13 王都
「よう姫さん!久しぶりだな。謹慎がやっと解けたのかい?」
「私は姫じゃない。アリス」
私も王族なのでお忍びの名前を持ってるんですが目のせいで素性がバレバレです。と言うか何故私が謹慎処分を受けたのを知ってるのだ‼
「はっはっは姫さんは姫さんだろ~残念だが今日は姫さんの興味を惹ける物は入荷してねえやスマンな」
「いえ、それならまた今度来るから」
私は小父さんに頭を下げると道を進む。さっきの小父さんは雑貨屋をやってるので偶に買い物をするんだ。
さっきからこんな感じで色々な人に声を掛けられる。
「姫様~今度魔法を見せてよ」
「危ないから駄目、大人になったら見せてあげる」
「ケチ~姫様も子供じゃん」
「私は使えるから大丈夫」
ちびっ子達が纏わりつくが基本的に魔法が見たいだけらしく私が断るとどっかに行ってしまった。多分公園だろう。
「姫様が提案した公園は成功のようですね。子供の事故率が下がったそうです」
確かに私が公園の設置を進言した。街中は馬車とか走ってて結構危険なのだ。遊具を置いた公園を作れば子供はそっちに行くから馬車との衝突も減るだろうと言ったら王都内に何カ所か設置されたらしい。
「後は歩道とかも欲しい」
「それを作ると王都を作り直さないといけないらしいですよ」
「うちはビンボー」
帝国さえ攻め込んで来なければそういう事も出来るだとお父様が言ってた。だからやろうにも小さい事から少しずつしかできないし魔法はどんどん他国から置いてかれるらしい。
「姫様の考え方は先進すぎますよ。全部やってたらいくらお金があっても足りませんって」
「今日は特に何も無いみたいだから喫茶店で休んでから帰る。魔道書頂戴」
「置いてきましたけど」
なん…だと。私の楽しみを置いてきたと?何度も持ってくるよう伝えといたのに。
「…何で置いてきたの」
思わず私は半目で睨む。
「そりゃ姫様が困るから?それにあんな高価な物は持ち歩いちゃいけません」
「もう帰る数日は部屋から出ない」
帰って魔道書を読もう…
「拗ねないでくださいよ」
「仕方ない…今日はこの火の魔道書で我慢しよう」
私は懐から別の魔道書を取り出した。何で持ってるって?当然アリシアさんが忘れた時の為です。ちなみにお母様が最近買ったもので読んだ形跡もありません。
「王妃様に怒られますよ?没収です」
「プロテクト」
私が魔法を使うとアリシアさんでも私から取り上げれません。プロテクトは物理防御と固定の魔法なのです。固定専門じゃないので固定限定の魔法に比べると強度は落ちますがこれでも十分でしょう。
「卑怯ですよ。それに無暗に魔法に頼ってはいけません…魔道書を渡してください」
「私はこれを読む…アリシアさんが魔道書を忘れたのが悪い」
「それを先読みして別の魔道書を持ってきてたら意味が無いでしょう?早く渡してください」
「フムフムこんな使い方が…」
面倒なので何時ものフルーツジュースを頼むと私は魔道書を開いていた。
「もう読んでるし!こうなったら擽っても反応しない…すみませんボルケンさま…私には姫様を止めれません」
魔道書は新しい魔法とその有効性が乗ってるだけなので読むのに時間が掛からない。まあ乗ってる魔法を理解出来るかは人次第で出来ない限り魔法も使えないけどね。
読み始めて数十分位経った時、急に周りが騒がしくなった。五月蠅いな~静かに読書も出来ないのか。
「騒がしい。静かに本が読みたい」
「何か有ったようですね。姫様はここを動かないでください…ちょっと外を見て来て」
アリシアさんが私達の後ろで紅茶を飲んでた人に話しかけるとその人は頷いて外に出て行った。多分護衛の人なんだろう、気が付かなかった。
少し待つと男の人が帰ってきた。何やらアリシアさんに耳打ちするとアリシアさんは顔を顰めた…意味が分からない。
「姫様、帰りますよ」
「分かった外に行ってくる」
大体見当がついたので返答を待たずに外に飛び出た。【ブースト】で身体能力を上げれば早々捕まる事は無い。まあ持久戦だと捕まるけど短距離は逃げ切れる。
外に出ると人だかりが出来ていた。見えるのは人と馬車らしき物の一部、多分馬車が誰かを撥ねたのだろう。私は【ラピットピット】で人だかりを飛び越え現場に下りる。
「これは…」
確かに事故だった。子供の手と足が千切れてる多分転んだ所を轢かれたのだろう、子供は気絶し周りの大人が止血を行っていたがこれは助からない…でも私なら治せると思う、と言うか私が何とかしないとこの子の命はなさそうです。
「姫様~!戻ってください」
人垣に邪魔されアリシアさんはこっちに来れないようだ、ならサクっと終わらせよう。
「術式解凍【ヒール】【浄化】【癒しの光】合成…【女神の癒し】」
