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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第3章 大聖堂にて安らぎを
32/68

広がる海は成れの果て

 ――オルビス神の生誕祭の2日目。

 この日も引き続き、怪しげな信徒が地下の礼拝堂に集められていた。

 アリアはあちこちの通気口に忍び込み、可能な限りの情報を集めていく。

 ザインはアリアを待ちながら、要所要所を監視する役目を任されていた。


「……うーん。

 多少、目がヤバイやつが多いような……」


 行き交う信徒を見ていると、基本的には穏やかな目付きの人が多い。

 大聖堂までわざわざ来るのだから、多少なりとも余裕のある人が多いのだろう。

 しかし例の入口に向かう信徒は、どうにも目が血走っているというか……。


 そんな信徒たちは、神職者に連れていかれる前に、何かの紙を見せている。

 やはり、誰でも参加できる……というわけではないのだろう。


「……たまには、ヤンチャなことでもしてみるか」


 ザインは入口に向かう信徒に近付いていく。


「すいません、道を教えて頂けますか?」

「あん? 俺はそれどころじゃないんだよ!」

「まぁまぁ、助けてくださいよ~」

「うるせぇッ!!」


 信徒の拳はザインに軽く触れたが、ザインはわざと大きく吹き飛んだ。


「ふぎゃぁっ!? ひぇー、お助けぇ~」

「ったく、こんなめでたい日に何だってんだ。

 ――あれ? 俺の持っていた紙が無くなってる……?」


 建物の屋根に上がったザインは、信徒が戸惑うさまを見てから、目立たないところに移動する。

 奪ったばかりの紙を見てみると、この入口までの地図だけが書いてあった。

 ……書いてあるのは、それだけだった。


「おいおい……。情報の管理が徹底されてるなぁ……」


 表面を見ても、裏面を見ても、特に怪しいところは無い。

 透かしもなく、あぶり出しのような古典的な仕掛けも見当たらない。

 紙質は普通で、印刷も特におかしいところは見つからない。

 改めて建物の下を覗き込んでみると、先ほどの信徒は中に入れてもらえないようだった。


「……一応、念のため」


 ザインは建物の上から地図を落とした。

 地図はひらひらと宙を舞い、やがて信徒の足元に落ちる。

 信徒は安心したようにそれを拾い、改めて入口に持っていくと……今度は無事に、入れたようだ。


「やっぱり、地下の礼拝堂への入場券……みたいなものなんだな」


 ひとまずの成果を手に入れると、ザインは再び怪しそうなところを巡っていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 約束の時間になると、アリアとザインは建物の上の、目立たない場所で落ち合った。


「はぁ、通気口は汚いねぇ……」

「そりゃ、碌に掃除なんてしてないだろうからな。

 ……でも、そこまでは汚れていないから安心しろって」

「できるだけ汚れないように、気は付けていたからね。……それで、そっちは何かあった?」


 ザインは地図のことを、アリアに伝えた。

 それを聞くと、アリアは帽子の中から紙の束を取り出す。


「もしかして、これのこと?」

「そうそう、これこれ。……って、もしかして知ってた?」

「ううん。忍び込んだ部屋に、置いてあったから。

 折り目がそれぞれ、違う感じに付いてるでしょ? これ、来た人から集めた地図じゃないかな」

「なるほど、そうみたいだな。

 ……って、持ってきちゃったの!?」

「証拠はたくさんあった方が良いでしょう?」

「うん、まぁ、そうなんだけど……。もしかして、他にも何か持ってきた?」

「えぇっと、あとは……昨日焚かれていたお香、くらいかな?

 幻覚系の、怪しいやつ」

「さすがにそれは、持ってきたらダメだろう……。

 ……いや、むしろ良いのか……?」


 アリアの行動に、ザインの考えはごちゃごちゃになってきた。


「それでさぁ、情報屋ってこういうお香……薬みたいなものだけど、詳しい?」

「有名なものなら、名前が分かればな。

 ……いや、袋にちゃんと書いてあるな。いろいろと混ざっているみたいだけど」

「あはは、親切だねぇ♪」

「やってることは、全然親切じゃないんだけどな……。

 ……解毒薬は、少し調合する必要はありそうだけど、用意はできそうだ」

「ふむふむ。ちなみに、あらかじめ予防する方法はある?」

「基本的には対処療法だからな。

 完璧ではないが、解毒薬をずっと飲み続けるとか……」

「力技だねぇ……」

「かといって、ずっと飲み続けるわけにもいかないからなぁ」


 アリアは通気口から中を覗くことを考えていたが、それも難しそうだ。


「うーん。いっそ、忍び込んじゃう?」

「え? どうやって?」

「それは情報屋が調べてくれたでしょ? 地図を持っていけば良いんじゃないの?」

「まぁ、それはそうなんだけど……。

 でも俺たち、顔はもう覚えられてるだろうからなぁ」

「確かに……。よし、ここは発想の転換で――

 情報屋は、女装でもする?」

「お前はどうするんだよ! っていうか、やらねぇよ!!」

「……残念。他にアイディアはない?」

「つまるところ、通気口は危険なお香が来るからダメ……、ってことだよな?」

「うん、そうだね」

「通気口のところを、透明な板で塞いじゃう……とか」


 ザインの発想に、アリアは意表を突かれた。

 確かにそれなら、礼拝堂の換気はできないものの、自分たちに影響が出ることはないはずだ。


「うん、それ採用! それじゃそこの窓ガラスを切って――」

「おお……? 杖でなぞったところのガラスが、すっぱりと切れてる……。

 これは一体、どうなってるんだ……」

「神様の意思ぃ~」

「いや、それは説明になってないだろ……」


 アリアは手際よく、透明な長方形のガラス板を作り出した。

 両手に持って、満足そうに眺める。


「確か、これくらいの大きさだったよね?

