98 アイリスの過去⑧
ようやく更新できました遅れてすみませんでした。
ようやく自分の部屋にもエアコンが付いたので今後は少しペースを上げれると思います。
日本に移住して数日が経った。カールスは早々に仕事を見つけ、日本とアメリカの共同で設立された研究所に所属する事になった。
これも理由があり、カールスは長年国防産業に協力してきたので純日本企業には入れなかったのだ。
アメリカはカールスの技術は自国の物だと思ってるし、日本はスパイであった場合の被害が怖い。故に共同研究を行っている研究所に転職する事になったのだ。
最もアメリカ側はカールスをこれ以上怒らせるのは不味いと思ってたので今の所は干渉する気は無いようだ。
「ヘーイ、アイリス。今日は素敵なプレゼントを持って来たよ」
「ん」
仕事は順調だった。毎日8時には家に帰れるし、学会とは距離を取る事にしたので休日返上も無い。静はこの先を専業主婦になる事を決めたので、アイリスは家族と居る時間が劇的に増えたと言えるだろう。アメリカに居た時は殆ど一緒に過ごす時間は無かった。
カールスがプレゼントを持って帰ってくるとリビングのソファーの上でノートパソコンを弄ってるアイリスが居た。
これは地下室のコンピューターを遠隔操作する為の物で、寒い地下室を嫌ったアイリスが何時のまに構築していた。
アイリスは一瞬だけカールスを見ると生返事をするのだった。これは極めて珍しい反応で、カールスも遂に反抗期か‼と涙を流しながらアイリスにしがみ付いた。
「娘よ僕を嫌わないでくれ!」
「ちょっと忙しいだけ。これ」
ノートパソコンの画面をカールスの方に向けるとカールスが眉を顰める。そこには多くの不正アクセスが行われている事が見る者なら誰でも分かる物だった。
「まあ、こうなるのは分かってたけどね。でも君の作ったセキュリティーを超えれてないね」
「うん。それどころか仕返しに引っかかって、相手のパソコンの中身が2chに全部の情報を転送されてる。自動的にスレ建てされて、今じゃどこもお祭り騒ぎだね」
「うん、やり過ぎだね。ってそれどころじゃないんだよ。プレゼントだ‼」
アイリスはチラリとソファーの近くを見ると、そこには包装された箱が山のように積みあがっていた。今は保存用のガラスケースが密林と言う通販サイトから送られて来るのを待ってる為に、中身が傷つかないように包装にすら手を触れていない物だった。
「いや、もう君に何をあげても使ってくれないのは理解出来たよ。大切にしてくれるのはとても嬉しいんだけどね…と言う訳で今日は犬だ‼」
「今晩は鍋」
「具じゃ無い‼」
アイリスは犬には余り興味が無い。どっちかと言うと小動物に懐かれる。無論犬にも懐かれやすいが、噛まれる可能性があると触った事は無かった。
ましてアイリスには自然愛護や動物愛護の精神は無い。アイリスの脳内では知らない動物は肉と変換される事もあるくらいだ。
「いや~僕の知り合いが犬を飼えないかって言ってきたんだよ。元々軍用犬や、救助犬用に犬の知能強化を研究してたんだけどこの子だけ残ったんだって」
子供に話す事では無いが、まあ内容は軍用犬等をもっと意思疎通をさせ易いように遺伝子操作で知能向上を狙った研究で生まれた産物と言う事だ。だが、極めてコストが高い上に寿命も今まで通りで採算が取れないと破棄される所をカールスの友人が助けたらしいと言う事である。
「機密情報の塊。普通は殺処分」
「今じゃ動物の方が人間より大事な時代だからね」
ふ~やれやれっと手をふるカールス。アイリスもまあ良いかと言う感じで犬が入ったゲージを受け取った。
「ワン」
「伏せ」
ゲージから出てきたのは老犬とも言えるボーダーコリーだった。雄である。しかし彼がゲージから出て初めて見た少女は暴君だった。小さいアイリスの一言で老犬はアイリスを認め伏せてしまった。この場で主従関係が成立した瞬間だった。
そう彼は賢かった。故に逆らうと容赦しないと理解出来てしまったのだ。
アイリスも逆らうペットに用は無い。自然の動物なら普通に接するが、自分のペットに成るのならば絶対服従が条件である。逆らうペットに慈悲は無い。
アイリスのお腹がクーっとなったが、名前を決める事にした。
「名前は……………腿……モモニクで決定」
そこにアイリスの空腹度が関係した事は誰でも分かるだろう。しかし、賢い彼は理解した。拒否すると食べられると。アイリスの眼は捕食者だった。
「いやいやちょっと‼これは食べ物じゃないからね」
「大丈夫。逆らわなければ食べない」
