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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
大魔導士エイボンと過去
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101 アイリスの過去⑪ 愛犬の誇り

 気がつけば葬式などは終わっていた。両親の遺体は余り見れた状態では無かったがアイリスは見ていた。

 まるでテレビを見ているような感じだった。感情が欠落し、現実感は失われていた。当然そんな状態では涙も出ない。アイリスは心を閉ざす事しか出来なかった。

 意外とカールス達の葬式には人が来た。彼等はカールス達の棺に縋り静かに涙する者や、アイリスを残すのか‼と怒る者等が居たが、総じてカールスや静を思っていたようだ。アイリスは少し離れた所からそれをじっと見ていた。

 何も感じない。急遽な心は誰の言葉も響かない。多くの人が話しかけたが、アイリスからの返答は無かった。

 確かカールスの居た研究所からカールスの代わりに来てほしいと言われたような気がするが、周りの人達にボコられた。

 モモニクはそれを見ていた。

 彼は身内の死を見慣れている。彼には5匹の兄弟が居た。だが、今は居ない。実験動物だった彼等は薬の副作用などで死んでいるのだ。

 モモニクもアイリスの気持ちがよく分かる。家族の死、それは自分の一部を失う事だった。モモニクは人を拒絶し、廃棄品になった身だ。彼は人に準ずる知能がある。だが、それを知ってる人間は居ない。研究は失敗だったのだ。何故なら知能を手に入れたモモニクがそれを示さなかったから。

 自分の家族を殺した者達を喜ばせる事等、モモニクはしない。全ての試験に不合格。それがモモニクがアイリスの元に来れた理由の一つである。成功品だったら手放せない。モモニクは科学によって生まれたような物だ。


 アイリスの元に人が訪れ始めた。まずはトレッドがカールスの両親の遺産等を処理し、アイリスの物になった。聞いた事も無い人がアイリスの親縁だと押し掛けた事もあったのだ。最もアイリスには家族は居ない…いやモモニクだけだ。リムも亡くなってしまった。

 カールス達の事故は警察も調べたが、普通に事故だった。前日の雨で崖が崩れたのだ。日本なら年に数回は起こるよくある事だ。それにカールス達が巻き込まれただけ。

 誰も憎めない。世界は唯、アイリスには優しく無いだけだ。アイリスは天才と言えるだろう。しかし、アイリスに世界が合わせる事は無い。誰もが平等と言えるのが死なのだ。


「アイリス…ご飯持って来たよ。ちょっとは食べないと」


 アイリスは自分の物になった屋敷に戻っていた。しかし一人で住むには広すぎる。今までの暖かさを失った屋敷はアイリスの心を大きく抉る。

 本当ならここには両親が居るはず。ここでリムが料理を作ってる筈…でも誰も居ない。アイリスは屋敷を歩き回り、居るはずの無い家族を探して…見つからずに両親の部屋のベットで眠る。拓斗が毎日来るが、余り会話は無い。元々アイリスは口数が多くなかったが、ここ数日は殆ど無言だ。食事も細くなった。


「君の協力が必要なんだ。是非我々に協力して欲しい」


「グルゥゥゥゥゥ‼」


 しつこい研究員が居た。カールスと同じ研究所に勤めてる男だと言う。名前など知らない。多分名乗ったが、アイリスには届かなかった。

 モモニクはこの男が嫌いだった。同じ目をしてるのだ。自分の家族を殺した研究員と。

 あの男は信用出来ない。モモニクはそう思っていた。故に会いに来ればモモニクが追い出す。自分の主は傷つき、休む時間が必要だと感じていたのだ。そう自分のように。

 モモニクはもう自分の犬生?を悲観しない。アイリスは暴君だが、自分を自分として見てくれた。物では無く個として。それにモモニクは救われていた。今度は自分の番だと思っていたのだ。

 しかし研究員はしつこかった。数日おきから毎日来るようになった。億劫になったアイリスは遂に会う事も辞めた。毎日両親の部屋のベットで呆けたように寝転んでいる。



 一方獅子堂家でもアイリスの立場が変わり始めた。玄斎が倒れたのだ。

 元々心臓が弱っていた時にこの事故だ。ショックが大きすぎた。そして、その影響は大きかった。

 元々アイリスを獅子堂家に受け入れると決めたのは家の中心メンバーだ。拓斗とアイリスが望むなら構わないと推し進めていた中心人物である玄斎を欠けた状況で反対派が動き出したのだ。

