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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
大魔導士エイボンと過去
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96 アイリスの過去⑥

最近の暑さにやられた&難産で待たせてしまってすみませんでした。

 次辺りから一気に話を進められたら良いな…

 アイリスが大学を卒業するのに2年程掛かった。流石のアイリスの飛び級記録にも限りが出始めた等と揶揄される事もあったが、理由は大学側の囲い込みだった。卒業するだけなら余裕である。しかし、ここまで来ると将来の姿が見え始めて来る。尚アイリスは数週間で飛び級すると言う世界記録を保持している。

 例えば教師と繋がりのある企業への就職を斡旋されたり、国の研究機関に就職するように要求されたりなど、アイリスへの干渉は強まったと言えるだろう。

 しかし、アイリスが誘いに乗る事は一切無かった。全ての紹介への答えはノーである。

 当然だろう。アイリスは学業に対して興味の欠片も無い。全ては両親を喜ばせるために成した事である。

 しかしアイリスの両親はアイリスの将来を指示しなかった。


「成りたい者に成りなさい。ここから先は君の人生だ。もし、僕達の期待が重荷になるのなら、今までの全てを捨てても構わないよ」


 アイリスは混乱した。自分の人生は両親の為にある物だと純粋に信じてたのだ。今まで自発的に行動した事など無い。

 今までの全てが色褪せるとはこの事だろう。この先自分は何をすれば良いのか分からなくなったのだ。これがアイリスの人生初の不安だ。

 何を成せば良い?誰を喜ばせれば良い。答えを出すにはアイリスの思考は幼く単純だった。

 取りあえず全ての話を断った。しつこい人も居れば、脅迫紛いの事を言い出す者も居た。だが、アイリスに届く事は無い。幼い体に不釣合いな高度な知識は寧ろアイリスを雁字搦めにしていた。

 何を成すにもリスクが存在する。アイリスにはリスクを承知で『したい』事は何も無かった。


「難しい問題」


 大学で過ごすのも最後の週。アイリスにしては珍しく卒業時期に卒業する事になった。今までは個人、又は、数人程度の卒業式しか経験していない。何処の学校でも時期外れに入学してあっという間に卒業してきたのだ。

 アイリスは取りあえず持ってた昼食のサンドイッチを千切ると近くのスズメに手のひらを差し出す。するとスズメは警戒する事無くアイリスの手のひらに乗りパン屑を食べ始める。これもアイリスの才能の一つだ。友達何て居ないアイリスだが、自然と動物とは仲良くなれた。最もペットを飼った事も無いし、迷惑になるかもしれないと言う理由で両親に懇願した事も無い。




「ふざけるな‼貴様は僕の娘を実験動物に貶めろと言うのか‼」


 一方カールスは激昂していた。彼の所属する国の研究所。その休憩室に現れた黒服に聞かされた依頼はカールスの怒りに火を付ける物だった。


「落ち着いてください。これは合衆国の意思とも言えます。ご息女の才能を後世に残せる可能性があるのです」


「黙れ‼もし、次に同じことを言い出したら次に貴様等と会うのは裁判所だと知れ‼

 僕の宝物をそんな下らない研究の礎にしてたまるか‼いいか一度だけ言うぞ。答えはノーだ。もし無理やり進めるのなら全てを公にして貴様等の腹黒さを公表してやる。

 いいか、これは明らかな人権侵害だ。何が自由の国だ。お前等のような連中を寄生虫って言うんだよ」


「この件は大統領の許可も取っています。貴方も国民なら国への貢献を…」


 それ以上は言えなかった。カールスは細身の優男だが、スラム生まれで、喧嘩もかなり強い。そのカールスの拳は黒服のサングラスを叩き割り、黒服を壁に叩きつけた。


「上等だ。国への貢献?僕がどれだけ戦場で戦う兵士を思って研究をして来たか知ら無いようだな。お前等のような恩知らずに偉そうに指図されるくらいなら出て行ってやる」


 カールスは黒服に唾を吐きかけると直ぐに研究所のトップの部屋に行く。そこは木製のいかにも高級品とも言える扉だが、カールスは蹴破った。元々税金の無駄だと嫌ってたのだ…当然所長もだが。

