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転生王女の国家大改造 ~無敵な国を作りましょう~  作者: 窮鼠
大魔導士エイボンと過去
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93 アイリスの過去③

「アイリス・フィールド」


 アイリスはぶっきらぼうに答える。基本的に家族以外に対しては常にこんな感じのアイリスだ。この様な態度だから嫌われるのだが、基本的に外部に対して興味が無いのである。しかし拓斗の反応は今までの人間と違った。拓斗はアイリスの傍に座りこむと、色々と話しだしたのだ。

 例えば何処で住んでたのかや、アメリカはどんな所なのか等と、聞いてくるのだが、アイリスの返答に困る物ばかりだった。アイリスは自国の事など殆ど知らないし、住んでる町の事など、家族で出かける以外に買い物すらした事が無い。服も下着も玩具も家族が買って来る物で欲しいと思った事も無いのだ。


「分かんない」


 仕方なく答えた言葉がこれである。まあまくしたてる様に話しかける拓斗を鬱陶しいとも思い始めていたアイリスである。

 拓斗は思う。変わった子だな。と拓斗もこの歳では成長してる方で、アイリスの態度に怒りはしなかった。


「ふうん。でも日本語も英語も話せるなんて凄いね。俺なんて日本語だけで、他は話せないや」


 普通の6歳児は10か国語など話せないが、二か国語だけでも確かに凄い方だろう。拓斗はアイリスが10か国語を話せる事など知らなかった。

 その後も拓斗は色々な事を話した。それはどれもがアイリスの知ら無い事で、アイリスが拓斗に興味を持つきっかけになっていく。知らない知識を教えてくれる人。つまりはアイリスに取って常識を教えてくれる教師と言う感覚だ。拓斗の求めてる関係では無かった。

 30分程話すとアイリスはすっかり拓斗と仲良くなっていた。アイリスの人生初の友達?である。


「あらあらアイリスちゃんの彼氏かしら?」


「ファーーーック。アイリスには彼氏は早すぎるよ静‼アイリスには大和撫子の血が半分は入ってるんだから20歳になるまではパパは手を繋ぐ事すら認めないよ」


 初めて同年代の子供と接してる事に静は面白半分に彼氏かと聞いたが、アイリスよりカールスが過剰反応した。カールスは日本人の女性は皆大和撫子だと勘違いしてるアメリカ人だったのだ。これはカールスに会うまで誰とも付き合った事の無い静が基本だと思っているからなのだが、静は勉強一筋だっただけで、告白なら何度もされた経験があるのだ。実際静はアイリスが他人に興味を持ってる事が、驚きと共に嬉しいだけである。

 そして家族大好きのアイリスにも耐えがたい事が一つだけある。カールスの髭は痛いのだ。一緒にお風呂に入る事にも抵抗が無いのだが、カールスの髭だけは苦手だった。

 過剰に反応して、アイリスに抱き付いたカールスは、娘の思わぬ抵抗に心が砕けそうだ。その場で蹲ると涙を流しながら床を叩いていた。育て方はアレだが、アイリスを愛している事は間違いないのだ。

 その後、静は拓斗の両親と挨拶すると帰宅する事にした。静としては拓斗の母ともっと話したかったのだが、カールスのダメージは深刻で、このまま放置すると燃え尽きそうだったのだ。


「バイバイ」


「あ、ちょっと何処に住んでるの?」


「あそこ」


 帰り際に慌てた拓斗がアイリスの家を聞くと、アイリスは躊躇わずに自宅(仮)を指さす。流石に町に合わない西洋風の豪邸の事は拓斗も知ってる。と言うか近いので普通に目に入るので、直ぐに分かったが拓斗には驚きの連続だった。

 拓斗から見たアイリスは何処かのお嬢様…と言うか貴族令嬢のような者だった。大人しくて可愛いアイリスに幼いながらも拓斗の心は釘づけだったのだ。これを一目惚れの初恋と言う。しかし彼には天敵が居た。

 カールスである。直ぐに拓斗の幼い恋心を察知したのだ。彼も静に一目惚れして猛アピールをした経験から、そう言う眼は鍛えられていたのだ。実際静をゲットするのは至難の業だった。本人が恋愛に消極的だったので。

 育て方はアレな親だが、アイリスを溺愛してるカールスからしたら娘を誑かす天敵だ。実際アイリスの護衛には不必要に異性を近づけるな‼と秘密命令も出してる――但しアイリスが昔の静同様に恋愛ごとに疎いのと、今まで同年代の知り合いが居なかったのでその命令が発揮された事は無い。


「さあアイリス、今日は僕がお勉強を見てあげよう…そう言えば今は何を調べてるんだっけ?」


「カーボンナノチューブに代わる安価な軌道エレベーターのケーブル素材」


「おおう。それは見つかって数十年経ってるけど未だに代替品が見つかって無いよ。もっと他の物を調べるのが得策だね。そうだ、アイリスの為にPCも買ったんだ。今日はこれの使い方をレクチャーしよう」


 何かに慌てる様に帰宅を急ぐカールスの態度に少しだけ疑問を抱くアイリスだが、親の意見は絶対視してるので、普通に帰宅した。拓斗は門の外まで見送りに来たが、まだ鍛錬が残ってるらしく、今日は遊べないと落ち込みながら道場に戻って行った。

 勝ち誇るカールス。何かに勝利したのだろう。別に拓斗と言う子供は嫌いじゃ無い。寧ろ子供は大好きだ。毎年自分が居た孤児院に100万ドル寄付するくらい大好きだが、アイリスに近づくなら敵である。


