113 お祭り
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
それと、何時も遅れてすみません。
「そんな事があったのか…分かった爵位については準男爵位を認める。子供が出来れば、その子供の成人後に子爵に任じよう。直ぐに上げると嫉妬して騒ぐ馬鹿が居るからな。
但し、その土地からは移動だな。戦略物資を他の貴族に口出しさせる訳にはいかない」
「まだ五月蠅いの」
艦内の通信機で王都のお父様に通信を繋いで、ここの事を報告すると、凄い疲れた顔をしていた。
現在お父様は政争中だ。どうやら時代の変化で議会のウザさが上昇したらしい。
「毎日毎日五月蠅くてかなわん。空軍を寄越せだ。技術開発局に介入させろとか。お前等運営出来るのか?理解出来るのか?いい加減にしろ」
「空軍に関しては技術供与してパッシュ隊長を将軍職に昇格させて丸投げするつもりだけどね。私が出来るのは書類仕事と開発だし」
実際私に指揮を取らせる方が無謀だろう。経験も知識も足りない。指揮関連の教育を受けてる訳も無ければ、前世でも関わりは無いのだ。無理な物は無理。
そう言うとお父様は再び疲れた顔をした。多分議会が気に食わないのがパッシュさんが平民出と言う事だろう。有能だから変える気は無いけどね。不遇の扱いだった空軍の練度も意外と高いし、纏まりのある部隊を維持してた手腕は評価できる。
当然部下に人気の隊長だ。
「連中の増長は目に余るな。いっそ全員平民に落としたい」
「一度でも実行すると、『次』も出来るからね。無関係の貴族も反対するでしょう」
相当しつこいようだ。お父様もかなりイラついてる。
「空軍も俺処か軍の連中も系統が違い過ぎて扱いきれない。科学と魔法が融合した産物は、古い考えの人間には扱えないだろう。その点パッシュは使える物は使う柔軟性を持ってるからな。アリスティアの元に置くのは丁度良い」
技術開発局は私からすれば子供程度の技術力だが、彼等は『私を受け入れてくれた』迫害する訳でも無く、憎悪する訳でも無い。目指すべき者として、私の持つ知識の吸収に努めてる。あの人達には指示は出さないで良いだろう。私が作った物を与える。それだけだ。
それだけで彼等はそれを研究し、自分の技術にする。偶に技術書を渡す程度で十分だろう。生産関係は師匠に任せてるし。
なので、私の仕事は書類関係と予算獲得くらいだ。後は分身に必要な物を作らせるだけ。まあ、あの人達は研究一筋で、私も全然会わないけどね。研究室から滅多に出てこないし。今は付与魔法の研究で大忙しと言う報告は受けてる。
どうやら、私のあげた付与魔法補助の術式はかなり画期的らしく、付与成功率が爆発的に上昇したようだ。最も無駄な術式だから私の低燃費魔道具には敵わない。でもあれを使い、コツを掴めばもう補助は要らない。付与魔法の使い手の育成には丁度良いだろう。今後はアーランドが魔法技術の最高峰に成れるだろう。
「そうだね。私は私の目的の為に頑張るよ」
「………無理はするなよ」
私は私の出来る事をする。帝国が侵略をしようとしてる?ならば諦める程の技術力と経済力を持てばいい。その為にもここの人達は都合が良い。
この人達は他の土地に住む事になる。ならば、そこに私の力を使う。幾つか向こうの世界の農工機を作ろう。彼等が住みやすい土地を作れれば、そこから得られる税金は王国を潤わせる。その過程で私は実績を得られる。
実績が無ければ誰の支持も得られないからね。
今までの様な技術的実績だけじゃ駄目だ。国民が豊かにならない。国民の豊かさを背景にした国力を持たせないとね。
だから、ここら辺で、私は兵器以外にも『用途』がある事を貴族に知らしめるべきだろう。最近は軍関係で日用品の開発も疎かだしね。
そう、国に住む人たちが笑って暮らせる国にする事が私の目標だ。
残りの案件を報告し、支持を貰うと通信を切る。
私は通信室から出て、そのまま船を下りる。携帯を使わないのは、飛空船の通信室は所謂、映像通信が出来るからだ。携帯はコスト上通話とメール位しか出来ない。ネットワークを構築出来る発展性があるし、今後のアップデート次第ではある程度の機能も増えるだろう…当分先になるけど。
船を下りると、マーサさんが心配そうな顔をして待っていた。どうやら自分の未来を心配してるのだろう。
もう数百年前の約束だ。王国が無視する可能性を考えてるのだろう。他にも村の有力者と思われる老人や、若者の代表たちも居る。
「アーランド王国国王ドラコニア・フォン・アーランドの名代として、副王家当主アリスティア・フォン・アーランドがこの村の村長マーサに準男爵の爵位を授与する事をここで宣言する。
また、子供には子爵位を授与する」
「………え」
「つまり、貴方は貴族に成る。そして、その子供は準男爵では無く、子爵になる事が確定したって事。無論しっかりと領地を統治するのが条件だけど。
それと、この場所から別の土地に転封する事になる。
後は今までの税金は免除になるのと、貴族年金は200年分が支払われる。無論今回の件は全面的に王国の責任だから賠償金も支払われるよ。」
これってかなりの金額になるんだよね。お父様が飛空船の利益から出させてくれって私に頼み込む程だし。
