97 アイリスの過去⑦
暑さにやられ、苦手な内容に書き直す事数回。やっと……書けました。
過去編はさっさと終わらせてアリスティアの大活躍と犬とメイドの対決を書きたい‼
本日はアイリスと家族が来日する日だ。若干しつこいマスコミが空港に待ち伏せしてたが、アイリス達もアメリカで慣れてるので適当に躱して屋敷に来た。
アイリスの格好は白を基調とし、花をプリントされたワンピースに麦わら帽子だ。そこそこ熱い時期になったので軽装である。
一方カールスはタンクトップに短パンである。見た目は旅行に来た外国人だ。実際カールスはアメリカに無い物や文化をカメラで激写しているし、アイリスもしゃがみこんでみてる事もある。
リムの運転する車から降りると、拓斗一家と祖父が屋敷の前で待っていた。それと見慣れない少年少女の2人組も居る。
「誰?」
流石に拓斗の両親とは知り合いだし、玄斎に至っては毎週仮想空間で会っているので、アイリスが知らない人間は2人だけだった。
これが蔵桐和仁と本田舞との出会いである。
「前に言ってたのがコイツね。俺はカズって呼んでる。それと舞」
和仁は少年だが、既に身長が169cmもある巨漢だ。アイリスも思わず「ギガンテス」と呟いてしまった。流石にこのサイズの同年代は見た事が無かったのだ。
「誰が巨人だ‼」
思わず和仁も怒る。しかし周りの反応は違った。
「カズ、ギガンテスって言葉分かるのか‼」
「流石に分かるだろ‼…ッチ、まあ良い。これから頼むぜ。俺に人並みの知能をくれ」
「自分からサル並の知能だって認めるのね………私は舞…よろしくね」
アイリスが普通に和仁と握手すると、ちょっとだけ拓斗とカールスの眉が上がったが、アイリスとしては拓斗の紹介だから警戒していないだけである。
しかし問題なのは、舞の方だった。余りアイリスに友好的では無いようだ。だが、アイリスは他人の心を読む事は出来ないし、人間とのコミュニケーションは苦手なので気が付く事無く舞と握手した。
「じゃあ部屋で勉強。色々と持って来た。尚部屋では英語以外の言葉は禁止。後、日本の英語はおかしいから、私には通じないと思ってね」
「明日からでいいんじゃない?アイも疲れてるでしょ」
「機内で寝てきたから大丈夫。掃除も業者がやってるから直ぐに部屋は使える」
挨拶を交わすとそのままアイリスの部屋に向かう。アイリスも子供なので体力は十分だった。そして部屋に付くと予め送ってあった荷物から分厚い参考書を10冊以上取り出して和仁の座るテーブルの上に置く。明らかに多すぎる量に和仁の顔が青褪める。
「っちょこれは多すぎだろう」
「問題ない。貴方を好きな大学に行けるだけの教養を付けてあげる。これが拓斗のお願いだからね」
元々拓斗ですら根をあげた和仁の頭脳だが、アイリスは数時間で和仁の知能を把握し、適切かつ、最適な教育プランを構築していた。
そして一方舞はと言うと、拓斗並の優等生なので、それほどの問題は無かった。唯一アメリカンな英語に苦戦してたが、数時間で日常会話程度なら難なくこなせるようになっていた。
拓斗もアイリスが英語圏の生まれなので、普通に英語を覚えていた。と言うかアイリスは英語で話す事も多いので、必死に覚えたとも言う…最もロシアや中国語等数か国語を拓斗も覚えているので秀才や天才とも言えるだろう。アイリスの言葉色々混ざり過ぎだから。
「も・・・もう無理だ」
「英語」
「勘弁してくれ」
陽が沈み始める頃には和仁は憔悴していた。一応アイリスは朝一で日本に来ているので学校より長い時間勉強したようだ。
「じゃあ今日はここまで」
意外と教師に向いてるアイリスに舞も何も言えなかった。と言うか差を理解したが故に嫌味の一つも言えなかったのだ。全てにおいて明確な差がアイリスと舞の間にある事は舞の自信を打ち砕いた。
