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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第2章 星のように、紡がれて
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あのときのあなた

「ふえぇ……」


 レイラは絶望した。

 彼女は魔法使いで、冒険者をしている。

 このたび懸賞金の懸かった魔物を討伐すべく、この街に来たのだが――

 ……パーティの他メンバーが、いつの間にか逃げてしまったのだ。


「私、どうすれば……」


 とりあえず冒険者ギルドに行ってみるも、冒険者の人数に対して、職員が少ない。

 ぱっと見、他のパーティに入るには空きがない……と、彼女は思った。

 むしろ内向的な性格が、そう思うことを結論付けていた。


「ここの空気、やっぱり苦手……」


 ぼそりと零して、レイラは教会に行くことにした。

 教会というものは、来るもの拒まずの精神がある。

 しかも基本的にはシスター……女性が多く、また優しい性格の人も多い。


「すいません、こんにちは……」

「ようこそ、教会へ。今日はどうされましたか?」

「あ、はい。……えぇっと……お祈り、いいですか?」

「もちろんですとも。席はどちらでも構いませんよ」


 そう言うと、シスターは礼拝堂を案内してくれた。

 レイラは祈りに来たわけではなかったが、まずはシスターが良しとする行いをしておきたかったのだ。

 ……この辺り、彼女は自分に嫌気が差してしまう。


「あの……私、この街の魔物を討伐に来たのですが……」

「え?」


 レイラは、シスターの言葉にびくっとした。

 ……こんなにびくびくとした自分が、あんな魔物を討伐するなんて。

 やっぱり可笑しいと思われているに違いない……。しかしシスターは、逆の反応を見せた。


「ありがとうございます!

 ……本当に、感謝いたします」

「わ、わぁ……頭を上げてくださいっ!?

 ……私はそんなに強くなくて。パーティのみんなに、置いてきぼりにされたくらいで……」

「でも、残って頂けたのでしょう? それだけでも、とても素晴らしいことだと思います」


 シスターは真っすぐに微笑んでくれた。

 しかしレイラは複雑な気持ちになった。この街に残るだなんて、考えてもいなかったのだ。

 この教会には、孤独な自分を慰めてもらおうとして、ふらっと来ただけ。

 だから、それをはっきり伝えなくては――


「……あの。私でお手伝いできることがあれば、何でも……」

「ありがとうございます!」


 ……レイラは結局、情けない自分に負けてしまった。

 言いたいことも言えずに、ただ流されるだけ。

 振り返ってみれば、この街に来たのだって、単純に流されただけ。

 ……自分は変われない。自分では変われない。

 何かのきっかけがあれば……とも思うが、結局はそれも、自分で考えることを諦めているだけなのだ。



 ――街の様子を心配するシスターに付いていき、何度か魔物を見に行った。

 魔物は少しずつ、その腕……触手? を街の外側に向けて伸ばしている。

 しかし、すぐに街の外まで届くわけでもない。その前には人の営みが広がる、大きな街をひたすら通る必要があるのだ。


「この魔物、どこまで大きくなるんでしょう……」

「分かりません……。他の街に要請を出しているそうなのですが、あの魔物を見てすぐに帰ってしまいますし……。

 国の方でも、まだ動きが無いようですし……」


 国が見捨てるような問題を、この街だけで解決できるわけがない。

 だからこそ、他の街から来た人間も、何もせずに帰ってしまうのだ。

 冒険者はそれなりに集まってはいるが、だからといって即座に解決に向かうこともない。

 冒険者だって、無駄死にはしたくない。安全になった上で、最大限の成果を得たい……というのが大半だろう。

 たまに無謀に先陣を切る者もいるらしいが、どうやれば討伐できるのか、そもそも判明していない。


「――でも」

「はい?」

「大聖堂の方は、しっかりやってくれているんですよ。

 進みはやはり遅いのですが、それでもこの街に、しっかりと滞在してくれていて」

「へぇ……。さすがは神職者様、ですね?

 きっと真面目で勇敢な、素晴らしい方なんでしょうね」

「……えっと。ふふふ、お会いすれば分かりますよ」

「はぁ……」


 シスターの微妙な言い方に、レイラは少し戸惑いを見せた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 そんな日々を過ごす中、突然、魔物が大きく動いた――との連絡があった。

