129 色々と準備しよう
遅れてすみませんでした。
お父様とお兄様からのお説教を予想外の発明で怒りを逸らす事に成功した私は上機嫌に城を歩く。目指すは地下だ。最近、工兵の士気が落ち込んでるらしい。
どうやら分身を使った奴隷建造が目の毒だそうだ。力尽きるまで建造させてるから仕方ない。休憩や睡眠はとらせてないし、魔法だから食事も要らない。魔力の回復は不可能で、いずれは消える紛い物なのだ。別に1050年地下送りでも問題ないと思うんだけどな。
それと、最近地下ドッグの事が貴族を含む城の人達にバレた。そりゃ分身のお蔭でバンバン建造してるからね。発覚するのも仕方ない。
当然見たいと言う人が続出。しかし、中では分身を使った建造。これでは倫理的に不味いらしい。
と言う訳でバランスを取るか、見学時に横の魔道戦艦用のドッグに送り込む等の方法が必要だ。
まあ、魔導戦艦は専用の魔導炉が未だに完成してないので船体の設計レベルだ。
武装飛空船ならば、既に設計が完了して建造開始している。しかし、どっちも機密指定に入れてるので、見学禁止である。
私に接触しようと目論む貴族に、お父様とお兄様のストレスが凄い事になっている。私は公の場には滅多に出ないと言う点では引き籠りに近い。無論お外には出るけどね。
更に言えば接触しようにも、ちょこちょこと色々な場所に移動してるので会おうにも会えないのだ。
「ア~りすちゃん」
「! お母様驚かせないで」
行き成り背後から抱きしめられて驚いた。声がお母様なので直ぐに気が付いたが、背後からは止めて欲しい。
お母様の抱擁から抜けて、振り向くと、大分お腹が大きくなってきたお母様が居た。既に魔法は使えないようだ。女性魔法使いは体調次第で魔法が使えない事が有る。特徴的なのは妊娠だ。私の時は使えたらしいが、今回とお兄様の時は使えないようだった。
「心配ばかりさせるアリスちゃんが悪いのよ? 少しは立場を理解してほしいのよね」
「私は先を見てるから問題ない。ちゃんと国の利益を出すから」
今回はスラムの問題を解消する為の行動だ。当然国に利益を流す予定である。私が快適な生活を送るには面倒な貴族の相手をお父様とお兄様それに政府に押し付けてる関係上、利益の供与は必要事項だ。お父様達は気にしないだろうが、大臣達も迷惑がってるのだ。気持ちよく盾になって貰おう。
「ハア……今回は王都中が大混乱だったのよ。もう少し手段を選びなさい。貴女は全部強引なのよ。少し工夫すれば楽に動けるわよ」
およ? これは珍しい。お説教じゃ無く、助言である。
「珍しい」
「貴女が、どうしようもなく自由気ままにしか生きれないのを理解しただけよ。もう私は止めないから、せめて自分の安全だけは考えなさい」
成程、諦められたのか。
「分かった。それと、お母様も城内でも護衛を付けてね。最近物騒だから」
「分かってるわよ。今日も『猫』が居るから大丈夫よ」
猫は魔獣である。私のペットだ。お母様は猫派なのである。犬派の私とは相容れない。猫も可愛いけどね。でも、主に従順な犬は素晴らしい。ペットには絶対的な忠誠心が必要だ。そう初代モモニクみたいにね。
「私はこれから色々と忙しくなる。副王家の方で動くから」
「ドラコが泣きそうね。あの人本当に名目上の独立をさせただけだから」
「別に自立はしない。お父様達が泣いちゃうからね。でも、私に枷を付けるのは不可能だと理解してもらう必要がある」
そう、最近面倒なのだ。私の行動は抑制すべきでは無い。
「そうね。独立は早すぎるわ。でも好きにしなさい。但し、ちゃんと休むのよ? 最近全然寝てないってアリシアが泣いてたわよ」
ぬぐ、確かに寝つきは悪い。3~4時間で起きてしまうし、寝る事が減っている。
