123 王城からは逃げられない
「絶対に駄目だ。安全が保障できない。自分の重要さをいい加減理解してくれ」
との御言葉をお父様から頂戴した後に自分の重要さを小一時間ほど説明された。
スラムは危険が一杯で護衛が居ても安心できないから行くのは絶対に駄目だそうだ。
私には監視としてアリシアさんと久しぶりのメイド3人組が付けられた。メイド3人組で纏めてるが、彼女達は今後私の秘書的なポジションに着くために色々教育を受けてる。
どうやら元の世界に帰るつもりは無いらしい。
まあ、それは良いとして、アリシアさんはいつも通り私に着いてるが、護衛や他の仕事もある。特に城内に私が居る場合は一緒に居ない事も割とあるのだ。これはアリシアさんが私のメイドだけでなく、上級騎士として近衛隊の指揮等もあるのと、城の警備関係は私の開発した警備用魔道具で厳重な警戒態勢が出来てるせいだ。まず城内にはカードが無いと何処に人が居るか分かるし、カードには階級が有り決められた場所以外に入ると警備の騎士の携帯に居場所が送信される。そして王族のプライベートエリアは騎士でも一部しか入れない。
まあ私は色々移動してるが、それでも最近は誰か付いて来るか、こっそりと護衛が潜んでる。私自身威圧的な護衛は要らないと明言してる為に護衛は隠れてる事が多いのだ。
基本的に護衛は2種類だ。居る事を見せつける護衛と目立たない護衛だ。目立つ事で自分を脅威に思わせるのタイプと隠れてる事で何処に何人の護衛が潜んでるか分からないタイプだ。私は後者だ。
「ふむ、面倒な」
「勝手に抜け出しちゃ駄目。絶対に抜け出せない」
テイク1
3人の能力は遠視と転移と魔法封じ。純魔法使いの私には相性が悪い。逃げても居場所が見つかるし、見つかったら転移で捕まえに来る。しかも魔法を封じて来る。
まあどれも対処可能だけどね。遠視は分身をばら撒けばどれが本体か分からないし、転移を封じるのは意外と簡単。軽い結界でも転移は妨害出来る。そして何よりも魔法封じは既に解析済みで無効化も出来る。誰も知らない事だ。私は悪い女なのだよ。
「ちょっとトイレ」
まずは普通に部屋を出る。別に軟禁されてる訳じゃ無い。護衛が居れば城を出る事も出来る。
廊下を歩いてる時に通路の2階からそのまま飛び降りて走り出す。私の周囲には結界を張って転移を妨害するが……
「捕まるよね」
「当然」
結界の範囲外に転移した彼女達に捕まった。走っても直ぐに捕まる身体能力なのだ。
監視レベルが上げられました。部屋の外に騎士が配置された。
テイク2
さて、私の身体能力では勝ち目が無い。しかし如何に厳重な警備でも隙を突くのは容易い。何故なら私が構築した警備用魔道具を使ってるからだ。
「私参上」
「「「「以下略」」」」
宝物庫から数人の分身を呼び出すと部屋からダッシュで逃げる。当然かなりの数が捕まるが、部屋の外に居る警備の騎士やメイド3人組の行動パターンと思考パターンから私本体は捕まらないルートを逃げたので問題は無い。
まずは地下のドッグに行く。城内には秘密エレベーターを何カ所か設置してるのだ。
時刻は昼過ぎで、そろそろ3時オヤツの時間だが……
「姫様~ケーキ焼きましたよ~」
エレベーターが隠された廊下の壁。下を蹴れば壁が動いてエレベーターに乗れると言うのに、とてもいい匂いが流れてきた。
ふふん私に何時までも同じ手が通じる物か。
「姫様確保しました」
気が付いたら出頭していた。何故だ!
「さあ姫様、王妃様がとてもありがたいお話をしてくれるそうですよ」
ケーキすら食べさせない気か!良い匂いのケーキに手を伸ばすがアリシアさんに引きずられて行く。
その後小一時間程体罰を含むお説教を受けた。
3日後エレベーターを隠した通路を通りがかった時には騎士が立っていた。どうやら隠してたエレベーターは全て発見されたようだ。ついでに城内に転移妨害の結界も張られた。
これが今まで以上に強固だし、手を付けると即お説教なので転移は使えない。
テイク3
隠蔽魔法で隠れて逃げた。
しかし警報装置に引っかかり危うく殺される所だった。黒ずくめの暗部に囲まれたのだ。慌てて魔法を解除したが、小一時間ほど拘束された。
そう言えば私の隠蔽魔法はここの警備をすり抜ける改修をしてなかった事をお兄様に怒られながら思い出した。
テイク4
昔拓斗の家で拓斗がやってたレトロゲームを思い出した。
そのゲームの主人公は全身黒タイツみたいな恰好で、カロリーメイトを持った眼帯のおじさんだが、段ボールを賞賛してた。曰く潜入には絶対に必要な装備らしい。
しかもダンボールで戦車を作るくらいだった。
「つまりダンボールには高い擬態性能が備わってると言う事だろう」
拓斗も「段ボールの中に隠れると余程の事が無ければ見つからない」と言っていた。
しかし問題がある。
ダンボールがこの世界に存在しないのだ。無論作ろうと思えば作れる。しかし、存在しない物は目立つのではないだろうか?
