112 村人と石油
遅れてすみません。
データの破損や仕事の関係で遅れました。
微妙な雰囲気が周囲に漂う。一応助けてくれた?でも、棍棒の投擲は無視されたけど。
「ありがとう」
取りあえず感謝しておくべきだろう。しかし、まだ戦闘は終了してない。多分他の魔物も周辺に居るはずだ。
「護衛は周囲を散策して、魔物の残党を処理して」
「ッハ、部隊の半分は村に残り、村の防衛を行う。残りの半数は数名のグループを組んで魔物を掃討せよ」
「必要無イ。魔物全部死ンデル」
青年が村はずれを指さす。結構距離があるが、何かが山積みになっていた。
私は双眼鏡を取り出すと、その場所を確認する。するとおびただしいと呼べるほどの魔物が山積みになっていた。あれだけの数の魔物を誰にも気が付かれずに倒したと言う事なのだろう。同じく双眼鏡で確認した護衛が息をのむ。この場に居る護衛では短時間で、これほどの魔物を誰にも気が付かれずに討伐するのは困難なのだ。かなりの実力者だと言える。もしかしたらお兄様より強いかも。
「ダグ、ダグじゃないか助けに来てくれたのですね」
息をのんでると、村人の集団からマーサさんが出てきた。弓を持ち軽装だが、鎧も着ている。
そして青年の名前はダグと言うらしい。
「マーサさん、彼は?」
「ああそうでした。彼の事をまだ説明してませんでした」
青年の名前はダグ。彼は凄まじい経歴を持っていた。
普通にこの村…タロル村に生まれたのだが、彼が5歳の時の魔物の襲撃で彼の家族は全員死亡。村にかなりの打撃を与えた襲撃が有ったらしい。
しかし、探せど探せど彼だけが遺体も見つからない。元々団結力の強いタロル村の人はせめて彼だけでもと探し続けた。
しかし、いくらたっても見つからず、魔物に食料として連れて行かれたのだろう。と言う事で捜索は打ち切られたらしい。
しかし10年後、彼は魔物の森の中で生存していた。どうやら連れ去った魔物が育ててたらしい。
これはかなり珍しい。地球でも動物に育てられた子供の話が有るが、それより遥かに低確率だ。
彼は魔物に育てられた。しかし、親代わりの魔物も他の魔物のグループに殺される。荒れ狂った彼は、その魔物のグループを殲滅する。丁度周辺で野草や魔物を狩っていた村人がそれを発見し、彼を連れ帰ってきたようだ。
「当時のダグは言葉も忘れ、我々の事も殆ど覚えていませんでした。しかし、ダグの母親がダグが生まれた時にあげたアクセサリーだけは離さずに持ってたのです。
私達はこの森で暮らすしかありません。森は深く、子供や女性を守りながら外に出るのは不可能なのです。だから村人は常に助け合います。苦労もありましたが、彼と交流を重ね、我々は敵では無い事を教えました」
ダグも少しは村の事を覚えていたのだろう。最初は手が付けられなかったが、次第に村人にも慣れたようで、物々交換をしながら村と交流を持ってるらしい。
村人も折角生き残ってくれていたダグを見捨てなかったようだ。変わってしまったが、彼は変わった仲間だと受け入れた。彼もそう言う彼等に少し心を開いて、度々助けてくれるようになったらしい。当然村も彼に相応のお礼はしてるようだ。
武器は強い魔物の牙からナイフを作ったり、服を着る習慣も無かったのが、今では村人と同じように服を着てくれてる…それは絶対におかしい。この村の人達は毛皮を纏ってるだけだ。
「村長…ナイフ壊レタゴメン」
「そうですか。すみません…それ以上の物となると今は用意出来ないんです。
少しランクが落ちてしまいますが、それ以上の物を探します」
よく見ると、ダグの持ってる2つのナイフはボロボロだ。元の技術力が足りずに、素材の能力を活かせないのだろう。師匠なら、数倍は保つ。
