表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第5章 枯れて廃れた世界より
57/68

光に透く窓

 巨大な建物の中には、数多くの部屋が存在した。

 しかしどこにも人影はなく、機械の箱や板の一部が、点々と光を放つのみだった。


 大きな階段を上っていくと、また次の階段が見える。

 様々な機械の敵と戦い続けることしばらく――

 ……アリアたちは、静かな階に辿り着いた。


「――階段を上りきったら、次は……螺旋階段と来たもんだ」

「ずいぶんと雰囲気が変わるものだな。

 上の方の様子は――上ってみないと、分からないか」


 ザインとガルドが口々に言う。

 そんな中、メルヴィナは近くの……光に満ちた、大きな窓に目を奪われている。


「……綺麗。

 とても立派な、ステンドグラスがはめ込まれていますね」


 メルヴィナの視線の先には、螺旋階段の始まりがあり――

 そして少し上の壁面には、4メートルほどの巨大なステンドグラスが見えていた。


「これぞ宗教、って感じだな。何か文字が――

 『Zealot』……と書かれているのか?」

「ふーむ? 意味は、『熱狂的な信徒』、あるいは『狂信者』……といったところかな?」


 ザインの言う通り、ステンドグラスには、熱心に祈りを捧げる男の姿が描かれている。

 ただ、何となく……不幸そうな、報われなさそうな雰囲気が漂っていた。

 しかしそれすらも、どこか神秘的というか――


「美術鑑賞はあとにして、先に進むよ~」

「ああ、すまん。そうだな!」


 塔の内部を、ぐるりとまわり続ける――

 そんな構造の螺旋階段であるだけに、先の様子はまるで見えない。

 そのため、先頭はアリアに、一番後ろはガルドに……並ぶ順番を変えていた。

 ……ザインとメルヴィナは、その間に挟まる形で、階段を上り続けている。


「2つ目のステンドグラスは……『Yielder』ですか。

 これも、祈りを捧げているシーンですね……」

「『身を委ねる者』……って意味かな。

 まぁ、神なんてものは祈られてなんぼだからな」

「……そうかもしれませんね」


 ザインの言葉に、メルヴィナは考えさせられた。

 『神だから祈られる』が正しいのか、『祈られるから神』が正しいのか……。

 螺旋階段の幅は広く、大人が横にふたり並んでも、十分な広さがあった。

 メルヴィナはザインの内側を上っていたが、何となく、前方のアリアに近付いていく。


「アリアさん。大丈夫ですか?」

「んー? 大丈夫だよ~♪」


 いつものような、何とも無い言葉。

 ただ、この言葉がメルヴィナを癒してくれる。


「――でも、こんなに長いと疲れちゃうね。まだまだありそうだし……」

「そうですね……。それにしても、ここは何も襲ってきませんね」

「この上には、オルビスがいるはずだからね。

 本来であれば、ここまで来れる人間はいないはず――って、思ってるんじゃないかな?」


 ……そもそも、この世界に来ること自体が難しい。

 今回はアリアに連れられて転移してきたものの、どういう方法を取ったのか、メルヴィナは何も知らない。

 ……それに加えて、ここは魔法の使えない世界。

 そして、この建物を守っている、堅固で不可解な存在――


「……そうですね。

 アリアさんがいなければ、そもそもここまで来れなかったでしょうし……」


 世界中の有識者を集めても。

 偉大なる魔法使いを集めても。

 名を轟かせた英雄を集めても。


 ……多分、ここまで来ることはできない。

 それこそ今後、何年も、何十年も、何百年だって、誰も来ることはできなかっただろう。


「まぁ、あたしだって――ついにようやく、って感じだけどね?」

「アリアさんがそう言うくらい、凄いことなんですね……」

「あはは、そうかもねぇ。

 ……ところで、そろそろ疲れない? 少し休む?」

「いえ、まだまだ……大丈夫です!」

「メルちゃんが一番、体力が可愛いからね~。はい、飴玉あげる♪」

「こんなときまで、何ですか……。頂きますけど」


 メルヴィナはアリアから飴玉を受け取り、そっと口に入れた。

 包み紙は、自身の服のポケットに畳んで入れる。


「ふふふ。ゴミを捨てないで、偉いね~」

「人としての嗜みですよ……!」


 そんなやり取りを和やかにしていると、下の方からザインの声が聞こえてきた。


「おーい、そろそろ休まない?」

「ふふ、だらしないね♪」

「ああ見えて、みなさんの疲れを気にしているんですよ」

「……そうなんだよねぇ」


 アリアは少し頬を緩ませながら、そのまま足を止めた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 アリアたちは螺旋階段の途中で休憩を取ることにした。

