132 王女は敵を許さない
店の中はボロボロで、ポンポコさんと息子さんが倒れていた。襲撃者は既に逃走していて、従業員が泣きながらポンポコさん達につめ寄っている。
「どいて! 術式解凍【ヒール】【浄化】【癒しの光】合成…【女神の癒し】」
舞い落ちる羽がポンポコさん達を包み、羽が傷に当たると傷が消えていく。数分で傷が消えた。最も出血が多く、命には別状がないが意識は戻らなかった。
私は従業員に頼み、二人を部屋のベットに移動させる。更に創設したばかりの副王家警備隊を城から呼んでポンポコ商会の周辺に配置する。
彼等の装備がまだできていないので、装備自体はバラバラだが、退役軍人を集めたので実力は悪く無い。寧ろ、いかにも老兵と言える実力者達だ。持久力が無いだけである。護衛には問題無いし、近衛も周辺警護に入ったので問題ない。
そして、1時間程でポンポコさんの意識が戻った。
「ありがとうございます。私まで助かるとは思いませんでした」
「それは別に良い。誰がこんなふざけた真似をしたのか教えて欲しい」
こればっかりは許せない。私は知り合いや家族を害されるのが大嫌いだ。犯人が神であろうと落とし前はつける。
ポンポコさんは最近の状況を話し始めた。どうやらローカス商会が一番怪しいそうだ。
何をふざけているのだろうか。砂糖を材料に脅迫する?別に和の国からの輸入も決まってるんだけど。値段はポンポコ商会より微妙に高い程度。原価は安くしてくれたが、輸送費が高いのだ。
そんな状況で脅迫材料にはならない。唯、私の知り合い達が怒って暴走する可能性もあるらしい。
「怒るかな? 」
「激怒するでしょうね」
アリシアさん曰く、手が付けれない状況に成りかねないようだ。
「正直姫様の影響力は王国内では物凄いですよ。魔法の天才。魔道具も好きに作れますし、人柄も良い。更には庶民派ですからね。王都限定だと無謀極まりないでしょうね。
王都外の場合だと、姫様の勇名が轟いてるので、まあローカス商会は潰されたでしょう」
それほど影響力があるのは知らなかった。
後、背後の貴族は……まあ議会の連中だろうね。そんな暇な事を考える余裕がある貴族なんてその程度だし。
実際領地持ちの貴族は飛空船欲しいから私に敵対する程馬鹿じゃないだろう。議会の連中は中型飛空船を買っても使い道が無い。更に言えば、空軍関連で揉めてる。
彼等の子弟を要職に付けろと五月蠅いのだ。無論能力があるなら大歓迎だけど無能は要らない。私はパッシュ隊長に人員関連も委任してるので関わりは無いのだが、私に口添えさせようとしつこいらしい。
何故らしいかって? そりゃ面倒だから会わないからだよ。貴族の生まれの時点で教育を受けられる。能力を開花出来る環境に生まれたのに、何も出来ない人なんて要らないのだ。と言う訳で、空軍は平民出が一番多い。そもそもパッシュ隊長自身が平民出だし。
「私が迷惑をかけたみたい。ごめんなさい」
私が出来る事は謝る事だ。そして二度と手出しさせない。
「いえ、姫様が謝る事ではありません。私を目の敵にしてるのも事実でしょう。姫様の事が無くてもローカス商会は手を出してきた筈です。身内に甘かった私のミスです」
砂糖の販売で怒るなんて何て愚かな貴族だろう。ポンポコさんと変えた方が良さそうだ。第一経済的には市場が広がるのは良い事だ。砂糖が普及すれば、それを使ったお菓子も進化する事が理解出来ないのだろうか? 嗚呼イラつく。私の3時のオヤツ法成立の妨害である。貴族諸共追い込んでやる。
「じゃあ本来の予定を話すけど、商会を閉店するのは止めて欲しい」
「資金が有りません。このままでは砂糖の利権を奪われます」
「私が資金を出す」
「特定の商会を贔屓すると五月蠅いのでは? 」
どうなんだろう。貴族も付き合いのある商会位持っている筈だ。
「盛大に騒ぐでしょうね。自分達は平気で行うのに、他人がやると騒ぐ連中ですから。だから無能だと言われるのに気が付かないでしょうね」
アリシアさんも吐き捨てる様に呟く。確かにそれは狡いよ。しかも騒ぐだけ騒いで、騒動を大きくした後に「止めて欲しければ我々にも何かくれますよね? 」と近づいて来るらしい。当分彼等との付き合いはお兄様達に任せよう。こんがりと焼いてしまいそうだ。
しかし、ポンポコさんを見捨てるのは気が引ける。
「これを扱って欲しかったんだけど」
カタログを見せるがポンポコさんは首をふる。
「今の商会には扱えないでしょうギルドも横槍を入れるでしょうし、買い取る資金もありません。売れても期日までに負債を返せなければ、これにも介入を始めようとします」
「後払いでも良いけど」
「私の信念に反します。商人は何時破滅するか分からない生き物です。仕入れ先に迷惑をかける行いはしません」
支払いは先払い。これがポンポコさんの信念の一つらしい。説得は不可能だろう。しかし、ここ以外だと、扱いが難しい。私の知り合いの商会はここ以外は大きく無いのだランク的にも扱えない商会が多い。しかもローカス商会の妨害を受けてる。
「まあ、新しいギルドマスターは徹底的に調べて蹴落とすとして、この状況は宜しく無いね。じゃあ別の方法は? 」
