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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
大魔導士エイボンと過去
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103 アイリスの過去 終 少女は転生を望まない

 アイリスが研究所を脱走して1週間が経った。世間はそれなりの混乱が起こっている。

 モモニクⅡは政府や研究所が秘密裏にアイリスを捕まえる事への対策として、アイリスの失踪を証拠付きでネットワークに流したのだ。

 天才少女の失踪として、そこそこのニュースになったが、アイリスの映像等はここ数年間のデータが無い。モモニクⅡは抜かりなく全ての映像も破棄してたのだ。最もアイリスが過度のメディア嫌いで徹底的にマスコミの前に出ない事も影響していた。


「…暇だわ」


 何処かの町。そこは日本でも未だ平成の色を濃く残す所にアイリスは居た。戻るべき場所は無い。しかし金なら腐るほどある。研究ついでに各国の銀行に隠し口座を作ってるので、そこから捜索するのも手間取るだろう。クレジットカードの類も持ってない。と言うか使う事が無かった。

 身分証は最低限だが、アイリスは現在偽造の身分証を持ってる。ご丁寧に本物と同品質で、調べられてもデータを改ざんしてるので足がつかない。本物を自分で作ったとも言える物だ。これが無いと補導されてしまう。

 アイリスは18才になった。しかし、昔とさして変わらない風貌だ。ぶっちゃけ幼く、子供にしか見えない。しかも長年の引きこもりのような研究生活で肌は白いし、目元には濃い隈も出来ている。不審者さんだ。


「マスター、どうやらそちらに警官が向かってるようです。その先を右に回り、ビルの間から違う道に出てください」


 警察無線を傍受したモモニクⅡはアイリスの逃走を誘導していた。

 相手は警官。顔までは隠してない…そもそもアイリスは向こうの言いなりになる気が無いだけでどうでも良かった。唯、自分の親が反対したのなら、自分はそれに従うべきと言う程度で逃走してるのだ。

 その虚ろな瞳には何も映らない。何も取り戻せなかった絶望感と激しい後悔。それだけしか残って無かった。


(悪い事をした自分が拓斗の所に戻るのはイケナイ事だ。どっかで静かに暮らそうかな?でもアイツ等アフリカまでも平気で追っかけて来そうだし)


 今のアイリスには未来のビジョンが無かった。どうせ捕まるのも確定的に明らかだ。如何に稀代の発明品であるモモニクⅡの手助けを得ても、逃げるのはアイリスだ。今は欺瞞情報や無線に偽の情報を流して混乱させてるが、一人で逃げれる程、日本の警察等は甘く無い。いずれはトリックに気がつかれ、対策を講じるだろう。今の自分にはお金は有っても機材は無い。流石のアイリスもパソコン一つ無い状況では逃げるしか出来なかった。そして逃走生活でパソコンを持ち歩くのは邪魔であった。どうせ捕まる。それなら出来るだけ逃げれば良いのかも知れないとトコトコ歩いているだけだ。

 通りに出ると一人の少女…歳は10に届くか届かないか程度の子供がポンポンとボールを地面に投げて遊んでいた。

 ちょっと懐かしくなった。涙が出そうだった。でも危ない事だ。仕方ないちょっと注意して近くの公園とかに行くように言おうかなっと珍しい事を思い、少女の元へ歩いて近づいた。


「っあボール」


 ちょっとした風が吹いた。少女はボールを取りこぼして道の端から車道にボールを追いかけて出てしまった。そしてよく有る光景が見えた。車は行き成り飛び出した少女を轢いてしまうだろう。

 アイリスなら助ける事は無い。あの子は知らない子だ。アイリスの世界には居ない人物だ。

 だけど体が動いた。もう何年も運動らしい事をしてない体が悲鳴をあげる。でもアイリスの脳裏に映ってしまったのだ。悲しむ両親が。自分の反対の経験を受ける人間が居る事を理解したら止まれなかった。


