144 オストランドとの交渉
この章はそんなに長く無いと思います。オストランドでの活動と、ドラコニア&アリスティア7歳の誕生日の話。そして閑話になります。
まずは転移魔法でオストランドの学校の寮に移動する。アリシアさんを使いに出して王様との謁見を申し込むと、直ぐに許可が出た。普通は許可に数日かかり、謁見までに最高で数か月掛かるのだが。
「姫様との会談ならと即断したようです。寧ろ待たせるのは無礼だとか言ってましたよ」
「何で? 」
「姫様のおかげで生き残れた様なものですからね」
成程。恩を感じてると言う事か。次の日、王城にあがり王様との会談を行う。
時期はもう雪が降り始めた頃だ。寒いのは苦手だが、ドレスを着ないといけないのは面倒だと思う。でも他国だし仕方ない。
「うぅ……姫様お似合いです」
「何で泣いてるの? 」
「だって滅多に来てくれないじゃないですか。王女らしくて良いと思います。是非普段から着てください」
動き難いし、寒いから絶対に嫌だ。
取りあえず馬車で王城に移動すると、騎士団総出で歓迎してくれた。城内までの道にずらりと並んでた。城内も謁見と言う名目だが、場所は王様の執務室なので、そこまで騎士団の人達が並んで、誰も来れないようにしてた。
こっそりアリシアさんに聞くと、不審者対策と、変態王子が接近しないようにしてるらしい。
「ようこそおいで下さった」
「お久しぶりです。今日はオストランドの頭痛の種である魔物の事で来ました」
王城は大分修繕が進んだようで大分綺麗になってた。私は王様の許可を取って椅子に座る。
「魔物か、確かにスタンピードの影響で増えておるの。しかし他国に依頼する程の事でも無いのだが」
「冒険者ホロウを派遣して魔物狩りを行いたいのです。アーランド内部で活動すると感の良い人が気がついて問題になるので」
王様は冒険者ホロウの正体を知ってる。元々戦闘訓練の為に冒険者登録を行ったのだ。ただ、それ以降忙しくて活動出来なかっただけである。
「ならば構わぬが、万が一の時は」
王様も私に何かあると困る立場だ。前ならば知らないで通せたし、私がオストランドへの影響力も無かった。今は国民が騒ぐ可能性があるようだ。
「ホロウは何処とも関わりの無い冒険者ですので問題は無いでしょう。魔物の素材は魔玉を除いてオストランドに売ります。私は使い道が無いので。
それとダンジョンにお困りの様なので、土地代の請求でも如何ですか? 暫くダンジョンも大人しくなりますよ」
「土地代請求じゃと! 危険過ぎる。10年前に行ったが、送り込んだ騎士団は誰も戻ってこなかった。あれは危険過ぎる」
全滅したんだ。まあオストランドは軍事に力を入れていないから仕方ない。私は大丈夫だと思う。駄目なら転移で逃げるし。ダンジョン内でも転移は一部の部屋以外は可能だ。何も問題ない。寧ろ魔物が集まれば利益も増える。魔玉集めにもなるからね。
「私は転移が使えるので危険になったら逃げれますよ」
「しかしじゃな……」
「オストランドは軍事力が上がるまでダンジョンを一時的に非活性化出来る。私は利益を上げられる。中々良い話だと思いますよ。現状を放置すれば再びスタンピードが発生するのは避けれませんが。
野にいる魔物とダンジョンの管理を両立出来るのならば問題は無いでしょうが」
「ぐ、確かに管理しきれてはいない……ㇵァ良いじゃろう。そこで相談じゃが」
「土地代の2割で良いですか? 」
「せめて3割欲しいのう」
「そう言えば最近副王商会なる商会が収納袋を格安で販売してるそうですが」
「それは姫の商会じゃろう。既に報告は入っとるよ……ちょっと多めに売って欲しいのう」
やっぱり魔道具は役に立つね。
「良いですよ。最も私は経営には部下を使ってるので、彼に話を通しておきましょう。飛空船を買う時にでも積んでいけば輸送費も削減できるでしょうね」
馬車での移動は魔物や盗賊の危険性があるし、時間が掛かる。飛空船を引き取る時に積んで持って帰るのが効率的だ。アーランドと違って供給量に限りがあるから暫くは貴族や重要商会に売り払うと思うし。
「全く交渉できる余地が無いのう。良いじゃろう。2割で納得しよう。ダンジョンのルールじゃが」
ダンジョンは誰でも入れる訳じゃ無い。最低Bランクの冒険者か国の関係者……まあ騎士団とかしか入れない。前者は弱い冒険者は狭い迷宮内で魔物に囲まれて一方的に嬲り殺されるからだ。後者はダンジョンが国の管理物だから。
攻略すれば消える生物型ダンジョンだが、今回は土地代請求だ。数年から数十年間の活動を停止するだけだから簡単に許可が下りる。管理出来ないダンジョンは迷惑極まりない存在だしね。
