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誤字脱字、ありましたらすみません。

 ん、俺いつの間に寝たっけか……。いつの間にか俺は横たわっていた。頭が少しボンヤリとする。うっすらと目を開けると太陽の光が見える。だが何故だか見えにくい。

 どうやら外のようだな。家に引きこもっていた俺にとって懐かしい外の空気の匂いがする。思わず涙が出そうになるほどだ。


 俺はとりあえず上半身を起こしてみる。鎧のカシャカシャという音が聞こえる。自分の体を見るといつの間にか白銀の鎧を身にまとっていた。不思議と重さは感じない。俺の隣には巨大な斧が置いてある。


 

 一体どうなってやがるんだ。そのまま辺りを見回す。目の前には果ての見えない草原が永遠と思えるほどに続いている。その草原の上を手足のない、まん丸の形をした耳の生えた橙色のウサギらしき生き物が飛び跳ねている。

 えーっと、あれは確かグラスラビットだったな。メルフェリア王国の最初の街付近にいるレベル1か2のモンスターだ。

 こうして改めて見ると懐かしいなぁ。俺も最初はあれを慣れない操作で五匹ほど倒したっけ……。最近は慢心していた気がするな、初心に戻ってがんばらないとなウンウン――。


 ――って思い出に浸っている場合じゃねえ!。


 あれが俺の目の前にいるってことは、えーっと――もしかしてアルフィーリアオンラインがVRMMOになったのか?  いや違うなそもそも俺のいた世界にはそんな技術はない。ということはもしかして俺がオンラインゲームの中へと入ってしまったのか?


 ……。とりあえず夢ではないか確認するために頬をつねってみる。痛い、軽くつねっただけなのにかなり痛い、こんなに俺、腕力あったっけ。

 何にせよ、どうやら俺は本当にアルフィーリアオンラインの中に入ってしまったらしい、ここが俺にとっての現実になってしまったようだ。

 まぁリアルにはアニメの続きが気になるぐらいの未練しかないし、友達もいなかったし、学生時代はトイレで飯食べてたし、机に突っ伏して寝てたし……。

 ――思い出したら気分が悪くなってきた……。やめやめ! 俺はこれから上山裕輔としてじゃなくリュドヴィックして生きるんだ!。


 とりあえずステータス画面を開いてみるか。俺はゆっくりと斧を片手に体を起こし立ち上がる。

 えーっと、いつもは画面右下にメニューが並んでいてそこをクリックしていたんだよな。だがカーソルはない。マウスもない。

 どうしたもんか、とりあえず、叫んでみるか。他に手段がないことだし。


「ステータス!」


 気恥ずかしいものだが俺は叫んでみる。これで何も起きなかったら俺はただのバカだぞ。

 少しの間の後、俺の目の前に下から順に文字が羅列されていく。やりこんだゲームであったが、この事に新鮮さを感じ、俺はワクワクしながら目の前に表示されたステータス画面へと目をやる。そこにはこう書かれていた。


 キャラクター名:リュドヴィック

 レベル:150

 職業 :パラディン

 称号 :慢心の器用貧乏

 所属国:メルフィリア王国

 ギルド:無し

 HP :S DEX :A

 MP :A AGI :A

 STR:A DEF :S

 VIT:A MDEF:A

 INT:A

 ゴールド:0

 装備:Eオリハルコンアクス(雷)、Eサングラス(Rare)、Eオーディンの鎧(Unique)、Eダイヤモンドガントレット、Eダイヤモンドグリーヴ。


 STRは攻撃力、VITは耐久力、INTは知力。DEXは回避だが、自分がこれから動くのに意味があるのだろうか。

 それとAGIは素早さ、DEFは総合的な防御力、MDEFは魔法防御力だ。ステータスは数字表記だったはずのだが、まぁ自分がリュドヴィックか確認したかっただけなのでよしとしよう。ゴールドが0なのは死亡したらペナルティで半分になるため預けているためである。

 少しでも攻撃力を底上げするために俺は両手斧をつけている。個性を出すための真っ黒なサングラス、辺りが見えにくいのはこのせいだったか。ふざけているように思えるがMDEFが高くレアなので頑丈である。それと銀色のオーディンの鎧に色を合わせるためにダイヤモンド装備で固めている。


 それにしても――慢心の器用貧乏って何だよ! 俺に対して喧嘩売ってんのか?! 普通オールラウンダーだろうが! 称号システムはあったが、こんな称号をつけるはずがない。

 はずせないのだろうか、何故だかギルドが無くなっているし……。


 とりあえず閉じるか、えーっと。


「閉じる! クローズ!」


 目の前に羅列されたステータス画面が消えていく。さてこれからどうするべきか――。


 ――ん? 待てよ俺がリュドヴィックって事は……。


 恐る恐るおでこに触れる。前髪がない。頭の頭上に触れてみる。一本のふさふさとした束以外何もない。

 ぬわあああああ! やっぱりちょんまげだ!。リュドヴィックは元々西洋風のイケメンであったが、アップデートで和月が追加された際に、キャラの見た目を変えられるチャンスがあり、個性を追い求める俺はちょんまげにしてしまったのだ。


 頭はちょんまげ、顔は眠たそうな西洋風の三十代後半、四十代前半のたぬきのおっさん声もおっさん。身長は縦幅、横幅自由に決められるのだが、俺のキャラは身長170cmぐらい、横幅はほぼマックス。 絶望的である。絶望しかない。もう一度見た目を変えられる機会はあるのか? いつか髪ちゃんと生えるのか? 俺は思わずその場で頭を抱えこみ、がっくりとうなだれる。