私?生体素材の武具は管轄外。後、解体とかはNGらしい。アリシアさん曰く「王女力が下がる」から駄目だって。
しかし武器が無いとな?ほほう、ほうほう。彼は実力もあるし、ちょっと性能チェックを頼もうかな。
私の思考を読んだと思われるアリシアさんがば!っとこっち向くと頭を抱えた。こういう時言う事を聞かないのはいい加減理解出来たのだろう。別にお兄様程危なくないし。あれは魔法強度が硬すぎるのだ。無効化するのは困難で、大抵の物を切り捨てるから危険指定してるだけだし。
多分あの刀は聖剣でも相手にするのに苦戦するだろう。聖剣は属性が付いてる事が多いが、特徴は魔法に対する優位性だ。魔法の術式を破壊して無効化する。でも、お兄様の持ってる刀は術式自体が強固に刀と癒着してる。魔法を無効化するのは難しい…それこそ、私でも刀に込められた魔法を無効化出来ない程だ。
そして、今出した大振りのダガーナイフ2本。『玄月』と『剛体』だ。
玄月が斥力を用いて刀身を伸ばせる。見えない刃が相手に間合いを読ませない。漆黒のナイフだ。
剛体は自身の体を鋼の様な強度に上げれるナイフだ。まるで鋼のフルプレートアーマーを付けてるような防御力を得られる。
「じゃあこれあげる」
ダグはちょっと警戒しながら私からナイフを受け取ると軽く振ったり、近くの木に投げる。投げ出された玄月は刀身が根元まで気に突き刺さる。その後もその込められた魔法を試し、数分後にはかなり気に入っていた。大事そうに逆手で持ってる…そう言う持ち方にするんだ。
「オ前良イ奴俺ノ番ニスル」
「よ~し分かった。ちょっとお兄さん達とお話しようか」
「黙って着いてこい」
光速で私達の間に瞬間移動した護衛がダグの肩を掴むと何処かに連れ去ってしまった。成程、凄まじい団結力だ。
「オ前友達!」
大体30分程で戻って来た彼は大分変ったと思う。動きが…その、人間的になった気がする。
私は戻って来るまで怪我人の治療をしてた。怪我人は少なかったけど。
「申し訳ありません姫様。この者に教養を授けるのはマダムでも厳しいかと」
「別に公的な場じゃ無ければ気にしないし」
仕事で来てるけど、五月蠅い貴族とか居ないし、何も問題ない。大体権威だ何だと言ってたら私の知り合いの国民大体処罰されるし。
そう言えば議会の貴族たちが空軍の役職寄越せとかふざけた事言ってたな…と言うか空軍自体寄越せって直訴しようとしてるらしい。今頃お父様とお兄様に怒られてるんだろうな。私に直訴しても役職を認めたのはお父様だし、任命権もお父様。私に言っても無意味何だよね。
「所で石油があるって聞いて来たんだけど」
取りあえず治療も終わり、元々の目的である石油の事を聞くと、村人が凍り付いた。
「あ、あの悪魔の油の事ですか?」
青い顔で震えるマーサさん。
「そうだけど。あれの使い道があるから手に入れに来たの」
「あれは…代々関わらないのが村の掟です。何でか知りませんが直ぐに燃えたり…封印の場所で火災が起こると絶対に消えない可能性があるので誰も近寄りません」
どうやらこの人達の先祖も使い道の研究は行ったようだ。しかし、静電気等の要因で燃える可能性のある石油は彼等には扱いきれずに度々火災を起こした。
何度か村が焦土になったせいで、魔法使いが石油の採れる場所を封印して誰も近づけないようにしてしまったらしい。運が良いのは採取した場所まで燃え広がらなかった事だろう。あれは無くなるまで永延と燃え続けるからね。地球でも炎上する油田は簡単には消せない。まあ魔法で酸素を奪えば消えるのでこの世界では楽だろうが、それもかなり難易度の高い魔法だ。
