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135 アリスティアの影響力③

ちょっと短いです。次からアリスティア視点が入り、その後に商業ギルドやローカス商会と背後の貴族の視点も入ります。

 次に動いたのはドワーフだった。彼等は種族全員が何らかの技術者だ。鉱山を掘り続ける物や、アクセサリーを作ったり物の部品や武器や防具。道具類等、何でも作る王国の稼ぎ頭だ。

 彼等の性格的な特徴は年功序列では無く、優れた技術者の優遇だ。優れた技術を持つ者は年齢・性別・生まれは関係ない。客観的に自分より優れてる者は無条件で賞賛する人達だった。

 王国の一番の収入源たる武具の制作はどの種族にも負けない。彼等にはそんな自負が有った。

 それに亀裂が入ったのは少し前だ。ドワーフ領の前侯爵のグランツが領地に戻ってこなくなった。

彼は最高の技術者だった。武具の制作からアクセサリーに建築。全て彼が頂点だった。多くのドワーフの憧れで、彼の弟子は2000人を超えている。アリスティアが生まれる前は殆ど領地に居て、弟子を育てながら己を鍛えていた。だが、アリスティアが4歳になる辺りから領地に戻る数が減ってきた。最近では戻ってこない。

 弟子や彼を崇拝するドワーフは説得する為に王都に向かった。しかし誰も戻ってこなかった。家族が手紙を送ると「俺はここに住む。絶対に戻らない」と手紙が送られて来る始末だ。

 彼等は見たのだ。鋼鉄の鳥が轟音と共に空を飛び、鋼鉄の船が空を飛び、恐るべき威力の大砲を積んだ虫の様な物を王都で見てしまった。

 そして知った「師匠はもうドワーフ領には戻らない」とアリスティアの前世は科学者だ。しかし、彼女は唯の科学者では無い。本来科学者は整った環境でそ真価を発揮する。多くの異世界人が流れ着くこの世界で科学が発展しなかったのは部品を作れなかったからだ。優れた科学者が居ても、彼等の生み出す発明を形作る事が出来なかったのだ。

 だがアリスティアは天才と呼ばれる科学者とは違う。環境が悪いのならば自分で整え、部品も自身で作れる。彼女に足りない物は無いのだ。

 アリスティアは武具を鍛える事では明らかにグランツには及ばない。しかし、正確に精密に物を作ると言う点ではグランツを凌駕していたのだ。

 アリスティアの成長と共にグランツが領地に戻らなくなったのも当たり前の話だった。彼はその技術を学んでいたのだ。

 師匠が学ぶのならば弟子も学ぶ。彼等ドワーフはアリスティアの技術開発局に所属する。アリスティアは完成品と、それを作る為の工作機を渡す。彼等はそれを分解し、解析し、技術の違いを感じながらも学んでいく。

 幼いアリスティアに出来るのならば自分達にも出来る筈だ。でも、今は作れない。精密で緻密な機構、これを自分達で作れるようになりたい。アリスティアはドワーフに取って象徴になった。

 彼等にとって年齢も性別もどうでも良い。唯、これは残すべき技術だ。誰かが受け継がなければならない。それは自分達ドワーフであるべきだと考えたのだ。

 昼夜問わずに研究と解析を続ける。アリスティアは物をポンポンと作っては技術開発局に送って来る。どれもが素晴らしい。そして、アリスティアは渡すと解析を命じるだけだ。自分だけで作れても無意味。科学は普及してこそ発展する。

 彼等技術を尊ぶ種族に取ってそこは楽園だった。未知の技術が天から降ってくるのだ。ドワーフ領に戻る理由は無い。憑りつかれた様に彼等は解析を続けた。ある意味アーランドは技術大国への道を歩み続けた。