 通気口の中は、また情報屋の上に乗っていくとして――」

「俺、次はアリアの後ろを付いていくわ」

「えー? それだと、いざというときに逃げられないじゃん?」

「俺の上にいても、いざというときは逃げられないぞ?」


 ……それも然り。

 アリアは素直に納得するのだった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 通気口に潜り込み、地下の礼拝堂まで這って行く。

 アリアは前回と同様、部屋を一望できる位置を確保した。

 反面、ザインはアリアの後ろにいる……ので、前を見てもアリアのお尻と足しか見えない。


「……これはこれで、あたしが嫌、っていうか……」

「安心しろ。俺は真下の埃しか見てねぇから」


 そう言われても、アリアはザインの姿を確認できない。

 とりあえずローブの下は長いスカートだから、どう転んでも中までは見えないのだが……。

 少し微妙な気分でいると、礼拝堂に居並ぶ信徒たちの前に、神職者の男性とメルヴィナが姿を現した。

 ……メルヴィナは、今日も顔色が悪い。しかしアリアは、飛び出すのをぐっと我慢する。


 前回と同様、信徒たちは歓喜の声を上げた。


「本日はよくぞお集まり頂きました。私は責任者のバイロンと申します。

 どうか我らの悲願を……本日、達成いたしましょうッ!!」

「「「うおおおぉーッ!!!!」」」


 バイロンの言葉を、信徒たちは大きな声で迎えた。

 そんな中、メルヴィナはふらつきながら、美しい光の紋様を描き出す。

 今日も今日とて、どこか植物的なモチーフの……樹、のようなもの。

 ……しばらくすると、香の匂いがアリアたちの鼻をくすぐった。


「おっと、透明な板をはめないと……。っしょ、っと」


 小さな隙間からは空気が少し漏れてくるが、解毒薬をちびちびと飲みながらやり過ごす。

 さて、ここからの展開は初めて見ることになる。ここで一体、何をするのか――


「おーい……。今、どうなってる……?」

「信徒たちが、メルちゃんの光の紋様に向かって……拝んでる、のかなぁ?」


 状況としてはその通りで、信徒たちはメルヴィナの前の光の樹に向かって、一心に祈っている。

 光の樹自体に、魔力のようなものは感じられない。

 ただ……あれは、何かを意味している。ただの象徴などではない。何かを促すような――


「……ウぐォ……? あアぁ……光が……見え――

 グギャアァアアアーッ!!!!」


 ひとりの信徒が、パァン……と弾けた。

 それに続く形で、まるで連鎖をするように……他の信徒たちも弾けていく。

 何かが見えた瞬間に、何かに至った瞬間に――

 ……ああなってしまう。おそらくあの紋様は、見てはいけないものだ。


 床は大量の血で覆い尽くされ、メルヴィナは当然のように気を失った。

 気が付けば、信徒たちは全員……骸になっていた。


「――……今回も失敗か。

 せっかく用意した信徒を、また失ってしまった……」


 バイロンはひとり呟き、肩を落としながら壁のスイッチを押した。

 すると、一部の床が大きく開き、深い闇を覗かせた。

 恐らくは、証拠隠滅のための、死体の廃棄場所――


 ――ズガァアンッ!!


 突然、そんな音がした。

 ザインの目の前からは、アリアの姿が忽然と消えている。

 ザインは急いで、通気口を這って進んだ。

 通気口の出口は、何かが爆発したように破壊されており、比較的スムーズに出ることができた。


 そしてザインが見たものは――

 一面に広がる血の海と……壇上でバイロンの胸倉を掴み上げる、アリアの姿だった。


「――ここで、何をしている?」

「お、お前どこから!? 確か、異端諮問局の――」


 アリアはバイロンを、血の海に放り投げた。

 こんな事態は想定していなかっただろう。バイロンは、溺れるように手足をもがく。

 ザインは血の海をよけながら、とりあえず……香がこれ以上広がらないように、火を消した。


 アリアはバイロンに近寄り、杖を出して頬を叩いた。

 バイロンはそのまま、勢いをつけて血の海を転がっていく。

 彼の頭からも、血が出ているだろう。しかし、他の血に紛れてよくは分からない。


「……ひ、ひいぃッ!?

 わ、私に手を出すと、大司教様が放っておかんぞ……!?」

「そう。黒幕は、大司教殿なんだね?」


 アリアはゆっくりと、バイロンの元へ歩いていく。

 白いブーツも、徐々に赤く染まっていく。

 アリアはバイロンのみぞおちに杖を叩き込み、通気口の下まで吹き飛ばした。

 バイロンはそのまま、あっけなく気を失う。


「アリア……。何が起きているんだ……?」

「まだ分からない。

 ただ、この男とメルちゃんは……ここから連れ出すよ」


 アリアは通気口の中に戻り、メルヴィナを引き上げた。

 ザインもバイロンを何とか引き上げてから、粗雑に外へと連れ出した。


 礼拝堂の外には、バイロンの仲間がいたはずだ。

 扉から普通に出られれば、こんな苦労はしなくて済んだのだが――


 ……ザインは通気口から出ると、外の空気をいっぱいに吸った。

 ようやく、狂気の場所から解放されたのだ。


 ――……ただ、胸糞は悪い。

 青空の下、暖かな日差しを浴びても――ザインには、そんな感想しか出てこなかった。

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