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128 話を逸らそう

 次の日。私は床に置かれた魔導携帯を眺めていた。今は機能停止状態が、起動させれば怒号の着信の嵐が来るだろう。

 無断外泊は許されない。ノリで泊まってしまったが大丈夫だろうか?いや駄目だろう。私は携帯側面のスイッチを押して起動させる。同時に着信が着た。音量は無しにしてるし、バイブレーション機能も無いが、空中に着信の文字が出る。この携帯は液晶画面では無いのだ。


「も、もしもし」


「今どこに居るんですか! 」


 携帯の向こうからは泣き叫ぶようなアリシアさんの声。通話音量を最小にしてて助かった。大人が起きるかもしれないのだ。子供は今は寝てる。時間は早朝だね。

 猫の体だと余り熟睡出来なかったせいで早起きしたのだ。


「スラムに居る」


「無事なんですね。直ぐに迎えを出すので、絶対に動かないでください。それと携帯は起動状態にしててくださいね。お説教は後です。今度ばかりは絶対に許されませんよ。

 いい加減ご自分の価値を理解してください」


「まあそれは置いといて。

 取りあえず子供達に助けられた。ちょっと手を貸してほしいの」


 お説教。実に嫌な言葉だ。それは記憶の隅に置いておくべきものだから考慮しない。どうせ怒られる。

 私はアリシアさんに計画を伝える。昨日の晩に子供達に聞いたが、ここの大人は悪人で間違い無いようだ。こっそりと借金の証拠も見たが、別の証書で、こことは関係の無い物であった。逮捕である。

 どうやら小遣い稼ぎ程度の考えで子供達を使っているようだから排除しても問題は無い。罪はこれから作る。他に悪さをしてなければ軽い罰で終わるだろうが、余罪次第では鉱山送りになるだろう。悪人に慈悲は無い。


「ある意味罠にハメると言う事ですか。私が許すとお思いで? 」


「主君命令」


「初めての主君命令が悪人を罠にハメると言うのは納得できませんが、子供を救うのならば仕方ありません。ですが! 安全面は大丈夫なのですか? もし、安全が保障出来ないのなら却下です」


「既にシャドウ・ウルフを仕込んだから問題ない」


 既に彼等は私の術中に嵌ってるのですよ。危害を加えようとすれば体の自由が利かなくなるから安全は保障されてる。


「分かりました。その孤児院周辺を封鎖します。合図は分身が出すのですよね? 合図次第で突入します」


 話は終わった。物凄い怒気が伝わってくるのが不安だが、問題は無い。私は常に勝者であるから、怒られる事は無い筈だ。多分……


 2時間後

 さて、子供達と大人も起きた。今は大人と喧嘩中だ。


「おらさっさと金を稼いで来い! 」


「もうお前等の言う事なんか聞くもんか! その証書は偽物だって分かってんだぞ」


 「何言ってやがる。テメエ等の神父が借金をしてたって言ってるだろう。いい加減にしないと売り払うぞ。おい数人売り払って来い」


「そこまで。証書は偽物だと私が教えた。この証書には拘束力はないよ。そもそも証書に書かれた人は神父様の名前じゃ無いじゃん」


 ここぞとばかりに私が出る。とんがり帽子を付けた猫を前に男たちは腰の剣に手を掛ける。


「誰だテメエは。ふざけた事言ってると挽肉にすんぞ! 」


「私の名前はアリスティア・フォン・アーランド。この国の副王家当主だよ。因みに証拠はこの目」


 私はくわ! っと目を開く。まあ目の刻印だけなら幻術でどうにでも出来るんだけど、誰も真似しないらしい。不敬なんだって。

 男たちは腰の剣から手を離すとニヤリと悪い顔をする。


「ほほう。お前が今行方不明の王女か。丁度良いな。お前を売れば大金持ちだ」


「名乗ったけど、そんな事言っていいの? 普通に不敬罪で逮捕出来るけど」


「だから何だ? 別に何をしようが、ここはスラムだ。全ては闇に消えていくだけだ。

 本物ならば相当な馬鹿だな。護衛もつけずにこんな場所まで来るんだからな」


 私を捕まえようと迫りくる腕をひょいと躱す。ついでに顔に飛びついて蹴りを当てる。私は大人しい王女では無いのだよ。騎士の動きを見慣れた私には止まっているような物だ。うちの騎士達なんてアニメみたいな高速戦闘を実践する超人集団だからね。


「もう一度言うよ。これ以上は不敬罪で逮捕する」


「ウルセエ! 」


「もういいや。アリシアさんを呼ぼう」


 隣の部屋から響く発砲音。同時に窓とかドアからなだれ込んで来る私の親衛隊達。スラムに居てもおかしく無い恰好をして、目立たないナイフ等を持ってる。

 ナイフも艶消ししたプロ仕様の物だ。


「悪いが動かないで貰おうか」


「クソ、逃げる……体が動かねえ! 」


 逃げようとした男たちは変な態勢で動きが止まる。ワンコが影に入ってるせいで動きを妨害されたのだ。シャドウ・ウルフはこういう所が厄介な魔物である。影に入り込み動きを支配する。魔法で無ければ体を傷つける事が出来ない魔物だ。


