145 アリスティアの冒険 1日目
朝になり、狐の仮面とローブ、それと偽装して黙らせた竜杖を持って冒険者ギルドへ向かう。
ヘリオスは力があるので、フルプレートアーマーだ。見た目だけならば騎士に見えるが、実力は無い。ぶっちゃけ硬いだけなので、大きな盾を持ってる。武器はメイスだ。剣とか使うと余裕で折るパワーを持ってるからね。短槍とか使う技量も無いので、力任せに殴れるメイスだ。
アリシアさんは私と一緒でローブと仮面。クート君はウルフに偽装した使い魔だ。ウルフを使い魔にする人は意外と多い。特に冒険者は魔物と戦う人に人気な使い魔だ。鼻が良いからね。
「いらっしゃいませ……ホロウ様? 今まで何処に行ってたのですか」
「最初の依頼で大金が出来たから故郷で研究してた。お金尽きたから出稼ぎ」
魔法使いには珍しく無い理由だ。生活破綻者ばかりの魔法使いは、お金の管理が出来ない故に魔法薬や魔道具を売ったり、直接冒険者活動を行う事があるので、疑われない。と言うか受付嬢の人はよく私を覚えてたね。
「そうでしたか。いえ、あの時に王都に居てくれれば治療などで助かったのですが」
「大変だったみたいだね。噂程度しか聞いてないけど」
私は魔物を駆逐しただけだから、実情を知らない。殆ど噂レベルの事しか知らないのは事実だ。終わったら即帰還したし。
「大変でしたが、隣国の王女様に救われました。それで本日はどのような」
「周辺の魔物でも討伐してくる」
受付に来る前に掲示板から剥がした依頼書を渡す。内容は王都周辺の森に住みついた魔物の討伐だ。一応Dランクの依頼だが、討伐する魔物に指定は無い。報酬も討伐した魔物次第のいい加減な仕事だ。
本来はゴブリンとかオークを対象にするんだけど、そう言う細かい指定は入って無かった。兎に角魔物を倒して欲しい状況なのだろう。
「ホロウ様でしたら治療院の方が稼げると思いますが」
「治療魔法は得意だけど、討伐も得意。それに向こうは貴族がちょっかいをかけて来そう」
治療院は王国機関の為、貴族の目がある。面倒な事を省く為に接触は減らしたい。
「左様ですか。残念ですが、討伐も急務なのでありがたいです。ですが素晴らしい才能ですね。治療魔法の使い手は戦闘が苦手な事が多いのです。そちらの御方はパーティーメンバーですか? でしたら他のパーティーから干渉が無いように登録をおススメします」
ヘリオスを見る受付嬢。この世界でのパーティーとは他の冒険者への牽制だ。コイツは俺のパーティーメンバーだからちょっかい出すなよ。と言う意思表示と、登録すればギルドの貢献度は均等に配分される。なので、同じ程度の実力者が組むのが一般的だ。
それと、冒険者は基本的にフリーターの様な存在で、威張り散らす貴族を嫌ってる人が多い。
「じゃあ、そうする」
暫くして登録を終えるとそのままギルドを出る。
「いってらしゃいませ」
そのまま王都を出ると、クート君に乗って近くの森に移動する。ヘリオスは体力があるから走りで、アリシアさんも走り。アリシアさんは物凄い足が速いのだ。多分クート君に匹敵する。
暫くして森に到着する。歩きで3時間くらいの距離を20分で駆け抜けた。
「さて、ヘリオスが前衛で、アリシアさんは魔物の死体回収ね」
「分かったのである」
「はい」
暫く森を進むとゴブリンが2匹居た。
私は無言で腰のリボルバーを抜いて引き金を引く。乾いた音が2回響くと、ゴブリンは倒れる。
まあゴブリンならこの程度かな?
