08 モンスタースタンビード2
魔法師団とお母様が詠唱を始める中、私は懐から紙を5枚出しました。これは竜の素材から作った紙で魔法触媒です。私はアルバートさんとの訓練で自分の欠点を自覚したので補助の為作ってきました。
どうやら私は魔法の基本である魔力・魔法操作が苦手なようです。魔力操作は魔法の規模を操作し魔法操作は魔法の効果を操作する。私は早熟な魔法使いで魔力も潤沢に持っていますがそのせいで必要以上に魔力を込め魔法が大規模化します。それを無理に制御しないと望む魔法にならない。だから私に余裕がなくなりますが訓練から時間が無かったので補助触媒を作りました。これで私は余計な処理をしないので思うままに魔法を使えます。
「精霊さん達も力を貸して」
精霊にお願いして私は5枚の魔法触媒をばらまく、すると触媒は私を囲むように静止し光りだしました。私は効果を確認すると詠唱を行います。
効果は…かなり違いますね、今までのような疲れがほとんどありませんしスムーズに魔法が使えます。これで1回毎に消費しなければ常に使いたい所ですがこれに頼り切りになると自分の実力にならないので今後はもっと訓練しないとね。
「~~~~♪」
呪文にはいくつか種類があります。まず普通の詠唱、これは決まった呪文を唱え効果をイメージして発動する物ですがこれのメリットは誰でも一定の効果が出ます。そして2つ目は血を使った物がありますが魔力資質の高いエルフ等の種族限定で人間や獣人は使えないそうです。そして私が今使うのが音階詠唱です。これは特殊で全く新しい魔法は基本的に音階詠唱を使います、これは普通の詠唱だと効果は限定的で多少しか効果をいじれないのが主な原因ですが魔法とは最初は全て音階詠唱を使う物だったらしいのですが極めて難しく一時期魔法使いが絶滅しかけたので時の魔導士が魔法使いを増やす為に簡略化したそうです。なので音階詠唱は魔法使いにとって実力の証明でもあります。
「レインボーブラスト」
七色に煌めく光の奔流が前線に襲いくる魔物を捉えました。効果は凄まじいですね竜種の末端とはいえワイバーンは余波だけで消失しましたし地上の魔物も結構消えましたが…
「(おかしい…魔物の数が情報と違う)」
「お母様、魔物の数が情報より少ないです」
考えても分からないので魔法を撃ちこんだ後にお母様に聞いてみました。
「そうね…うちの情報部がそんな初歩的なミスはしないし…でも魔物だから共食いしたのか統率が出来なくて分裂したのか…」
お母様も流石におかしさに気が付いたようでブツブツと何か言ってます。どうみても1万も魔物は居ません精々5000ほどです。何処かに居るかもしれませんが少数の魔物が連携をとってもここまでの数の魔物は基本的に突撃一筋の筈…何か見落としてる?いや私の観測なら否定しませんが国が調べた事です、倍の数の魔物が攻め込んで来たと報告する意味はありませんしかと言って見落としで5000が10000になるとも思えない。
「そうね流石に放置出来ないわ誰か周囲を偵察に…っつ」
お母様が近くに居た護衛の兵士を偵察に出そうとした所で急に倒れました。
「…え?お…お母様?」
急に倒れてどうしたんだろう別に振り向いただけだ躓く事も無いだろうし私はお母様の所に駆けて行きます。するとお母様の倒れてる所の辺りに……血が!
「何で‼お母様!お母様…」
どうしよう、どうすれば良いのこんな時は…あれ?ドウすればイイんダッケ?
「…落ち…着……きなさ…い、オルベール…周囲……を警戒しなさい魔物の…奇襲…よ。」
そうだ!落ち着かないと…えっとどうすれば良いんだっけ?…そうだまず深呼吸…スーハ―、スーハ―。
「うん、大丈夫。お母様の怪我は治すから警戒態勢。狙いがお母様なら突撃してくる」
お母様は魔法師団の指揮官なので見れば分かります。この世界の戦闘は指揮官が豪華な服装や武具を纏ってたり目立つ場所に居るのが普通ですが…それを理解して狙ったのなら相手は唯の魔物じゃない、魔物はそこまで考えないからこそ人間が倒せるのだ、個々の力では魔物が上なので少しでも知恵を持つ魔物は警戒されるしギルドの場合だと受注ランクが上がったりする。ただしゴブリンやオークのあれは本能のみで動いてるので知恵があるわけじゃないが落ちてる武器とかは使うらしい。線引きが難しいな。
私はお母様の横で即座に警戒態勢を取ってる副官のえっと…オルベールさんに伝えると直ぐに周りに円形の陣を取るように指示を出してますがもし残りの魔物がこっちを狙ってたら勝ち目は無いだろう。前線はお父様を筆頭に騎士団と冒険者が魔物を蹂躙してますがこっちは護衛を含めて100人も居ませんし魔法使いは近接戦闘が苦手で一定ラインを越えられたら今度はこっちが蹂躙されます。そして今回お母様が率いてる魔法師団…これは大陸でも最弱と不名誉な事を言われるくらい弱いです上級魔法は80人も居て3回しか使えず既に膝をついてる人もいます。
