88 大魔導士と戦う者
「これはヤバい武器ですね。人間に使って良い代物じゃ無い。貴方達は旧時代の悪魔ですか‼」
グランツ達がロケランでエイボンを攻撃してると、爆音より大きい声で非難する。エイボンもこれが明らかに対人用の武器じゃ無い事が分かるようだ。しかし彼等は辞めない。既に人外の存在と化したエイボンには人権のじの字すら存在しないのだ。
「暇だな~」
「非戦闘員は戦闘中に暇。あの骨もそこら辺理解してるからこっちには被害が来ない」
メイドーズとアノンは基本的に非戦闘員だ。戦えないのではなく、邪魔なのである。アノンは未だ魔法を使いこなせないし、ロケランやガトリングガンが飛びまくってる所で剣を振る程無謀じゃないし、この探索に付いて行く条件の一つに不戦が入ってるのだ。基本的に自衛か状況が厳しくない限りは参戦出来ないのである。当然アリスティアの主張である。
元々無理を言ってる手前、同行するだけ。と言う事で着いてきてたのだ。
「コイツからは邪心を感じるぜ。城の連中よりタチが悪い気がする」
「存在自体が既に人外な上に気持ち悪い雰囲気を纏ってますね。これが大魔導士……アリスもアアナリタイノカ」
「落ち着け、アレが駄目なだけだ。しかしエイボンの頭脳に嬢ちゃんが興味を持ってやがる。嬢ちゃんの遊びが終わる前に滅するぞ」
彼等から少し離れた所では哀れな悪魔が壁に埋め込まれている。こちらより遥かに上回る火力で物理的に壁に押し込んだのだ。無論その程度で倒せる程悪魔は甘くないが、アリスティアの目的は悪魔の戦力分析である。
もし将来アーランドに現れた時を想定して、この機会に強度や脅威を分析してるのだ。無論あっさり殺る事が出来ると確信しての行動なのは、この場の全員が知っている。雰囲気が語っているのだ。遊びたいと。だから誰もアリスティアを止めない。アリスティアは自分に相応しい成長の仕方を見つけ出したのだ。
それは観察。全てを観察し、解析し、自分の戦術に加える。奪える魔法は全て奪うし、動きも覚える。まあ身体能力が低すぎるので主に魔法しか奪わないのだが。
故に最強に最も近づける…それが上手くいけばだ。
「危険過ぎる戦い方だ。自分の命すら天秤に乗せて無い。アリスには結果しか見えないのだろう。自重して欲しい」
「無理だな。ありゃ坊主の血筋だ。自らを省みずに国民を導くには自分の血を流すしか無い事を理解出来てるんだろ」
文句を言いながらギルバートは次弾を撃ち込む。叫びあうように喋る会話はこの場の全員に聞こえていた。
「凄まじい執念ですね。しかし私は天界からも地獄からも受け入れ拒否を受けた身です。この程度では死にませんよ」
爆炎の中から複数のエイボンが分散するように出てくる。その分身体は各自に魔法を撃ちこみながらギルバート達を分断した。
結果火力の集中が途切れ、装填に難のあるロケランは無力化される。しかしギルバートもグランツもロケラン自体には何の思い入れも無い道具である。各自に武器を取りながら応戦する。
「ッチ。これが嬢ちゃんの欲しい魔法か。確かにこれがあれば嬢ちゃんはほぼ何でも出来るな」
「この魔法を欲してわざわざここに来たのですか。それほど使い勝手の良い魔法では無いですよ?」
「ワタシは全。全てのワタシがワタシです。故に全てのワタシは自我を持つ」
「統合された人格では無く個の分散。それがこの魔法」
「ワタシを倒すには本体を倒さなければなりませんが、ワタシの本物はドレでしょうか?」
全てのエイボンが歯をカタカタ鳴らしながら笑う。明らかに全てを統制出来る魔法では無い。動きに統一性が無いのだ。100体程の体を操作できる人間等居ないであろう。
「だが、弱体化はしてるな。やはり生前程の力は出せないのだろう?」
ギルバートが難なくエイボンの分身を切る。しかし分身でもエイボンだ。直ぐに破損は修復され、襲い掛かって来る。
「確かにワタシの肉体が骨になった影響で弱くなってるでしょう。この体は恐ろしく使いにくい。油断すれば体から魂が剥離し、私は消えるでしょう」
スケルトンや他のアンデットは確かに魂が何らかの理由で体に残る事で出来上がるが、肉体が死んだ場合その体は魂を保持出来なくなる。故に本来は魂の一割程度しか残って無いのだ。しかしエイボンは10割の魂を保持してる。肉体は滅びてもその魔力で魂を肉体に拘束してるのだ。結果エイボンは弱体した。常時上位魔法に匹敵する精神力を使っているのである。
「しかし、それでも私は成すべき事があります。魔導を極め、それを次ぎの世代へと伝える使命が残ってる‼」
エイボンの放つ火球が集合し、巨大なエクスプロ―ジョンになる。それを爆破すればここら一帯は消し飛ぶ程の大きさだ。流石にグランツ達も青褪めるが、その魔法は放たれる事は無かった。エイボンが杖を振り下ろそうとした瞬間に、陽炎のように消えたのだ。
「…まさか悪魔と戦いながらこちらも見てるのですか。素晴らしい‼ワタシの魔導を継ぐに相応しき才能だ。まさに天才。いえ、それどころでは済みません。ワタシの全盛期に匹敵しえる才能だ。私は彼女を鬼才と呼ぼう」
