09 モンスタースタンビード3
戦闘が始まって30分くらい経った頃でしょうか、私が恐れてた事態が発生しました。それは私の魔力の余裕が完全に無くなった事です。アイス・エイジとロイヤル・フリーズウォールの維持で魔力が全然回復しないのです。
「これ以上は…」
少し前から魔物達は私の魔法を破壊する戦術を取り始め私はそれに対して2つの魔法を補強する事に魔力を使ってます。もしあの二つが解除されたら動けない魔物も行動を再開するので余計勝ち目は無いでしょう。
「姫様!これ以上はもう…」
護衛の騎士達もその実力を発揮して比較的強い魔物を狩ってますが数が多すぎて時間稼ぎ以上の事が出来ないようです。私達はもうお父様達がこっちに来てるのかまだ戦ってるのかも分からず魔法師団の6割以上が魔力切れで動けないとさっき聞きました。絶望的ですね。
「姫様!前方にトロール・オーガ・サイクロプス等の巨大種が接近してきてますこれ以上は…撤退しましょう」
巨大種ですか…あれはアイス・エイジで捕らえるのは単体なら兎も角複数は難しいでしょう…でも
「私が盾役をやるから攻撃して…」
「!?そ…そんな事出来る筈が…」
「命令…プロテクトを使えばこの中で私が一番防御力が高い…攻撃は私が受ける」
プロテクトは魔力量と精神力が高ければ防御力も上がります。かつて大魔導士と言われた人はこの技だけで極大魔法すら無傷で耐え切ったそうな…ならオーガくらい私でも耐え切ってみせる。
オーガ達、巨大種が近づくと私を先頭に護衛が扇状に広がります。ここからは私の防御次第、避けれる筈はありません。私はそこまで戦闘訓練を受けて無いのです、だから私に出来るのは耐え切るのみ…
「…プロテクト」
プロテクトを使った直後にサイクロプス棍棒を振り下ろしました。
「!…重…い」
ヤバいです意識が消し飛びそうな衝撃です、魔法なしで受けろと言われても絶対に拒否したいです。幸い棍棒の威力よりプロテクトの防御が上だったらしく私は膝をつく程度ですみました、そしてそれを待ってた護衛が一気に接近してサイクロプスの首を刎ねます。さすがですね。
「姫様!物凄い音がしましたが厳しいのなら下がってください」
護衛の一人が叫びますが下がれと言われて下がる私じゃありません。
「問……題な…いまだ…大丈夫」
手が痺れるのと瞬間的に意識が消し飛びそうな衝撃を受けただけで私にそこまでの怪我はありません。そして私はさっきと同じように魔物の攻撃を受けその隙に護衛が狩ると言う戦法で何とか巨大種を抑えきれましたが…
「お…オークキングだと!?それにあっちはオーガキング!ご丁寧に配下のソルジャーまで連れて来て…」
「問題…ない全部私が防ぐ…」
さっきから続く戦闘で時間の感覚も曖昧で風・闇・地・火の4つの精霊は魔力切れで既に動けない状況ですが多分…もう少しでお父様が戻って来てくれる。
「先ほどのようにはいきません!我等は兎も角、姫様の消耗が激し過ぎです。このまま戦闘を続けるのは不可能ですお下がりください」
「問題ない。まだ大丈夫…この程度で私は倒せない」
ハッタリです景色は歪んで見えますし呼吸も安定しません。魔力は少しずつですが減ってますしそれ以上に私の精神力が限界です。
私は先頭に立つとプロテクトを掛け直します。すると今度はオーガキングが来ました、オークキングは様子見なのか動いてないようですがランク的にはオーガキングの方が上でさらに巨大な剣を持っています。流石にこれを生身で受けるわけにはいかないのでプロテクトを掛けた杖で受け止めようとします。
「!がふ…」
「ひ……姫様!」
オーガキングの攻撃を杖で受けたのは良かったがそのまま私は吹き飛ばされました。
「あ…つぅぅ!」
痛い…プロテクトを掛けてたのに腕が両方折れたようです。どうやら私が相手に出来る魔物じゃないようですが私はなけなしの魔力を使って右手だけ治します、どうせ戦闘が終われば魔力も回復するからその時に治せばいいし今は痛くない。
「だ……大丈夫」
「ですが!それ以上は戦わないでください、死んでしまいます」
死ぬのはヤだな…
「もう少しだけいける」
その後何度も吹き飛ばされては最低限治療して戦線復帰を繰り返しましたが流石にもう無理でしょう。目の前には傷だらけなオーガキングと最初10人居た護衛は3人を残して皆倒れています。私ももう一度攻撃されれば死ぬかもしれません。でもどうせ下がれないさっきからオーガキングの配下が私達の周りでうろついています、きっと被害を受けずにお零れを狙ってるのでしょう。
「ここまで…か」
「さすがにこれ以上は」