 中には禿げオヤジが居た。いかにも権力者に媚びへつらう最低の人間に見えるが、実際その通りだ。


「おいクソ爺。僕の言いたい事は分かるな?今日で貴様との付き合いもお終いだ。今後は僕抜きで研究するんだな」


「な、何を言ってるんだ。お前がナニを研究してるのか分かってるのか?世界の全てを統括出来る人工知能の研究にはお前が必要だ‼」


 血走った眼で叫ぶ所長。しかし、重要な人物であるカールスの娘を売るような決断をした人物の一人なのは調べがついてる。この部屋に来る僅かな時間に携帯から計画の全ての資料をクラッキングしたのだ。


「昔からお前が大嫌いだったが、今回の事だけは認められない。何が貢献だ。僕の境遇を知っててよく言えた物だな。僕は国から何も貰って無い。全ては僕の実力で上り詰めたんだ。

 残念だが、僕はこの国から出ていくよ。お前等みたいな屑と一緒に仕事してたらアイリスに立派な親だと言って貰えなくなる」


 入門証と研究者カードを投げ捨てると部屋から出ていく。やる事は多いが、既にカードはこちらが握っている。この計画は表に出せない。アイリスの人権を無視する計画に国のトップが絡んでるのだ。もし、カールスの性格と頭脳を正しく理解出来ていればデータなんぞに証拠を残さないだろう。それは全て無意味と言えるからだ。


「僕は出ていく。もし邪魔をするなら全て公にするぞ。お前等が行ってる非合法な研究も含めてな」


「誰だお前は」


 カールスは電話を掛けると用件だけ言って切る。相手の立場上直ぐにこちらの事に気が付くだろう。もしかしたらカールスは死ぬかも知れない。しかし、カールスは純粋な学者だった。あれだけは許されない。例え積み上げて来た全てを捨てても止めさせなければ…


「やはりこの国はアイリスが住むには相応しく無い。このまま日本へ移住するか。どうせ連中は断れないし、向こうなら同盟国だ。そこまで酷くはならない…と良いが」


 暫く元気の無い娘を思うと、環境を変えるのも良いかも知れないとカールスは思った。娘には目指すべき目標も無ければ、掲げる信念も無い。自分達が娘の可能性を伸ばせればと思っての行動は逆に足かせになってる事に、カールスは気がついていた。


「僕達は間違えてしまった。あの子は天才じゃ無い。唯、僕らの期待に応えてくれただけだ。

 もう十分だ。あの子に無理をさせるくらいなら僕は全てを捨てる。まだ、あの子ならやり直せる……今度こそ正しい親になろう」




 家に帰ると難しい表情の静が居た。カールスは悟る。自分と同じ事を言われたのだと。


「僕は仕事を辞めて来た」


「そうね。こんな事をするくらいなら出ていくわよ…唯、アイリスちゃんは…」


 今後の事を話し合う。しかし、アイリスがどう判断するか分からなかった。もしかしたら、この話を受けるかも知れない。親として、人として賛同できない。しかし、今まで娘に全てを与えてるようで全てを奪ってしまった彼等は、その罪悪感で反対出来ないかも知れない。

 怖かった。もしかしたら、自分達の為に賛同してしまうのではないかと。しかし、アイリスを寝かしつけて戻って来たリムの発言でその考えは捨てた。


「ああ、そう言えばそんな事を言われてましたね。でもお嬢様は普通に拒否ってましたよ。

 と言うか最近のお嬢様の返事ってノー一択ですからね。多分興味すら持ってないと思います……それと、これは個人的な意見ですが、お嬢様にも同年代の友達を作って欲しいです。寂しさを周りに悟らせませんが、寂しさは出てると思います。   