「駄目‼」


 ドーンと少女を道路脇に突き飛ばし…アイリスの人生は終了した・・・いやする筈だった。






「何処よここは」


 アイリスは憤慨していた。自分の死は確定的に明らかな事である。死の直前の記憶もある。あの車のスピードと自分と衝突した箇所から助かる事は無い…それに、アイリスの体は過去の物だった。そう子供…まだ幸せだった頃の状態である…尚、大して成長はしてなかった模様。

 アイリスは死後を信じない。神を信じない。死後など存在しない物だと確信していたからこそ、両親を再度生み出すと言う狂気の研究をしたのだ。だが結果は、死後自分が存在していると言う事実だった。アイリスからしたら今までの努力も苦悩も全て嘲笑う事だった。


「いや~勝手に死なれると困るんだよね」


「ッシ‼」


 反射的にアイリスは背後に居た存在に裏拳を放った。何かは分からない。だけどこんなふざけた事実を見せつける者は全てが敵だ。だが、その拳は何かに弾かれた。


「いやいや、何で初対面で裏拳?と言うか君はそんな野蛮な性格じゃないだろう」


「五月蠅い‼さっさと私を終わらせてよ。何でこんな事をするのよ‼」


「いやいや、だから勝手に死なれても困るんだって。そもそも君はあそこであの少女を見捨てる筈だろう。君ならば見ず知らずの人間がいくら死のうが気にも留めないのに何で勝手な事をするんだって僕が怒りたい…と言うか嘆きたい所なんだけど」


 言う通りだった。アイリスの世界は非常に狭い。例え銃が乱射される世界で、目の前に人が倒れてても鼻歌を歌いながら買い物をするような性格だ。自身と周りの人間が居れば、それ以外の全てが亡びても何も感じない…筈だった。

 そこについてはアイリスも反論出来ない。自分も何故あのような事をしたのか理解出来ないからだ。


 それはテトと名乗った。世界を作り管理し、自立を促す存在だと。アイリスは再び殴りかかった。コイツが神だと。全ての元凶だと思ったからだ。だが、何かの力で拘束された。

 テトはアイリスに提案した。新しい世界に跳んで欲しいと。彼女が渇望した優しい世界だと。そこには新しい家族も居る。君に力もあげると。

 アイリスはアリスティアとは違った。答えはNOである。アイリスの親は2人だけだ。家族はそこにリムが入って4人だけだ。それ以外は家族じゃ無い。他人だ。受け入れる訳が無かった。


「いやいや、だって新しい人生だよ?君が渇望した家族だよ?確かに君の両親じゃないし、あの世界の構造的に君の両親を蘇生させるなんて不可能なんだから諦めて新しい世界で人生エンジョイしようよ。代わりにブベシ‼」


 話は終わらなかった。終わる前に拘束を気合いで解いたアイリスの拳がテトの顔面にめり込んだ。先ほどより威力は高かった。


「死ね」


「残念だけど僕に死の概念は今の所無いかな?まあ殺す方法が無い訳じゃ無いけど個人で殺せる存在じゃないんだよ。勇者とか魔王とか英雄とか数多の世界に存在する強者でも単体では僕は殺せない。僕は概念だからね。君の隣に居る事もあるし、上に居る事もある。存在してるし存在しない。殺しようがないさ…って痛い痛い。死ないけど感覚は有るんだから辞めてよ‼」


「フー」


 再び拘束された。鎖のような物がテトの手のひらから出るとアイリスを雁字搦めに縛り上げた。


「あたた、全く話が出来る状況じゃないね。仕方ない。君には悪いけど勝手に向こうに送らせて貰うよ。向こうもちょっとヤバいんだよ。このままじゃ、あの世界は停滞するか自滅する。君には本当に悪いけど波紋を起こす石になってもらう。あの世界に干渉するのもこれが最後だからね。それと君に向こうの知識もあげる。そうだ魔法にしよう。それが良いね」