術式解凍。これは私が無詠唱を失ってから覚えた魔法の使い方です。魔法の詠唱だけ済ませて自分の脳内に起動寸前の魔法を一時的に保存して必要な時に魔法名だけで発動できる技法です。いわば、詠唱短縮の上位互換ですね。
死ぬ寸前で私の治療魔法だと間に合わないので使える魔法を合成してみた。これを合わせればかなり高位の治療魔法が出来る筈です。
そして結果は私の想像以上ですね、白い羽根が辺りを舞い上がり子供の傷に集まる。当然部位欠損も治す気なので子供の手脚はしっかりくっつきましたし傷跡すら残って無い、しかも触媒1枚と言う低燃費…魔力が7割ほど消費した以外は何も問題ない。何やら魔法の方が自動で怪我を治す魔法が出来たようです、でもこれ制御出来ませんね。恐らくですがゲームで言う完全回復魔法に分類されるようです。傷を全て消すので傷次第では莫大な魔力が消費されるのでしょうね。実際7割も消費しましたし。
「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」」」」
「終わり。お説教は親に任せるから今度から道では気を付ける事」
「え?…あの…はい」
どうやら子供は女の子みたいですね。さっきまで血まみれだったので気が付かなかった。女の子に傷跡とか残す必要は無いので良かった良かった。
女の子は茫然と言うか自分に何があったのか理解出来てないみたい、もしかしたら事故にあった事すら分かってないのかな?こういう事があるから歩道が欲しいんだけどね。暫くすると女の子のお母さんが来て娘を見ると号泣してた。まあ辺り一帯血まみれで女の子も血まみれだからね、服ともボロボロですし。
「どうもありがとうどざいます。まさか姫様が助けてくれるとは…ぐす…ありがとうございます…大事な一人娘なんです」
お母さんは号泣ですね。確かに大事な娘があんな怪我をしたら怒るより泣くよね。私としては出来るからやっただけなので娘さんに今後こういう事が無いようにお説教をして欲しい。子供は怒られて育つと思うんだよね…私は懲りないけど。
「おねえちゃんありがとう?」
「次は無いんだよ?外に出るときは周りに注意する事、私が居なかったら死んでたしお母さんをもっと悲しませてたんだからね」
多分歳は私より少し下だろう、未だに自分に何があったのか分かって無いようだ。
「じゃあ私は喫茶店に戻ってジュースを飲むからじゃあね…」
親子に手を振ると喫茶店に戻る。怪我を見慣れたとはいえあれは酷かった…当分お肉は食べれない…と言うかちょっと気持ち悪い。ジュースでも飲んで癒されよう、きっと疲れた私を癒してくれる。魔道書は…今日は読む気が出ない、流石にあれだけの怪我だとモザイクが欲しくなる、よく吐かなかったと言いたい。私も頑張っただろう……だから
「離して欲しい」
「駄目ですよ?このままお城に連行です。体調も悪いのでしょう?姫様でもあれはショッキング過ぎますね」
「人命優先」
持ち上げないで余計吐きそうだからせめて休ませて
「そう言われると痛いんですよね…でも姫様の魔法は目立ち過ぎです。…っとすみません本当に調子悪そうですね。少し休んでいきましょう、宿屋で良いですか?」
私は突っ込む気力も無い。と言うかこの状況でも態度が余り変わって無い。ついでに火の魔道書は奪われた。
「うぅ~疲れた…流石に吐きそう…」
「大丈夫ですか?城に戻ったらお医者様を呼びますからね、苦いお薬を大量に処方してもらいましょう」
「絶対に飲まない」
私は甘党なのだ、あんな物は体が拒絶する。
「暫くはお部屋でお休みしてください。さっきの魔法も体に負担がかかってるはずですから1週間は大人しくして貰います。読書は私が音読するのでベットから出ないでくださいね…後この水の魔道書も没収です、何でこんなに持ち歩いてるんですか?しかも王妃様の物だし」
「見せてくれないから持ってきた」
「…はあ……それとあの魔法は何ですか?もう少し控えめに出来ないんですか?」
「知識不足で無理…魔法を…混ぜて効果は上げれるけど新しい魔法を作るのは難しい……」
私は疲れたのでテーブルに頬をつけてる。普段なら物凄い怒られるけど流石に今回は見逃して…
「見逃しませんよ。疲れてても上品にふるまって欲しいと私は思ってます」
駄目でしたー。
【癒しの閃光】とかみたいにトラップ的な物が含まれなくて良かったな~あれも改良出来てないし…やはり魔法を作ったりする為の教材がこの国には足りないな、お母様は魔法を作るのも苦手だし。かと言ってこの国にお母様以上の魔法使いはエルフ族くらいだけどあの人達は魔法を一族以外に教えるって事がないから無理っぽい。早く学園に行きたい。
と言うか私がどっかに出かけると大抵こんな感じで事件が起きるな…呪われてるのか?帰ったらお父様に相談してみよう。せっかくの外出もまたトラブル…まあ人助けだったし良かったと言えば良かったけど…
「………」
「おや寝てしまいましたか」




