せいぎのみかた
むかしむかし、あるところに犬がいました。犬は山の近くの小屋に住んでいました。飼い主は犬を鎖で縛っていなかったので、犬は自由にでかけることができました。犬はひまになると近くの山におでかけしました。
ある秋のことです。山の木の葉は黄色や赤に変わっていて、道にたくさん落ちていました。犬はおもしろがって落ち葉をふみながら歩いていきました。
しばらくいくと、ネズミにであいました。それはお母さんネズミで、5ひきの子どもネズミをつれていました。なんだかおろおろしていたので、犬は気になって近づいていきました。
「どうしたの?」と、犬が聞きました。
「実はネコに住んでいた家を壊されてしまって、冬を暖かくすごす家がないのです」と、お母さんネズミが言いました。
「それはたいへんだ。ぼくがあたたかいおうちを紹介してあげるよ」
犬はそう言って、ネズミの家族をほらあなにつれていきました。そこにふかふかの草をしきつめて、暖かくすごせるようにしてやりました。お母さんネズミは喜んで、そのほらあなに入りました。犬は、これはいいことをしたなあと思いました。
次の日、犬はまた山にでかけました。歩いている途中、犬はなにかがぶるぶるふるえているのを見つけました。それは種でした。
「どうしたの?」と犬が聞きました。
「風がさむくてふるえているの。おねがい、あたたかい土の中にうめてちょうだい」と種がこたえました。
「ようし、わかった」
犬は言われたとおり、地面に穴をほって種をその中に入れました。そして寒いといけないからと、たくさん土のおふとんをかけてやりました。種のすがたは見えなくなりましたが、犬はまたいいことをしたと満足して帰っていきました。
また次の日、犬はウサギにであいました。ウサギはみちばたに座りこんでいました。
「どうしたの?」と犬が聞きました。
「おなかがぺこぺこで歩きたくないの」とウサギが答えました。
「それはたいへんだ。ぼくがなにか食べるものを持ってきてあげるよ」
そう言って、犬はもと来た道を戻りました。小屋まで帰ってくると、犬は自分がいつも食べているお肉を少し出してきました。それを持って、犬はウサギのいるところへ走りました。
「さあ、これをお食べ」と、犬はもってきたお肉をウサギの前に置きました。そしてまたいいことをしたと思って帰ってしまいました。
でも、ウサギは肉なんて食べません。ウサギはがっかりして、おなかがすいたままどこかへ行ってしまいました。
そして、冬がやってきました。犬は小屋の中にいました。
犬がほらあなに案内したネズミの家族は、ほらあなの中の草の中で眠っていました。でも、そのほらあなはネズミが住むには大きすぎたのです。入り口が大きいので、冷たい風がどんどん入ってきます。子どもネズミはお母さんネズミにくっついてぶるぶるふるえていました。
すると突然、ほらあなにネコが入ってきました。ちょうどいいおうちがあると思ったのでしょう。ネコは草の上にどっかりとねころがりました。草の中にいたネズミたちはびっくりぎょうてん。あわててほらあなの外ににげていきました。
冬がおわって、春がやってきました。あたたかくなったので、土の中にいた種たちは芽を出そうとしました。ところが、犬がうめた種はなかなか外に出てきませんでした。なぜなら、種は芽が出るよりもずっと深くにうまっていたからです。種はがんばってがんばって、土の外に出ようとしました。でも、深く深くうまっていて、とうとう力つきてしまいました。
春がやってきたので、犬はまた山にでかけていきました。いつものように歩いていくのですが、なにかおかしいと思い始めました。どうしてだろうとしばらく考えて、今日はまだ誰ともあいさつをしていないと気付きました。
犬は歩きました。ネズミを見つけました。
「こんにちは」と犬は言いました。
ネズミは犬を見ましたが、あいさつせずにさっさとどこかへ行ってしまいました。
今度はウサギを見つけました。
「こんにちは」と犬は言いました。
ウサギも犬を見ましたが、なにも言わずにさっさと走っていってしまいました。
ネズミやウサギだけではありません。山に住む動物たちみんなが犬を無視しました。だれもが犬を見てどこかへ行ってしまいます。山の木々たちでさえ、こそこそと悪口を言っているようでした。
犬はきゅうにひとりぼっちになってしまいました。いままで楽しくお話ししていた仲間たちはみな、犬をさけていきます。犬は悲しくなって、座りこんで泣きました。
すると、1ぴきの大きな動物が歩いてきました。黄色い毛並みに黒いしまもようのある動物です。犬はその動物を見たことがありませんでした。
「きみはだれ?」と、犬は聞きました。
「わたしは虎だ」と、その動物は答えました。
「トラさん、こんにちは」と犬がいいました。
「ああ、こんにちは」と虎が答えました。
ようやくあいさつがかえってきたので、犬はとても嬉しくなりました。虎はごほん、と咳払いをしました。
「実は、わたしはここに来たばかりなんだ。この山にウサギはいるかね?」と虎は聞きました。