確かに改善しなければならないだろう。多分前世の影響だね。あの頃は数週間は殆ど寝ない事が有った。ちょっと向こう側に引き寄せられてる気がする。
「なるべく努力する。じゃあ行くね」
「ええ」
その後、地下に入り、工兵の要望を聞いて、一階下のドッグで分身達に作業させることにした。これで視界に入らないだろう。
次はロレンス親方だ。この人貴族大嫌いな筈なのに私とは普通に接してくれるんだよね。最初は何故か怒鳴られて涙目にされたけど。
「と言う訳で設計図を書いたから、この通りに作って」
「ふむ……姫さんや、大工にならないか? 何で図面が書けるんだよ……と言うか俺達が使ってるのより見やすいな。この通りに作るが、この図面貰っていいか? 」
「別に良いよ」
「しかしな~これじゃ冬は寒いぞ。ほぼ突貫じゃねえか」
工房はカマボコ型の簡易的な物だ。アーランドの冬は厳しいので、中も冷える。
「そこら辺は魔道具で補えるからね。それに長くは動かない工房だから。直ぐに解体出来る仕様なんだよ」
スラムの解体は既定路線だ。仕事もどうにか出来るだろう。
彼等には仕事と住居を与える。代わりにスラムは解体だ。今まで見逃してた犯罪者の掃討も始める。こっちはお父様がやるけど。
「贅沢だな」
「どうせスラムは再開発されるからね。移転しないといけないんだよ。でも、孤児院の子供達に仕事をして欲しいからね」
「まあ俺は依頼通りに仕事をするだけだ。直ぐに始めるからもう行くぜ」
「お願い……それと、この件もいつも通り急ぎでね。次も予定があるんだから。
親方の望みは大きい仕事がしたかったんでしょ? 私の本気についてこれるかな? 」
「よっしゃ! それでこそ姫様だ。好きなだけ依頼してくれ。俺が最高の仕上げをしてやるぜ! 」
親方はスキップしながら走って行った。本当に仕事が大好きなんだね。
次は師匠だ。私の部下と言う立ち位置以外の役職は全て引退している。領地にも戻らないで私と一緒に物作りライフを城で行っているのだ。
私の工房の隣にある師匠の工房。最も私の工房の方が後だけどね。そこに行くと、スパイダーを分解して、部品を見ていた。
「ししょーお仕事の時間です」
「ああ? 面倒な仕事だったらぶっ殺すぞ」
首だけこちらに向けると半目で睨んで来る師匠。ここで怯えると怒鳴られる。
「フルプレートの鎧一式と剣とか槍をお願い。素材はミスリルで」
「王国の騎士団より豪華な装備だな。おめえの騎士団に着せるのか? 」
「あの人達って滅多に鎧着ないんだよね。絶対に表向きの仕事してた人じゃ無いよ。
そうじゃ無くて、新しく副王家の警備隊を作るんだよ。その人達用」
身辺警護は近衛が居るから必要ない。そっちの経費は王国持ちなのだ。装備に関しても私が口出しする事じゃ無い。
警備隊には、私の持つ工房等の施設の警備をしてもらう。将来的には領地を貰って領主軍になるだろう。
「そりゃ豪勢なこった。仕方ねえな、作ってやるから予備の部品くれ。何でかここだけよく曲るんだよ」
ん? ああここって適当に作った鋼材を使ってる奴だ。無論そんな事を正直に言えば折檻されるので何も言わない。
師匠は怒ると怖いのだ。弟子として何も知らせないと言う選択を取った。
「後で素材から見直す事にするね。同じ材料で作っても、また曲るだろうから」
「そうか……テメエ手抜きしやがったな! 」
「三十六計なんとか」
速攻で発覚したので、工房から出る。ついでに外からドアを土魔法で封鎖したので、暫くは追ってこれまい。師匠恐るべし。封印が解ける前にこの場から離れよう。
後は……他に何かあったっけ? そうだ付与魔法のカードがまだだった筈だ。
魔導レンジは付与魔法を行う魔道具だ。しかし、付与する魔法はカードに魔法を刻印しなければならない。なので幾つかカードを作る。
