84 王女流ダンジョン攻略②
今日だけで4階層まで攻略が進んだ。私達の通った後には何も残らない。ゴーレムは師匠のロケットランチャーとわんこーずに破壊され、トラップは根こそぎ回収する。落とし穴系の罠は余ってる土で埋めたので今後起動する事は無いだろう。
現在午後17時なので、宝物庫で一晩過ごす事にした。ここなら何百体のゴーレムが来ても入れないし、小屋程度だけど家もある。当然お風呂やトイレも完備だ。寝床には十分だろう。それに食料も年単位で有るから問題ない。私は荷物持ちとしても有能なのだ。
「便利だな~何か私の必要性が感じられないや。と言うか何してんの?」
「剣とか矢じりとか色々集まったからインゴットにしておくの。こうしないと邪魔になるし、宝物庫内は割と爆発事故が多いから吹き飛んじゃうしね」
私と師匠は回収した金属を分類ごとに整理し、【ファクトリー】で金属の塊に加工する。まあ金属ごとの延べ棒を作ってるのだ。
「大量だな。隠してたお宝も中々高品質だ」
今日だけで大量の金属に、そこそこの魔道具が集まった。どうやらこのダンジョンはある程度の修復機能を持ってるらしいが、それの予備魔道具的な物が収納されてる部屋等を見つけたのだ。どうやって見つけたって?音の反響で壁の向こうに部屋があるか確認できるし、人工物だから大よその隠し部屋の場所は見当が付く。構造的にここだなって思った所を調べた結果2つの隠し部屋を発見。壁を魔法で風化させ、中の警備ゴーレムを鹵獲して中身もゲット。
正直師匠無双状態でやる事は結界を張る程度だ。わんこーずも集団で行動し、持たせたワイヤーを壊したゴーレムに引っ掛けると引きずって来るようになった。ご褒美ジャーキーが欲しいらしい。
「姫様~食事の用意が出来ましたよ」
「今日のは自信作」
「多分美味しい」
多分なんだ。まあアリシアさんは料理が上手だから失敗は無いだろうし、私に食べさせる事も無いだろう。私達は返事をし、小屋に戻る。
お兄様は小屋の外で日課の素振りをしてたが、今は刀の手入れをしてるようだ。
「嬢ちゃん、ちょっと良いか?」
「何?」
小屋に入ろうとすると師匠に止められた。物凄い真剣な顔でお兄様を見ている――いやお兄様の刀を見ている。
ヤバい。あれの本体はナマクラだ。師匠絶対怒ってる。決して手抜きで作った訳じゃ無いし、出来る限り手を尽くしたが、私は鍛冶師では無いので刀のような物程度の出来だった。素材強度と付与魔法で誤魔化したとも言える。当然その2つの効果で名刀以上の切れ味を誇るのだが、やはり本体が気に入らないのだろう。
「言いたい事は分かってるよなこの馬鹿弟子が‼」
「~~~‼」
行き成りの拳骨。しかも本気の拳骨だ。一瞬視界が真っ白になった。私は何とか意識を飛ばさないように努力したが、物凄い痛みで、その場で泣き出してしまった。
「テメエあんなナマクラ作ってたのか‼あれが自分の家族にあげれる代物か?テメエは武器の重要性を理解出来てるだろう。魔法付与も剣の強度も誤魔化しでやったんだろが‼もし魔力が尽きた時はどうするつもりだ?」
「それは吸魔の宝珠で何とか…痛い‼」
「全ては自分の思惑通りに動く訳じゃねえだろ。それだって欠点を解消出来てねえだろうが‼」
確かに吸魔の宝珠は使い方を間違うと使用者の魔力を吸い尽くす。お兄様は日々魔術師達から魔力を注いで貰ったのと自分の魔力を注いでるので魔力切れは早々起きないが、無限では無い。魔力が危険域に入れば使用できないからその時に頼るのは自分の実力と装備の質だ。だが、あの刀は固いだけで本体の切れ味は全然。師匠はそれに納得がいかないのだろう。最高の出来でなければ満足しない。それ以下はゴミだと断言する人だからね。手抜きは許されない。
「‼グランツ卿流石にそれは言い過ぎです。管理さえできればこれほどの剣は早々ありませんよ。それに何度か改修もしてくれてるので初期よりは大分マシになってるんです」