まあ空軍はまず武装飛空船の主砲のお披露目が先だから、今すぐにお金が必要じゃない。実物を見せないと頭の固い人は納得しないからね。
「や……やったな村長!お前は貴族に成れるんだぞ」
「長年の夢が叶ったじゃないか」
皆がマーサさんの出世を喜ぶ。だけど転封の件には誰も触れない。私もアリシアさんも、そこに不満を持つと思ってたので、怪訝な顔をするとマーサさんが前に出た。
「転封の事は良いのです。私達にはこの地を治める事は出来ません。
何度も仲間を失いました。来る筈の無い助けを待ち…次の日を呪いました。私達は…多分王国を許す事は出来ないでしょう。しかし、私達にはまだ『護る』人達が居ます。
亡くなった人達より生きてる人達を優先しなければなりません。元々皆でここを出るのが我々の望みなのです」
護衛が逃げ、王国から存在を忘れられた彼等は、この森の奥底から誰も出れなかった。
この村の人達は全員でこの場所から出たかったらしい。でも、村の男だけなら可能性はある…女子供老人を見捨てれば。
彼等はそれを望まなかったそうだ。厳しい森の暮らしでは誰かを見捨てる選択肢を取れなかったのだろう。生き残る為に力を合わせる為に。
だから、彼等はこの地にお墓も立てて無いそうだ。基本は火葬して墓に埋めるのがこの世界の基本的な埋葬法だが、彼等は遺骨を納骨堂の様な場所に納めてるらしい。何時か一緒に外に出る為に。
「それに……いい加減人里に出ないと、皆が人である事を辞めてしまいそうなので」
た、確かに原住民化してる。毛皮を纏っただけの服だし、布を作れる技術も失ったのだろう。家も一部藁っぽい家も混ざってるし。
人が減り、生き残る事に精一杯で色々と失ってる。この格好は流石にアーランドでも受け入れられるかどうか…王都の人達なら面白がって受け入れそう。
「分かった。私も出来るだけの援助をするようにお父様に頼んでみる」
王都の住民は受け入れても閉鎖的な村人とかは受け入れるとは限らない。もしかしたら、新しい領地に人が住んでる場合もあるしね。実際領主不在で王家直轄領になってる領地も多い。そう言う土地を渡される可能性も考えないとね。
「そんな事より祭りだ!こんな生活も終わるんだぜ、皆で祝おう」
「そ、そうだ!」
こうして村中の人達が集まるお祭りが始まった。
私も飛空船から食料を降ろさせて料理を作るように指示を出す。彼等が祝うならこっちも祝うべきだからね。村の警備は土塊からゴーレムを30体程出して村の外周に置いておくから問題ない。
「こんな時こそ私の蓄えたオヤツを放出するとき!」
私も今まで蓄えたお菓子を村の皆に振る舞う。但し、男の人達は美味しそうに食べるけど、直ぐに肉料理の方に行ってしまった。
女性や子供は滅多に甘味を食べれなかったらしく、皆こっちでお菓子を食べる。
「これ美味しい!」
「まだ沢山あるのだから、落ち着きなさい」
リスみたいに一杯頬張る子供を母親が窘める。やっぱりお菓子は誰かと食べるのが一番楽しいね。
「姫様…随分と溜めこんでましたね」
「こんな時とかに役立つ…無駄じゃない…無駄じゃないもん」
そう、何時でも食べれる安心感は私の精神衛生上に必要な物だ。だからそんな目でこっちを見ないで。
「やっぱりアーランドはお祭りが無いと駄目だね。笑って暮らす方が良い」
「お祭りばかりしてると国が破たんしますよ」
昔、王都の住民が毎日お祭りすべきと王宮に直訴する事があったらしい。王様も良いんじゃね?って軽く許可を出して国が混乱した事があるんだよね。
お祭りばかりで仕事を疎かにする人が続出したから。
お蔭でお祭りの数は法律で決まってる。無論罰則がある訳でも無いから良い事があると気軽にお祭りをするけどね。
「出費が増えたなら収入を増やせば良い」
「そんな事が…そうですね。姫様の前向きな所は大好きです」
そう、収入さえ増えれば何も問題ないのだ。飛空船の輸出は王国を豊かにしてくれるだろう。
そして昼過ぎから始まったお祭りは昼過ぎから深夜まで続いた。ダグも意外と村人と仲が良いらしく、肩を組んで踊ってた…夜にあの仮面は怖かったけど。
村人が広場で大きな火を焚き、お酒を飲みながら護衛の騎士達と肩を組んで踊る。流石に深酒をする護衛は居なかった。飲んではいるが、何時でも動ける程度しか飲まない。アーランドの人は少しのお酒じゃ酔わない。但し、その少しには個人差があるけどね。お父様は樽で飲んでもそこまで酔わないし。
「姫様はもう寝る時間ですよ」
夜も更けるとアリシアさんが私を捕まえに来た。私達の周りにはまだ沢山のお菓子があり、女性組で楽しんでたのだ。
「寝る時間は私が決める」
「駄目です。迷宮を出てから、碌に寝て無いじゃないですか。健康の為に寝て貰います」
余り寝つきが良く無いんだよな…それに眠く無い。私程になると眠気をある程度コントロール出来るのだ…催眠読書攻撃を受けなければの話だが。
「もう遅いですからお風呂は朝にしましょう。行きますよ…ってしがみつかないでください」
「断る」
私は近くの木にしがみ付くが、力では勝てずに部屋にお持ち帰りされた。
艦内の私の部屋のベットに寝かされると、アリシアさんは部屋の明かりを消して出て行った。ぐぬぬ部屋の外に気配がある。船の構造上窓からは出れないし、転移は魔力を察知されるし、怒られる。寝るしかないか。お休みなさい。
「グス…帰りたい……………拓斗」
 