それは逆らえば食べると言ってるのだが、いざとなれば静が止めるだろうとカールスは思考放棄した。日本に来てからアイリスの知らない面を多く見過ぎたのだ。
例えば大人しいと思ってた娘が意外とスポーツも出来る事等だ。体力は無いのだが、反射神経と瞬発力が高かった。更に眼も良く、視力が3.3もある。何故視力がここまで高いのかは、アイリスが観察大好きだからだ。例え遠くに合っても視界に捉えているのだ。そしてそれを注意深く観察アイリスはその環境に適応しただけである。
「良し、モモニクは私の後に続く。これから厨房で食料を調達する」
「ワン」
「賢い犬は長生きできる。無能な犬は鍋になる。覚えておくといい」
「………わふ」
主従関係を構築出来たアイリスは食料を求めて厨房に向かうのだった。
カールスはそれをまるで軍隊の行進だな。っと思ったが、暫くするとアイリスは半泣きで戻って来た。
「犬は入っちゃ駄目だって」
「当然だね」
モモニクが来てから一週間程が経った。既にアイリス流の調教を終えてるモモニクはアイリスの手先である。今も本棚によじ登り、目当ての本を器用に取り出すと銜えてアイリスの元に持って来る程だ。
「良い子」
「ワン」
「散歩は午後から」
「お前は楽を覚えたようだな。本くらい自分で取ってこい」
アイリスの座るテーブルの反対側には茶髪の男が一人居た。
彼はトレッド・スターと言う男で見た目は眼鏡をかけたヤクザのような男だが、職業は国際弁護士で割りと有名な男だ…裁判に勝つのに手段を選ばないと。
カールス知り合い…と言うか、カールスと同じく育った10人程の少年少女は皆様々な職業で活躍している。例えば貧困の根絶を訴える若き政治家や、将来は大手になると期待される企業家に有名な投資家などだ。
トレッドは休暇を利用し、アイリスの家庭教師になっていた。
「モモニクにも仕事をあげてるだけ。自分でやるとご褒美をあげる機会が無い」
「普通の犬は本を棚から持ってこないし、お前のネーミングセンスは糞のようだな」
ッハっと鼻で笑ってるが楽しそうな雰囲気を出している。トレッドを含めたカールスの旧友は皆アイリスを可愛がっているのだ。と言うのも出世したり等で、全員が裕福には成れたのだが、カールス以外はまともな結婚が出来なかったのだ。
彼も一度結婚を経験したが、仕事優先の性格だった為に家庭は破綻した経歴がある。仕事が安定した現在は既に結婚願望も無いのでアイリスを構いに来るだけで家を見ると裁判関係の書類が散乱してる生活破綻者である。
「法は知れば味方だ。どんな悪人でも出世する奴は法に詳しいぞ。知っておくといい」
「私をマフィアにでもする気?」
「そりゃ大変だ。お前を捕まえるのには警察も証拠集めに苦労するだろ。先日は軍事衛星をクラックしたんだろ?バレない内に止めとけ」
「勝手に人の家を盗撮しなければ太平洋に堕ちなかったのに。それに衛星落下は単なる『事故』クラックされた形跡も無いし、遠隔操作では無く誤作動が原因」
等と話してると、行き成り部屋の扉が開いた。トレッドは隙の無い動きでアイリスを庇うと銃タイプのスタンガンを抜く。
「アイリス‼」
「?」
「友達」
「日本にはノックする文化は無くなったのか?」
行き成り銃らしき物を向けられた拓斗が一瞬たじろいだが、トレッドの背後からアイリスが顔を出すとほっとした顔をする。しかし数秒後にはしかめっ面になった。
幼馴染が密室で二人っきりである。しかもトレッドはワイルド系のイケメンだ。体も引き締まってる。
「くっあははは。お前も男だな」
「っな‼」
行き成り笑い出すトレッドに拓斗は驚くが、トレッドは人の機敏に触れる職業についてる為に、拓斗の思考を直ぐに理解したのだ。尚アイリスは何故笑われてるのか理解出来ていないので、怪訝な顔をしている。
「壊れたか?」とでも言いそうな表情をするアイリスに逆にトレッドがダメージを受けていた。
「いや、俺がどうこう言う事でも無いが、成程な。これはカールスが荒れる訳だ。それで今は授業中なんだが、後にして貰えないかボーイ」
「いや、えっと…でも」
「先に用件だけ聞いた方が良いと思う」
「お前が他人を気にするのは珍しいな」
「その、学校で和仁が良い成績を取れたんだが…カンニングを疑われたんだ。それで和仁もアイリスに勉強を習ったって言ってるんだけど誰も信じなくて」
「まあ普通はこんな有名人と知り合いだと思えないわな。俺も被告人のマフィアのボスに「俺は大統領の知り合いだぜ」って自慢された時は無視したな。本当だったが。
それでアイリスに何の関係があるんだ?」
