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141 お金が無い国土大臣

王国随一の不遇な大臣の視点です。

 明日も……明日も更新します。

「すまんが来年の予算を3割ほど減らす事になった」


 内職しながら予算を稼いでいた時に陛下に呼ばれ、予算を減らされる私。

 私の名前はラッシュ・ブラウンと言います。王国からは伯爵位を頂き、国土大臣の職を頂く官僚です。

 王国の予算は常に厳しい状況で、国内の開発も遅々として進みません。予算の多くは戦費と最低限の経済に消えるからです。我が国土開発局は予算不足で縄を編んで売る事で足りない予算を賄っている状況です。

 来年は毎年のように決壊する川の堤防工事を予定してます。数年貯めた予算と内職の成果でようやく着工出来ると思ってた事業は現在予算の削減で窮地に陥りました。


「そんな……これ以上放置すれば国民の不満も溜まる一方です。せめて1割の削減にして頂きたい! 」


 1割ならば内職を増やせば何とかなります。


「そうか。ならば1割減らす事にしよう。すまないと思っている。しかし、飛空船事業は好調だ。再来年の予算は3倍は出せる。現状は作って売るのサイクルで最低限の売り上げしか出ないのだ」


 飛空船事業は知っております。我が国の姫様は天才とお呼びするのもおこがましい御方です。あのお方は中央への嫌がらせと自身への予算獲得の為に飛空船を甦らせました。

 飛空船事業は好調ですが、事前に予算を組んでいない為に作って売ってを繰り返して予算を増やしています。しかし、売り上げは姫様が管轄する技術開発局と空軍に多くが配分されています。

 文句はありません。あれは姫様の手柄です。多くの予算が姫様の元に流れるのは自然な事でしょう。お零れで手つかずの政策も回るので感謝しかありませんし、技術開発局も急速に技術の習得を進め、魔道具生産では魔法王国を超えてる可能性がある程の急成長を遂げています。

 しかし、それだけでは王国の財政は改善出来ません。だからでしょうか。姫様は魔導レンジなる魔法使いを必要としない付与魔法を代行する魔道具すらお作りになりました。それから作られる収納袋も王国を通して輸出が決まっていますが、これの買い取りで一時的に王国の財政を悪化させているのです。

 無論姫様に悪気はありません。寧ろ長期的には王国の財政は健全化されるでしょう。先を見れば良い事しかないのです。

 それに再来年は今までの予算の3倍も貰えます。それだけの影響力です。全く貴族議会も姫様に喧嘩を売るなど愚かしい事をしました。これで今回も彼等は利益を得られないのでしょうね。


「分かりました。来年はそれで構いません」


 断る事は出来ません。王国貴族として、王国が困難の時に協力するのは当然の事です。先に利益があるのならば文句はありません。

 私は陛下に頭を下げると職場に戻ります。


「聞け皆の衆! 来年の予算は削減された。これより縄の増産に入る。今月は寝れないと心得よ」


「そ、そんな! 」


「もう3日も帰って無いのに! 」


 職員は絶望した顔で抗議します。ですが私も1週間程屋敷に戻ってません。しかし、予算削減で事業を凍結させるなど私のプライドが許しません。


「安心しなさい。再来年は今年の3倍の予算をくださると陛下が確約してくださった。来年1年を乗り越えようぞ」


 我が国土開発局は王国の予算が足りなくても努力で予算を作る組織です。商人に縄を売る内職を行う事で予算を増やせるのです。1割の削減など何も問題ありません。

 我々は王国内が貴族議会と商業ギルド本部に圧力を掛けている間はずっと縄を編み続けました。我々はこれと言って影響力を持ってないので圧力を掛ける手段もありませんし、他の貴族に存在を忘れられる事もあるので、誰も一緒に圧力を掛けようと誘われなかったのです……ちょっと寂しくなりますね。

 そして議会に王国の手が入った頃、私は王宮の庭園で燃え尽きておりました。縄の増産は大丈夫でしょう。我が国土開発局の縄は商人にも好評です。丈夫で切れにくいそうです。良い値段で売れるでしょう。私は上司として部下よりも働いたので疲労困憊です。こういう時は庭園で花を見ながら癒されるのがマイブームなのです。