私はオーガキングの攻撃が掠っただけでプロテクトが切れ膝をつきました、それと周りの護衛ももう立ってられず皆倒れるか膝をついています。終わりですね私はまだ死にたくないな~と考えつつも迫りくるオーガキングの斬撃を見てました。
「キサマはそんなに死にたいようだな?」
誰かが私の前に立ってオーガキングの攻撃を止めてくれたようですが私はそこで目の前が真っ暗になりました。
ドラコニア視点
俺が前線で魔物と戦ってる時にそれは起きた。最初から魔物が少ないな~とか後方からあり得ない魔法が飛来して魔物を蹂躙するわで若干やる気が下がってたが娘にかっこ悪い所を見せる訳にもいかないので頑張っていた。
前線が戦闘状態に突入した時から少し変だと思った、後方からの援護が止まり俺の所に来た伝令が後方の魔法師団が魔物の伏兵に襲撃されたと伝えてきた。俺は直ぐに戻ろうとしたが伝令はシルビアが負傷し現在アリスティアが指揮を執ってるのでこちらが終わるまで援軍不要と言われた
「ふ……ふざけるな‼アリスティアは5歳だぞ指揮が出来るわけないだろう俺が直ぐに援護に向かう!」
「これは臨時指揮官の指示です。それより前線を先に終わらせて全軍で救援に向かわれたしとの事です。あちらは最初から時間を稼いでこちらに魔物が挟撃しないようにしてるのでしょう。」
うちの参謀は優秀だ、例え親族でも情にほだされない心を持ち最善を目指す。俺には出来ないがシルビアなら怪我をしても少しは動けるだろう…なら俺は速攻でこいつ等を蹴散らし妻と娘を救い出そう。
そこからは余り記憶が無い、気が付いたら魔物は全滅し部下達は冷や汗をかきながらこっちを見ていた。
「全軍に告げる!反転して残りの魔物を蹂躙せよ!」
俺はそう告げると部下の誰よりも早く魔法師団の方へ駆け出す。
俺が後方の魔法師団の陣地に着いた時、魔法師団はほぼ壊滅…いや死んでないが軍として活動出来る状況じゃなかった。陣地を囲うような氷の壁が魔法師団を護り地面は凍りづけで魔物の足を止めたりして陣形自体は残って居たが魔法使いは殆どが魔力切れで気絶し残ってるのも教官の魔術師でそいつらも皆青い顔をして魔法を放っていた。
「こっ…これは姫様でしょうか?」
「だろうなこれほどの魔法はシルビアには無理だろう、それにシルビアは氷の魔法が苦手だ」
やっと追いついてきたアルバートと共にシルビアとアリスティアを探す…シルビアは見つからなかったがアリスティアが護衛につけていた奴等とオーガキング相手に戦っていた。
「嘘だろ…」
アリスティアは見るからにボロボロだ。なのに目には絶望は無くただ戦士のような目をしていた。だが明らかに限界だ、今にも倒れそうな体を杖で支えているし左腕は明らかに折れている。
「(あの野郎ぶっ殺す)」
俺はアリスティアの前に立ちオーガキングの振り下ろした剣を素手で受け止める。
「キサマはそんなに死にたいようだな?」
俺は受け止めた剣を握り砕くとオーガキングの腹に持っていた戦鎚を思いっきりフルスイングする。するとオーガキングは己の硬さが災いしたのか何処かに飛んでいった。
「(あれは死んだだろう)」
「陛下!王妃様を発見しました」
辺りの魔物を駆逐してると部下がシルビア発見の報告をしてきた。物理的にありえない事だが魔物にシルビアが連れ去られたのかと心配だったが良かった。
「何処に居た?陣地はある程度見たが居なかったぞ」
「陣地の真ん中に隠蔽の魔法を掛けて隠してたそうです。護衛の騎士が居場所を教えてくれました」
「シルビアは大丈夫なのか?怪我は?意識はどうなんだ!」
俺は部下につめ寄るがアルバートに落ち着けと怒られてしまった。どうやら意識は無いが無事らしい問題はアリスティアの方が危険らしく骨は何本も折れ内臓も破裂こそしてないがかなり危険な状態らしい。護衛の不甲斐なさに怒りを隠せないが彼らはアリスティアの指示に従っただけだ。その結果あれだけの大群に攻め込まれたのに怪我人は兎も角、死者は少なかったらしい。
「治療魔法が出来る奴を総動員していますし姫様はこの状況を見越して水と光の精霊の力を温存していたようです2柱の精霊も治癒の魔法を掛けてくれてますのでしばらくすれば大丈夫でしょう…ですが精霊の力が無かったら助からない確率が高かったそうです」
俺はアリスティアをここに連れてきたのを後悔した、やはり城に置いてくるべきだった。だが生き残ってくれた事を涙を流しながら喜んだ。間に合ってよかったと。
こうして今回のモンスタースタンビードは終了した。被害こそ大きく無かったが魔物の異常な行動や多種多様な魔物の襲撃と初めての事が多い戦だった。