「…いや一緒に来てくれたら証明になるかな・・・と」
トレッドはアイリスを見ると少し考える。勉強は順調…処か、教えれば直ぐに覚えるので予定以上だろう。
「ちょっと行って来る」
「良いのか?」
アイリスがまさかOKするとは思ってなかったトレッドは驚く。別に勉強自体は個人授業で暇潰しに近い。法知識は最低限でも十分だ。
しかし、アイリスのこれまでの事を知ってるトレッドはアイリスが動くとは思ってなかったのだ。アイリスはそこら辺がかなり冷たいのと、家族以外の為に動く事は一度も無かった。そのアイリスが自発的に動く事に驚いたのだ。
「友達の友達は友達なんだってテレビで言ってた」
「……」
「和仁は私の生徒。不当な扱いは抗議すべき」
「仕方ない。俺の車で送って行こう。場所は知っている」
「何で知ってるの?」
「お前の編入を拒否った学校だからだよ」
日本に移住するにあたってアイリスを小学校に編入させる事をカールス達は計画したのだが、周辺の学校が拒否したのだ。一昔前なら義務教育で入れたが、今では卒業資格を持つ者は学校側と要相談と言う決まりに変わっていたのだ。
学校側も影響力の高いアイリスを受け入れるのはリスクだ。いじめなどが発生した場合に何処からクレームが来るか分からない。代わりに近くの大学が名乗りを上げたが、カールス達が必要としたのは同年代の子供だったのでその話はお流れになった。アイリスも大学には興味が無い。
「学校なら卒業した。別に行く理由も無い。お金の無駄だと思う」
「全く同意だな。俺も良い思い出は無い」
「おじさんは人相の問題」
「言うじゃねえか」
後部座席に拓斗が座り助手席にアイリスが座り、運転しながら世間話を続ける2人。
アメリカでの話はアイリスから口にする事は滅多にないので、どれも拓斗は知らない話だった。
その後も普通に世間話を続けたが、アイリスの家から15分程で小学校に着いたのでトレッドは受付の方に向かって行った。カールスは仕事中だし、静はリムとスーパーに行ってるので代理で保護者になってるのだ。無論アイリスと出かける事は2人に電話で許可を取ってる。
「だからやってねえって言ってんだろ‼」
許可証を首から下げて廊下を歩くトレッドとアイリス。それと拓斗。一応事務員も居るのだが、トレッドの眼光に萎縮している。職業も明かしてるのだが、一種の不審者扱いだ。
そして廊下からでも和仁の怒鳴り声が聞こえる。
「五月蠅い」
アイリスはノックも無しに教室のドアを開く。そこには中年のタンクトップ姿の男と和仁の2人だけだった。
「誰だ、勝手に…」
「呼ばれたから来た。彼は私が教育した」
ふふんとアイリスは胸を張る。
「コイツ意外と度胸あるな」と心の中で関心するトレッド。
「お前は?」
「お望みのアイリス・フィールド、元学者だよ。彼は拓斗に頼まれて人並みの学問を叩きこんだから、別に不正は無い。もし不正があると思うならもう一度違うテストを一人で行わせればいい。この扱いは不当」
「たった週間でこの成績はおかしいだろう!」
尚も噛みつく教師。チラリとテストを見ると平均80点程だろう。和仁の平均点は一桁だったので恐るべき成績と言えるだろう。アイリスは面倒だったので1週間程で全教科を和仁の頭の中に叩き込んだのだ。無論めんどくさくても手加減はしてないのでおかしい成績では無い。寧ろ取れなかったら和仁の苦労は水の泡だろう。
アイリスは拓斗の方をチラリと見ると、拓斗が小言で担任だと言った。確かに今まで和仁の物覚えの悪さに苦渋を味わった教師なら自分の力不足だと言われたような物だ。
「和仁の成績不振は家庭環境。日常的にお腹が減って思考がマヒしてただけ。空腹じゃ無ければ35点くらいは取れる。後は脳に効率的に情報を叩きこめば小学校レベルなら何も問題ない。流石に高校過程や大学だったら無理だけど」
「……」
一応もう一度試験を受けると言う案を教師は受け入れた・・・結果は大体同じくらいの点数だった。
「だから見てねえって言ったじゃんかよ」
「スマンかったな。少し先生も言い過ぎた……向いてないのかねぇ」
若干惚けてたが、一応和仁に謝罪するのだった。
最もアイリスは疑わしいなら最初から再テストすればいいのに何でこんな無駄な事をしてたんだろうと少し思ったが、直ぐにどうでも良くなった。
取りあえず日が暮れたので帰る事になった。先に拓斗と和仁を家に送り、屋敷に戻る途中にトレッドはアイリスに質問した。
「今は楽しいか?」
「楽しい。パパもママも何時も家に居るし拓斗は知らない事を一杯教えてくれる」
「そうか……良かったな」




