10 夢と終わり
私は薄暗い場所に居た。そこはテレビの砂嵐が混じったような場所ですが少しだけ見えます。
私は謁見の間のような場所で立ってます。当然玉座と呼べる椅子はありますがそこに居る人の顔は砂嵐のように乱れて私には見えません。椅子は黒を基調とした豪華な椅子ですが何か禍々しく所々朽ちて居ますし座ってる人も心なしか憔悴しているようでした。
「そ…新…魔……ならば………えよ我等の…救…終わらせよ」
聞こえる言葉は断片的でよく聞き取れませんが何か私に懇願するような口ぶりで私に話しかける。
「誰?」
「そな…我の…ならば…真実を…が来る」
上手く聞き取れない。それにどんどんこの場所の砂嵐が酷くなり認識出来なくなっていき私は意識を失った。
再び目を覚ました時、私は知らない場所に居た。えっとテントの中なのでしょうか?私はオーガキングと戦ってたような…それに何か夢を見ていた気がします。
「起きたか…」
「お父様?」
私の寝てるベットの横にお父様が椅子に座ってました。
「動くな、傷は治りきっていない。戦いなら2時間程前に終わっているし魔法師団やシルビアも無事だ多少の被害は出たがな」
どうやら私は気絶してたようです。
「うぐぅ…」
急に動こうとすると体中が痛く呻き声しか出ません。きっと私の限界を超えたのでしょう特に右手と左足の感覚がありません。
私はそばで残ってた光と水の精霊と精霊魔法【癒しの光】を使い傷を治します。本来癒しの光は光の精霊だけの魔法ですが私はそれに水の精霊の力も合わせてるので治るのが早いはず。
癒しの光は本来白い光の球体が傷を癒すのですが今回は淡い青色の光が私の体を包みます……使い始めて10分位で光が消え私の傷は消えました。
「相変わらずだな…これがお前の切り札か?」
「光は兎も角、水の精霊は補助の特性を持ってるので2つ同時に使えば大抵の傷は治せます」
もう2度とこのような使い方はしたくないけど…
「…はぁ…俺の言いたい事は分かるな?今回の件、結果は良かったが一つ間違えばお前は死んでいたし俺の言いつけを破った。当然お前に罰を与えなければならんがこれは城に戻ってからにしよう。今日はこのまま休め」
まあ当然でしょうね。私は後悔こそしてませんでしたが罰は受けるつもりです。と言うとお父様は溜息を吐きテントを出て行った。私の行動は終わってないのだが疲れて気が付かなかったのだろう。
お父様が出て行って10分くらいすると私はベットから起き上がり服を着替えます。当然と言うか着てきた服はボロボロなのでいつもの私服…シャツにスカートと青のマント(王族限定)を着てテントから出ました。
「何処へ行くつもりですかな?」
「…見つかった」
まさか最初から見つかるとは…はい普通警備が居ますね。
「大人しくテントに戻ってください姫様」
振り返るとアルバートさんが額に手を当てながら私に話しかけてきました。遅れたがアルバートさんは爵位、それも侯爵の地位を持ってる人だ決して警備兵のような仕事をする人ではないのだが…
「まだ仕事が残ってる。怪我人を治療しないと」
「それは医療兵がやっております。姫様が無理をして行う事ではありません。まして姫様は先ほどまで生死の境を彷徨ってたのですぞ、なれば今は自身の身を案じてくだされ」
確かに怪我人は大人しくしておくべきだろうが私の怪我はもう治ってるし魔力なら3割くらい回復してるのと今回のスタンビードで私はもう戦場に出ないだろう、ならば魔力を全部治療に回しても問題ないと思うんだけどな。
「怪我は治ったしどうせ残党狩りには出れないから負傷者の治療をするのが効率的です」
「流石は姫様、崇高な精神をお持ちですがご自分の事を考慮していただきたい」
「もう怪我は治ったから大丈夫」
「ですが本調子ではないのでしょう?儂の目は誤魔化せませんぞ。それに姫様の精霊も殆ど魔力が残ってないのでは?」
そうですね。光と水の精霊は魔力の残りが3割で他の精霊は魔力切れで休眠中らしく何の反応も返しませんし私もそこまで体調が良いわけじゃない。流石に疲れまでは癒せなかったみたいで少しダルイけど動けない程じゃない。