「(このメンバーじゃ勝てない…でもここを抜かれたらお父様達が挟撃される。お父様は怪我もしなさそうだけど騎士団や冒険者の皆は甚大な被害が出る……どうしよう)」
運が無いのはこれだけじゃない見た限り魔法師団の中に魔術師が少なく殆どが魔法使いで構成されてるのも問題だろう。魔術師は国境の帝国軍の動きを抑えるために常時国境沿いに居て連れてこれなかったのだ。確かにモンスタースタンビードは大問題だけど帝国軍が隙を突いて侵攻する危険もあるから城に居た若い魔法使いと一部教官しか連れて来てない。だからこそ後方から支援で前線に近づかない。
「お父様には後で怒られるけど臨時で私が指揮を執る、力を貸して」
お母様の治療は応急処置をしたので大丈夫だろう。肩に短い矢が刺さってた、2本も‼さらに毒が塗ってあったらしくしばらく動けない。私は毒の治療も出来るけどあれは直ぐには抜けないからお母様は戦力にならないだろう。だから私が動かないと皆が魔物の餌食にされる、これは私の出番だろう現状この場で一番魔力が残ってる(5割ほどだが)し既に離れた所から魔物の突進と思わしき砂塵もあがってる。
「陛下に姫様を前線に出すなと厳命されています」
「それどころじゃない‼全部私のせいにしていい。ここから撤退したらお父様達が危ない」
最初オルベールさんは即却下で聞く耳を持ってくれなかったけど遠くの砂塵の大きさを見るとどんどん青褪めて結果私に指揮権を預けてくれました。後で私はお父様とお母様に物凄い怒られるでしょうね、でもこれはしょうがない怖いけどお母様にこれ以上怪我をさせない(最初にお母様を撃ったゴブリンは護衛に瞬殺されてた)為にあの魔物達には…消えてもらう。
「私は先制攻撃をした後に即席の障害を作るから魔法師団はそこから各自攻撃。対象はこっちを避けて前線に向かう魔物」
「それではこちらの陣地が守り切れません!姫様は死ぬ気ですか?やはり私が指揮を…」
「そっちは私が抑える。障害物は地の精霊と一緒に作るから簡単には壊れないしお父様達なら1時間でこっちを助けてくれる…だから時間を稼ぐのとお父様の邪魔をさせないのが私達の役目」
これが恐らく最善…でしょう。私はよく天才とか言われますが自分ではそこまで頭が良いとは思ってませんただ年齢の割に知識が多いだけです。だから本当にこれが最善なのか胸を張って言う事は出来ない。けどこれしか出来ない。まともに戦ってもこの戦力差は覆せないのならお父様達を信じて時間を稼ぐしか無い。
お母様は治療してる時から気絶してるので物理防御と隠蔽の魔法で魔物達から隠す。これなら見つからないし負けてもお母様は無事だろう…負けたくないけど
「求めるは絶対零度の牢獄。アイス・エイジ」
私の杖がトーンと地面を叩くと私を中心に氷が張っていく。味方が後ろに居るので後方は対象外ですがこの魔法を使うのに補助の魔法触媒が6枚消費しちゃいました。やはり上級魔法は触媒の消費が早いですね、でもその結果私の後方を除き300mほどが氷で閉ざされ多くの魔物を倒せたし動きを止めるのに成功した。
「行くよ…閉ざせ悠久の氷、氷の城壁よ我等を守れロイヤル・フリーズウォール」
突如地面から氷の壁が隆起して魔法師団の周りに高さ3mほどの氷壁が出現する。
「…ちょっと休憩」
流石に上級2連発は疲れますね。物語のチート持ちなら余裕そうですけど私の魔力は無限じゃないので休憩を挟まねば魔力切れを起こします。あれが起きると魔力の回復速度が著しく遅くなるので無理出来ない。まあ回復速度は異常だと言われる私なので5分もすればまた中級魔法を連発できます。
「姫様…ポーションをどうぞ」
「要らない…少しすれば回復するから他の人に飲ませて」
原因不明の回復速度が今回の私の切り札になりますね他も色々と能力がありますが今はこれだけで十分です。
「これなら暫く持ちそうですが…姫様には陣の奥に居て貰いたいのですが…」
「無理、広範囲の防御魔法は局部攻撃に弱い。直ぐに治せる位置に居ないと突破される。」
この欠点は今の私にはどうにも出来なかった。サイクロプスやオーガ等のBランクから上の魔物なら壊せるだろう。無論、水の精霊の力を使い密度を上げてるので壊され難いがBランク以上は無理だから近づく前にこっちから潰すしかないけどこっちは少数のうえ質もかなり悪い、私の力を念頭に入れても厳しそうだな…魔力の回復が早くても早々上級魔法何て撃てないし精々中級魔法か下級を撃つしかない。
「「「「我等が命を賭けてお守りします」」」」
護衛の人が私の周りに集まりますが……
「そんなの要らない。危なくなったら逃げて良い」
そんな覚悟は持って欲しくない。私の為に死ぬ人なんて見たくない…だから私は頑張ろう。