 説得不可能だと判断すると、アイリスの頭の中に魔法の情報を送り込んで、あっさり消える邪神テト。アイリスにとっては迷惑極まりない存在だった。


「だけど、これだけは言っておくよ。僕は君の両親の死を知っては居たが、決めたのは僕じゃないからね。僕だって出来る事と出来ない事は明確に分かれてるんだから…本当は君の蘇生とかやっちゃいけない事なんだけど…でも君に少しの可能性があるのなら…また会えるかも知れない。だから諦めないでほしい」


 消えながら何かを話すテト。しかしアイリスはテトが消え始めると同時に意識が霞み始めていたので最後の方は聞こえなかった。



 再び目覚めた。アイリスは一人だった・・・いや2人目が居た。そこはテトの知識に有った新しい命の中。つまりアイリスは生まれる前の状況と言う事だ。

 そしてアイリスの隣でミイラ化してる魂。恐らく何らかの要因で紛れ込んだのだろう。

 更に言えば、この状況はテトの思惑通りでは無い。生まれるまでに頭を冷やせと言う期間なのだろうが、アイリスは魂の存在を知覚してしまったのだ。更に魔法である。魔法が技術だ。そして技術はアイリスの手足と成りえる。つまりアイリスはこの場で死ぬ事も出来る。しかし、それは無駄だと判断した。この世界は魂が循環してる。アイリスは何となく察していた。テトがこの空間に送ったのも自分に知識を与えたのも自殺は出来ないと言う事なのだから。

 しかしテトはアイリスの全てを見てた訳じゃ無かった。だからアイリスの考えてる事は理解出来なかった。錯乱状態だったアイリスには言葉は通じないと早々に逃げたのが原因と言えるだろう。


「なら、この私の魂とそこのゴミの魂を混ぜれば新しい魂を作れる筈」


 アイリスは狂気を含んだ微笑みをしていた。自殺は不可能。しかし、魂があるのなら、そこには構造が有る筈だ。それを解析出来れば2つの魂を分解して組み合わせる事が出来る筈だと考えたのだ。

 自分を殺すのではなく作り変える。魂のレベルでだ。アイリスは知らないが、アイリスの送られる世界でも行われた事の無い事だ。それをアイリスは行ってしまった。

 魂は人には作れない。人の居る領域では生み出す技術が無いからだ。多分人間より上位の存在が居るのか、世界から発露するのか。そんな物は考えなかった。唯バイクのようにバラバラにして意識だけ残す。隣のゴミも一緒にだ。そしてそこから新しい魂を組み上げる。


(新しい子は優しい子が良いわ、他人を思いやり、周りを守れる子が良いわね。この子に私の知識を全てあげる。でも魂の魔法は駄目。この子は私と同じ事をするべきじゃ無い。私は悪い子だから消えるだけ。だってパパをパパと呼べない子供なんて不要でしょ?子供に親だと認められないのは不幸だわ。だから…だから)


 アイリスは新しい魂に祈りを込めた。そう有って欲しいと祈りながら組み上げた。自分はもう幸せになるつもりは無い。疲れ切ってしまった。目的を失ってしまった。目的の無い自分は虚ろな人形だ。何も出来ない。だから次の自分には幸せに成って欲しかった。

 そして残った魂で魂モドキを作った。流石に魂のパーツが余ったのだ。更に新しい魂を組み上げた後に判明した事だが、謎の魔力が紛れ込んでいた。一度アイリスを取り込もうとしたが、今のアイリスは呪いの塊の様な状態で、弾き飛ばした。

 自身から世界を呪う部分以外を『彼女』に使った為だ。当然この世界だから意志の力で弾ける。ここはそう言う場所だ。だからテトに拳が届いた。しかし生まれたら多分彼女は暴走するだろう。だからこの黒い物はアイリスと予備で作った物で封じ込める。