「別の方法とは」
私はちょっと悪い笑顔を作ってポンポコさんに囁いた。ポンポコさんは躊躇たが、意識が戻った息子さんと協議の末に納得した。ロイさんは乗り気だった。
「父さんこれはチャンスですよ」
これが決定打だったようだ。
そして3日後負債の返済日。
「さあ残りのお金を返して頂こうか。出来なければこの商会は彼等が引き継ぎます」
「……ああ、愚かな息子達には商会は任せられない。金はこの通りに用意した」
ポンポコさんが布袋をテーブルの上に出すと、大量の白金貨を取り出した。私はポンポコさんの背後に居る。アリシアさんと隠蔽魔法で隠れてるのだ。
更に言えば、怪我の無いポンポコさん達に慌てていたローカス商会の人達もお金を見て更に驚いていた。確かに良い値段だったね。でも私は飛空船の報酬で物凄いお金持ちになっていた。分身体を使っての大量建造で荒稼ぎである。この程度ははした金レベルだ。他にも魔法理論等を技術開発局に流した結果報酬も入ってるし。まああの人達は、それのせいで引き籠りが悪化したようだけどね。エイボンも地下から出てこないし。彼は数百年地下に籠ってた男なので気にしない。変態は地下に監禁である。定期的に魔法理論とか送れば数十年は出てこないだろう。睡眠の必要も無い体なのが羨ましい。骨は嫌だけど。
閑話休題
「馬鹿な! 何故金を用意出来た」
「何故も何も、私は商会を売ったのですよ。貴方に私の商会は任せられない。そこの愚息も一緒です。
故に信頼出来る御方……そう今日からこの商会は副王商会に生まれ変わったのです! 」
「どうも噂の副王家当主のアリスティアだよ。どうやら私の知り合いにちょっかいを掛けてるみたいだね? じゃあ戦争だ。貴方達は私が保護するべき人達じゃないしね」
ひょいっとポンポコさんの影から出る私に相手は驚いた。まあ、普通は王族がこんな場所には居ないからね。貴族でも商人は自宅に呼ぶし。
でも、私とお父様は行動派だ。それに商人も忙しいのだ。態々時間を作らせるなど無駄の極みだ。
そして彼等は既に色々と『悪さ』をしてる商会。つまり私が守るべき国民じゃ無い。そんな人間は要らない。
「何を仰るのか分かりませんな。我々はあくまで普通の取引をしているだけですよ。それに、このまま続けても我等が勝ちます。姫様は商売を理解出来ていらっしゃらないご様子ですが、商売は安く売るのが勝つのですよ」
「不当に値下げをしてライバル商会を潰すんでしょ? でもそれだけじゃ私には勝てないんだよね。私を誰だと思ってるの?複数の商品で勝ってるからって調子に乗らない方が良いよ。
私は魔法使い。魔道具を作れる。砂糖と魔道具。こっちの勝ちだね。貴方は私の魔道具よりも高品質かつ低価格を実現できるかな? 」
普通に叩き潰せる。魔法使いを使わない魔道具の製造は低コストで魔道具を作り出せる。魔道具が高価なのは魔法使いが希少だからだ。そして、彼が邪魔をしてもスラムの人間を雇える。ギルドの妨害も使えないね。だってスラムの人達は登録してないもん。
武力行使も不可能。やれば即逮捕だ。王族の所有物に手を出せば命は無い。
「ぐ、まさか副王家は一商会を贔屓するとでも言うのですか! 」
苦し紛れに叫ぶローカス商会の会長。
「贔屓してないよ。私は手頃な商会を買っただけ。アーランドを偉大な王国にするには商会の協力が必要だったんだよね。でも、買えるなら買うに決まってるじゃん。
ポンポコさんはミスをしたけど、優秀な商人だからね。ここで潰されるのは私としても不本意だから」
ただでさえ少ない市民寄りの商会を潰されると困るのは市民。私は市民の味方だよ。ましてや悪徳商会の好きにさせる物じゃ無い。
「じゃあ終わりだね。お金は返したんだから、もう用は無いでしょ? 私はこれから商談が有るの」
「そうですな。直ぐに必要な物を揃えましょう。『これから忙しく』なります」
「っく」
悔しそうに商会から出て行くローカス商会の会長。
彼が居なくなると、ポンポコさんがため息を吐く。多分自分の子供に裏切られたのが堪えたのだろう。
全く、家族を裏切るなど、あり得ない話だよ。家族は何時も一緒が一番だと言うのにね。
「落ち込まない方が良いと思う。私も彼等にはなるべく被害を出さないようにするから」
「ありがとうございます。ですが、あれは私の不手際です。教育を失敗したのでしょうね」
「まあ、私は親を裏切るとか考えた事も無いから分からない。でも、ロイさんはポンポコさんの所に残ってる。全部間違いだった訳じゃ無いと思うよ。
さて、アリシアさん。あの商会を権力を行使しないで潰す方法はある? 私が権力で潰すのも出来るだろうけど、背後の人達が盛大に騒ぎそうだよね」
ずっと能面の様な顔をして壁際に立っていたアリシアさんに問いかける。
「そうですね。あの暇人達が騒ぐのは確実でしょう。これは姫様の権力外の方法で潰せば誰も文句は言えません。
具体的には王都の住民が自発的に潰すのが一番でしょう。所詮商会とは物が売れなければ潰れますから。簡単なのは……」
アリシアさんが語ったのは予想外の方法だった。私にも実行できるのか分からない。と言うか意味不明な内容だった。