「ゴブリンはお金にならない。もっと奥に行く」
—―アリス、そこの木は魔物だよ――
—―そっちの木も擬態してるよ—―
奥に進んでると、ふと精霊が助言をくれた。どうやらトレントが木に擬態してるのだろう。クート君の鼻では植物系の魔物は発見し難い。
助言と同時にトレントが動き出した。多分精霊が私に助言を告げた事に気が付いたのだろう。
振り上げられる枝。しかし、その枝はヘリオスの大楯に阻まれる。
「木の分際で主に仇成すとはいい度胸である」
ヘリオスが風を切る轟音と共にメイスを横殴りでトレントに叩きつける。幅が2mを超えるトレントは上半身? がへし折れ、そのまま動かなくなる。私はもう一匹のトレントにグラディウスを叩きつけるが、腕力不足で、半分程度しか切れなかった。純粋にグラディウスの切れ味だけの成果だ。
「ギャアア」
痛みを感じないのかトレントは枝を振り下ろす。
「鬱陶しい。【ウィンド・カッター】」
グラディウスから竜杖に持ち替えて風の刃を切り傷に打ち込むと、トレントは真っ二つになる。更に風の刃はそのまま幾つかの木を切り裂いて何処かに飛んでいった。
「過剰威力ですね」
「何か弱く無い? 」
もっと手ごたえがあると思ってた。でも、予想以上に弱い。正直アーランドのゴブリンの方が狡賢いし、面倒な相手だと思う。
「アーランドの魔物は他国の同じ魔物より1ランクは高いですから。
それと姫様の魔法が過剰威力なので、アーランドのオークでも耐えれませんよ。魔力の使い過ぎです」
それは知ってたが、予想以上に弱かった。
それと咄嗟の魔法は加減が難しい。真っ二つになったトレントを収納袋(容量1000㎏)に収納する。今日はこれを10個程持って来た。
「そんな事より……主よ、吾輩のメイスが砕けたのである。これは不良品なのである」
ヘリオスが先端の砕けたメイスを持って来る。どうやらヘリオスの腕力に耐えられなかったのだろう。実際、ただの鉄製のメイスでトレントを倒すのは難しい。トレントは固い魔物なのだ。それを一撃で倒したメイスはその寿命を使い果たしたのだろう。馬鹿力だ。
私は宝物庫を呼び出す。
「メイスって作ってたっけ? 」
入口近くで作業してた分身に予備が無いか聞く。
「あんな金属の塊なら直ぐに用意する。鉄で良い? 」
「ヘリオスの馬鹿力で壊れたから鉄以上の物で」
「じゃあアリス鋼で良いか。重すぎて用途が限定的だから余ってる。10分程待って」
10分程すると、アリス鋼のメイスが運ばれてきた。重さ20㎏のメイスである。普通に棍棒だ。と言うか人間の使う武器じゃ無い。
「ヘリオスの腕力からこのサイズじゃないと壊れやすい。後で素材の選定を行い、新しい合金を作る」
「うむ、これは振りやすいのである」
ブオンと何度も片手でメイスを振り回すヘリオス。持てるんだ。まあ、パワーはドラゴン形態と変わらないからね。基本的に人型になったドラゴンだし。
素の防御力もドラゴン形態と変わらないので、フルプレートアーマーは見た目だけだ。体の方が遥かに硬い常識外の生物である。
「じゃあクート君、群れてる場所を探して」
「心得た」
クンクンと地面を嗅ぎながらクート君が先行する。トレントはかなり居るようで、群れの居る場所までに5回も襲撃を受けたが、精霊が居る事を教えてくれるので問題は無い。
実際トレントの危険な所は見た目がただの木と変わらないのと、体が硬い事だ。稀に魔法を使う個体が居るので瞬殺する。ゴブリンは銃だけで問題ない。
「ブオオオオ」
「豚がいっぱい」
たどり着いたのは30匹程居るオークの集団。どうやらただのオークの集団で、ジェネナル級もソルジャー級も居ない。つまり二足歩行の豚だ。
