108 動き出す世界②
「シルニア共和国の残党の処理が終わりました」
帝国の帝都。そしてその中央にある帝城の執務室に数人の騎士が皇帝に跪きながら、内乱の終結を報告した。
皇帝は本を読みながら視線も合わせずに口を開いた。
「随分と手間取ったな」
「ドルドレッド将軍の捕縛に手間取りました」
「テメエが手間取ったんじゃないだろ?俺がコレクトしてやったんじゃねえか!シラケル事言うなよ。役にも立たなかった癖によ」
「そうだよ兄さんが居なかったらお前死んでたじゃん。折角収集した人形も大分壊されたし」
報告していた騎士を行き成り2人の兄妹が同時に蹴飛ばす。
兄弟は兄は茶髪で長身の男だ。チャラけた男にしか見えない。
妹は黒髪を肩ほどまで伸ばし、ゴシックロリータのような服を着た人形とも思える美少女だ。この兄弟が帝国が誇る第一騎士団団長と副団長だ。
彼等は偶然この世界に跳ばされた異界者だが、その際に女神から能力を奪っている。現在女神は力の殆どを失った影響で、異世界人に能力を与える自由も無い。
本来なら数年に一度か数十年に一度くらいの割合で異界者がこの世界に迷い込む。それに対し女神はこの世界で少しでも暮らしやすいように何かとサポートするのだが、皇国の過剰な勇者召喚の影響で存在にエラーが生じてるのだ。
兄は授かってしまった。女神が人には与えないと決めていた能力を、世界を混乱させる能力を。
彼等は帝国で頭角を現し、今の地位になった。逆らう者は全てコレクトされた。魂を改ざんされ、人形にされたのだ。
最もそれは与えられた能力だ。アイリスのように自分の英知で魂に干渉出来た訳じゃ無い。故に制限も有った。
例えば目の前の皇帝は人形に出来ない。帝国の皇帝も精霊と契約してるのだ。
精霊の恩恵は凄まじく、魔法での洗脳は殆ど効果が無い。如何に力の弱い精霊でも契約者の魂を改ざんする事は許さないのだ。最も薬や暴力には対して役にたたないから抜け道はいくらでも有るが、彼等は取りあえず皇帝に従っていた。
(面白れ~アイツ馬鹿だろ。まあ今は使われてやるよ。どうせ俺の国になる訳だし)
(だよね~もう殆ど人形になってるのに気が付かない馬鹿だもんね)
兄弟は唯従ってた訳じゃ無い。女神の力には制限がある事もあり、強い力は割と顕著だ。だから無暗に使えない・使い勝手の悪い能力だと誤魔化してるのだ。検証した魔法使いすら自分の意のままに操れる彼の能力は国盗りにはもってこいの能力だった。
「まあ、俺達が揃ってれば大抵の奴はコレクト出来るけどな。あ~補充よろしく」
「分かった。国内の冒険者を偽の依頼で集めよう」
兄弟は背中越しに手を振りながら執務室を出る。決して皇帝を敬っていない。
「では、何時アーランドを亡ぼせる」
「各地に派遣した騎士団・傭兵団に冒険者や盗賊崩れも動員されますので…それに我々も300万の軍を動かした経験がありません。4か月程時間を頂ければ」
騎士の発言に皇帝はコツコツと指で机を叩いた。
「そうか。アーランドさえ居なければ大陸の統一も近いな」
「…しかし、念の為にも魔法王国や皇国に援軍を要請した方が…その方が多くの軍勢で蹂躙出来ますが」
「要らん。余は皇国と手を切る。王女さえ手に入れれば皇国の力も魔法王国の魔導も不要だ。あの王女ならばドックの魔道戦艦も甦らせる事が出来るやも知れん。
ならば、あ奴等に分け前をくれてやる必要も無いだろう?」
皇帝の頭にはアーランドを亡ぼした後の事しか無かった。アリスティアを手に入れる。さっきの者達には王女を支配するのは不可能だろう。精霊が付いてる王女に能力が使えるとは思なかった。自分に効かないのだ。王女にも効かないだろうと皇帝は考えていた。
しかし王女と言うように女だ。しかも子供である。従わせる事は可能の筈だ。痛みでも快楽でも国民を人質にするでも魔法を使わない方法はいくらでもある。
パタンと本を閉じる。
「早急に準備しろ。余自らが出陣する」
兄妹は笑いが止まらなかった。無能な皇帝は簡単に動く。
「それで、兄さんはどう動くの?アレって絶対アイリスでしょ?」