 元々彼等は獅子堂家の運営する企業や土地などの管理で暮らしている。世界企業とは言わないが、そこそこの規模の企業を幾つも持ってる獅子堂家に自分の縁戚以外を受け入れるのは反対だと主張しだした。

 玄斎が排除しようとした旧体系の身内経営をこのまま推し進めたかったのだ。

 拓斗も難しい立場になった。今まではそう言う席に出る事は無かった。親が、祖父が大体何とかしてきた問題だ。それを拓斗と一部の親族と共に窘める日々になった。反対派はこの機に拓斗を籠絡して多くの金が欲しいだけ。それが拓斗の周りに残った親族の話だった。

 流石に拓斗も知らない女の子と婚約しろと言い出す親族には付き合えない。彼はアイリスと婚約出来た事を喜んでるのだから。拓斗には、このままだとアイリスが他の男に盗られるのでは?と思ってた時に舞い込んだ話だ。逃す気は無い。

 最もこれは拓斗がヘタレで現状維持を続けてきたのが原因だが、本来なら婚約後にもっと色々な場所に行きたいとか拓斗も考えてた時に起こった事故だ。拓斗は両親の死を悲しむ暇も無かった。そんな時にアイリスの屋敷が火事になった。

 アイリスはその日、拓斗の屋敷で静養してる玄斎の元に居たので火事に巻き込まれる事は無かった。

 しかし、アイリスの家が火事になる事は殆どありえない。漏電等、アイリスが許さない。チェックは欠かさずに行ってたし、使わない部屋はそもそも電気を止めてるし、火気の類もしっかりしてる。


「…お家が…」


 アイリスは燃える屋敷を見ながら立ち尽くすしか無かった。全てが燃えてしまう。両親の残した物やリムとの思いで…日本に来てからの全てが無くなる。

 最も地下は無事だろう。しかし、そっちには最早興味も無かった。大切な思い出まで奪われたアイリスはその場に座り込んで火事を見続けるだけだった。

 これに激しく反応したのがモモニクだった。


「グルゥゥ、ワンワン」


「モモニク‼」


 彼は走り出した。屋敷はもう駄目だ。火の勢いが強すぎる。しかし、自分の主の心を守る為には『何か』を残す必要があった。モモニクも玄斎と同じく年寄りだ。長くは一緒に居れない。でも人間は思い出を物に変える事が出来る。

 自分はいずれ死ぬだろう。その時こそ、アイリスは全てを失う。本来なら思い出は残る筈でも、このままでは全てが消えてしまう。ここは命を賭けて何かを手に入れる必要がある。

 モモニクは火の勢いの弱い部屋の窓ガラスを突き破って部屋に入る。煙は多いが、モモニクは犬だ。床の方なら多少はマシだった。

 そしてモモニクが狙うのはアルバムだ。カールスは日本に来てから多くの写真を撮ってる。それをアイリスに届けなくてはならないと考えた。せめて主の両親の思いの残るアルバムだけは主に残さないといけないと考え2階を目指す。

 火の勢いは強い。モモニクはその嗅覚でガソリンと思われる物が撒かれてる事に気が付いたが、今はそれどころじゃ無い。自慢だった毛が焼き付いている。本能が恐怖する炎を意志の力で克服し、火傷を恐れずに走る。何度も瓦礫が落ちてきた。何度も潰されかけた。だけど諦めない。モモニクはアイリスの為なら何も恐れない。


「フーーー」


 燃え盛る扉に何度もタックルし、ドアを破壊してカールスの自室に入る。ここも燃えていた。だが、本棚は無事だった。どれを選べば良いのか分からない。でもカールスの匂いが強い物を選ぼう。それがきっとアイリスの為の物の筈だ。

 モモニクは器用に棚を登り、1冊のアルバムを選んだ。持っていけるのは一冊だけだ。銜える以外に持っていく方法が無い。

 モモニクがアルバムを選ぶと同時に部屋が崩落した。




「モモニク‼」


 屋敷からモモニクが出てくる。その身は火傷でボロボロだったが、大事に1冊のアルバムを咥えていた。


「ク~ン」


 モモニクはアイリスの前にそのアルバムを置くとそのまま倒れ、二度と動く事は無かった。アイリスはモモニクの亡骸を抱きしめる。


「何で…何で皆どっかに行っちゃうの。ずっと一緒に居たいのに…何で…こんな物より一緒に居て欲しかったのに…もう嫌だよ。何処にも行かないでよ…」


 アイリスは本当に全てを失った。

長々とすみませんでした。残り1~2話ほどで過去編は終了です。

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