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86 王女流ダンジョン攻略④

 ダンジョンに入って既に5日経った。どうも下に行く毎にゴーレムが増えてる。どうやら私がダンジョンに入った初めての人じゃないね。ここら辺に来ると白骨化した亡骸が結構ある。しかも正規兵の装備じゃないのもあるので秘密裏に潜入して半ばで力尽きた人も結構居るのだろう。トラップも多い。

 まあ私達からしたらトラップの多さ=収入の多さだからウハウハだね。師匠も機嫌よさそうにロケランを連射したり、ゴーレムタンクに弾薬を補給してる。途中何か紙に書いてるのは改造案や、他のゴーレムの参考にする為の物だろう。


「だから探索隊は要らない。入ってから誰も怪我をしてない。もう少しで最下層だから」


(だってもう5日も経つんだぞ?心配だ。ちゃんとご飯食べてるか?ちゃんと寝てるか?)


「大丈夫。ご飯も休む場所も宝物庫で取ってるから、ゴーレムは入ってこない。睡眠は・・・トッテルヨ」


 毎日毎日電話してくるお父様。ダンジョンに入って5日もすると心配でたまらないらしい。でもお父様の昔話を聞くと平気で2・3か月もダンジョン内で生活したとか自慢してたんだけどな。まあ大事にされてる証拠だと諦めてるが、いい加減鬱陶しい。


「睡眠は重要だ。いざと言う時に集中力が切れる。ちゃんと休みなさい」


「またゴーレム出たから後でね~」


「王様って暇なの?」


「割と忙しい筈だけど・・・お父様だし」


 仕事が出来ない訳じゃ無い。これでも20年は国王をやってるのだ。でも稀に逃げるんだよな・・・まあ主にボルケンさんが仕事を過剰に供給するのが原因だけど。

 あの人有能だけど仕事中毒だからね。もっと仕事を‼が信条らしい。お蔭でボルケンさんの部下は腐敗する事は無い。倒れる程仕事を送られるから不正とか裏で誰かと結託する暇も無いらしい。有名なのはある貴族がボルケンさんの部下を自分の陣営に入れようと画策した時の話だ。

 陣営へ入らないか?と金品を渡されたボルケンさんの部下は血の涙を流しながら「そんな暇等無い‼無駄な仕事を増やすな‼」ととびかかったらしい。陣営に入って、その陣営の為に動く暇などないのだ。

 当然そんな人と仕事をしてるお父様に暇など無い筈だ。ただ単に仕事しながら電話出来るから同時並行でやってるのだろう。さっさと攻略しないと心労でお父様が駄目になってしまう。今日中に最下層前に行こう。現在は16層だ。


「ワン‼」


「ワン‼」


「王‼」


「一匹発音おかしくないか?何か別の事を言ってる気がするぞ」


 前方を歩く二足歩行の魔獣は常に正拳突きをしながら、ゴーレムタンクと共に進んでるのだが、いい加減あのハイテンションに皆疲れ気味だ。連戦上等・強者上等・特攻大好きの功夫ワンコは今日も元気にゴーレムを破壊してる。拳を痛めないのか心配になるが、いつの間にか凄い拳が硬くなってる。宝物庫の結界に拳をぶつけて訓練してるとの事。


「正直過剰戦力ですよね」


「安全第一」


「私達も暇になるます」


 後ろのメイドーズは基本的に炊事か索敵位しかしてない。元々戦わせる予定も無いので問題は無いのだが、余りに暇らしい。既に歩くのに飽きてるので、師匠以外はわんこーずから暇な魔獣を呼び戻して乗獣としてる。師匠はちょくちょくゴーレムタンクを弄ってるのと、ロケランの発射音を至近距離で聞くとワンコが驚くので乗らないらしい。あっちも楽しそうだ。本当にダンジョンを攻略する風景なのだろうか?


 戦いの風景は、前方、又は、後方から走って来るゴーレムに師匠とゴーレムタンクの攻撃で半壊するかで、運よく抜けて来たのはガトリングガンの餌食か功夫ワンコの空中コンボで破壊する。10匹の功夫ワンコは拳でゴーレムを浮き上がらせると壊れるまで地上には降ろさない。連携して拳をぶつけ続ける。後は負傷した魔獣が治療の為に戻って来る程度だ。暇にもなる。私も暇だから結界を張って読書してる。アノンちゃんは・・・お勉強中だ。


「うう~~何でダンジョン攻略で勉強を~~」


「アノンちゃんが他の防具を欲しがったから。頑張って100点を取れば残りの防具とかを一つずつあげる」


 アノンちゃんはガントレット以外は自前の皮装備だ。残りも欲しいと要求されたので家庭教師――これは学園が一時的に使えないので家庭教師が雇われた。の出す課題テストに満点を取れたらと言う条件を出したのだ。無償であげてもありがたみが無いし、ゴーレムを倒すと言う条件を出しても余裕で倒しそうなので苦手中の苦手な勉強を条件としたのだ。だってテストとかの度にケーナちゃんに泣きつくらしいからね。

 結界内では簡易的な机と宝物庫内の適当な椅子を浮かべてアノンちゃんが唸ってる。私は要所要所を教えながら読書だ。今日は古代語の解読をしてる。

 私が戦っても良いんだけど、アノンちゃんが自分の前で早々実力を見せない方が良いと言う雰囲気を出してるので誰も本気で戦わないんだよね。アノンちゃんも色々嫌な事を言われるらしい。