「だと思うね。普通に考えて戦闘機はあり得ねえだろ。機材も無いし、一般人じゃ設計図すら手に入らねえ…だが、アイリスなら可能だろうよ。この世界は魔法何てスゲェ物があるんだからな。あのイカレタ科学者が食いつかない訳がねぇ」
皇帝は知らない情報。彼等が皇帝の耳に届けさせなかった情報だ。
「でもアイリスってかなりヤバく無い?」
彼等はアイリスを知っている。だから彼女の脅威も想像できる。但しそれはあくまで想像だった。兄妹は直接アイリスに接触した事は無い。接触する前に…正確には手に入れる前にアイリスは逃亡し、事故死したからだ。故にアイリスも兄妹の事は何も知らない…興味も無かったからだ。
「まあ、あの家族狂いの女だからな。家族の為に名声も何もかもを捨てた女だ。もし本人だったら手こずるだろうな。
だけど、アイリスなら家族は致命的な弱点だ。幸いドラコニア用のカードは集まってる。俺達の勝ちだよ」
城を出ると兄弟が自分達の為に作った騎士団が無表情で立っていた。
Aランク冒険者か、それに相当する騎士や傭兵300人
Sランク冒険者か、それに相当する騎士や傭兵20人
世界に20人しか居ないSSランクの冒険者5人
それがドラコニアを捕まえる戦力だ。かつて最強と呼ばれた冒険者にして、国王のドラコニアは彼等に屈するだろう。それを操ればアリスティアを手に入れるのは容易だと思えた。
「今度こそ俺の女にしてやるぜ」
「だよね~後は皇帝ちゃんを適度にけしかければこの国も私達の物だね」
拓斗視点
「駄目だ拓斗。このままじゃ捕まる!」
和仁は半狂乱で突進しようとしてる拓斗を羽交い絞めにして引き摺っていた。
ここは魔法王国のとある研究所だ。彼はそこで二度と会いたくない人物に出会った。彼は拓斗には興味が無いように研究の手すら止めずに警備を呼ばれたのだ。
元々は優れた人物が居る。唯、一切表に出ないし、何に優れていうのか分からないと言う曖昧な情報を元に潜入したのだ。アイリスなら不思議は無い。地球でもイリスの性格等は余り知られていない程に表に出なかったのだ。
「アイツが!アイツが…」
聞き分けのない拓斗を和仁が思いっきり殴る。
「いい加減にしろ、アイリスの間違いだろ!今更あんな奴に構ってる暇があんのか?このままこの国に居るととっ捕まるぞ」
「………分かった」
兎に角走った。途中に仲間と合流して、城壁の一部に穴を開けて逃走した。2日間程逃げるとどうやら逃げ切ったようだ。
拓斗が皇国から解放した異世界人は当初100人程居たが、旅の途中で寄った村に定住を決めた者や、追っ手に殺された者・この世界で目標を得て、拓斗達から離れた者も居て現在は70人程まで減っていた。
「…スマン」
「お前の目的はアイリスだろ。この旅をここで終わらせるつもりか?」
火を焚きながら各自が食事を取ってる。拓斗や和仁に舞は基本的にリーダー的な存在なので、一つに纏って居る。今後の行動等を話し合う事があるからだ。
「でも、無駄じゃ無かったわよ。多分アイはアーランドに居ると思う。確実とは思わないけど…可能性が一番高い」
下を向きながら食事を取ってた拓斗が顔を上げた。その顔には疲れが出てる。でも希望が見える眼をしていた。
「本当か?」
「何かあの国ピリピリしてたでしょ?アーランドが魔法技術を盗んだって事らしいけど、新聞を買ったら…私達の世界の技術が使われてた…この世界には飛行機なんて存在しないでしょ?」
舞は拓斗に新聞を渡した。
内容はアーランドの王女アリスティアが魔法王国から盗み出した飛空船の技術を使い飛空船を甦らせると言う功績を魔法王国から奪ったと言う物だ。
更に魔法王国が異世界技術として研究していた飛行機も盗んだと罵倒するような新聞だ。王女を糾弾し、彼女を捕らえ技術を取り返さないと王女は魔法王国の技術を使い続けるだろうと書かれていたが、拓斗が気になったのは飛行機の写真だ。
この世界でもカメラはある(恐ろしい程高価)これはオストランドで撮影された物だと前書きされていたが、航空機がドラゴンを攻撃している所が撮影されていた。
「ちょ、コレ第二次大戦末期にアメリカが作ったXP-72じゃん。設計図何か手に入る代物じゃ無いぞ?それに…大分手を加えてるな、アレを強化改修した物か?明らかにオーバーテクノロジーだぞ!」