「正直に言うと疲れてる…でも動けるなら動く、私だけが休むなんて出来ないし治療兵自体少ないんでしょ?なら私が働けば早く終わる」
「…はぁ…分かりました。なら儂は姫様の警護として付いて行きます。ここも絶対安全とは言えないのでな」
そう言うとアルバートさんはマントを翻して私の前を歩いていく。多分案内してくれるんでしょう。そう言えば私は負傷者の居場所を知りませんし断る理由も無いですね、どうせ今魔物が攻め込んで来たら私は疲労で戦えないでしょうから。
歩くこと数分で負傷者が集められた場所に着きました…正直見たくない光景ですね。私の知識的にはもう少しまともだと期待してましたが辛うじて怪我の場所に布を巻いた人達が地面に座ってたり地面で呻くだけの人とか居ます。
「怪我人を今にも死にそうな人と治療しないと死ぬ人、猶予がある人、軽傷の人で分けて重傷者から運んできて…重傷者は担架を使って無暗に扱わない事」
私は近くの兵士達に指示を出す。まあ私が怪我人の居る所に来るのは何時もの事なので苦笑いしながら指示通りに動いてくれる。それと私は治療兵にも指示を出す。
「能力別に分かれる…軽い怪我しか治せない人は軽傷の人を優先的に治療で、それ以外は中程度の怪我人の治療をして。私は重症の人を治すから」
何か治療兵の人達は手当たり次第に治療してたらしく皆バラバラな行動を取ってたので統制を取ってみた。多分このやり方で合ってる筈?かな。
「それと姫様に魔力ポーションを持ってくるように」
「要らないもう4割ほど魔力が回復してるから…それに今回は重症の人だけ治療するからね」
魔力ポーションなんて高級品は要らん自分の魔力回復スピードなら無くてもそこまで困らないし治療兵の人達の練度を上げるために私は命に係わる人を治療する…出来れば全員治療したいけどアルバートさんは疲れと魔力を理由に止められるでしょうから。
さて治療ですが視覚的に気が滅入る光景ですね。一言で言うとグロイ…まあ普段から怪我は見慣れてる私ですがここまでとなると実は初めてですね。実際半歩ほど下がりましたし。
この世界の治療自体はとても簡単だ。基本的に治癒魔法さえ使えれば大抵の怪我は治せるので前に居た世界のように高度な技術や知識は必要ない。けれど治癒魔法は使い手次第でかなり効果が変わる、例えば軽い切り傷しか治せない人も居れば部位欠損すら治す人も居るらしい。(術式を知らないので私は使えない)私は部位欠損さえしてなければ大抵の怪我は治せるし限定範囲の敵味方識別型治癒魔法を作ってるのでそれで一気に終わらせましょう。
「水よ光よ我が意志に従え、我が意志と汝の力を持って世界の理を覆せ。【癒しの閃光】」
重症者を集めたテントが猛烈な光に包まれる。お父様曰く目潰しを含んだ治癒魔法と笑われた魔法だが効果は高い。きっとこれで殆ど治るだろう………眩しいので帰ったら改良しよう。
「⁉…姫様一体何を」
アルバートさんが何か言ってますが無視です、どうせ終われば分かりますしね。
光が収まると床に横たわってた人達が起き上がります……目を抑えて転げまわってる人も居ますね…すみません警告を忘れてました。怪我が治ったので許してください。それにこの光自体治癒魔法なので目が潰される事はありませんからアルバートさんはそんな責めるような呆れるような目で見ないで。
「理不尽な魔法ですね。これで部位欠損さえ治せれば完璧なのでは?それに外に居た怪我人で光を浴びた者達も治ったようですな」
「便利だけど欠点もある。一番は魔力の消費が激しいのと触媒を10枚使う。もう魔力も触媒も残って無い…命には変えれないけど竜素材の触媒は高い。」
それに知識不足で改良も難しい…嗚呼専門の魔道書が欲しい
「贅沢な使い方ですな…ですが魔力が切れた以上、テントで休んで貰いますぞ。これ以上此処に居ても意味はあるまい?」
そうですね。流石に疲れました。
そうして私の一日が終わった。次に目が覚めたのが4日後だった時は驚いた。