 多くの技術を自分達の手で再現出来た。しかし、再現すればするほど道は遠くなる。知れば知る程どれほど途方もない計算を元に作られたのか理解出来るからだ。

 皆が目元に濃厚な隈を作っていた。だけど笑いが止まらなかった。

城の酒を国王とグランツの飲み比べで飲み干された彼等は数か月ぶり研究所から出てきていたのだ。

 そんな時にアリスティアに喧嘩を売った輩が居る事を知った。それは偶然だった。偶々王都の酒場で酒を飲んでいた時に聞いたのだ。

 当然激怒である。ドワーフは優れた技術者を尊ぶ。優れた技術者には跪くのが当たり前だ。馬鹿な連中が尊敬できるアリスティアに喧嘩を売るなど許されなかった。

 彼等もまた商業ギルドに圧力を掛けた。和解しなければ、商業ギルドはドワーフ領での活動を禁じる。

 商人も商業ギルドも驚いた。ドワーフ領は物凄い利益を生む場所だ。追い出されれば確実に商業ギルドは潰れる程だ。

 ドワーフは元々豊かな生活に興味は無い。唯物作りが大好きな種族だ。自身の価値も把握してる為、彼等が折れるのは分かっていたからこその制裁である。更に言えば、自分達に同意する商人も多いので、商業ギルドが潰れても問題は無い。ドワーフ領も制裁論で炎上していた。王都に居るドワーフの意見を無視出来なかったのだ。


 更にエルフも動いた。

 彼等は正直アリスティアには興味は無い。普人だからだ。彼等は迫害された世代が未だに生きている。当然奴隷だったエルフも居る。普人にはトラウマが有るのだ。

 故にエルフ領だけは他領や王家との交流は余り無い。しかし、彼等は製薬技術が高かった。森から取れる薬草から秘薬を作って売っていたのだ。

 アリスティアも薬の作り方等を王国に流しているが、彼等の作る秘薬は魔法薬に分類される。貴重で希少。故に高く売れている。

 そして彼等が商業ギルドに圧力を掛けた理由は一つだけだった。


「姫様は精霊様とご契約された御方だ」


 これだけである。彼等は女神も信仰しているが、一番信仰しているのは精霊だった。故に精霊に愛される王女にも一定の敬意を持っていたのだ。

 比較的精霊に愛されているエルフでも複数の精霊に愛される事は無い。と言うか基本風と水の精霊どちらかに選ばれるか、稀に光の精霊に選ばれる程度だ。

 アリスティアは精霊に祝福された王女だ。そして彼等は知っている。アリスティアこそが今代の精霊王だと。彼等は精霊が肉体を持った妖精族の末裔なのだから。

 つまり彼等に取ってアリスティアこそが主であった。接触しなかったのはアリスティアが普人だからだ。仮に他の種族ならばエルフ領に迎え入れて外には出さなかっただろう。

 今すぐ会いたいが、普人怖い。悶々としている時に流れてきた報告。

 彼等も激怒した。精霊王は神と同格の大地の守護者だ。人間如きが喧嘩を売って良い相手では無い。更に言えば彼等は王家よりも精霊王を熟知していた。精霊王と言うシステムは既に崩壊寸前の危険な物だ。決して激怒させてはならない。世界を憎悪させてはならない。彼等が普人に不信感を持った『原因』があるのだ。

 故に手遅れになる前に早急に商業ギルドを粛清する必要が有った。アリスティアには幸せな生活を送らせなければならないのだ。

 最もこの程度で暴走する事は無いのだが、彼等は600年前の真実を知ってるが故に過剰反応したのだった。

 エルフもまた経済制裁を行った。そしてこれらは一連の制裁はアリスティアが知らないまま行われたのだ。国中の貴族が商人に圧力を掛け、商業ギルドに制裁を加えるのに1週間しか掛からなかった。

 その間アリスティアは何も知らずに呑気に副王工房で活動していた。

 彼女は知らなかったのだ。自身が如何に影響力を持っているのかを。自身の発言一つで商業ギルドを潰せる影響力を持っている事を。

 現在王国は盛大に炎上していた。

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