「別に火災は起こさないから案内して欲しい。あれが王国の発展に必要」
「…分かりました。村はずれにあるので直ぐに着きます」
アリシアさんと幾人かの護衛を引き連れて村はずれに向かう。ダグは護衛と模擬戦をするようだ。意外と元気だな。戦いが終わったばかりなのに。
村は…かなりみすぼらしい。畑は放棄された畑も目立つ。恐らく人の数が増えないのだろう。ここに来た開拓団は約1000人+護衛だった筈だ。でも、見た限り、300人程しか人が居なかった。魔物の襲撃を考えると農地を維持出来なかったのだろう。
但し、村人が野生化したお蔭で魔物の肉等で足りない分を補っているらしい。
「ここです」
30分程歩くと、縄の巻かれた区画に付いた。立ち入り禁止と言う事だろうが、私が気になったのは、この場所に魔法が掛かってると言う事だ。
解析の結果は、地下から石油が出てこないように加重を与える魔法が常駐してると言う事だ。原始的な魔道具だが、これを作った魔法使いは逸材だ。これだけ長い年月が経っても綻び一つ無い。
「どうやって維持してるの?」
「この岩の窪んだ場所に魔物から取れる石を乗せておくだけです」
「魔玉?」
魔物から取れる石など、魔玉以外に存在しない筈だが。
「何ですかそれは?」
どうやら魔玉の事も長い年月で忘れてしまったようだ。多分使い道が無かったのだろう。数十年前に魔法使いは途絶えたそうで、この里では魔法使いは居ない。最も、闘気使い等が多く準魔法使いだらけではあるのだが。
「魔力を生み出す魔物のコアだよ。もしかして捨ててるの?」
「そうなのですか。一応言い伝えで納屋に溜めてますが……何に使うか分かりませんし、邪魔になってます」
魔道具化杖の材料だから魔法使いが居ないと役にたたないしね。しかし、この様子だと、凄い数を貯めこんでるな。魔玉の需要は私の影響で伸び続けてる。これは後で買い取ろう。
「………どう思う?」
「これは解除した瞬間に噴き出す。後は私達で採取しとくから門だけ開いておいて」
ここは分身に任せても良いだろう。元々用意自体はしてたので、油質の検査などを行い、一定量を宝物庫内に保存する。後は勝手にやってくれるので便利な魔法だ。
最も各自が独立した存在なので予想外な行動を取る事があるのだが…何故かエイボンとは違うんだよな。あっちは殆ど違いが出ないのに私の場合は各分身に違いが出る事が多い。
無駄にやる気に満ちてたり、寝てるだけだったり。エイボン曰く「お嬢さんの性質を反映してるだけなので何とも言えませんな。怠惰であったり勤勉であったりするのが人間ですから。ワタシはそう言う感情を魔法で消し去りましたから。知的好奇心それが私の全てです」との事。
但し、エイボンは煩悩は捨てて無い。早速、城の風紀を乱した罪を起こしたので騎士団で矯正を行ってる最中だ。メイドに悪戯するのは私だけの特権である。侵害は許されない。ヘリオスも手には入れたが意外と役にたたないし。何であんなに弱いんだろう。
「じゃあ私はお父様に事の報告とマーサさんの爵位の件を伝えるから船に戻るね」
「えっと、ここから王都は近いのですか?」
「かなり遠いけど、通信用の魔道具があるからね。ついでにここに国民を捨てて行って嘘の報告をした貴族の件も伝えないといけないし」
只でさえ五月蠅い議会もとんだ爆弾が出てきたものだ。また政府に怒られるんだろうな。私は関係ないけど。そう言う面倒な事はお父様とお兄様に丸投げすれば良い。向こうも私にそう言う能力までは期待しないだろう。
私はそう考えながら、広場に再び降りてきた飛空船に向かうのだった。