 毎週彼や玄斎様と会うのを楽しみにしてますから…それこそプロムの参加を辞めるくらいに」


 それはアイリスの知り合いと言える人が誰も居ないのと、週末は拓斗や玄斎とネットワーク空間で会うので時間が取れないのが原因だろう。更に言えば、この時代のプロムはOBも出て来る。一流の大学なので、OBもそれなりの立場な人間が来るのだ。

 どう考えても面倒である。友人と仲の良い老人との憩いの時間を潰してまで参加する意義は無かった。と言うか、この3年間アイリスは週末には何も参加しないルールなので、例え大統領や神が来いと言っても来ないだろう。両親からも約束を破るのはいけない事だと教えられていた。

 まあ、これが実際に何度も問題になった。フォーラムの参加等を要請されても私的な理由で参加しないのだ。それも世界的に有名になっているアイリスがである。

 既に仮想現実の技術は実用化され、世界中に公表されてるし、そんなアイリスを一目見たい権力者はいくらでも居るのである。


「と言う訳でに日本に移住する事になった。多分この屋敷に住む事になると思う」


 アイリスが拓斗に移住する事を打ち明けたのは卒業式の終わった次の日だった。と言うか、アイリスに説明されたのが前日なのだ。しかもアイリスに詳しい説明は無い。仕事を辞めたから日本に移住するとだけ言われた。

 アイリスに異は無い。元々愛国心の欠片も持ってないアイリスは敵対国でも平気で付いて行くだろう…移住先は一応同盟国なのだが。


「と言う訳って…行き成りだね。何か有ったの?」


「分かんない。でもパパとママが言う事だから。それにあっちはしつこい人が多いから嫌い」


 普段言わない愚痴を稀に零すアイリス。これは両親には絶対に言わない事だ。そして、本当に迷惑だと思っている事は拓斗も知っていた。

 幼馴染?と言える間柄かも知れない2人だが、現実で会ってたのは数か月だけである。それ以外はアイリスの時間が取れずに仮想空間で会うくらいだった。拓斗は別に寂しいとは思わなかった。携帯端末にメールを送ればアイリスは何をしてても数分で返すし、仮想世界とは言え、アイリスのアバターは現実と変わらない物だ。寧ろ現実とアバターの差異が殆ど無い。毎週会ってるような物だった。

 因みに玄斎は将棋盤を見ながら唸っている。既に敗率が9割5分に突入してる為だ。


「……待ったは…」


「今日13回目」


「……そこを何とか」


「爺ちゃん。いくらやっても勝てないじゃん」


「黙っとらんか馬鹿者が‼竜王と打つよりもアイリスと打つ方が勉強になるんじゃい」


 今や全然集中していないアイリスに惨敗する玄斎はプライドがへし折れていた。別にアイリスが強い訳じゃ無い。他の人と打てばほぼ確実に負ける。ただ単に玄斎の全てを解析しただけだ。何処に置けば何処に置くのか。それを理解出来れば負けは無い…不規則な事をしなければの話だが。

 これがアイリスの勝率が100%にならない理由だ。但し、玄斎が打ち方を変えれば覚えられるので、1勝しか出来ないのだが…

 正確なプログラムの如く玄斎の嫌な所に的確に置いてくるアイリスには容赦や手加減の文字は無い。だって子供だから。


「ぐぬぬぬ。移住の件は兎も角、何故こうも負けるのか…恐るべし。まさかここまで差がつくとは…どうじゃ?竜王でも目指すか?」


「何をすれば良いのか分からない…私は何をすればいいの」


「難しい質問じゃな」


 玄斎は腕を組む。実際にそれに答えは無いと答えるのは簡単だろう。しかし、アイリスには今まで進むべき道があった。しかし、その先は行き止まりで有っただけだ。

 そして、それに答えは無いのだろう。何故なら他人が決める事では無いし、他人に任せた信念や理想は脆く歪みやすい危険な物だ。


「しかし、それは急ぐ事なのか?今すぐに答えを出す物なのか?急げば回れ。ゆっくりとしたい事を探せばよかろう。お主の人生はまだまだ歩き始めたばかりじゃ」


「………うん」


 アイリスは頷く。確かに急ぐ必要は無いのだろう。何故焦ってたのかアイリスには分からなかった。しかし、アイリスの分からない本心は、両親が自分に興味を失ったかもしれないと言う恐怖だった。