エイボンが驚愕しながら拍手する。大悪魔の一柱と戦いながら他を気にする余裕すら持ってるのだ。しかも無効化したのは唯の【エクスプロ―ジョン】では無い。複数の【火球】を統合した【エクスプロ―ジョン】は並の魔法では無いのだ。これこそエイボンを最強と言わしめた複合魔法である。それを難なく無効化出来る才能はエイボンを魅了している。
「確かにこりゃ厄介な相手だな。私も本気を出すべきだろう」
ギルバートが光の精霊に頼み、【シャイニング・フォース】と言う魔法を発動する。これは光の加護を得て、光の属性付与と身体能力の強化を行う魔法だが、ギルバートはそれを全て振動刀に注ぎ込む。ギルバートの刀はそれを余す事無く受け入れ光り輝く聖剣のように淡い光を灯した。それを見たエイボンが警戒感を露わにする。幾度となく分身を切られたが、エイボンの分身も【ボルグ】を纏っている。それすら無効化して容易く切り裂く名刀は自身の弱点を宿したのだ。
「貴方も精霊魔法の使い手でしたか。しかもよく見れば彼女と同じく全ての精霊を宿してる…フム彼女が今代の精霊王でしたか。これは勝ち目が無さそうですね」
ギルバートが分身体の一人を切り裂くと、エイボン(分身)はサラサラと塵になって消えて行く。
これは勝てない。光の精霊魔法の使い手が2人も居る上に、一人は悪魔を苛めながらこちらまで見ている。
エイボンは降参しようと決意したが、それは遅すぎた。アリスティアは既にエイボンへの対策を考えだし、自らのペットへ、クートを通して指示を出したのだ。
そして神殿の外からなだれ込んで来る魔獣の群れ。彼等はその命令に従い、死をも恐れぬ突撃でエイボンやエイボンの分身体の頭蓋骨を奪い去り、神殿の外に持って行ってしまった。流石にエイボンも抵抗したのだが、魔獣は傷つけても直ぐにアリスティアから治療魔法を受け戦線復帰してしまうのだ。
「ワタシの頭蓋骨を何処に持っていくのですか‼前が見えません。歯をカタカタ出来ません」
歯をカタカタ鳴らすのは趣味のようだ。確かにアレがあるとスケルトンらしさが出るから理解出来る。
しかし。頭蓋骨が無いのにエイボンは平気そうだ。いや、実際平気なのだろう。しかし、視界は頭蓋骨が無いと見えないようで、頭蓋骨を奪われたエイボンが無事なエイボンの前に出たり、ぶつかったりでフラフラしている。
「ワタシの頭蓋骨返してください‼」
「ちょっとワタシの頭蓋骨に跨ってナニをするつもりですか‼獣の股間に興味を示す程人間辞めてません――ああああ‼それだけは辞めてくださいお願いします」
「ちょっと‼何故ゴーレムの体から頭部を外してワタシの頭蓋骨を置くのですか?別にワタシの頭蓋骨を置いても動かせませんよ。何故鼻で笑って立ち去るのですか‼戻って来て下さい」
「ワタシは天井のシャンデリアの一部デス。ここは居住区の跡ですか…私はここで家具と共に朽ちるのですね」
「蹴られる。遊ばれる。酷過ぎです。私は玩具じゃないのですよ‼」
どうやら体側は見えずとも頭蓋骨側の方は見えてるらしく、わんこーずの精神攻撃を受けてるようだ。その場で蹲るエイボン(分身)や体だけ何かを追うように走りだし、壁に激突してはバラバラになるエイボンなど、阿鼻叫喚の状況になった。ギルバートとグランツは無事なエイボンを共同で破壊し、本体を探す。しかしどれが本人なのか分からないし、どれも頭蓋骨が無い。どうやら本体は何処かに頭蓋骨を持っていかれたのだろう。
どうやらエイボンは体を破損されなければ修復出来ないらしく、どのエイボンも変なポーズを取るだけで頭蓋骨が戻る事は無かった。ギルバートはウザい動きに若干イラつきながらエイボンを一人ずつ切り裂いていく。グランツはワイヤーでエイボンを縛り、ギルバートに渡す。既に狩る側と狩られる側は決定的だった。
「降参です‼こんなの酷過ぎです‼私がナニかしたのですか‼」
「よし、じゃあさっさと魔法を解除しろ」
「少しでも下手な行動を取ったら浄化しよう」
エイボンが分身を消すと、残ったのは壁に激突してバラバラになったエイボンだけだった。やはり頭蓋骨は盗まれたのだろう。エイボンは体を組み直すとその場で正座した。
「さて、何故こんな面倒な事をしたのか話して貰おうか」
「それは構いませんが、どうやら彼方も終わりのようですね」
壁に埋め込まれた悪魔が咆哮を上げながらアリスティアに飛びかかろうとした所で巨大とも言える大砲が宝物庫から数体のゴーレムに引っ張り出され、砲撃される。哀れな悪魔は再び壁に押し戻された。
そしてグランツ達はアリスティアを見ると、彼女は光輪を後頭部側に下げ3対6枚の翼を広げて宙に浮いていた。
「大体把握した。もう貴方は用済み。大人しく地獄に帰れ【ジャッジメント】」
アリスティアが杖を振り下ろすと哀れな悪魔は光の柱に押し潰された。
アリスティアはそのまま何度も光の柱を悪魔に叩きつけ、無慈悲に悪魔を蹂躙する。そして、その光の柱が消えた時には、悪魔は既にその場に存在しなかった。彼女はふ~っと溜息を吐くと精霊魔装を解除し、クートに乗ってこちらに来るのだった。悪魔の完全敗北である。