舞もアイリスと同じで苦労を知らない。いや、正確にはやれば出来る子である。その容姿や頭脳から割と持てはやされてた舞は己を上回る存在に初めて出会ったのだ。だが、舞がアイリスの能力に嫉妬する事は無かった。舞は、それが無駄な事である事を理解出来ていたのだ。
それに、舞がアイリスの事を気に入らないのは、単に拓斗がアイリスの話ばかりする事だけなので、アイリスでは無く、拓斗に意識を向けていたのだ。
(私だって見た目は負けてないし…うん、あっちは頭が良いお嬢様だから私は家庭的な所をアピールしよう。あれには勝てない)
既に頭脳で負けてる事を舞は理解し、他の事で競う事に方針転換したのだった。そしてそれは正しいだろう。
アイリスは頭は良いのだが、他は割と無頓着だ。服もリムが決めた物を着てるし、食事なんてフレークに牛乳を入れる程度しか出来ない。と言うか朝食はフレーク以外に食べない。
尚、アイリスの食べるフレークだが、大規模な宣伝を行って発売されたのだが、食べた気がしないと不評な物である。栄養バランスを追求した結果味気ない物なのだが、その栄養バランスにつられてアイリスの両親が買ってきたのだ。
そしてそのフレークは少数派だが、気にいる人も居る。アイリスもその一人だった。無表情で食べるアイリスを気にして両親が試食した結果、余りの味気無さに違う物を買おうとしてもアイリスが他のフレークを食べない程気に入っている。
アイリスは朝食がフレークで昼食がサンドイッチと決まっているのだ。夕食はカールス達と食べる事もあるので固定では無い。
「まだ勉強してたの?もう遅いから家で夕食を食べていく?一応ご家族には連絡して良いと言われたらだけど」
「マジで‼俺食べてく」
「家はちょっと家族が五月蠅いので帰ります」
静の誘いに和仁は乗り、舞は丁寧に断る。舞の家も資産家であり、厳しい親なので、今日初めて会ったアイリスの家に厄介になるのは難しかった。
反面和仁の家は食事にありつける事も怪しいので渡り船だった。拓斗は…まあ両親と祖父がアイリスの屋敷に居るので普通に参加だ。
どうやらアイリスの両親と今後の事や、アメリカでの事を報告していたようだ。
この件で玄斎が激怒するのだが、屋敷は防音性も高いので、書斎から声が漏れる事は無かった。
夕食はハンバーグだった。静と拓斗の母である由美子は幼馴染でもあるので、カールスに雷を落とす玄斎を放置して、2人で旧交を温めつつ、仲良く夕食の準備をしてたのだ。
「美味い‼」
「カズ落ち着けって」
「だがよう…」
「慌てなくても沢山ある。私はそこまで食べないから落ち着いて食べる」
テーブルにはいくつものハンバーグがあるので慌てなくても沢山あるのだが、和仁は食生活が破綻寸前なので興奮気味だった。子供は肉が大好きである。
余りの健啖ぶりにカールスも静も驚いてるが、子供がよく食べるのは良い事だし、満足に食べれなかった過去を持つカールスは涙ぐみながら「どんどん食べなさい。何度でもおかわりしても良いんだよ」とポンポン和仁の皿にハンバーグを乗せて行った。そして、それらは全て和仁の胃袋の中に入っていくのだった。
「もう遅いけど今日は泊まっていく?もし帰るならリムに送ってもらえるから安心しなさい。後、拓斗はお泊りだって。後でカールスの部屋に行きなさいベットも用意してあるから」
「…まあ拓斗が泊まるんならお世話になります」
「俺も爺ちゃん達が居ないと向こうに誰も居ないから泊まるのは良いよ」
和仁の両親はほぼ育児放棄を行ってるので、和仁が家に帰る事は意外と少ない。普段は食料を求めて近くの山に挑む小学生だ。そしてイノシシを狩る男でもある。生存本能に特化してるのだろう。
拓斗と和仁は無駄に広い風呂に入り、拓斗の両親が用意した着物に着替えるとカールスの部屋に入った。アイリスは食後にPCを弄り出したので基本放置である。
集中してるアイリスの邪魔をすると睨まれるのだ。
「んで、何で俺を誘ったんだ?別に勉強だってそこまで困って無いぞ」