 玄斎はそれに薄々気が付いて居たが、特に何かを言う事は無かった。そう言うのは他人の言葉ほど当てにならない。アイリスは自分がどれほど愛されてるのか自覚する時期なのだろう。

 しかし、玄斎は溜息を吐くしかなかった。


(何をやっとたんじゃろうなあの馬鹿者達は)


 明らかにアイリスの成長は歪だった。この問題だって普通ならもっと先の自我が体が成長してからじっくりと考える物だ。幼い子供が気にする事では無い。

 アイリスが何故移住する事になったのかを、静から聞かされた時は珍しく激怒し、静を電話越しに半泣きにさせた程に玄斎は怒っていた。

 それは子供を利用する薄汚い大人もだが、カールス達はどれだけアイリスの内面に興味を持ってなかったかを露呈したからだ。確かにアイリスは出来る人間だろう。しかし、まだ幼い子供である。そんな子供にどれだけ甘えていたのかと静を叱った。


「じゃあ来週に」


「うむ、儂はカステラでも用意して待っておるぞ」


「………」


 玄斎とばっかり会話するアイリスに若干の不満を持ってむす~としてた拓斗の頭を玄斎が拳骨を落とす。


「お主は精進が足らんわい。そんなんじゃ何時まで経っても気が付かれんぞ」


「…痛くは無いけど…はぁ…まあ分かったよ。俺も待ってるね。アイリスに紹介したい友達も居るし」


 仮想世界では痛覚までは再現出来ない。いや、出来ない事も無いのだが、別に再現すると幻痛などを引き起こす可能性があるのでカットされている。だから拓斗も痛くは無かった。


「苛めっ子?」


「アイリスを苛めるなら連れてこないよ。ちょっと馬鹿だからアイリスに勉強を教えて欲しいんだ」


 アイリスも特に断る理由は無かった。どうせ卒業すればニートである。もう数年前に生まれてれば義務教育で学校に行く事になるのだが、生憎と飛び級卒業者には義務教育は無くなっている。勿論入学は出来るのだが、アイリスの場合は学校側が受け入れ拒否をしたのだ。

 確かにアイリスが在学するメリットはあるのだが、問題が起こった時に何処から苦情が来るか分からないアイリスを学校側も受け入れる事は出来なかった。更に言えば付属する記者達に対する対策まで考えなければならないとなると、アイリスを受け入れる気が無くなるだろう。


「何処の国の言葉を教えれば良いの?ドイツ、フランス、ロシア、マヤどれでも教えてあげる」


「何か変なのが入ってたけど、本当に色々話せるんだね」


「日本語が一番難しいと思う。普通は3種類の言語を組み合わせない。もっとシンプル」


「俺達は普通に使うんだけど…って言うか外国語もだけど、他も色々アホなんだ。俺じゃ無理だったよ」


「良いよ。何処の大学に行きたいかだけ聞いといて」


「うん、別にそこまでは求めないし、多分無理だから。アイツに真面な知性を与えるだけでいいよ」


 若干…と言うかかなりズレてるのだが、アイリスに取って学業を学ぶ=進学であった。


「じゃあまたね」


「着いたら連絡してね」


 ネットワークを切断し、アイリスの意識が現実に戻ると、自然と心が軽くなった気がした。アイリスは首を傾げると、ベットから下りて荷物の準備をするのだった。

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