111 魔物襲来!仮面の少年
ちょっと現実逃避してて遅れました。今後はデータの保存はこまめにします。
「姫様は飛空船にて一時空に退避していただきたい」
マーサさんが壁に掛けてあった弓と取り、矢筒を腰に付ける。どうやら彼は弓矢を使って戦うようだ。まあ、私と同じで体型的に近接戦は無理だろう。私だって防御と自爆を混ぜないと身体能力の差で詰むし。
「ここは住民との関係改善の為に私達も戦う。護衛も十分居るし、所詮はゴブリン」
「いえ、ここら辺に住んでるのは凶悪なタイラント種です。凶暴な暴君ですよ。危険ですので退避してください」
タイラント種とは魔物の変異種だ。普通の魔物より遥かに強く、凶暴で有名なのだが、アーランド固有の魔物らしい。他の国では目撃数すら殆ど無い謎の変異種とも呼ばれてる。この村は王都から北方面なので良く現れるのだろう。アーランドでも北側に多数生息してるのだ。
まあ私のわんこーずのナンバー2がまさにそれなんだよね…と言うかわんこーずの戦力が私を上回ってる事にそろそろ危機感を持つべきか…多分銀狼なんだろうけど、クート君の存在感が強まってる感じだし進化してる気がするんだよね。
クート君はそこら辺教えてくれないし。
「アリシアさんヘリオスよりは弱いかな?」
「どっちのヘリオスですか?人化状態なら惨敗しそうですが…そうですね。古代竜を従える姫様なら何も問題は無いでしょう」
「こ、古代竜!」
アリシアさんの顔には諦めが浮かんでいた。敵を前に私は逃げないからね。避難要請に従った事は無い。
「開門」
私は宝物庫の扉を呼び出す。豪華絢爛な門が現れ、扉が開くと、中から10人程の私がカートを押して出てきた。
「トラブルメーカーは健在だね」
「きっと門を開けると思ってた。武器は十分作っといたよ」
「ちょっと宝物庫内には入らないでね。ロケット作ってたら爆散して20人位消えたから」
「正確には残り78人さっき2人ほど過労で消えた」
「キャー――――!姫様、一人ください!一人で良いんです。ずっと大切にしますから…えへへ」
宝物庫内で勝手気ままに動いてた分身体。彼女達は私の分身だが、違いはある。
まず、魔力は回復しない。更に死ぬと消える。尚、私の精神体を移すなどは出来るが、基本的に自立型だ。私と繋がってる訳じゃ無いので、勝手に思考して勝手に動く。あくまで私を元に数を増やしただけなのだ。エイボンみたいに全部が本体と言う訳じゃ無いみたい。多分エイボンは肉体が既に死んでる事等が関係してるのだろう。
それとあげないよ。アリシアさんに分身体をあげると何するか分からないし。
それと押してきたカートの上には銃器の類が並べられていた。
「私はこれがあるから要らない」
「リボルバーなんて時代遅れ。デザートイーグルを使うべき」
「重いし反動がデカい。これだからパワー思考は駄目。私達に合ったデリンジャーを使うべき」
「威力足りないし、装弾数少ないくせに!」
「そっちだって別に多く無いじゃん!」
「拳銃なんて要らない。時代はアサルトライフル」
「万能キーの異名を持つショットガンこそ至宝」
要らないと言ってるのに何故かそれぞれが作った銃を押し付けようとする分身体。確かにどの意見にも賛同出来るが、私はこれが気に入ってるのだ。ガンマンみたいでカッコいいし。
「呼んだのは一緒に戦えば楽だから。そんなに自分の武器が良いなら自分で使えば良い」
「「「「それだ」」」」
各自に準備を整える…まあ防具は私しか付けて無い。子供用………レディー用の防具は私が使ってるのしか作って無いのだ。それに所詮は分身体。死んでも誰も困らない。どうせ宝物庫内でも何人か消えたみたいだし。
外に出ると、村はずれの方から砂塵が舞い上がっていた。どうやら村内部で戦うようだ。子供や女性を集会所のような広い建物に集め、その周囲に村人が陣形を組んでる。恐らく討って出る程の戦力が無いのだろう。アリシアさんが護衛に指示を出して、彼等の前に護衛達で陣形を作らせる。警笛が鳴り響きながら飛空船が上昇しだした。アレを壊されるのは勘弁してほしいし、武器の類を積んでない輸送船だ。居ても邪魔なのだ。