 他の冒険者の影に隠れるようにして向かってみると、魔物は以前よりも一気に大きくなっていた。

 それに巻き込まれて、崩された建物の生き埋めにされた者もいるようだ。


「大変……! 怪我人がたくさん出そうです……」


 教会で治癒魔法を使えるのは、このシスターを含めて3人しかいない。

 怪我人が多くなるほど、彼女たちの手だけでは足りなくなってしまう。


「ど、どうしましょう……!?」

「……落ち着いてください。まずは、落ち着きましょう」


 シスターは自分に言い聞かせるように、そう言った。


「おそらく治癒魔法は足りなくなると思いますが、治癒薬ならたくさんあるんです。

 この街出身の商人の方が、こうなることを見越してたくさん準備してくれて」

「そ、それなら良かった……!」

「だから、あとは生き埋めになった人を見つけられるかどうか、ですね」


 そこに、突然男性の声が割って入ってきた。

 この街出身の商人、カーティスである。


「シスター!」

「あ、カーティスさん……! 今、大変なことに……!」

「ええ、まずは怪我人をどうにかしないと! この街に来てくれた人を、死なせてはいけません!

 私は冒険者に掛け合って、生き埋めになった人をどうにかします! シスターは教会で治癒の準備を!」

「はい、分かりました!

 ……レイラさん、私は教会に戻ります。あなたも……もし良ければ、少しだけ勇気を出して頂けると……」


 シスターはレイラの両手をぎゅっと握ってから、教会に走っていった。

 レイラが次に見たとき、カーティスの動きは速く、近くの冒険者たちに声を掛けて誘導を始めていた。


 臨時のボーナスを出すということで、冒険者たちは不安の中でも活気づいているようだった。

 ……結局は、お金。お金が目当ての冒険者は、結局はお金によって動く。

 どこか悲しい気持ちを抱えながら、レイラはひとりで慎重に、魔物の体躯の外側……瓦礫の山に沿って歩いていった。


 ――生き埋めになった人の、小さな気配を感じる技術なんて持っていない。

 小さな音を聞き分ける、繊細な耳というのも持っていない。

 瓦礫の中を探す腕力も無ければ、まずは手を出す度胸も無い。


 ――私は無力だ。

 人間という種族だからでも、腕力が弱い魔法使いだからでもない。

 私だから、無力なのだ。

 ……ふと、瓦礫の下から赤茶けた色が見えた。

 そこで、レイラの感情は切れてしまった――


「――力が欲しいの?」


 不意に、少女の声がした。

 地面に泣き崩れたレイラが顔を上げると、そこにはアリアが優しそうに覗き込んでいた。


「あなたは……大聖堂、の……?」

「あれ? あたしのこと、知ってるの?」

「はい、シスターから……ここに滞在しているってことだけ、聞いていました」

「なるほど。……まぁ、まずは落ち着こうか。飴でも舐める?」


 そう言うと、アリアは小さい包みを手渡してくれた。


「――ふむ」


 レイラの感情の吐露を受け止めると、アリアは一息ついた。


「こんな状況じゃ、それこそ得手不得手が分かれるよ。

 だから、何もできなくても……自分に合わないことばかりでも、気にしない方が良いよ。

 あたしだって、大聖堂の人間だーって言われるけど、そんな理想的には動けないし」

「そうですか……? でも、あなたの存在は……とっても、輝いていると思います……」


 どこにいても、その片隅でいつまでもいじけてしまう自分。

 そんな自分より、ダメなものがあるわけない。そう考えてしまうのが、レイラの思考回路だった。


「そんな自分を、変えてみたい?」

「……はい。私は自分で、一歩も踏み出せない弱虫です……。

 でも、きっかけが欲しい……とも言えません。言った時点で、それは私の責任に……。

 きっとそれには、耐えられない――」

「その責任、あたしが負うよ」

「え?」

「――ならば祝福を与えよう。

 汝は神に身を委ね、欲する力を祈るべし――」


 アリアはレイラの涙の跡を拭ってから、優しく額を指で触れた。

 レイラは今は亡き家族の面影を思いながら、流れに身をまかせる。


「――神の祝福はここに在り。

 望みと共に、その魂から発芽せよ――」


 レイラは、鼓動が遅くなるのを感じた。意識は朦朧としてきている。

 理解が及ばない感覚が一斉に押し寄せてきたが、悪い気分はせず、むしろ――

 ……そう思ったところで、意識が急にはっきりしていった。


「君が手に入れたギフト――才能は、『直感の才能』だね?

 どう、何か変わった?」

「ふわぁ……。うわわわぁ……?」

「だ、大丈夫!?」


 レイラの言葉に、アリアは慌ててしまう。

 こういった反応は、なかなか珍しいのだ。


「何か……ぱーっと、見えるものが増えた、ような……?

 ……私、もともと鈍い子だったから、やっと普通になれた……の、かも?」

「確かに、おっとり型だったもんね」

「――あ!