 取りあえずその日は一日中カールスはアイリスから離れなかった。

 娘の成長速度は驚異的だ。実際アメリカの研究機関が精密検査を要請してきた事もある。脳内がどんな状況なのか知りたいようだった。

 カールスも最近…と言うか殆ど忙しいのでアイリスの最近の事を殆ど知らない。アイリスも学校の事など一々覚えてないので、楽しいか聞いても普通としか答えない。だからこの休みの間は何時も以上にアイリスと一緒に居る事を決めていたのだ。


「アイリスはプログラミングも出来るんだね…何処で覚えたんだい?」


「そこの本に書いてあった」


 教える事など何も無かった。PCは説明書を見るだけで普通に使いこなしてたのだ。勉強関連だと、アイリスの吸収率が高すぎて教える楽しみが少ないのだ。実際アイリスの通う学校では数人の教師がこれを理由に辞職している。教える側が教わる側よりレベルが低いと言う教師キラーでもある。

 

 陽が沈んで家族揃って食事をしたら、家族皆で風呂に入って3人で一緒に寝る。アイリスは幸せだった。カールスも静もアイリスが寝てる時間に帰って来て、起きる時間には仕事に出る生活だ。週に1回か2回程度夕食と共に出来ればマシな生活である。寂しいとは言えない。カールスも静も夢が有って働いてるのだ。それでも子供心としては寂しさを感じていた。アイリスはリムの事は当然大好きだが、リムは家政婦であり、一定の距離を保ってる。一人で食事するより家族で食事する方が美味しいし、幸せなのはどの国の子供でも共通の事だろう。


「何時もより幸せそうね」


 静は眠りについたアイリスの髪を撫でる。


「…そうだね。僕達はこの子に何が出来るのだろう。何を残せるんだろう。今日一日で凄く後悔したよ。何時も普通にしてるけど、この子も寂しがってる。僕は…親としてこの子に何もしてこなかったんじゃないのか」


 アイリスは両親に対して一度も怒った事は無い。理想的な子供だった。手間は掛からず将来も有望。性格は大人しく、勝手な事もしない。理想的な子供だろう。彼等はアイリスに甘えていた。自らの夢を追い求め家族を見て来れなかった。物質的な愛情は注いだが、精神的にはアイリスの優しさに依存していた。


「この子は直ぐにハイスクールを卒業するだろう。ハーバードはアイリスを無試験で受け入れると打診してきてる。僕はどうすれば良いと思う?」


 学校では週に一回は学力試験が行われる。能力のある生徒は更に高度な教育を施す。これはアメリカの方針だ。そしてアイリスはそのテストに毎回満点を叩きだしてる。教育界では新星としてその名を知らしめていた。


「その件ね。本当にあの子が望むなら大陸の果ての学校でも構わないわ。でも、アメリカで成功するには相応の学校を卒業しなければ私達のような苦労をこの子も味わうわよ」


 学歴社会は深刻だ。2人も孤児と言うだけでかなり差別を受けて来た。せめてアイリスがしたい事をさせたい。2人は今までアイリスは自分達の跡を継ぐ物だと考えていた。優秀な研究者になって歴史に名を残す。学者にとってこの上無い名誉だろう。しかし、それを娘が求めるのか?彼等は疑問を持ってしまった。

 この問題はこれから数年間2人の心に燻るのだった。しかし今は、娘と居る時間を大切にしようと思うだけだった。カールスも静も少しは仕事を控えるべきだと言う点で話が終わり、アイリスを抱くように眠りにつくのだった。


「アイリス~~」


「………」


 次の日。アイリスはリムと一緒に屋敷の外を散策していた。

 アイリスは出不精だ。放置すれば学校以外に外に出ない。アイリスの世界は酷く小さい物だったからだ。しかしリムは違う。知らない物を知る楽しみを知っている。まずは庭だ‼とアイリスを連れ出したのだ。アイリスも庭の構造や美術品に若干の興味を示したので、ちょこちょことあっちにこっちにと歩き回っていた。まるで住む場所を確認する猫のように。

 そして門の外から声が聞こえたのは午後1時くらいの時だ。当然の如くアイリスは無反応。観察モードに入ってるアイリスに言葉を通せるのは家族だけだ。

 リム自身は拓斗の事を知らないので木陰に居る護衛に確認に行かせる。護衛の方は拓斗の事を知ってた上に、静から好きに入れて良いと事前に許可されてたので拓斗を案内して連れて来た。静は拓斗が訪ねて来る事を察知してたのだ。因みに両親2人は現在ハイスクールと電話交渉中だ。暫くアイリスを通信教育に変えろと電話してるのである。

 ハイスクール側も敷地内で誘拐された事もあり、成績を落とさないのなら…と渋々妥協している。しかし、代償としてテストは一段上の難易度にされる事になるのだが、アイリスなら大丈夫だろうと両親も納得した。事、学業に置いてはアイリスを信頼してるのだ。そしてカールスは拓斗が来る事を知らなかった。カールスのアイリスに対する溺愛ぶりに、静も少し呆れていたのだ。

 それもそうだろう。静もカールスも今まで仕事優先の生活だったのだ。どれだけアイリスに寂しい生活を強いて来たかを考えれば友達の100人位は容認できると静は考えていた…当のアイリスはそれを望んだ事が一度も無いのだが。


「遊びに来たよ」


「…うん」


 拓斗はアイリスの手を取ると駆け出す。別に目的地など無い。アイリスと同じように庭を一緒に散策するのだった。

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