 上からも下からも、特に何の気配もしてこない。

 ……ただ、オルビスはアリアたちのことを既に捕捉しているだろう。

 そのため、悠長には休むことができない――


「……とは言っても、戦う前から疲れていても仕方が無いだろう。

 時間を決めて、確実に休もうぜ?」

「うーん、10分くらいなら大丈夫かな? メルちゃんも、それで良い?」

「はい、何とか……!」

「疲れただろうから、マッサージしてあげようか?」

「いえ、そんな――きゃぁ!?」


 アリアはメルヴィナの体勢を上手く変えて、目の前に脚がくるように動かした。

 そのままアリアは、メルヴィナの脚をほぐしていく。


「男性諸君は、目を逸らしておいてねー」

「ザイン、絶対に見るんじゃないぞ」

「いや、脚なんか少しくらい見たって――ほげぇ!?」


 ザインはガルドに、壁に押し付けられた。

 圧倒的な腕力により、ザインは動くことができない。


「わわわ、分かったって! 絶対に見ないから!!」

「うむ、分かれば良いんだ」

「……ったく。

 旦那もふたりには甘いんだよなぁ……」

「ザインも甘くして欲しいのか?」

「気色悪いわッ!!」


 軽く笑うガルドを横に、ザインは目のやり場を探した。

 ……ちょうど、ステンドグラスが外からの光で美しく輝いている。


「『Noble』――

 ……『高貴なる者』、か」


 ステンドグラスはやはり4メートルほどの巨大なもので、そこには光を纏う女性が描かれていた。

 その名の通り、高貴なる者としてしか見えないが――そんな前で、うちの女性陣はマッサージをしている。

 ……ザインは何となく、場違いなものを感じていた。


「――はい、マッサージ終了! 調子はどう?」

「ありがとうございます、脚が軽くなりました……!」

「それは何より。この螺旋階段は、たぶんまだ半分くらいだからね~」

「……う。す、少し不安かも……?」

「うーん、それじゃどうしようか。ガルドさんに、背負ってもらう?」


 アリアの提案に、メルヴィナは頬を赤らめた。


「お嬢さんくらいなら、オレは大丈夫ですよ」

「情報屋が運ぶには、脚力が足りないだろうからねぇ」

「さすがに、この長さの階段はなぁ……。

 でも、旦那の背中にいると……後ろから奇襲されたら、不味くない?」

「それじゃ、情報屋が一番最後になる?」

「おう、やったらぁ!!」


 ザインは勢いで承諾した。

 本当に敵が襲ってきたら――少しだけ、手持ちの銃で時間を稼げばいいだけだ。

 恐らく、そこまで難しい話でもない。


「メルちゃんとガルドさんも、それで良いかな?」

「ああ、問題ない。

 ただ、直接背負うよりも――ザインを入れていた木箱を、活用した方が良いかもな」

「あ、そうですね。それじゃ、改造しちゃいますか」


 アリアは帽子に入れていた木箱を出して、ちゃちゃっと改造を行った。

 何で杖だけでそういうことが出来るのかはよく分からなかったが、アリアならこれくらいは出来るのだろう。

 ここに来て、そんな野暮なツッコミをする人間は誰もいなかった。


「紐で縛ると咄嗟に動けなくなるので、お嬢さんはここの取っ手を掴んでいてください」

「うん、分かった。

 ……それではお待たせしました。先に進みましょう」


 ガルドの背中には椅子のようなものが出来上がり、メルヴィナがそこに座ると、彼女は後ろ向きの状態になった。

 ガルドとメルヴィナが背中を合わせる形で話しているのを見つつ、ザインは螺旋階段の下に注意を払いながら、ステンドグラスを目で追うことにする。


 『Herald』は……『告げる者』。

 『Gifter』は……『与える者』。


 それぞれが荘厳に美しく、最初の頃のステンドグラスよりも格が上に見える。

 それにしても、頭文字だけを見ると――

 ……アルファベットの逆順になっているな。ザインはそう思った。


「なぁ、メルヴィナ。

 オルビス教は、序列みたいなものはあるの? 所属する局とか、そういうの以外で」

「職位のことですか? オルビス教の教義の中には――

 『十八の秩序は、神の愛が届く階梯である』……というのがありますね。

 だから、職位を名前に入れられるのは、とても名誉なことなんですよ」

「ふぅん……。オルビスは愛の神なのに、愛を届けるのは限定的なんだなぁ……」

「むぅ」


 ザインの言葉に、メルヴィナは少し拗ねた。

 大聖堂を捨てたとは言っても、信仰自体は捨てていないのだ。

 引き続き、ザインはステンドグラスを追っていく――


 『Controller』は……『制御する者』。

 『Balancer』は……『調停者』。

 『Admin』は――……『管理者』。


 『Admin』のステンドグラスの前で、アリアは足を止めた。


「仰々しく言ってるけど、こんなのはただの言葉遊びだよ。

 何の意味も持たないって」

「そうか……? いやまぁ、そう言われれば……。

 まぁ、そうなのかなぁ……」


 アリアはガルドに視線を送ると、彼はメルヴィナを背中から下ろした。

 木箱を改造して作った椅子を帽子に戻して――……携行食を出して、全員に配る。


「エネルギー補給ぅ」

「お嬢さんも、食欲は無いかもしれませんが……食べましょう」

「うん。しっかり、食べないとね……」


 メルヴィナは少しずつ、何とか食べ進める。

 反面、ザインとガルドはあっさりと食べ終わっていた。


 ――その後、全員の足は自然と上に向かった。

 螺旋階段を全て上りきったとき、そこは巨大な建物の屋上だった。


 中心には円状の紋様が刻まれており、どことなくこの世界の入口――アルパセルの門を彷彿とさせる。

 地平線はどこまでも続くが、どこまで行っても何も見えない。

 空には薄っすらとした……大きな月のようなものが見えるが、あれは果たして本物なのだろうか……。


「……さて。ここまで来たね。

 ここまで一緒に来てくれて、ありがとね」

「お礼なんてまだ早いぞ! まぁ、全部終わったら焼き肉でも奢ってくれよ!」

「ザインさんって、安い男……」

「お嬢さん……。それは少し、意味が違いますよ」

「そうそう、俺は『安上がりな男』なんだ!」

「あはは♪ 自分で言う~?」


 アリアはそう笑ってから、顔を正して続けた。


「――それじゃ、行くよ。

 みんな……、生きて帰ろうね」


 アリアの言葉に、全員が頷いた。

 そして円状の紋様の中心から――……全員の姿は、光と共に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