 魂モドキは汚染される事は無い。感情も無い唯の模造品程度の出来だからだ。だからアイリスの力が弱くても大丈夫だろう。


「ちょっと失敗しちゃったけど、これくらいなら大丈夫でしょう。少しは人生にもスリルが必要じゃ無い?貴女次第でどうとでも出来るわよ。それにもし駄目だったら私が助けてあげる」


 全てが終わる頃。アイリスはアイリスじゃなくなっていた。テトのように姿がボヤけ、少女と言う風貌程度しか残って無かった。

 尚アイリスが使った魂は先代魔王の物だと言う事をアイリスは知らなかった。アイリスにとって自分の…新しいあの子の魂に入った不純物である。慈悲として意志だけは残したが、魂の劣化が激しく何かに注意するような言葉を呟いているだけだ。五月蠅かったのでこの世界の境界まで引き摺って行った。


「ちょちょちょ‼何してんのさ‼何で君が魂に干渉出来るんだよ」


 全てが終わった頃、テトが再び訪れた。テトとしては落ち着いたかな?じゃあ説得しちゃおうかな~程度の訪問である。しかし目の前には新しい魂と魂が欠損して意志だけの存在になったアイリスが居たのだ。テトは驚いた。流石に魂に干渉して新しい魂を生み出す何て、テトも予想出来なかったのだ。


「あら、邪神じゃないの。何って私は一言も貴方の言いなりになる積もりは無いんだけど?この子で良いでしょ?私の殆どを贈って作ったのよ」


「だから‼何で君がこんな事が出来るんだと聞いてるんだ‼これは準神レベルの存在じゃ無いと行えないのに…君は分かってるのか、君は神にでもなれる可能性があると言う事に」


 テトは憤慨した。もしかしたら自分の居る領域に辿りつける可能性を持っていたアイリス。しかしアイリスはそれをゴミのように扱うのだ。路傍の石ころを見る様な意志がアイリスから漂ってる。


「どうするの?何度も言うけど私は貴方の言う事なんて絶対に聞かないわよ?寧ろ貴方何で死なないの?死んでよ」


「さらりと酷い事を言うね。僕だって代われる物なら変わって欲しいくらいだよ。ハァ……何でこうも上手く行かないのかな。もう良いよ、この子で良い。だけど君は表に出す訳には行かなくなった。人が魂を弄るなんて何処の世界でも許されない。君は感づいてるようだけど、それを向こうの世界で行われるのは困るんだ。変質した魂が循環しだしたら目も当てられない。僕だって世界に干渉し過ぎる訳にもいかない。管理者には管理者の規則があるからね…だからこの子に行ってもらうよ。」


 ニヤリと笑うアイリス。既にモモニクⅢと命名したアシストはアイリスの魂内に隠してあり、テトも詳しく調べないと分からない程の隠蔽ぶりだ。

 そしてテト自体もこの件でかなり混乱し、当初の予定とかけ離れた物になった為に、その存在まで調べなかった。


「君にはこの子に溶け込んで貰うよ。後は僕の方で何とかするよ…ハァ…折角同族が出来るかも知れないと思ったら今度も駄目か。もう良いよ期待するのは辞めようどうせ僕だけでもどうにでも出来るんだ」


「別に良いわよ。この子の為になるのならね。但しさっきも言ったけど貴方の思い通りには動かないからね」


「もう良いよ。兎に角この子にその魔法だけは教えないでね。本当に世界を改変しかねない危険な物なんだから。

 僕は僕でこの子に頼むよ。君の事は話さないでおくから…じゃあね暇だったらまた来るよ」


「邪神と慣れ合うつもりは無いから」


 切り捨てるアイリス。とことん嫌いなようだ。

 とぼとぼと歩いて行くテト。どうやら隅っこに捨ててきた魂は本気でどうでもいいみたいで話題にすらならなかった。

 こうしてアイリスはアリスティアに変わった。過去は呪いは全てアイリスが受け持ち、生まれたばかりの魂に祈りを託して。

これで過去編は終了です。長らくお待たせしましたが、今後は通常に戻ります。

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