「うぅ~~アリスここ分かんない」


「そこは3ページ前の公式を当てはめる」


「教科書見てないのに分かるの‼」


「入学して1週間で読み終えた」


 学園の教科書に載ってる事は基本的に入学前の教育期間で終わらせてる事だ。お兄様も私も王族として相応しい教育は受けてるのだ。普段からそれを活かすとは言っていないが。


「何しに学園に来たんだか・・・」


「図書館の魔導書が目的だからね。別に私は外国の貴族と仲良くなりに来た訳じゃ無い。そう言うのはお兄様の仕事だし」


「君は少しは交友関係を広げるべきだね。友達1万人とかを目指すと良い」


「お兄様は1万人も居るの?王都の人達なら数百人の顔と名前を把握して仲良くしてるけど」


 年上の知り合いは多いよ?と言うと微妙な顔をされた。実際アーランドの王都に出れば何処でも知り合いに会う程度の交友関係を築いている。貴族の知り合いは有能な人しか居ないけどね。変な人だと露骨に派閥争いに巻き込もうとするし。

 私としては権力に関わるとロクな事は無いと思ってるのでそう言う思惑を持って近づかれると逃げるんだよね。将来家族と殺し合いとか変に疑われて投獄とか嫌だし玉座に座りたいとは思わない。結構お父様もお兄様に国王を譲ろうと画策して、まだ自由で居たいお兄様に妨害されてる始末だし。アーランドは権力と責任は比例してるから当主を嫌がる子供も意外と居るんだよ。まあお兄様も将来は継ぐと言う意思表示はしてるから何も問題ない。お父様だって普通なら後数十年は国王をやるもんだけどね。50代で引退は早すぎる。


「アリスってやっぱり変わってるよ。オストランドだと第3王子が玉座を狙って騒動が起きてるし、王族って普通は王様になりたいと思う物じゃないの?」


「アーランドでは王様も全部自分の思い通りには行かないからね。確かに絶大な権限と権威を持ってるけどそれだけ責任も重いんだよ。だって自分が失敗すると帝国や皇国に滅ぼされた上、国民は殆ど奴隷落ちが確定してるから」


 議会の不穏分子もそう簡単には排除出来ないのはそれが理由だ。無理やり排除は出来なくも無いけど、それをやると影響が大きい。だから向こうが自爆するか足を出すのを待ってる後手の状態なんだよね。私が好き勝手してるのも議会としてはご立腹らしい。と言うのも空軍の権限は議会が持ってたのだが、何かの不祥事を起こして大人しくなった時に取り上げてそのまま私に渡されたからね。議会もまさか飛空船を量産するとは思ってなかったのだろう。居ても居なくても変わらない空軍が将来的にアーランドの主力になりえる状態なのだ。取り戻そうと画策してるとアリシアさんに聞かされている。最もお父様とお兄様がそんな事をさせる筈も無いだろうけどね。


「まあ、そんな面白味のない話より実益のある事を話そうではないか。このまま続けると議会と政府のアリスを巡るくだらない攻防の話に発展する。

 それよりもこの先に有る魔道書だ。アリスだからどの文字で書かれていても解読するだろうが、そこまで欲しい物なのか?確かに過剰戦力だが、危険を犯してるのには変わりない」


「多重存在の魔法が有れば私は実質分身出来る。恐らく魔力回復とかが出来ないデメリットがあると思うけど、魔力には余裕がある。どうにも将来について嫌な予感しかしないからさっさと空軍を近代化して対策を取りたい。今の大型飛空船じゃ大した武装も積めないから」


 現在の建造ペースじゃ間に合わないかも知れない。帝国は絶対に動くだろう。私は後悔したくないからどんな手段を用いても対処する。その為には私の手足になる物が大量に必要だ。ゴーレムだけじゃ足りない。私と同等の知識と技術を持つ者が大量に必要なのだ。魔導戦艦や空母にそれを守護する駆逐艦級の船舶を大量に配備し、騎士団や兵士団にも近代的な武器を供給しなければ将来は無い。

 私が昔生きていた世界では戦争は数だ。それを当てはめると実力はあるが、数の少ないアーランドは将来的にその軍備を維持できない。積み重なる戦費は如何に技術大国とも言えるアーランドでも耐えれないのだ。既に限界が近い事は王族・貴族なら分かる。飛空船の事業もそれを遅らせる程度になるだろう。一手が必要なのだ。帝国や他のアーランドを狙う愚か者が心を折る程の武力を持てれば数百年は安泰だ。攻め込まれても相手を再起不能に出来る。

 私は戦争は悪だとは思わない。それが人だ。人は争い発展する。それは戦争だけじゃ無い。競い合う事や誰かをライバル視するのも自分をもっと高みへ歩ませる動力源なのだ。平和の世で戦争を憂うより、敵が居るのに情に任せて何もしない人の方が悪だ。人には人の正義が有る。折り合わなければ戦うしかない。


「私達は君の負担にはなりたくないな。余り無理をしないでくれ。そうやって自分を追い詰める程に君を心配して心を痛める者が大勢居る事を忘れてはいけないよ」


「大丈夫。私は新しい家族に楽しい人生を送って欲しいだけ。あの子が育った時に今みたいな時勢では無いようにしたいだけだから」


 そう言ってダンジョンを進む。この先は最下層だ。多分ゴーレムタンクでもどうしようも無い守護者が居るはずだ。どうやら本気にならないといけないようだ。階段の下からは濃密な魔力が漂っていた。

 そこで私は自分の過去を知る事になる。どうしようも無い不幸に見舞われ、抗い挫けた一人の天才の人生を知る事になる。

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