「じゃあ火力支援と魔法支援に分かれて援護してね。私は突撃するから」
「オリジナルの提案に反対する。脳筋は寝てるべき。寝不足の癖に」
「私も突撃が良い」
「援護とか面倒。全部焼き尽くす方が簡単」
た、確かに迷宮から戻って来てから寝不足だけど…
「これは決定事項。それと火魔法は火事になるからなるべく火以外にして。
それと騎士や村人にありったけの支援魔法を使って良いから」
渋々護衛の後ろに歩いて行く分身達。護衛の人や、村人がぎょ!っとした顔で見てる。そう言えば、まだ誰にも分身出来る事を話してないや。でも、村人より護衛の方が直ぐに気にしなくなった。「こういう事もあるのか」と呟いて納得したようだ。
数秒して黒いゴブリンが村に侵入してきた。どうやら狙いは村人の殲滅のようだ。女性は連れ去るのがゴブリンだし、邪魔をする村人を殲滅してから村の物資を略奪する厄介な習性を持ってるらしい。と言う事はかなり頭の良いリーダーを持ってる集団だと言う事だ。
「オラオラオラ死にやがれ!」
「貴様に娘をくれてやるものか!」
…………村人は想像以上に強かった。
私の護衛が集会所のような建物の防衛に加わると、腕自慢の村人も護衛と一緒に攻勢に出たのだ。
振り下ろされる棍棒をアッパーを放つように下からメリケン付きの拳で弾き、態勢を崩した黒いゴブリンの頭を掴むと、そのまま持ち上げて地面に叩きつけたり、そのまま頭を握り潰す……下手すると私の護衛より身体能力が高いのではないだろうか?
「「「「「身体強化」」」」」
そこに私の分身達がありったけの補助魔法を味方に付与すると、一気に優勢になった。分厚い鎧を着た護衛が残像が残るような動きで黒いゴブリンを翻弄し、一撃で黒いゴブリンを倒していく。村人も棍棒をメリケンで破壊するなど、人間無双が始まったのだ。
「グギャ!ギャギャギャ」
黒いゴブリンは100匹程居たが、かなり混乱している。普段と違う村人や私の護衛のあり得ない動きで仲間が殲滅されだしたのだ。
私も転移を使ってゴブリンの背後からリボルバーで至近距離から後頭部を銃撃して倒す。偶に押し倒された村人に襲い掛かる黒いゴブリンに魔法を放つが、分身達が上手く援護してくれる。
「「「「「氷結の槍よ我が敵を打ち抜け【アイス・ランス】」」」」」
分身が放った200を超える氷の槍が黒いゴブリンを串刺しにする。一撃では倒せない魔法だが、数が違い過ぎる。一匹に数十本の氷の槍を放たれれば黒いゴブリンでも抵抗できずに倒れていく。
黒いゴブリン、いやタイラント・ゴブリンは群れの数が1/3になると潰走を初めた。
しかし、逃げる指示を出す為に隠れてたリーダー各が村はずれの森から出てきたのだ。多分キングクラスだろう。他のタイラント・ゴブリンより遥かに大きい体をしている。私は転移を使ってソイツの背後に移動すると、容赦なく膝を撃つ。
しかし、血を噴き出して、膝をつくが、直ぐに立ち上がった。どうやら膝でも頑丈らしい。怒りと情欲の混じった視線を向けて来る。
逃げようとするタイラント・ゴブリンの悲鳴が響く。チラリとタイラント・ゴブリンキングが目を向けると、目を見開いた。逃げようとしてるゴブリンが次々倒れだしたのだ。一撃で首筋を切られて血を噴き出して倒れるタイラント・ゴブリン達。恐らくアリシアさんだろう。
「今まで悪さしてた報いは受けて貰うよ」
「グギャアアア」
私の言葉を理解出来るのだろう。雄叫びで返してきた。そして振り下ろされる棍棒。まるで丸太のような大きさだ。私は転移で背後に回る。
「求めるは絶対零度の牢獄【アイス・エイジ】」