 はぁ……悩んだって仕方ねえ。どうせ俺はもうこの世界から出られないんだろうし……。今は考えるのをやめよう。忘れよう。


 さて、それじゃ気を取り直してとりあえず街にでも行って見るか。俺以外のプレイヤーがいるのか確かめてみる必要がある。ここにグラスラビットがいるってことは一番近い街はエルタニスだな。メルフェリア王国を選び、キャラを作成すると最初に送られる街だ。

 俺はウサギ達が飛び回る草原から目を逸らし、後ろへと振り返る。そこには城壁に囲まれた大きな街があった。街ってこんなにデカかったんだな……。

 草原の上を少し歩くと街道が見え、街の入り口とその横に立ち尽くす二人の兵士が目に付く。

 かなりの不審者に見える俺だったが、難なく兵士の間を通り抜け、街の中へと入る。

 

 街に入って最初に目についたのは人通りの多さだ。明らかにNPCとは違う沢山の人が目の前には存在している。

 どういうことだ? ここはオンラインゲームの中だよな。色々な疑問が脳裏に浮かぶが、とりあえず俺は人ごみを掻き分け、通りを抜け広場を目指す。

 広場へとつくと、そこには俺と同じく鎧姿の男や女、ローブを身にまとったウィザードなどプレイヤーらしき人物達が集まりかなりの騒ぎがおきていた。


「くそ! どうなってんだよ!まさか俺達はアルフィーリアオンラインの中に入っちまったのか?!」


「うは! 俺の第二の人生キター!」


「やべえよ、帰らねえと。俺女房に怒られるよ。ていうかあっちの世界で俺どうなってんだろ……」


「俺このゲームの世界から帰れたら彼女と結婚するんだ……」

 

 そこにいた沢山のプレイヤーが混乱しており、反応は様々だ。どうやらフレンドやギルメンはいないようだな。俺は知り合いがいないことだけを確認し、関わるのもめんどくさいので足早にその場から離れる。

 

「さて、どうすっかな……」


 俺は再び街の外へと出て、斧を右手で背負い、入り口の前に立ち空を見上げ考える。空はまだ青く晴れ空が広がっている。正午過ぎぐらいだろうか。俺のこっちの世界での資産はほぼカンストに到達するほど溜まっている。生活には困らないはずだ。普通のプレイヤーよりは圧倒的に強い力もある。後俺に足りないものがあるとすれば――女……。

 だが俺のこの外見を見てかっこいい! など言う人物はいないだろう。改めてこの容姿であることを俺は後悔する。ならば俺に残された方法は……。黒い欲望が俺の中に渦巻く。

 この世界に法律はあるのだろうか? もしあったとしても俺の力があれば……。けどこれをやってしまったら人として最低すぎるし、けど俺女の人に一度も触れたことがないんだよなぁ、これから先いつ死ぬかもわからないし……。しばらくの間その場でうつむき俺は考え込む。


「――よし……」


 俺は顔を上げ、草原を抜けたすぐ先にある森へと向かう。背丈の倍以上はある木々が立ち並ぶ森の中、辺りを見回すとそこには一人のプレイヤーが立ち尽くしていた。


 やっぱり、この世界へと来たばっかりのプレイヤーがいたか……。

 俺の視線の先には紫色の忍者服を着たくの一。装備のグラフィックからレベル80ぐらいだろうか。

 短い黒い髪をしており幼い顔つきをしている。種族は人間のようだ。


「ひぃ?!」


 俺の顔を見るや否やその少女は悲鳴を上げる。失礼な気もするが、まぁちょんまげにサングラスをかけ、巨大な斧を担いでいるので無理もないか。

 それに――俺は少女の方へとゆっくり歩み寄る。


「いやあああ! 来、来るな! 火遁の術!」


「ぐっ! ――」


 少女が悲鳴を上げ技能名を叫ぶ。その瞬間、音をたてながら、木々よりも高い火柱が発生し俺を包み込む。

 熱っ! 熱っ! ってあれ何も感じねえな……どういうことだ。火柱は周りの木々を燃やしそうな勢いで俺を包み込んでいるが不思議と何も感じない。

 もしかしたら俺の防御力が高く、ダメージを感じるほどの威力ではないということか。だとすれば少女のレベルからして、俺は何をされてもダメージを受けることはないだろう。


 俺はそのまま少女へと歩み寄る。身の危険を感じたのか少女は慌てた様子でさらに水遁、雷遁と唱える。

 溺死してしまいそうな水が俺を包み込む。黒焦げになりそうなほどの雷が俺の上へと落ちる。だが痛みはない。

 飛び交う手裏剣の中を歩き俺は少女の前へと立つ。少女が「ひぃ!」と言う言葉を上げ尻餅をつく。これだけの攻撃の中を顔色一つ変えず突っ込んでくるのだ。恐怖を感じるのは無理もない。


「さて、パラライズ!」


 少女の真似をして呪文を唱えてみる。その瞬間、後ずさりしていた少女の動きが止まる。どうやら成功したみたいだな。

 パラライズはパラディンの技能の一つだ。相手の動きを少し封じる技であり、使用者のINTと相手のINTによって成功率が変わる。ボスなどには効かない場合が多い。

 俺は斧を地面へと置き、しゃがみこみ少女の肩へと手を置く。忍者服の間の胸元から鎖帷子が見える。


「うう……」


 涙ぐんだ目で少女が俺を見る。俺は手を止め冷や汗を浮かべ、唾を深く飲み込む。二人の間に続く沈黙――――。


 

 ――――ぐっ! 駄目だ! やっぱ俺には出来ねぇぇぇ! 涙ぐんでいる女の子を手にかけるなんてできるわけがねぇぇぇぇぇぇ!。


「うわあああああ! ごめんなさいいいい!」


 俺は立ち上がり斧を拾い上げ、少女に背を向けて全力でその場から逃げ出した――。

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