直ぐにお兄様が私の前に庇うように立つが、私はお兄様を避ける様に師匠の前に出る。これは怒られるべき所だ。
私の姿勢に師匠も満足そうだが、その後5分程怒られた。
「ッチ、確かに俺も剣の鍛えまでは見せてねえし、これくらいにしてやる。今晩そのナマクラを鍛え直すからお前も手伝え。どうせ炉とかもあるんだろ?」
「………分かった」
一応そう言う施設もあるにはあるし、今後アーランドの製鉄技術を更に上げようと色々試作品も作ってある。
「アリスも苦労してんだね、大丈夫か?たんこぶ出来てるけど」
「グランツ卿も姫様に傷が残ったらどうするんですか‼」
「ウルセ―」
「…大丈夫。師匠は妥協しない人なだけだから。それに私の技術不足なだけだし。ここら辺でそっちも鍛え直すべきだと思う」
アリシアさんが半泣きで私の頭を診てくれたが、精々たんこぶ程度だ。私も自分が悪いので師匠に怒りは感じない。寧ろ師匠の技術を奪うチャンスだ。師匠の技術を盗んでた時は鍛冶場に女は来るな‼って姿勢を取られてたから、何気に認めてくれてるのが理解出来る。
「お前の技術は並じゃねえ。物を正確に作る事なら既に俺を上回っているだろう。だが鍛えは素人だ。幾つか手本を見せるから今日中に覚えろ」
行き成り無茶を言うな。師匠の巧みな鍛冶捌きを数時間で自分の物にしろと?流石に厳しいってレベルじゃない。でもここで拒否ると機嫌悪くなるし、私ならそれくらい出来ると判断してくれたのだろう。
その日は結局晩御飯を食べ損ねた。心配するお兄様もアリシアさんも集中してる師匠に近づくと容赦なく物を投げられ怒鳴られるから数回程呼びに来たら、それ以降は来なくなった。
私は師匠の動きを記憶し、それを自分に傀儡術と言う術種に分類される【マリオネット】で体を支配し、自分の思い通りに動かす事で技術をコピーしていく。これなら累積して経験と言う技術習得を必要としない。明確なイメージはそのまま体を正確に動かすのだ。
こうして次の日には刀剣加工は師匠の納得のいく出来栄えになった。最も納得出来るレベルであって師匠の居る頂では無い。流石に一日では無理だった。だって途中から鹵獲した警備ゴーレムの改修を手の空いた師匠が初めて私もノリノリで手伝ってたからだ。師匠も一応のレベルに達した以上は、「後は自分で鍛えろ」と教える事を拒否したのだ。どうにも覚えが良すぎて面白味が無いようだ。
「…それで一晩掛けて遊んでいたと?貴方は一体姫様をどうしたいんですか‼」
「…クソ、調子に乗り過ぎたぜ。だが後悔してねえ‼」
力尽きて工房エリア(適当)の床で倒れていた私はアリシアさんの怒声で目を覚ました。珍しく朝から調子が良い。いや、滅茶苦茶眠いけど普段のように低血圧では無いだけだ。油断したらその場で寝そう。
アリシアさんはかなり怒ってるらしく、フライパンで師匠の頭を叩いてる。しかし師匠には効いていないようだ。何その石頭‼
「うぅ~~アリシアさんおはよう」
「………起きてますよね?寝ぼけじゃないですよね?……今日は普通に起きましたね。今度からグランツ卿の頭を目覚まし代わりに・・・」
「テメェ止めろや‼失敗したら俺まで被害を受けるじゃねえか‼」
何か分からないが私があっさり起きるのが珍しい事だから仕方ない。目が覚めても10分は絶対にベットから動かないからね。何時もなら10分位ぼ~っとベットで座ってる。
「取りあえず湯を沸かしたのでお風呂に入りましょう・・・ところでこの凶悪そうな見た目のゴーレムのような物は一体・・・」
アリシアさんの目の前には見た事も無い物が鎮座していた。多分昨日鹵獲した警備ゴーレムだと思うけど、改造しだしたのが朝方で私も師匠もかなりハイテンションで自我が崩壊気味だから何を改造してああなったのかは分からない。師匠も首を傾げてる。
「師匠、あれはなんだと思う?」