仲間の一人がそれを知っていたようだ。色々と知っている事を拓斗達に話し出した。
曰く、この世界の技術レベルではエンジンすら作れないし、燃料もオイルも無いこの世界で運用出来る物では無いらしい。
「これは、魔法王国でも無理よ。よく分からないけど、あの国が研究してたのは複葉機だったんでしょ?」
舞の発言に拓斗と和仁が頷く。確かに魔法王国は飛行機も研究はしていた。しかし、研究者は既に死んでるし、異世界人ならば誰でも作れる代物では無い。古い異世界人が概念を持ち込んだ物だ。あの男は遺伝子とか医学方面の専門だから何処まで協力してるかは分からないが、ガソリンとオイルと言う物が無いので作れないだろうと拓斗は判断した。
「でも、アイリスならジェット機を作るんじゃね?凄いらしいが、所詮はプロペラ機だろ?」
「……これを作ったのがアイリスなら、多分それはしないと思う。誰が整備するの?あの子が作った分だけ全部整備するの?工場はどうするの?作れる可能性を考えると現実的じゃ無い…と思うけど…あの子は何するか分からない所があったから断定はできないのよね」
舞の指摘に和仁は頷く。アイリスは面倒な事にはとことん関わらなかった女だ。自分の仕事を無暗に増やす事はしないし、そんな非効率的な事はしないだろう。
「そうだな、アイリスが優れてても周りが追い付けなければ意味は無いか。こっちはアイツが居れば何でも出来る程成熟した技術力を持って無いようだしな。しかし、よくアーランドも作らせたな。中央じゃアーランド脅威論でいっぱいなんだろ?」
大陸中央はアーランドに対して敵対的な国が多い。理由は多くの種族が区別はあるが差別自体は禁止されてるからだ。種族柄どうしても苦手な相手、例えば虎の獣人と兎の獣人などは相性が悪い。等があるので、なるべく離れて暮らしましょうね程度しかない。公に差別をすると叩かれるのだ。放置すれば自分にも被害が出るから。
だが、中央では亜人と蔑まれ、国によっては許可さえ取れば自由に奴隷化する事も可能なのだ。劣った亜人は普人に従えば良いと言うのが中央の主流な考え方だ。
しかしアーランドは違う。しかも軍事力は帝国ですら無視出来ない。そんな中、色々と革新技術を生み出し始めたアーランドは今後更に他国との溝を深めるだろう。
「しかも中央に抵抗する為に他の国と同盟を結んだらしいぞ。飛空船を餌にしたらしい。
これも魔法王国からしたら大激怒してるぜ。何でも王女は演説で簡単に作れたと発言したらしいからな」
拓斗は少し考えた。
「…表に出てる王女がアイかはまだ断定できない。アイなら表に出ないし、知らない他人は助けない。アイって余り他人を信用しなかったし」
確かにアイリスは誰かを頼る事は余り無かった。自分で出来る事が多く、自分でやった方が効率的だからだ。
「そりゃそうだがよ、このままじゃ永遠に見つからないぞ?何時までも放浪する訳にもいかないんだ。皆疲れてる」
「そうよ。アーランドなら、多分だけど私達を保護してくれるかも知れない。最悪私達が手を貸せば皆は平穏に暮らせるわ。一度拠点を得るべきよ」
拓斗を頼った異世界人も放浪する生活を続ける事は出来ない。何時襲撃されるか、何処で死ぬのかも分からない生活はいくら皇国や教会を憎悪してても続けられない。何処かで明日への希望を得なければ、この集団は瓦解するだろう。
「そうだな。あそこで俺達の事を話せば保護が得られるかもしれない。非戦闘員も居るんだ。そろそろ拠点も必要だろう。最悪俺は別行動でアイを探せば良いし」
「俺達も手伝うぜ。アイリスには世話になったしな。アイツが居なかったら確実に高校落ちてただろうし」
「アンタは単に勉強が嫌いだっただけでしょ。
私は…そうね、何も相談しないで勝手な事をした挙句に、黙って居なくなった事を叱らなきゃ。友達だと思ってたのに……私だって怒る権利位あるでしょ?」
拓斗達は今後の方針を仲間に伝えた。拠点を得る事を。誰も反対しなかった。皇国や帝国の影響が無い国はこの大陸では殆ど無い。危険な国だが、だからこそ自分達を保護してくれるかもしれないと思ったのだ。
そして彼等は再び目的ある旅を続けた。