竜杖で地面を叩くと、私達の周囲に氷が広がっていく。そして、その上に立つタイラント・ゴブリンキングは膝まで氷漬けになるが、全身が氷漬けになる前に無理やり体を動かして氷を砕く。しかし、砕いても砕いても氷はどんどん浸食してくるし、私は転移で距離を取り続ける。更に私は地面の氷からゴブリンキングに氷の槍を伸ばすが、余りの硬さに氷が砕けるだけだ。しかし、態勢を崩させる程度のダメージはある。
更に、このゴブリンは氷系の魔法に対する経験が足りない。物凄くやり難そうに動いて、無駄に体力を削る。地面を棍棒で叩き、氷を排除しても、直ぐに氷は元に戻る。私に突撃しても転移で距離を取られるし、凍り付いた地面は非常に歩きにくい。
「トドメ、術式解凍【飛翔】」
動きの鈍くなったタイラント・ゴブリンキングを【飛翔】の魔法で空に持ち上げると、私と分身達は詠唱を始める。
「~~~~♪」
久しぶりの音階詠唱。竜杖の杖の先に魔法陣が煌めき、累積していく。その圧倒的な魔力量にタイラント・ゴブリンキングはもがくが、【飛翔】で持ち上げてる為に、私をどうにかしないと解除出来ない。そしてタイラント・ゴブリンキングには遠距離攻撃の術が無い。棍棒も既に地面に落としてるのだ。
「レインボーブラスト」
虹色に輝く光が一条の光線となってタイラント・ゴブリンキングを焼き尽くしたのだった。
「ハアハアハア…やっぱり疲れる」
魔法を解除すると、地面の氷は解けて消えた。私は膝をついて休む。
「じゃあ私達は研究に戻るから」
「騙された。銃使って無い」
「抗議集会を宝物庫で開くべき」
ブツブツと文句を言いながら宝物庫に戻っていく分身達。だって私の腕じゃ誤射しそうだったから仕方ない。リボルバーだって扱いに気を使ってるのに自制心の無い分身達には好き勝手使わせれないよ。
さて、怪我人を治療しないと…
「グギャギャ!」
近くの木の影からもう一匹のゴブリンが棍棒を振り上げながら走ってくるのに気が付くのが遅れた。
私が咄嗟に転移しようとすると、ゴブリンは行き成り胸から牙の様な物が現れ、膝をつく。背後に誰か居るようだ。全く気が付かなかった。
黒いゴブリンは倒れる前に私に棍棒を投げつける。多分タイラント・ゴブリンクイーンなのだろう。凄まじい執念だ。しかし、棍棒は私に届く前にクート君の犬パンチで地面に叩き落とされた。やっと起きてきた…アレ?飛空船は50m位の高さを飛んでるし、召喚もしてなかったような。
「行き成り主の部下らしき輩に船から蹴りおとされたぞ」
どうやら船員が何で寝てるんだよ!と怒って飛空船から叩き落とされたようだ。クート君はあくまでペットだから特別扱いされないしね。アーランドでは飼い主と使い魔は扱いが別だからね。
いくら王族のペットでも悪さをすれば処分されるし、それに対して処罰される事も無い。多分私が戦ってるのに、何でコイツは寝てるんだと思われたのだろう。実際あの高さ程度じゃ落とされても、怪我すらしないだろうし。
「最近寝すぎ」
「どうせ主には敵わんだろう?ならば我が寝てても何も問題は無い。現に我が居なくても、どうとでもなるであろうが」
最近無駄に態度が大きいな。一度調教しないと駄目だね。半目で睨んでも足で体を掻いている。
タイラント・ゴブリンクイーンは信じられないと言う目でこっちを見ていた。確かにクート君も全く気配が無かったからね。それに居なくても問題がないのは事実だ。
そして、タイラント・ゴブリンクイーンはそのまま倒れた。まさか一撃で死んだの?
タイラント・ゴブリンクイーンの背後には…少年?多分10代後半の青年が立っていた。
魔獣の頭蓋骨を使った仮面に、ボサボサ髪。魔獣の毛皮をマントのように背中に付けている。両手には魔獣の牙を使ったと思われる鋭利なナイフを持っていた。彼がタイラント・ゴブリンクイーンを一撃で倒したのだろう。最も棍棒を投げるのは放置してたが。
「……」
「……」
異様な雰囲気が私と青年の間に流れる。村人よりも野生化したような感じの青年。もはやシャーマンみたいな恰好をしている。
「ありがとう?」
「オ前ㇵ誰ダ?村ノ奴ジャ無イナ」