「だから言ったのに。拘束して警備隊に引き渡し。容疑は分かってるでしょう? 余罪を追及してね」


「かしこまりました」


 男の数は5人。縄で縛られると諦めたようだ。シャドウ・ウルフも影から飛び出して、私の影に戻る。彼等はクート君が決めた私の親衛隊なので24時間体制で離れないのだ。


「さて姫様言い分を聞きましょうか? 」


「我が道に立ちはだかる物を排除しただけ」


「何処の覇王ですか! 何時も何時も勝手な事ばかりして。どれだけの人が心配したか分かっているのですか! 」


「良いの! 」


「ですが! 」


「良いの! 」


「………」


「良いの! 」


「もう良いです。後は王妃様に任せます。ですが、本当にもうこのような事はしないでください」


 アリシアさんがため息と共に私を抱きしめる。申し訳ないが自重はしないよ。私を主君にした以上は諦めて貰う。まあ、今後は心配をかける事が減るように努力はする。

 でも、やるべき事だと思うから止まらない。正直スラムはヤバかった。ここは放置すべきでは無いのだ。

 怪我を放置すれば化膿していずれは腐り落ちる。怪我の段階で適切な処置が必要だ。


「ついでにこの周辺の土地を買い占めて。私の資金ならいくらでも使って良いから。

 それとロレンスさんに連絡して、買い占めた土地に工場を建設。職人の護衛の為に冒険者ギルドに護衛の依頼あとは……」


「分かりました。直ぐに進めます。ですが一度王城にお戻りください。陛下や殿下も心配していますから。王妃様も物凄いお怒りでしたよ。母体に悪いのでしっかりと怒られてください」


 私が悪いので仕方ない。分身体に任せ…うん分かった。ちゃんと自分で怒られる。だから睨まないでアリシアさん。最近怖いよ。


「と言う訳でもう物乞いしないで良い。食事と……服とか色々と用意するからお城に一緒に来て貰っていい? 」


「俺達も城に行くのか? 」


 そう言えばこの少年の名前を聞いてなかった。


「名前は? 」


「マッドだ。一応ここのまとめ役かな? 他にも年上が居たんだが、あいつ等を怖がって逃げ出したんだ」


「そう。一応証言とかあるし、正直お風呂とかも入った方が良い。それに服もボロボロ。私の家臣には相応しく無いので身支度を整えるのもある」


 アリシアさんと親衛隊以外に初めての家臣である。相応の格好をしてもらう。


「え、家臣にしちゃったのですか」


「そう。今日からアリシアさんの同僚。今後はここに作る工房の責任者にするつもり」


「ですが姫様の家臣なら……普通に貴族から子弟等への推薦状が来てるのですが」


「良い人は出自を気にしないで登用するのが発展の基本。アリシアさんが有能だと思った人は登用して良いよ」


「私に圧力が掛けられるので遠慮します」


 まあ、家臣枠は限られてるし、貴族同様に世襲が出来るから人気な職業だ。私の場合は副王家だから余程悪い事が無ければ家も無くならないしね。

 だからアリシアさんが私の代わりに家臣の登用をすると、貴族がアリシアさんを脅迫まがいの事を仕出かすだろう。

 マッドは資金調達部門に任命だ。私の工房を管理してお金を稼いで貰おう。大丈夫大丈夫、全部手筈は整えるから。

 後は警護担当の家臣が必要だ。ここで工房を作るなら護衛は必須。それに子供ばかりの工房だから商人に舐められない様に屈強な護衛を雇わねば。


「アリシアさん、退役した軍人って雇える? 」


「姫様の家臣なら喜んで集まると思いますが」


「じゃあ30人程雇って」


「皆歳をとってますが、よろしいのですか? 」


 別に構わないだろう。戦闘経験もあるだろうし、老兵は侮れない。即戦力ならば何も問題ない。


「じゃあ師匠に頼んで装備も用意しないと。副王家の紋章とか付けるし」


「王国兵より良い物を付けさせるのですね。とても喜ぶと思いますよ。後で募集を掛けますが、選定等もあるので少々時間が掛かります。具体的には1週間程です」


 ふふん。家臣いっぱいだ。私も独立出来るかもしれない。名目上の独立を実質的な独立にして、お父様達の妨害を食い止めるのだ。いい加減家族の妨害が邪魔。ちゃんと副王家の体裁を整えて独立した家にならないと。