 あそこに……何か、ぞわぞわします!」


 レイラは少し離れた瓦礫の山を指した。

 レイラとアリアは、とりあえず急いで向かってみる。

 そこは建物が崩れたばかりのようで、何となくそんなにおいが感じられた。


「ここ? ちょいちょい~、っと」

「はわわっ!? アリアさん、女の子なのに何でそんな瓦礫を動かせるんですか……!?」

「神様の意思ぃ~」

「えぇ……」


 その後、レイラの案内によって、4人の怪我人を見つけることができた。

 レイラはその夜、ひとりになったあと……宿屋で一晩中、泣いてしまった。

 自分でも何かができる。自分でも人を助けることができる――

 それは彼女にとって、初めての体験だったのだ。


 翌日、レイラはシスターから聞いて、アリアがいつもいる建物を訪れた。

 そこは今回の魔物の対策室……のようなところで、彼女は広い部屋の片隅の、大きなテーブルのところで考え事をしていた。


「あの、アリアさん!」

「あ、おはよう。ちゃんと眠れた? 目、腫れてるよ?」

「あわわ……。こ、これは……!」


 レイラは気まずそうにしたが、アリアの微笑みは全てを見通しているかのようだった。

 照れ隠しをするため、レイラは慌てて話をすり替える。


「あ、あの。アリアさんが持ってるそれって、天球儀……ですか? 珍しいですね」

「うん。先日、手に入れたものなの」


 レイラが改めて見ると、そこからは何か感じ取れるものがあった。

 危ない感覚は無い……。むしろ、それとは逆の――


「……あの、アリアさん。その天球儀、触ってみていいですか?」

「え? これ、ちょっと危ない……その、魔導具なんだよね。

 だからあんまり――」

「いいえ……! 私、その天球儀に触らなきゃいけない気がして……!」

「それって、君の直感力? うーん……まぁ、少しだけだよ?」

「はい、ありがとうございます!」


 レイラはテーブルに置かれた天球儀を、ぺたぺたと触っていった。

 魔導具……とはいうが、自分では動かせなさそうだ。

 しかし、何か違和感が……。何か、隙間のような――


「おーい、アリア――……あれ? その子は誰?」

「うん。昨日ね、外で知り合った子なんだけど――」


 アリアとザインが話し始めた横で、しばらくしてから突然……天球儀が輝き始めた。

 それは一瞬で収まったが、部屋中の目線を集めてしまう。


「ちょ、ちょっと!? 大丈夫!?」

「……はい」


 レイラは一瞬、光の中で……何かの記憶を見た、ような気がした。

 それは、遠い遠い、薄れかけた記憶。

 しかし頭の中で繰り返すたび、思い出すたび、もっと奥底から、何か別のものが――


「……う」

「……う?」


 レイラの小さな言葉に、アリアはそのまま返してしまう。

 そして、レイラとアリアの目が合った。

 アリアの姿を確認すると、レイラの目からは大粒の涙が零れ始める。


「――アリア様!! ずっと、ずっと会いたかったですゥ!!!!」

「は、はぁ!?」


 レイラはアリアに抱き着こうとしたが、何故かそれが出来なかった。

 しかしレイラは諦めず、アリアのまわりをうろちょろと動く。


「アリアはこの子と、前に会ったことがあるの?」

「昨日が初めてだよ!?」

「そうです、確かに昨日初めてお会いしました……。

 しかし私とアリア様は、前世からずっと繋がっているんですッ!」

「え? いやぁ、それは無いと思うなぁ……」


 レイラの突然の言葉に、アリアは呆気に取られる。

 ただ、次に言葉を続けたのもアリアだった。


「――ちなみにその前世って、いつ頃なの?」

「1000年前くらいです!」


 レイラの答えを聞いたアリアは、ザインの方をゆっくりと振り向く。


「……大変、情報屋。この子、本当に前世で会ったかもしれない!」

「お前、自分の前世覚えてるの?

 ……っていうか、そんなボケをしてる場合か!」

「きゃーんっ♪ 2段ツッコミ、ありがとう★」

「きーっ!! そこの男!

 アリア様とイチャイチャしないでください!!」

「……あ、あれぇ? もしかして、性格まで変わってる?」


 地面を足でバタバタと、テーブルを手でバシバシと、レイラは音を立てながらザインを威嚇する。

 アリアの積極的なボケは、レイラに油を注ぐ形になってしまった。


「アリアぁ……。やっぱりその魔導具、危険なんじゃない……?」

「そうだねぇ……。やっぱり、危険だよねぇ……」


 目の前のアリアとザインが通じ合う姿に、レイラはさらに苛立った。

 何でこんなに苛立ってしまうのか。いつもの臆病な自分はどこに行ったのか。

 ……ただ、口を突いて出てくる言葉が止まることはなかった。

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