放置するのが多くの貴族達で出した結論だった。
その後アリスティアは近寄ろうとする貴族を威嚇しながらドラコニアに挨拶し、ギルバートとダンスをした。その姿は確かに王族らしい風格が漂っていた。どうしてアリスティアは普段からその風格を出さないのかと言う疑問を持つマダムがそれを満足そうに眺めていた。
ダンスが終わると、近寄ってはいけないと周囲を威嚇するアリスティアの意志を無視して議員の一人がアリスティアに近寄った。恐らく関係を改善して利権に食い込みたいのだろう。甘すぎる。
飛び出した2人の獣人貴族が前後からラリアットをかまして議員を気絶させた。そして偶々ぶつかったと平然と言い訳をすると、その議員を会場の外に引きずって行った。尚、会場を出て右に行けば医務室がある。飲み過ぎで倒れる人も居るので、パーティー中には臨時の医務室が近くに設置されているのだが、引きずって行ったのは左側の通路であり、そちらには警備の騎士や兵士の詰所と牢屋が存在する。
「今度余計な事をすると溶鉱炉で溶かすぞ」
「それより四肢を捥いで晒し者にしましょう」
残った議員達は額に青筋を浮かべた獣人とドワーフ貴族に包囲され、物理的に近寄れない様にされていた。虫のいい思考に我慢の限界が近いようだ。
その後ジリジリと近寄る貴族をアリスティアが威嚇すると言う謎コントを続けたアリスティアは魔道車を発表した。
馬車の評判はすこぶる悪い。道も悪けりゃ馬車も悪いので、物凄い揺れるのだ。更に言えば、馬が高い上に繊細な生き物だ。管理が面倒である。
しかし魔道車はそれを覆す。道が悪くても馬車より酷い事にはならない。最も2000GTでは限度があるので他の車種も必要だが。
「……欲しい」
「しかし飛空船の購入で資金が」
誰もが馬車の代わりを求めていた。異世界に自動車があるのは知っている貴族も少数ながら存在する。しかし、この世界ではエンジンなどを作る事が出来なかったのだ。
そして魔道車を欲するのは法衣貴族よりも王都に住んでいない領主達が欲しがる物だ。高速かつ安全に移動出来る魔道車は素晴らしい。最低限の護衛で済ませる事も出来るし、話を聞けば大抵の魔物からも逃げきれる。
移動中に魔物に襲撃されるのは危険な事だ。そして馬車では逃げきれない事も多い。魔道車は速度すら馬車を上回っていた。
しかし、これを買える貴族は少ないだろう。明らかに個人用の乗り物なのだ。領地を発展させる為に飛空船を購入してる領主の懐は魔道車を買える程温かく無かった。
「ぐぬぬ」
「こうもポンポンと発明されては我々の財布が……」
これがアリスティアを自由にさせてる理由だ。アリスティアは多くの物を生み出す。生み出した物はどれもが素晴らしく、彼等を魅了するのだ。
欲しい。是非量産して欲しいと思う貴族達。彼等にこれまでの憂いは無い。王家は完璧になった。ギルバートは政治家としては優秀だ。若干恐怖政治を行う悪癖があるが、目に余る悪さをしなければ問題ない。そして副王家として独立したアリスティアは魔道具を工業的に生み出せるように動き出した。
次代の王族は2人とも当たりだ。3人目はまだ分からないが、ギルバートとアリスティアは王座を争わずに仲良く王国を繁栄させてくれるだろう。
そして彼等は帰り道で結局アリスティアと繋がり処か、顔も覚えて貰う事すら失敗した事に気が付いた。
「これが狙いか! 」
面倒事から避ける為にギリギリのタイミングで魔動車を発表した事に気が付いた彼等は自分達が余程面倒な存在だと勘違いされてる事に落ち込んだ。
別にアリスティアに悪い事をする気は無い貴族も多いのだ。だって周りが怖すぎる。普通に貴族と王族として関わりたい貴族は自分は面倒じゃ無いとアリスティアに教える為にどうすれば良いのか今日も悩んでいた。
貴族議会にこれと言った権限はありません。但し群れてるので非常に鬱陶しい存在ですが、獣人貴族にとってアリスティアは女神とも言えるので容赦しません。ドワーフは実力主義なのでアリスティアは自分より優れた技術者と認識してるので、邪魔者はデストロイ。
それと貴族付き合いが面倒だと思ってるのは偏見です。実際面倒事を排除してくれる人や、ただ顔を覚えて欲しいだけの人もそれなりに居ます。信者も居ますし。