 まあ、後10年近くかかるだろうね。なんだかんだ言っても私は今年で7歳だし。

 最低でも成人の16歳までは我慢しよう。自重しないけど。私も家族は大好きだからね。余り先走るとお父様が大泣きしそうだ。





「さて、分かっているだろうな。自分が何を仕出かしたのかを! 」


「ごめんなさい」


 城に戻るとお父様は滅茶苦茶怒ってた。これほど怒ってるのは初めてだ。


「まだ6歳だろ。外泊は早すぎる……いや20歳でも許す気は無いが。男でも出来たのではないかと不安だったぞ」


 別の意味で怒ってたようだ。この世界の貴族や王族は早熟で、生まれた時点で婚約者が居たり、10歳で形だけでも結婚してる人も居るらしいからね。

 因みに私に婚約の話は聞かない。お兄様は……うん偶に写真が送られて来るけど見ないで捨ててるね。私達は余り興味が無いのだ。


「足を怪我したから気絶してた。だから戻れなかった」


 私は猫のままだが、足をお父様に見せる。もう血は止まっているし、痛みも余りない。


「治さなかったのか? 」


「この姿だと魔法が使えない」


「私が治そう。精霊と契約してて良かったよ」


 直ぐにお兄様がお父様を押しのけて私の前に来ると【ヒール】で足を治してくれた。光が集まり傷口が消えていく。自分は割と怪我する事が多いから治療の際の痛みも慣れているので問題は無い。ちょっと尻尾の毛が逆立った程度だ。


「しかし本当に猫だね」


「本当はアリシアさんみたいな狐の尻尾が欲しかった」


 これだけは非常に残念だ。と言うか何故猫になったのか分からない。


「そうか、諦めて無かったのか。猫の生活はどうだった? 以外と興味深い物だと思うが」


「意外と悪く無い。体は軽いし、動きも人間の時より優れてる」


 とても楽しかったと言えるだろう。しかし、出来ない事が多すぎるのも事実。私は偶に獣人になるような生活がしたいだけだ。

 話してると、私の体が光だし、光が消えると元の姿に戻った。


「ふう、体が重い」


「姫様、女性なのですからご自分が重いと言うのは……」


「別に気にするほど太って無いし。と言うか太る体質じゃないから。

 さて、これで私が王族だと理解出来たよね。私の家臣になる? 」


 後ろで固まっていた子供達に問いかける。王族に会うのは緊張するのだろう。私も他国の王族には会いたくない。だって面倒だし。


「なれば俺達も普通に暮らせるのか? 」


 一番先に硬直から回復したマッドが前に出る。


「そうだね。給金的には悪くない額を出せるし、家臣としての教育も受けれるから十分出世だと思うよ。悪い事させるつもりも無いし」


「俺達は何をするんだ。俺達に出来る事なんてほとんどない。それでも雇ってくれるって事は何かさせたいんだろ」


 鋭いね。


「そうだね。魔道具の制作をしてもらうつもり。ああ大丈夫魔法使いじゃ無くても魔道具を作れる魔道具を作ったからね。それの生産をしてもらうよ。

 別に君達じゃ無くても構わないんだけどね。悪い人じゃないのは分かってる。だから君達で良いよ」


「ちょっと待て。魔道具を作る魔道具って何だ。それは事と次第によっては革命的だぞ」


 驚くお父様。魔道具を量産するには魔法使いを増やすしかない。でも魔法使いは数が多い訳でも無いし、魔道具を作るにも知識が必要『だった』

 しかし、私は付与魔法を発動できる魔道具を持っている。

 魔導レンジだ。中に魔玉と材料を入れて付与する魔法の刻まれたカードを挿入する。後は3分待てば完成だ。

 これを説明したらお父様とお兄様が頭を抱えた。


「確かにそれなら低価格で魔道具を作りまくれる。技術も何も要らない。魔法使いも廃業か」


「付与する魔法の開発や効率化と言う仕事があるけどね。それと複雑な機構は作れないから収納袋とかの簡単な物しか作れないよ……今は」


 今は出来ないんだよね。


「と言う訳で収納袋を量産するから買い取って。価格は……10分の1くらいまで抑えても利益でウハウハだね」


「そんなに買う金は無い! 別の意味で王国の財政が傾くは! 」


「じゃあこれも輸出するとかどう?収納袋の需要は欠片も満たせてないと思うけど」


 飛空船と一緒にこちらも如何ですか? と聞けば買い取ってくれそう。特に商人は飛びつくと思うけど。

 後は冒険者かな。どちらも大量の物を持ち歩く人達だから安くなるのは喜ばしい事だろう。


「俺達に出来るなら従う。でも、もし下の連中を酷使するなら……」


「だから大丈夫。簡単な作業だよ。魔玉とカバンを入れて出来た収納袋を木箱に入れる簡単なお仕事です。と言う訳でマッドはそこの責任者ね」


「っは! 俺かよ」


「孤児院のリーダーでしょ? なら丁度良いじゃん。それに責任者なら子供達が無理しないように動けるよ。と言う訳でアリシアさん任せた」


 まずは教育だろう。


「ハア……最初は言葉使いからですね。姫様は気にしませんが問題になりますから」


 ため息を吐くアリシアさん。そして私はお説教から話を逸らす事に成功したのだった。

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