「いるよ」と犬は言いました。
「どこにいるのかね」と虎は聞きました。
「草がいっぱいあるところだよ」と犬は言いました。
「そうか、ありがとう」と虎は言いました。
「トラさんはウサギさんのお友だちなの?」と犬は聞きました。
「ああ、もちろんだ」と虎は答えました。
犬はますます嬉しくなりました。お友だちをつれてきてあげれば、きっとウサギさんたちも自分と仲直りしてくれるはずだと思いました。
「ぼくが案内してあげる」
犬は張り切って、虎を案内しようとしました。虎は喜んだので、犬はいいことをしたと思いました。
「君はいい子だね。あとでお礼をしよう」と虎が言いました。
「なにをくれるの?」と犬は聞きました。
「とってもいいものだよ」と虎は答えました。
いいものが何か、犬にはわかりませんでした。でも、何をくれるのだろうとわくわくしながら、ウサギの住んでいるところまで歩いていきました。
ウサギのすみかが近づくと、虎はありがとうと言って行ってしまいました。犬はいいことをしたと思って帰りました。
次の日のことです。また犬は山へでかけました。道はがらんとしており、歩いていてもだれともであいませんでした。木々(きぎ)もどこかひっそりしていて、不気味です。犬はこれはおかしいと思いました。誰かいないものかと、いっしょうけんめい走りました。
しばらくすると、犬は大きなほらあなを見つけました。その入り口には黄色と黒のしまもようが見えました。
「トラさん、みんながどこいったのか知らない?」と犬は聞きました。
「みんなって?」と虎が聞き返しました。
「山のみんなだよ。ウサギやネズミや小鳥たちさ」と犬は言いました。
「ああ、そういうことか。安心してくれ。ちょっとパーティーに呼んだだけだから」と虎は言いました。
「パーティー!?」
犬は嬉しくなって、しっぽをぶんぶんと振りました。虎はほらあなの中に犬を案内します。
そこはひどくがらんとしていました。穴のはじっこに、山の仲間たちが窮屈そうに追いやられていました。飾りつけられていると思っていた犬はひどくおどろきました。美味しそうな料理はありません。みんなもとても楽しそうには見えませんでした。
「これがパーティーなの?」と犬は聞きました。
「もちろんだ。いまごちそうを用意しよう。昨日のお礼も兼ねてな」と虎は答えました。
食べるものなんて何もなさそうのに、どうするんだろうと犬は思いました。虎は隅へ歩いていきました。そして1わのウサギの耳をむんずとつかみました。犬がおどろいていると、虎は机の上にウサギを乗せました。
「さあ、遠慮せずに食べろ」と虎が言いました。
「まさか、このウサギを食べるの?」と犬は聞きました。
「それ以外に何だと言うんだ」と虎が答えました。
「トラさんはウサギさんのお友だちじゃなかったの!?」と犬は怒りました。
「ああ、そうだったな。ウサギはわたしの友だちだ。お腹のな」と虎は答えました。
「ぼくをだましていたの?」と犬は聞きました。
「そう怒るな。ほら、美味いウサギの肉がここにあるぞ。これからはお前もここでぜいたくできる」と虎は言いました。
「ぼくは、トラさんがウサギさんのお友だちだと思ったから! みんなでパーティーができると思ったから来たのに!」
犬は怒って、虎にかみつきました。虎は驚きましたが、すぐに振り払いました。
「ウサギやネズミが友だちなわけがないだろう? こいつらはわたしたちのえさだ」と虎は言います。
「ちがう!」と犬は叫びました。
そしてまた虎にかみつきます。
「何をする! 離せ!」と虎は叫びました。
「いやだ! ぼくがお前をここにつれてきてしまったんだ。だから、ぼくがお前を山の外までつれていってやる!」と犬は言いました。
犬はひたすら虎にかみつきました。虎はあばれました。それでも犬は放しません。なんどもなんどもかみつきました。虎はとうとうあきらめて、いちもくさんに逃げていきました。
犬は山の仲間たちを放してやりました。ウサギやネズミや小鳥たちが集まって、話し合いがはじまりました。犬をほめるべきか、犬に罰を与えるべきか決めるためです。そのために、犬の話を聞くことになりました。犬はすべて正直に話しました。虎に言われてウサギのすみかに案内したことも全部です。
やがて話し合いは終わりました。
「今、あなたへすべきことが決まりました」と小鳥の1わが言いました。
「あなたは虎を退治しました。それは褒められるべきすばらしいことです。でも、その虎を引き入れたのはあなたです。これは罰を受けるべきことです」
言われて、犬はしゅんと頭を下げました。小鳥はえへんと咳払いしました。
「罰として、一週間の半分は山に来るのを禁止します」
犬はおどろいて顔を上げました。もっと重い罰がくると思っていたからです。山に行ける日が半分になってしまうのは悲しいですが、絶対に来るなと言われるよりは軽いものでした。
こうして犬は一週間の半分だけ山へ遊びに行きました。そこで犬はもとどおり仲良くウサギやネズミたちと遊んだのでした。




