90 儀式
アイリスの享年を変更しました。これからは少し過去編に入ります。
それと遅れてすみません。
この人どうしよう…もし私の知り合いに変な事を仕出かしたら、私は多分エイボンを滅するだろう…と言うか全世界の女性の為に女神と悪魔王の為に滅した方が良い気がする。でも天界と地獄に行けない魂ってどうなるんだろう?地球では死者の魂は消滅だった筈。いや、正確には消滅はしてないのだろう。何故なら私が今ここに存在してるのだから。
私は仮説をたてた。魂は世界を流動してるのではないのか?と。つまり死後に別の世界に新しい命として生まれるのではないかと。
では何故テトは私に干渉したのだろう。放っておいても別の世界に転生するのなら干渉する必要が無い。まあこればっかりはテトしか分からないか。
でもなんだろう。この事を考えると、胸がモヤモヤする。何か忘れてる気がする。私を構成するナニカが思い出させようとするけど、思い出すべきじゃない気がする。全部紛い物の…
「姫様‼」
「ん?」
アリシアさんが行き成り大声を出した。剣をエイボンに向けてたお兄様や師匠にアノンちゃんも驚いてこっちを振り返った。何だろう?
「あれ?…いえ、その…すみません見間違いのようです。ちょっと足元に虫が居たような気がして動転してしまいました」
私は即座に転移して別の場所に逃げた。虫は嫌い。
でもなんだろう。アリシアさんが言ってる事が本音に思えない。お兄様も怪訝そうな顔だ。アノンちゃんは少し考えると、エイボンの方を向き、剣でツンツンしてる。どうやら分からない事を考える事を放棄したようだ。このままじゃ、将来脳筋とか言われるかもしれない。少しは考えようよ。
「まあ、まずはあの魔法を教えて貰う。どうすれば良いの?」
「…別に構いませんが、これは世にも珍しい儀式継承魔法ですので、特殊な儀式を執り行わなくては習得出来ませんよ。危険性もあります」
ほほう。確かに珍しい。既に途絶えてる魔法形態だね。古代の時代に多く存在した物だ。
例えば儀式を行い、特定の属性竜を右手だけで討伐するなど、無理難題ばかりで、魔導書が普及すると廃れた魔法体系だね。
お兄様達も露骨に嫌そうな顔をする。儀式継承魔法は危険が大きすぎるのだ。
「姫様…」
「私は受ける。この魔法を絶対に手に入れる」
ここで引く気は無い。私はもっと高みに行きたい。
「良い覚悟ですね。これはワタシも本気を出して生前の力を取り戻さなくては…後であの精霊ぶっ殺す」
「その前に浄化するけどね。闇の精霊と戦うのなら私も敵になるよ」
アンデットの時点で私に勝つ事など不可能だろうに…何故気が付かないのか。
「ま、まあ…ソノ話は後でしましょう。それと儀式ならここでも出来ますよ。それほど厳しい儀式でもありません。これは自らとの対話。自分のコピーを屈服させれば良いだけです…稀にコピーがドラゴンだったり意味不明な者が出てきますが」
「危険過ぎだろ‼」
何故にドラゴン…ふむ、もしかしたら昔の自分と戦うとかなのかな?それならドラゴンが出てきてもおかしくは無い。前世と戦えと言う事か?それなら私の場合は人間が出て来る筈だ。でも……危険と言う事は変わらないね。だって何をしてたか分からないから。でも魔法の無い世界で生きてた筈なので、脅威はそこまででも無いだろう。実力戦なら私に分がある筈だ。
直ぐにこの場で儀式を行うとエイボンに言うと、エイボンは床に魔法陣を描きだした。
それは私の知識にはまだない、古代の魔法陣だろう。複雑な模様を一回も間違う事も無く書き上げるのは、流石大魔導士だと思える。実際魔法陣の書き間違いで発狂する魔法使いは珍しくも無い。
1時間程エイボンは魔法陣を描くと、溜息を吐くようにチョークを捨てる。それ魔玉使った物で、高級品だと思うんだけど…。因みにアノンちゃん達は休憩とばかりにお茶を飲んでたが、私は魔法陣をずっと見てた。古代の魔法は興味深い。知らない術式が何を行う為の物なのかを調べたり、それを流用する事で他の魔法を効率的に行使できる事もある。実際幾つか最適化に流用出来る術式を見つけたし、これを元にした新しい魔法も見つけた。
「貴女は本当に魔法が好きなのですね。普通はここまで魔法陣を見つめませんよ」
「興味深い。これを視れたお蔭で、私は更に実力を付けられる」
ほほう。とエイボンが呟く。彼も私が何をしてたのか理解出来たのだろう。
「素晴らしき向上心です。ワタシの時代にもこれくらい熱意と才能ある魔法使いが居れば、もっと素晴らしき時代を作れたでしょう。さて魔法陣は完成です。起動すれば魔法陣の外には出れませんが、基本的に死ぬことは無いでしょう。ワタシもそうでしたが、出て来るコピーは基本的にワタシを殺そうとはしませんでしたし、この儀式をワタシに伝授した魔導士も同じだったそうです。寧ろ激励されたと言ってました」
もし、出て来るのが前世の自分なら確かに自分を殺す事はしないだろう。難易度低く無い?
