表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
石油だ!蛮族だ!メリケンだ!
140/377

124 王女大脱走

 前の脱走事件から2週間経った。警備は厳重だが、大分隙が出来てきたと言えるだろう。

 変わった事と言えば、執務室の窓から見える城壁の近くに神殿が建った事だろう。どうやら魔法のブラシを使う施設を建てたようだ。

 別に余った部屋で良くね?とも思えるが、獣人の人達がお金を寄付して豪華絢爛な施設を作ったようだ。

 まず神官が常駐してる小さい神殿で祈りを済ませてブラッシングを行う部屋に行くようだ。並んでる獣人の貴族達はキョロキョロと落ち着きの無い様子で神殿に入って、数十分後に大喜びで出て来る。しかも行列が出来てる。領地や実家から家族を呼んでるようだ。


「あの人達って……」


「まあ、あれだな。アイツ等が納得出来るなら問題ないだろう」


 出資するから順番で優遇してくれと言う獣人貴族がお父様に突撃したらしい。

 結果として、寄付した資金で順番が決まったのだとか。しかも建物にも相当口出しして、アーランド教会も巻き込んだそうだ。

 まあ、教会としてはポストが増えるのは大喜びで神官を派遣したけどね。来るのは貴族ばかりだから人脈を作るのも容易だし。

 お父様も呆れた顔で窓の外を眺めていた。

 因みに私は日課である、アリシアさんのブラッシング中だ。魔法で視界の一部に書類を映して念動系の魔法でサインとハンコを押してるので仕事はしている。


「納得できない。これ改良」


「りょうかーい」


「まだ続くんですね」


 ブラッシングが終わると、近くに居た分身にポイとブラシを投げる。分身は受け取ると執務室の壁際のエレベーターで地下に戻って行った。馬車馬のように働くのだ。

 いや、別にあのブラシが悪い訳じゃ無いよ?でも良い物を作るともっと良い物が欲しくなるじゃん。だから改良は終わらない。余ったら、あの神殿モドキに送れば獣人の人達も喜ぶだろうし。


 次の日の朝


 私の研究成果(分身の人身御供の如き実験の成果でもある)である秘薬が完成したらしい。

 そう変身薬だ。魔法の世界だからあるだろうと思ってた。昔話とかでも出てきてたし。しかし、探せど探せども実物が見つからない。エイボン曰くロストテクノロジーだったようだ。しかし彼もある程度の材料は知っていた。ただ使い道が無いので興味が無かったらしい。普通に変身魔法はあるからね。

 でも変身魔法は魔法を探知出来るので直ぐにバレる。変身薬はばれないらしい。最高じゃないか。現在城の警備レベルは私のせいで世界最高と言える。何処で魔法が発動したのかや、隠蔽魔法も発動を感知できる。つまりこの城では変身魔法は無意味なのだ。

 さあ私に獣耳と尻尾をください!出来ればアリシアさんみたいな狐系が良いだろう。大体獣人はズルいのだ。なんなに素敵な装備を着けてるんだよ。私にも頂戴と何度思った事やら。

 この為にいつもより1時間早く起きた。昨日は何時もより2時間も早く寝たんだぞ。失敗は許されない。


「多分大丈夫だと思われる」


「ようやく悲願が達成出来る。これで私も獣人に……」


 手に握るは紫色の禍々しい薬の入ったアンプル。私は先を折ると、そのまま口をつける。


「姫様朝ですよ。今日は少し早めに…って何を飲もうとしてるのですか! 」


 何故か何時もより早く私を起こしに来たアリシアさんが居た。朝は寝てるからノックは無い。どうせ起きないから。しかしタイミングが悪い。何故早く起こしに来たのだ。


「むぐ、ゴクゴク」


「駄目です。早く吐き出してください。明らかにヤバい色をしてますよ」


 躊躇わず飲み干した私をアリシアさんが焦って揺さぶる。味はフルーティー完璧だ。

 アリシアさんの焦りを無視して私の体が光だす。そして、光が治まると、アリシアさんが大きくなっていた。なんで!