用意されたベットに腰かけると親友である拓斗に和仁は直球で尋ねた。まあ学業には困っていない。既に諦めてるので。
「いや、少しは危機感持てよ。お前小学校で留年したいのか?前代未聞の候補生だろ。
それに…まあアイリスも俺以外の知り合いが居ると良いな~って思っただけだよ。
今まで他の知り合いの事なんて聞いた事も無いし、クラスメイトの顔と名前すら首を傾げるんだよ。何か他の人間との繋がりが薄いと言うか…まあそんな感じだ。後、俺じゃお前に勉強を教えるのは限界だ。実際アイリスの方が遥かに効率的に教えてたしな」
「まあ否定はしない。限界を正確に見極めて常に限界ラインに立たされる感じの勉強だったな。俺頑張っただろ。次からはお前がやれよ」
頭から煙が出る様な状況を数時間も途切れさせずに続けさせるアイリスの教育はスパルタと言えるだろう。
「俺は別に困って無いしな。それにアイを目指すのは無理だ」
拓斗は和仁達にアイリスの事を知り合い程度としか言っていない。アイリスが大学を卒業してたり、特許で今後働かなくても生きていける収入がある事などは一切言わなかった。
流石に舞は気が付いた。アイリスも稀にテレビで紹介されるので、それを見た事があるのだろう。だが和仁は普段テレビを見ない。子供らしいアニメは興味無いし、ニュースを見る程教養がある訳でも無い。
なので、拓斗はここでアイリスの正体を和仁に話した。まずはアイリスを見て欲しかったのだ。世間が吹聴するような天才少女では無い素のアイリスを知って欲しかったのだ。
「まあ世間は狭いわな。まさか既に大卒とか信じられんが、拓斗は嘘をつかないしな。っで?何でそんなお偉い学者が日本に居るんだ?普通就職するよな」
拓斗は言葉に詰まった。アイリスの仕事を拓斗は知らなかったのだ。
「それは僕が説明しよう‼」
そこでバーンと扉を勢いよく開けて部屋に入って来たのはカールスだった。
「いや~アイリスを欲しいって言う人が多すぎたんで、日本に逃げてきたんだよ。日本には、《まだ》子供を働かせる事への拒絶感が残ってるからね。今のアイリスはニートだよ。
僕達はアイリスがしたい仕事以外をさせるつもりは無いからね。今後の人生は全部あの子が決める事だ。このままこの屋敷でニートになるのも構わないし、君を教育してたように教師になるのも構わない」
アイリスが教師と言う未来を想像して噴き出す拓斗と、生徒に同情する和仁。同じ未来でも見方は違うようだ。
尚、拓斗の脳内にはダブダブのスーツを纏い、スティックを使って自分より大きい子供に勉強を教えるアイリスだった。
和仁の場合は進学塾のように、追い詰められた生徒を更に追い詰める鬼教師だった。
「それは面白そうですね。でもアイリスって何に成りたいとかの夢は無いんですか?」
「無いよ」
返事は即答だった。カールスには先ほどのような陽気な雰囲気も無くなり、表情も真面目な顔だった。
「だから僕達は日本に来たんだ。あの子は世界の素晴らしさを知るべきだ。僕達の歪んだ夢や妄執では無く、自分で世界を見て、自分で追い求めて欲しいと僕達は思ってる。僕らはあの子が転ばないように暖かく見守るだけだよ」
「はぁ」
流石に拓斗や和仁には何を言ってるのか分からなかったが大事な事だとは思った。
「しかしだね、アイリスの初めての友達も2人目の友達も男の子と言うのはパパである僕にはどうにも気になるんだよね。丁度静も向こうの部屋に泊まるから男同士で色々とお話しよう」
静は拓斗の母親と同室で、玄斎と拓斗の父親が同室だ。流石に清掃は済んでいても大人数を止める用意が無かったので纏めたのだ。リムはアイリスと同じベットで寝る事になっている…アイリスが眠くなればの話だが。
そして始まる男同士の会話。カールスの過剰かつ、絶対的なアイリス愛に若干呆れ気味な2人だったが、歳を超えて仲良くなれるのだった。