オークは体を狙わずに頭を狙うのが一番だ。体は分厚い脂肪と筋肉で覆われているが、首はそうでも無い。ヘリオスが3体のオークを横殴りで頭を吹き飛ばす。
「ブヒ! ブヒヒイ」
ヘリオスは危険とオークが10匹程こちらに向かうが、一瞬で首が飛ぶ。アリシアさんが背後から切り落としたのだ。
「【ウィンド・カッター】」
残りのオークも同様に首を刎ねる。全てのオークを倒すのに10分程度しか掛からなかった。楽勝楽勝。
「姫様、油断はいけませんよ」
「だって弱いし」
オークの死体を回収すると、血の匂いでウルフが数匹集まるが、銃弾より遅いのでこれも瞬殺した。
「リロード」
シリンダーが回転して、腰のポーチから銃弾が装填される。私は軽くチェックすると腰のホルスターにリボルバーを戻す。良い威力なんだけど、連射すると肩が痛くなるし、手が痺れるね。
「しかし、予想以上に魔物が多いですね」
「多いの? 」
もっとエンカウントすると思ってた。
「普通は魔物を探すのも一苦労なのですが……嫌な予感がします」
「まあお昼にしてから考えよう」
「ここでお昼ですか! 匂いで魔物が集まりますよ」
「宝物庫の中ならヘリオスでも入ってこれないから問題ない。今日と明日も森に泊まり込んで魔物の討伐だからね」
食料も医薬品も宝物庫に放り込んでる私達は身軽に動ける。私は途中からクート君の上に乗ってるけどね。
更に討伐した魔物も収納袋に入れてるので問題ない。【状態保存】を掛けられた収納袋の中身は変化しない。つまり腐らないのだ。
本日の昼食はお肉と卵のサンドイッチに野菜スープ。それとデザートのリンゴパイだ。美味しかった。
「冒険者も良い生活してると思う」
「普通は荷物の関係で、不味い携帯食に温くなった水だけですよ。森の中で無防備に食事もとれませんしね」
アリシアさんも苦労したようだ。お父様の過去話にも出る携帯食は人が食べる物では無いらしい。硬いし、パサパサで味も殆どない。料理人でも美味しくできない最悪の食品だそうだ。ただ、軽いので商人や冒険者の非常食として持っている事が多いのだとか。
魔法使いの冒険者で収納袋を作れる魔法使いは土下座してでも仲間にするものだとアリシアさんは力説していた。
収納袋は便利という事だね。まあ、普通の収納袋は中身の劣化も普通に進むけどね。だからお水とかは温くなる事もあるらしい。
その後も森で狩りを続ける。アリシアさんは薬草の知識もあり、売れる薬草もどんどん取る。私も知ってるが、本に書かれた挿絵の薬草と微妙に違ったり、本の挿絵が間違ってる薬草もあり、初見では分かり難かった。
薬草も集まり、特殊な木から魔導紙の材料である皮を剥いだりと多くの素材を得られた。どうやら森の奥には殆ど人が来ないらしい。人が来た形跡も無ければ、最初はクート君が気がついてた人の気配も全くないらしい。
「ゴーレムよ、そこの木も伐採」
クレイゴーレムを作って、チェーンソーを持たせて木を伐採する。これも素材だ。彫刻などに適した物だ。
木が倒れると、素材用の収納袋にしまい込む。クレイゴーレムは次の魔物に突撃させよう。
夕暮れになる頃には既に用意した収納袋のうち、2つが満杯で、1つが半分程度集まった。一番多いのはウルフとゴブリンだ。次に素材とオーク。どうやら上位種の魔物は居ないようだ。
私は木陰に門を呼び出す。ついでにシャドウ・ウルフにご飯をあげて、門の中に入ると門を小さくする。サイズ的に小人じゃないと入れないサイズだ。中に生き物が居ると門は閉まらないが、サイズは変更できるのだ。
そして門の外からシャドウ・ウルフが門にのしかかる事で光も外に出ない。
私はアリシアさんに夕食を作って貰い、お風呂に入って寝る事にした。今日はいっぱい動いたから眠いのだ。時間は7時くらいだったが、明日も早いので寝る事にした。