「ひ、姫様が……」


「ニャー(アリシアさんが大きい)フニャ!ニャフニャフ(なんじゃこりゃ!)」


 私を抱き上げるアリシアさん。軽々持ち上げるのを不審に思い、体を確かめると、一番先に目に映ったのは肉球。猫の手だ。体毛は黒。どうやら黒猫に変身してしまったようだ。

 私は狐に成りたかった。猫じゃ無い。いや、猫も可愛いけど、私は犬派だし、狐のモフモフした尻尾を堪能したかったのだ。これは酷い。


「おかしい実験では成功したのに……あ、薬違う。これ失敗した方だった」


「フニャ―!(確認して持ってきてよ)」


「どど、どうしましょう。キスすれば元に戻るのですか?解毒剤~! 」


「そんな物作って無い」


 ですよね~別に時間経過で戻るのは分かってるし、解毒剤等作ってる筈がない。あとキスは違う。私達は女同士だから多分無意味。

 チラリと分身を見ると、ドアを開けてチョイチョイと手を振ってる。多分今こそ好機だと言ってるのだろう。予想外の展開にアリシアさんは混乱してる。命令に忠実な騎士はドアが開いても中を覗こうとはしない。


「そ、そうです。今すぐにエイボンをとっ捕まえて解毒薬を作らせましょっ」


 ペシっと肉球がアリシアさんの顔を叩く。驚いた隙に体をよじらせて拘束から抜けると、そのまま部屋の外に走り出す。私は自由だ!


「これを使うと良い」


 4足歩行は面倒だなと考えながら外に飛び出そうとしたら分身がスケボーみたいな物をくれた。たしか名探偵で若返った小学生が使ってるようなスケボーだ。後ろにジェットエンジン着いてるけど。


「ニャー(ありがと)」


「いいって事よ。幸運を祈る」


 私はそのままスケボーのスイッチを足で踏むと猛スピードで部屋から飛び出した。部屋を出ると騎士がぎょ!っとした顔で見ていたが、アリシアさんが「姫様が逃げました捕まえてください! 」と言うと慌てて追ってきた。しかし私の方が早い。


 暫く逃げた。しかし城内から出られない。出入り口は早々に閉鎖され、隔壁が降ろされた。追って来る騎士は増える一方。私は体を傾けて通路を曲がる。しかし目の前にお城のメイドが居た。悲鳴と共に持っていたシーツが宙を舞い、私に落ちてきた。慌てた私は誤ってスピードを上げた。あっちこっちで上がる悲鳴やらなんやら。

階段らしき物をごとごとと登ったりもしたっぽい。どうやって階段を上がったのはシーツが邪魔で分からなかった。

 ようやく何かに引っかかってシーツが取れた時は3階のバルコニーに突っ込むところだった。どうやってここまで来たのだろう。

 考えたのは一瞬。私はそのままバルコニーから空に飛び立った。

 ふわりと体が浮く飛翔感。丁度良いのでそのままブースターを起動する。飛翔魔法も結界で阻害されるが、ジェットエンジンに使われてるのは火魔法だ。こっちは阻害できない。阻害系の魔法は隙だらけなのだ。

 しかし、私はブースターを起動した瞬間に気が付いた。これには安全装置が着いてない。ついでにスケボーと私を繋いでる物も無い。


「ニャアアアアアアアアアア! 」


 この日、必死にスケボーにしがみ付きながら黒猫が宙を飛んでいった。





 ギルバート視点


「やはり鍛錬の後の紅茶は良い物だな」


 私の朝は早い。5時には起き鍛錬を始める。元々王族は暇が無いのだ。父上も同じくらいに起きて鍛錬をするので、そのまま私も付き合う事が多い。

 現在は練兵場から離れた丁度バルコニーの下あたりにある庭園に居る。季節もそろそろ10月に入る。アーランドでは寒さが厳しくなってきたところだ。無論普通なら寒いのだが、私には精霊が契約している。火の精霊が空気を温めて、風の精霊が熱を逃がさぬようにしてくれるので、春の陽気のように暖かい。