「ええ知ってます。丁度良いのでオストランドの王都周辺の掃除でもしてランクを上げるので問題ありませんよ」
魔物狩りは冒険者ギルドの貢献度が高い為にランク評価も良い。春になれば学校が再開するからそれまでは冒険者活動をする。
仕事? あれは部下と宰相さんに任せる。偶に帰って重要な書類にサインすれば良いのだ。お父様とお兄様は増えた仕事で王城に軟禁されてるけどね。王族を椅子に縛り付ける部下がいる国はアーランドだけだろう。
「頼もしいのう。しかし、オストランド内で身分が発覚するのだけは気を付けて欲しいの。こっちも隠蔽が面倒じゃからな。
前のように知らぬ存ぜぬでは国民も納得すまい。姫はオストランドの恩人じゃからの」
むう、恩を感じる必要は無いのに。別に国をどうこうとか、苦しんでる人を助けたいとか考えての行動じゃ無い。友達を助けただけだ。魔物は結局追い払っただけで、追い払われた魔物が他の町とか村の近くに住み着いて被害を出すなどの2次災害も発生してるし。
正直ここまで感謝されるとは思ってなかった。しかも私が意識不明の間に聖女だとか変な噂が出て、収拾がつかない状況だし。
その後、幾つかの交渉……主に副王商会連合をよろしくとか他の品物の話をした程度と、王国内での活動許可を貰って寮に戻ると、転移で近くの宿に移動する。
これでオストランド内に既に居ないと思われるからだ。寮の自室の窓から人気のない場所に転移したのだ。私は視界内の場所ならマーキングの必要は無い。
「問題解決」
「文句を言わせない姫様の交渉術は相変わらずですね」
お互いに得する交渉しかしてないからね。どっちも得なら納得できる。片方に不満が出る交渉は長引くだけだ。
今回はオストランドは黙ってるだけでお金と収納袋を手に入れられるし、将来的なスタンピード発生率が下がる。アーランドみたいに魔の森に隣接してないから、オストランドは国内の魔物の領域と生物型のダンジョンに定期的な手入れを行えばスタンピードは起こり難いのだ。無論0では無いけどね。何らかの要因で魔物が大繁殖する事もある。
オストランドはこの機に軍事力の上昇と、疲弊した国力の回復に力を入れる。対中央同盟間での相互貿易で食料や情報に、幾つかの特産品を売っているようだ。特産品は既に増産も始めてるらしい。
「ランクはDだから暫くは魔物を狩ろう」
「狩り尽す御積もりですか? 」
「別に文句は言われないでしょう? それに最近運動してないから少しは動けってお父様も言ってたし」
「そう言う運動を求めてはいないと思いますが」
まあ研究とか政務とか商会関連で動いていたとも言えるんだけど、少し子供らしくして欲しいと言う親心だろう。だけど、それは新しい家族に期待するべきだね。
お姉ちゃん頑張って君が生まれるまでにアーランドを豊かにしちゃうぞ。
「私はこっちに居る暗部と話を付けるので、決して外には出ないでくださいね。駄犬も絶対に姫様を外に出すなよ。それとそこの暴食竜もです」
「「出ると言われて我等が止めれるとでも?」」
クート君はずっと一緒に居たけど、護衛が足りないとアリシアさんが文句ばかり言うからヘリオスを呼んだ。ヘリオスは一般的な冒険者っぽい恰好をして、同じ仮面を付ける事になる。
クート君は首輪を変えて。魔獣の中でも最下級のウルフに偽装させる。体のサイズや放出してる魔力に威圧感等はクート君でも偽装できるが、体毛までは変えられないので、擬装用の魔法を込めた首輪で現在くすんだ灰色の体毛の大型犬くらいのサイズで活動する。
ちょっとクート君が嫌そうだ。雑魚の代名詞だし、前の群れでもお呼びでない扱いで群れには入れなかったウルフに自分が擬態するのは抵抗があるらしいが、私がやれと言えば、それが決定事項。別に実力が変わる訳じゃ無いので大丈夫だと思う。
「……姫様本当にお願いしますよ。こっちはアーランド程安全じゃないのですから」
「私を信用して、さっさと行くがいい」
「……姫様がお眠りになってから行く事にします。それと暗部は常に同行する事は決定事項ですからね」
信用が足りない。何でだろう。私は頑張っている。少しは信用しても良いと思うが、勝手気ままに動いてるのも事実だから仕方ないか。
宿の食事はまあまあ美味しかった。収集する程のデザートでは無かったけどね。お菓子はアーランドの方が上かな?
お風呂は部屋についてる。この宿は大分高級な宿なのだろう。宿に泊まる事なんて滅多に無いからどの程度かは分からないけどね。
私は銃と竜杖にグラディウスの手入れと五月蠅かったのでお仕置きして寝る事にした。
お休みなさい。