まずは空間収納だ。これは異空間を作り出して、そこに物を仕舞える便利アイテムに使える。当然魔法使いならば、自分で使える事も多い。
後は身体能力を上げる魔法に、体の疲れを癒す治療魔法。こっちはアクセサリータイプになるだろう。
「割と早く終わった」
同時に全部作ったので、10分で必要分が終わってしまった。
「と言う訳でアリシアさん。スラムに行く」
「駄目って言っても行くのですよね……近衛を集めます」
今回は大人しいアリシアさんと、5人の近衛を連れてスラムに行く。場所はスラムの表通りに近い場所だ。ここら辺はまだマシな生活が出来る人達が暮らしてる。
基本的に日雇いや、針子と呼ばれる人達が住んでいて、低所得ながら収入がある人達の住処だ。
目的は針子だ。あの人達の技術は悪く無かった。あれならば仕事を与えられる。と言う訳で、近衛の人に頼んで、スラムの通りに針子の人達を集めて貰う。
「それで……私達になに用でしょうか。我々は何もやましい事はしてません」
「別に罰する為に来た訳じゃ無い。このカバンとリュックを作れるか聞きたいの。材料はこっちで用意する」
「貴女様ならば、こんな場所を頼らずとも表の職人が居る筈ですが」
どうにも集まった人たちがビクビクしてる。
「居るけど、これは商売用だからね。商会の手がついてる職人を使うとコストが高いんだよ。
だから作れるならここの人に作って欲しい。取りあえず5000個程頼むけど」
「ほ、本当ですか、やります!頑張ります」
「じゃあ報酬はこれくらいでお願い出来る? 一応相場通りの筈だけど」
「ギルドならばこの程度ですね」
チラリとアリシアさんを見ると、相場通りで間違いないらしい。
しかし、個々の人達には良い値段のようで、直ぐに飛びついてきた。後から知ったのだが、職人のギルドの相場は、ギルドの利益も含めてるので、そのまま職人に渡る訳では無いらしい。なので相場以上の収入がそのまま彼女達に入るようだ。
このギルドを通さない雇用に職人ギルドが泣きついて来るのは後々の話であった。彼等は知らずに利益を得られない事態が発生したのだ。
そして私はポンポコ商会に向かう。先に生産した魔道具と、商品を写真にしたカタログを持って。
まずはポンポコ商会を仲間にして商人ギルドの資格を取る。商人ギルドは面倒で、会員にならねば商売出来ないし、加入は推薦のみだ。面倒極まりない。
更に会員には銅・鉄・銀・金の4ランク有り、金ランクのポンポコさんなら、推薦人一人で問題ない。銀以下の商人の推薦だと複数人必要らしい。
「お金をいっぱい稼いでお菓子を溜めこもう」
「姫様って建前は上手いのに、基本的にそこに行きついてますよね」
「私は豊かな生活を国民に与える代わりに美味しい物を開発して欲しいだけ。私は料理は管轄外だからね」
豊かな経済を作ってお菓子の需要を伸ばす。そして競争させて更に美味しいお菓子を開発させるのだ。ポンポコ商会に利益を流すのは、彼が我が国一番の砂糖生産地に大規模な投資を行っているからだ。まさか寒い地方なのにサトウキビを生産してるとは。最初に知った時は驚いた。雪が積もるアーランドでサトウキビの生産は無理だと思っていたからだ。と言ってもポンポコさんが会長になるまでは、ほんの少ししか作って無かった。村人の暇潰しで品種改良を行った物らしく、大規模に作る予定は無かったらしい。
そこにポンポコさんが頼み込んで増産。今は自分達の食べる分以外は全て砂糖の生産に重点を置いてる村があるのだとか。
確か王家直轄領だった筈だけど、そっちは知らない。私は砂糖関連は門外なのだ。
「なに……これ」
期待を膨らませながらポンポコ商会に行くと、そこにはボロボロの商会本部とポンポコ商会会長のポンポコさんが倒れていた。
店の前には「今月で営業を終了します」と言う看板と共に。
 