 私は爺の地獄の鍛錬を終えて一休み中だ。爺はアリスに付いてるアリシアと違い私には厳しいからな。王族としてアリス以上に厳しく育てられた。


「殿下は未だに剣の振りが甘いですぞ。殿下の武器は切り裂く事に特化した物です故にもっと振る時に速度を出さねば」


「分かっている。まだ慣れていないだけだ。それに私もまだ成長の余地が実感出来る有意義な時間だったぞ爺」


「それは宜しい。では、明日から更に厳しく致しましょう」


「そうだな」


 私は父上の様な強靭な体は持っていない。アリスの様な膨大な魔力を背景とした魔法の腕も無い。このままではアリスの影に埋もれてしまう。

 無論嫉妬は無い。私には私にしか出来ない事もある。父上やアリスも同じだ。唯、アリスが誇れる兄で居たいだけだ。

 政治ではアリスに負ける事は無いだろう。武術でも近接戦闘では負けない。しかし、アリスも近接戦闘は伸び始めたのだ。こればっかりは負けられない。私にも兄としての威厳があるのだ。魔法は無理なのは仕方ないが近接戦闘まで負けると男として駄目だと思う。


「しかし爺、いい加減経歴を教えてくれ。私は爺の過去を知らないのだが」


「ほほ、私は過去等捨てました故、教える事は出来ませぬな」


 爺の過去を私は知らない。唯、私が生まれた時に世話係として仕えに来たらしい。偶に年配の騎士に頭を下げられてる事が有るので、元軍属だと思うのだが…何故か何も教えてくれないのだ。

 王族に仕えたいとしか言わないのだ。私より父上に仕えれば良いのでは?と思うが父上に仕えるつもりも無いらしい。謎の老人である。


「爺は相変わらずだな……ん? 」


「ニャアアアアアアア」


 鍛錬の疲れを癒しながら紅茶を飲んでると、城内が騒がしくなってきた。そしてバルコニーから何かが飛び出した。私も視力には自信がある。小さい車輪のついた板に黒猫がしがみついていた。はてアリスの魔獣だろうか?しかし私もアリスも全部を把握していない。ただ、その板が火を噴きながら空を飛んでいく。

 私は見た。黒猫の目にアリスと同じ刻印が入っていた事を。何故かアリスを見つけるのは得意なのだ。隠れてても私は直ぐに分かる兄妹だからな。


「プーーーーー!」


 紅茶を噴いた。直ぐに状況が理解出来たのだ。ここ数週間、スラムに興味を持ったアリスを止める為に城内の警備レベルを上げてる。まず護衛無しでは城門すら出られないだろう。そして城中を捜索してアリスの作った秘密基地や通路も封鎖した。

 城から出ても各道に騎士や兵士を配置して勝手にスラムには行けないようにした。王都の住民の協力も取り付けている。

 更に転移や飛翔魔法も妨害魔法で使えない。これならば諦めるだろうと思っていた。

 アリスならば力尽くで城から出る事は出来るだろう。しかし実行すれば怪我人が出る。身内の怪我が大嫌いなアリスは騎士を近くに置けば無理な事はしないと思ってたが、どうやらまだ手段を残してたようだ。一体どれだけ手札があるんだ。


「……殿下……私は何時如何なる時も冷静であれと教えたはずですぞ」


「いや、あれはアリスだろう」


「姫様ならば後45分は起きませぬ。たかが猫が宙を舞っただけでしょうが! 」


 ポケットから懐中時計なる物を取り出して時間を確認する爺。確かにアリスは朝が弱い。確か猫は宙を舞わない。でもアリスのペットは常識から外れてるので可能性も否定できない。セミのように木に張り付いて寝てる奴も居るからな。

 もしかして私の見間違いなのか?と思うと城内から涙目の騎士とアリシアが出てきた。


「殿下、姫様が猫になって城から抜け出しました! 」


「やっぱりアリスじゃないか! 私の近衛も全員出せ、直ぐに連れ戻すんだ。いや、城の警備も最低限を残してアリスの捜索を行え。絶対に誘拐される事だけは防ぐんだ」


「ハイ」


「姫様~~~! 」


 アリシアが泣きながら城門に向かって走って行った。彼女も大変だな。私も捜索隊の指揮を取らねば。あそこは危険過ぎる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