私は魔法陣の上に移動する。これは神殿から少し離れた、何も無い場所に書かれているので、大きさは50mくらいだ。どうやらこういう時に使う為に用意した場所らしい。エイボンはこの神殿で数百年間魔法の研究を続けて来たらしい。
もし、昔の私に逢えたのなら…聞きたい事はいっぱいある。語りたい事もいっぱいある。そこでどんな暮らしをしてたのか。何を思って生きて来たのか知りたい。何故ここまでの知識を求めたのか。何故死んだのか。私は何なのか。色々聞きたい。
「良いですか?」
「うん、起動して」
私の言葉と共に魔法陣が淡い光を灯し、この空間を照らす。暫くすると、魔法陣がグルグルと回り出した。そして、中央に光が集まりだし、人の姿を形作って行く。全員がその様子を見てる。
暫くして一人の少女が現れる。少女は少し不機嫌そうに周りや、自分の体を見る。そして小さく溜息を吐くと、私の方を見て来た。
少女は私と同じ翠色の眼だが、髪が金髪だ。どうやら日本人では無いようだ。それにぶかぶかの白衣を着ている…チンチクリンだ。
「っふ」
「何でそこで見下すのかな?殺されたいの?」
「私の方が将来性がある」
まだ私の方が小さいが、今世では私の方が上だろう。私達の間に火花が散る。どうやら相容れぬ関係のようだ。どうにも気に入らない。
「捕らぬ狸の皮算用ね。それで、私を何で呼んだのかな?暫く平和な日々を謳歌出来ると思ってたんだけど」
「ん?まだ生きてるの」
「いえ、私はとうの昔に死んでるわよ。それは貴女が良く知ってるでしょう?でも唯で死ぬほど軟な生き方をしてないのよ。貴女の中で普通に暮らしてるわよ。それに貴女にあの魔法をあげたのも私だし、貴女の知識も元は全て私の物だから」
ぬう。まだ消えて無かったのか。と言うか私の中で消えて無いだけって、記憶もそっちが持ってるだけで消えて無いじゃん‼テトを本格的に祀るべきだろうか。騙された‼
と言うかどうなってるのこれ?この場に私が2人居るって事?
「ご明察ね。当然私は私。貴女は貴女。最も私は残りカスよ。殆ど貴女に譲ったせいで消えるのも秒読み状態ね。まあ記憶だけを保持してると言えば分かり易いかな?今更貴女に会う気も無かったんだけど、そこの大魔導士を自称する馬鹿は消すべきだったね。モモニク2号も割と甘いんだから」
モモニク2号ってなんぞ?しかし、それはおかしい。私も魂の構造は知っている。それでは私の魂が一部欠損していると言う事だ。魂の欠損はヤバい。
「別に欠損してないわよ。私がそんなヘマをするわけないでしょ?丁度良い所に壊れた魂が有ったから…そうねそれを語るには邪魔者が多いわね。ちょっと眠りなさい」
前世の私が手を振るうと外に居たエイボン以外が全員倒れた。どうやら眠らされたのだろう。
「馬鹿な‼何故結界の外に干渉出来る」
「結界が無敵だと思ってるの?構造さえ観測出来ればそれを無効化するのだって余裕よ?それに強度ばかりでこういう絡め手には脆過ぎね。少しは改善なさい」
結界の外に干渉したのは、確かに驚きだが、確かに強度が高いだけなら私でも干渉出来る。でも何でこの人は魔法を使える…まさか‼
「それもご明察。貴女の中に居たと言ったでしょう?貴女が使える魔法も当然私も使えるわよ。それも貴女以上にね。だって私には睡眠も食事も要らないんだから何時でも研究出来るわ」
「むう。小賢しい」
「貴女だって私の知識を好き勝手に使ってるんだからお相子でしょう?別に良いじゃん。面白いし」
むう。反論出来ない。しかし難易度が行き成り上がった。コレ私は勝てるのか?どう考えても無理な気がして来た。
「さて、私を屈服させるのがこの儀式の肝でしょう?でも私って貴女と違って戦うのは好きじゃないんだよね。それに戦っても私が勝つのは分かりきってる事だ」
「そんな事ないっつ‼」
行き成り前世の私が目の前に出現し、掌底が結界を突き破るとお腹の前で止められた。
「だから貴女じゃ勝てないって。私は貴女と違って武術も嗜んでたのよ?獅子合流の無手を習ってたのよ?まあ護身術程度だけどね」
「………それでも私は負けない」
私はその場から転移で離脱する。至近戦は勝てない。獅子堂流は『知ってる』アレは私には勝てない。だから距離を取る。しかし、前世の私は同じタイミングで、同じ場所に転移して逃がさない。
「だから無理だって。それに戦う気は無いって言ったでしょう?」
僅かの時間で実力差を見せられた。これは勝てない。凄い悔しい思いが私の中で渦巻くが、相手が戦う気が無いので諦める。無理に戦う理由も無いし、勝てない戦いは避けるべきだ。
「それで、私はどうすれば良いの?」
「そうね…そんなに過去を知りたい?」
「知りたい」
「後悔するわよ。それに私の過去に自分を塗りつぶされる可能性もある。私は別に生き返りたくないから、この状態に甘んじてるんだけど」
そうだね。自分の過去を知ればそうなる可能性もあるのだろう。
「そうなれば貴女だけじゃ無く周りも悲しむのよ?生憎と私の家族はここには居ないしこの世界の、貴女の家族は私の家族じゃ無い。アーランド何て国を護る義務も私には無い。ゴミのように捨てて自分勝手に生きていくでしょうね」
「受け入れてみせる。だから教えて欲しい」
それでもこの魔法を体得したいのだ。危険性何て何処にでも存在する。一度でも逃げれば、後は逃げ続けるだけだ。私は王族として国に尽くすと決めてるのだ。
「ふ~ん。まあ良いけどね。でも私の記憶はあげないわよ。これは私のだからね。だから見せてあげる。私、アイリス・フィールドの人生をね。覚えときなさい自分の名前を。これから何を見ても貴女の名前はアリスティア・フォン・アーランドよアイリスじゃ無い」
何故か満足そうな顔をされた。そして、彼女と私は額を合わせた。