 品種改良された薔薇を何種類も植える事で、この薔薇園は1年中薔薇が見れます。やはり薔薇は美しい。誰も興味を持たないのが勿体ないほどです。


「むふふ。この薔薇のエキスを使って新しいお薬が作れそう」


 薔薇園には姫様が居ました。多分本人では無いでしょう。最近我が国の姫様が増える事があるのですが、誰も疑問を持ちません。私はずっと疑問に思っているのですが、私がおかしいのでしょうか? でも、姫様ならば増えてもおかしくは無いと思ってしまう自分も居ます。私も2人に増えれば3倍の縄を編めるのですが……残念な事に私の魔力は微々たる物で役に立ちません。あの姫様も多分魔法だと思うので、私には行使出来ません。

 姫様の見分け方は基本的に瞳に刻印が入ってるか否かですが、コンタクトなる物を使うと見分けは不可能です。更に姫様は普段目立つと言う理由で本体も刻印を消してるので更に分かりません。ですが、姫様は花に興味を持つ御方では無いので増えた方でしょう。それに忙しいあの御方は薔薇園でのんびりとしてる筈もありません。

 一臣下としては穏やかさなどを身に付けていただきたいのですが。

 その時、薔薇園の入り口に別の姫様が居ました。クートと言う魔獣を従えてるので多分本人でしょう。クートと言う魔獣はどう見ても銀狼を超えた魔獣ですが、多分銀狼だと分類されています。そして数居る魔獣の中でも姫様の大のお気に入りなので、普段から一緒に居ます。また毛並が良くなってますね。獣人貴族が血の涙を流してそうです。魔獣なのにズルいと。


「珍しい」


 つい呟いてしまいました。陛下が大事に育ててる姫様はまさに箱入り娘と呼ぶにふさわしい御方ですが、基本的に花や芸術には関心がありません。ドレスなども動きにくいと全然着ません。なので薔薇園に訪れる事も滅多にない御方です。

 そう才能が偏ってるのです。女性らしさは欠片も無いと、不敬ですが断言できます。元々表情すら余り動かさない御方ですが、あの御方は自由に動く姿に魅力があるのでしょう。籠に入れるより、大空を飛んでる姿が一番だと思います。

 そんな姫様は私を見ると、こちらに歩いてきました。もしかして私に用があるのでしょうか?

 姫様にはジンクスがあります。姫様が要件を言って来る時は多くの利益が入るそうです。最も多大な仕事もセットで着いてきますが、それは誰も気にしません。姫様のおかげで利権などを獲得できるからです。

 姫様は貴族にもそう言う事情で人気があります。面倒事をやらせる対価をしっかりとくれる御方ですから。反面面倒事を押し付ける事への反論を禁じてきますが。


「えっと、ラッシュ大臣だよね? ちょっと良い事思いついたんだけど興味ない?

 最近財政で悩んでるでしょう。私に手を貸してくれれば、もう予算で悩む必要は無いよ」


 嗚呼、この御方は何処まで先を見据えているのでしょうか。その瞳は遥か遠くを見ている。貴族は先を見る事生き物だが、この御方はその先を見ている。

 ずっと燻っていた。先代の国土大臣から職を引き継いだ後、私は色々な計画を立案した。殆どが予算の都合で行えなかった。計画ばかり先行して仕事が無くなった。やりたい事は全て事前準備が終わっている。でも何も出来ない。

 内職をしても縄の収入では公共事業を支えれない。ずっと悔しかった。仕事が出来ないのではない。私は無能では無いと。

 ようやく私の本気を出せるのでしょう。宜しい。王国には姫様だけでは無い。私だって貴族として相応しい働きが出来る。

 久しぶりに心に火が灯った。


「そうですね。予算さえあれば私は王国を飛躍的に躍進させてみせましょう。姫様の御心のままに」


 どれほどの対価が来るだろうか。姫様の援助は仕事の増加を伴う。嬉しさ多大に頭痛も多大だ。だけどやりきりましょうとも。

 跪くと姫様に頭を下げる。

 今日この日をもって私の燻っていた日常は終わりを告げた。

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