「無限軌道を備えた何かだろう?両肩のはバズーカだな。ご丁寧にマガジン式のバズーカを装備してやがる。しかも両腕がガトリングガンで胴部分にも小型のバズーカを付けてやがる。俺らはなんの為にあれを作ってたんだ?俺は嬢ちゃんに剣の鍛冶を教えてた気がするんだが」
「師匠が暇潰しで始めたから私も集中出来なくてそっちに移行した気がする。それ以降の記憶が無い」
「不思議な事もあるもんだな」
鎮座してるのは戦車の車体のような物の上に人型の武装ゴーレムが搭載された何かだ。恐ろしく重厚で某連邦でも相手に出来る代物だろう・・・飛べないけど。
「貴方達は・・・何をしに来たんですか‼」
「そうだな・・・嬢ちゃんのレベルアップを狙ってたんだが・・・何かよく分からん物を生み出したようだHAHAHA」
「師匠これカッコいい‼」
「だろ、この重厚な見た目に何物でも破壊する武装。俺達は新しい時代を作ったかもしれんな」
「だまらっしゃい‼」
ゴーンと重い音が響いた。師匠も流石にダメージを受ける程の威力でアリシアさんがフライパンを振り下ろしたのだ。
「五月蠅いぞアリシア。君はアリスを怒らせる気か?うお‼何だこの素晴らしいデザインのゴーレムは‼力強さが漲ってるではないか‼」
騒がしいのでお兄様が小屋から出て来た。アノンちゃんは…多分まだ寝てるんだろうな。寝起きが悪いって聞いてるし、私も悪いからよく分かる。
しかしお兄様も私と同じ感性を持ってるようだ。このデザインの素晴らしさを理解出来るらしい。
「流石お兄様。この素晴らしきデザインを理解出来るとは。妹として誇らしい」
「HAHAHA結婚しても良いんだぞ?」
ついでに打ち直した刀も渡す。前よりはマシだろう。少なくとも他のドワーフの作った剣に負ける物では無い筈だ。
「ふむ、まさか一晩でここまで腕を上げるとは思わなかったな。しかし寝不足はいけないな。風呂に入って食事を取ったら少し休みなさい」
「私は寝る。でも探索も同時に行う」
問題ない。過去に私の作った原初の魔道具――それは危険性故に全てお父様に破壊されたとお兄様達は思っているだろうが、残って居るのだ。アレを出せば私は寝ながらでもダンジョンを攻略出来る。
「…………………………まだ持ってるのか?」
「あれは私の安眠を護る為に存在する」
「せめて耳栓をして寝なさい」
よく分からないうちに殆ど破壊された魔道具だが、耳栓を付けて寝るのなら何も問題ないらしい。
まだ持ってる事をお母様に知られたらお説教だな。数日おきに部屋が大破した物だし、マダムの教育を受ける原因にもなった物だ。作った理由は簡単。私を狙う人が多すぎたから。これでも王女で瞳の刻印を持ち、全ての精霊と契約してる。生まれた時から命や身柄を狙われる生活をしてるんだよ?私だって自衛手段は持ってる。過剰な自衛手段として破棄されたけど。
「絶対に王妃様に報告してやる・・・またあんな日々が…断固として阻止しなければ…全て破壊した筈なのに」
「当時から宝物庫に気が付いてたんだろ。全て壊すにはここの何処かに有る『アレ』を破壊しなければな」
私が宝物庫の存在に気が付いたのは1歳の時だけどね。首元がやけに重いと思って弄ってたら何時のまにか鍵が有って、行き成り使い方を理解した時にはビックリして大泣きしたものだ。それ以来お気に入りの人形とか入れてたりする。今だってアリシアさん謹製の人形はこっちに置いてる。城に置いとくと侵入者の自爆とかで壊されるし。実際に何個か壊されたし。
「じゃあお風呂に行って来るから師匠は…掃除任せた」
「っあテメエ逃げやがったな‼」
カオスな状態まで散らかったので師匠に掃除を押し付ける。ふふん、私は悪い弟子なのだ。
それに昨日使った炉は高品質の物だ。今度師匠の工房に作る約束もしてるのでこれくらいは見逃して貰おう。私は項垂れる師匠と改良した刀を振ってるお兄様を放置してお風呂に直行するのだった。