この世界で一般的に普及してるのは木箱である。あれなら簡単に作れる。
結果城から出る前に捕まった。
「姫様って偶に考えが甘いですよね。普通に怪しいですよ」
1週間の準備期間を設けて、諦めたふりをして警戒レベルを下げてから実行したのだが、もう少しで城門にたどり着くと言う所でアリシアさんに木箱を持ち上げられて捕獲された。
どうやら最初から見つかってたらしい。騎士やメイドが背後からストーキングして尾行していたようだ。
「……見つかる筈がないのに」
「寧ろ何故この方法で切り抜けられると考えたのですか?さあ王妃様の元に行きましょう」
「絶対に嫌」
見に行くんだ。私の行動を止めれる者など存在しない。だから連れて行かないで。もうお説教は嫌だ。
「本当に危険なんです。お願いですから諦めてください」
「だから護衛もちゃんと連れて行くから」
「それでも絶対に駄目です。あそこは無法地帯です」
何度懇願してもアリシアさんは駄目しか言わない。おかしい、アリシアさんは私の部下の筈だ。何故主をお母様に差し出すのだ。裏切りである。徹底的に追及すべきだ。
「姫様、良き臣下とは、主が間違った時に罰せられる覚悟で御止め出来る者です。
ですので私は姫様が誤った事をすれば全力で御止めします。罰せられても構いません。当然此処に居る騎士も同様です」
「ぬぐ」
嫌な言い回しだ。これでは私が悪者ではないか。唯視察に行きたいだけなのに何故……って王女だからか。
基本的に過保護なのを忘れてた気がする。次世代の王族が私とお兄様だけなのもある。来年にはもう一人増えるけど。お母様達の年齢的にこれ以上は増えないだろう。そしてお父様は側妃は持たないと公言してる。お母様の嫉妬が怖いのと、お母様以外の女性には余り興味が出ないらしい。未だにラブラブ夫婦だからね。
閑話休題
取りあえずお仕置きは終わった。城の警備レベルが過去最高を記録しているが、私の悪戯レベルを考慮すればまだ甘い。隙だらけだよ。
「全然懲りてませんね」
「こ、懲りてるし」
暫く大人しくしよう。3日位。あの間に分身を地下に送り続けて武装飛空船と輸出用の飛空船の増産を行わせる。
私が3人居れば、【ファクトリー】で1日1隻の飛空船が作れる。バンバン輸出して財政に貢献しよう。最もお蔭で私の魔力は常に100分の1程度しか残って居ないが、これでも魔術師レベルの魔力は残してる。
「エイボンのお蔭でアレがもうすぐ完成する」
「ムフフ、遂に手に入るか」
無論悪巧みもしてるよ。秘薬の製造も始めたのだ。エイボンも知識だけは有能だ。性格に難があるだけ。
現在彼は地下の研究区画で、新型魔導炉の開発を手伝ってる。エイボンは何故か宝物庫に閉じ込めれないんだよね。死んでる筈なんだけど。
彼は有能だ。世界の技術が彼に追いついていない事が多く、必要な機材さえ用意すれば大概の事が出来る。
私だけでは知識不足の施設も順次建造中だ。
ついでに飛空船の材料費で王国の財政が一時的に傾いて、一部の政策が1年間程延期や削減されるらしい。
再来年には莫大な利益が出るので、あくまで一時的で、再来年からは予算を増額するから許してくれと各部署と交渉してるようだ。
私は分身を地下に戻す。私は現在城に軟禁されたのだ。どうやらスラムに特攻する可能性が高いと判断されたのだ。これ以上動くのは難しい。
だが問題は無い。私がスラムを視察出来ないのは王族で、自身の価値が高いからだ。つまり一時的に価値を落せばいいのだよ。私は諦めていない。
「また悪巧みしてますね。本当に懲りませんね」
「別に悪い事だけ考えてる訳じゃ無いし。それにスラムの問題の解決も重要」
分身を派遣する事も考えたが、どっちにしろ繋がっていないので意味が無い。自分で見る事に価値があるのだ。
今は資金を貯める時だ。飛空船をバンバン建造するのだ。飛空船は一隻単位で膨大な報酬が出る私の資金源だ。こればかりは王国も必ず支払う。支払わないと私の周りが騒ぐそうだ。なのでお城の宝物庫に金貨が山積みらしい。元々山積みだけどね。
私は幾つかの計画の草案を作りながら、今後の方針を考える。
まず、王国には最高の技術を持ってもらう。更に魔道具の量産体制の構築。工場を作って大量の魔道具を生産するのだ。
必要なのは人材。既に必要な機材は用意出来る。付与魔法を代行出来る魔道具は後数日で完成する。これはこの世界では革命を引き起こすだろう。魔法使い以外でも必要な魔法を付与して魔道具を作れるのだ。
安価で高品質の魔道具を大量に市場にばら撒いて経済を活性化させる。更に私の知り合い達を動員して基礎技術の向上も目指さねば。来年中には魔動車の量産態勢に入りたい。馬車は既に時代遅れである。
「人手が足りない…近くポンポコ商会に行こう」
「はいはい。反省してからですよ」
一見お絵かきしてる幼女だが、中身はこの国の未来を変える物だと言える。ぐふふ、経済を発展させればお菓子職人が増えるだろう。楽しみだ。未だ見ぬお菓子を想像しながら今後の予定を纏めるのだた。




