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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第2章 星のように、紡がれて
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災禍暴走

 アリアがギデオンに『異能の天球儀』を渡すと、彼は顔を崩して笑った。


「おう、おう! さすが嬢ちゃんだ!

 それで、パスワードは?」

「はい、こちらに」


 アリアはパスワードを書いた小さな紙を渡した。

 ギデオンはそこに書いてある文字を見て、神妙な顔をする。


「……本当に、ギデオンさんを尊敬していたみたいですよ。

 ただ、どこかでねじ曲がっちゃったんでしょうね」

「ちっ。……盗賊を辞めて、田舎に戻っちまったんだろォ?

 仕方のねぇヤツだな……」


 ギデオンは横を向いて、どこか寂しそうな顔を見せた。


「それで、これをどうするんですか?」

「ふふふっ。ここに持ってきちまったからには、使わねぇとなァ。

 何しろ、油断すると看守が持っていっちまうかもしれねェし」


 この魔導具が、もう少し小さければ……。この牢が、安全の確保されている場所であれば……。

 そう考えはするものの、さすがにそれは今さらの話だ。


「この魔導具、使ったら用済みになります?」

「あん? もちろん俺は、ゲットした異能でこんな牢獄はおさらばするぞ?

 そしたらまた、これを使って盗賊団を盛り上げてやらァ」


 ……つまりギデオンの盗賊団は、異能を持つ者が無制限に増えていってしまう……ということになる。


「おい、アリア。……大丈夫なのか?」


 ザインが心配そうに、耳打ちをしてくる。

 アリアとしても、それは堪ったものではない。


「うーん。あたしの目的も、その魔導具なんですよねぇ」

「こいつはやらねェぞ!?

 ただ、嬢ちゃんには手伝ってもらったからな。金銀財宝なら、何でもくれてやらァ」

「おお、良かったな! ……あれ、良くはないか……」


 ザインの言葉に、アリアは微妙な顔をする。

 そして、そういえば……と、ザインに聞き返す。


「ちなみに情報屋は、そもそも何が目的だったっけ?」

「俺は借金返済が目的だから、金になれば何でも良いぞ!

 ……ちなみに親分、俺に分け前は?」

「おう! お前は盗賊団の幹部に取り立ててやるよ!」

「……え゛」

「良かったじゃん!」

「よくねぇよ!!」

「よくねェのか?」


 ギデオンがひと睨みすると、ザインは笑顔で反応する。


「嬉しさ極まって変なことを言っちまいましたぁ!

 もちろん、嬉しいですとも!!」

「だろォ!?」


 明快な返事に、ギデオンは満足そうに笑った。

 ザインも満足そう……に見えたが、アリアの方を向いて、不満そうな顔を見せつけていた。


「――逆に嬢ちゃんは、『異能の天球儀』が目的なのか?

 それとも、何か異能が欲しいのか?」

「あたしは現物が欲しいんですけど……まぁ、難しそうですね。

 ところで、ギデオンさんはどういう異能が欲しいのか、決まっているんですか?」

「おう! 俺はな……俺のルールを貫ける、そんな異能が欲しいんだよォ!」

「……ふむ。少し、概念的な話になりますね」

「まぁ、ふわっとしてるよな。だが、ふわっとしている方が応用が利くだろォ?」

「そういう面もあるし、逆に制約になる場合もあるかも……。まぁ、異能次第ですね」

「それにしても、異能って本当に付けられるものなんですね?

 どうですか、今やってみませんか?」

「おう、そうだな。看守が来る前にさっさとやっちまうか。少なくとも、俺は異能が欲しいからなァ!」


 それは現状では、とても良い選択だ。

 魔導具を没収されて誰も異能を付けられなくなるより、最低でも、トップであるギデオンが異能を持っていれば、活動の幅は広がるのだから。


「それじゃ早速……。パスワードは覗くなよ?

 まずは俺のパスワードを入れて……。えぇっと……こうして。……このあと、コンラッドのパスワードを……」


 パスワードを入れ終わると、『異能の天球儀』は金色に輝いた。

 ギデオンはそのまま手に取り、魔力を注いでみるが――しばらくすると、火がふっと消えるように、その輝きは失われてしまった。


「……あれ? もう、異能が手に入ったんですか?」

「いや……。このあと、強く光ると聞いていたんだが……」

「複雑そうな作りですし、壊れちゃったんですかねぇ」


 しかし、『異能の天球儀』が上手く作動しないようにしたのは、アリア本人だった。

 彼女は魔導具の知識を持ち合わせていた。しかし、それも完璧ではない。

 異能の付与はできないようにしたが、他の機能と思われる部分は何もできなかった。

 そのため、アリアとしてはさっさと回収したい気持ちがあった。

 ……本来であれば、入手後に牢獄に戻らなければ良かったのだが……情報屋が残されていたため、さすがにそれは止めたのだ。


「――くそっ! ガラクタじゃねぇか!!」

「それじゃ、あたしにくれませんか?」

「いやいや、それは無い。いわくつきの魔導具ではあるんだ。

 それに、大聖堂と交渉するという手も――」

「……では、大聖堂と交渉しましょう。

 はい! あたしが大聖堂の代表、アリアちゃんですよ」

「はぁ!?」


 アリアはささっと『異能の天球儀』を奪い、1回転してからそれを掲げた。

 軽やかな動きで、見る者をついつい引き込んでしまう。


「――……じゃん♪」

「じゃん、じゃねぇよ!?」

「この、良いから返せ――……って、またこれか!

 何で嬢ちゃんには手を出せないんだよォ!?」

「そうだよ、何でなんだ!?」


 何故かザインも、一緒になって聞いてくる。アリアはそんな彼を、微妙な顔で見つめた。


「これ、あたしの異能です。だからもう、取り返すことはできませんよ~」

「こ、これも異能なのか……。

 ……お前、いろいろと凄いのに、異能まで持ってるんだなぁ……」


 ザインが感心したような、呆れたような、そんな表情を見せる。

 ギデオンは怒りに身体を振るわせていたが、しばらくすると消沈して、地面に座った。


「……はぁ。これじゃ、強奪されたようなもんだぜェ……」

「まぁまぁ。『異能の天球儀』はお渡しできませんが、あたしが異能を与えることはできますよ」

「……え?」

「なに、お前。まだ凄い要素があるの?」

「まだまだ、たくさんあるよ?」

「そうか……。まだまだたくさんあるのか……」


 さすがに慣れたもので、ザインはアリアの言葉をするっと流す。

 実際に底知れないやつ……というのが、ザインのアリアに対する評価だった。


「――もう、今さら驚かねェよ。

 それじゃ、俺に異能をくれねェか? もし本当だったら、『異能の天球儀』はくれてやるからよォ」

「いいんですか?」

「もう壊れてるし……。嬢ちゃんの話が嘘だったとしても、異能を付けるなんてのは、他じゃ聞いたことがねェからな」

「――ならば祝福を与えよう。

 汝は神に身を委ね、欲する力を祈るべし――」


 アリアはギデオンの額に指でそっと触れた。

 ギデオンは目を閉じず、その指をじっと凝視している。


「――神の祝福はここに在り。

 望みと共に、その魂から発芽せよ――」


 ギデオンの鼓動が、身体に強く打ち付けられる。

 流れる血は多くなり、全身を巡り、生まれた熱は周囲の空気に伝播する。


「あなたが手に入れたギフト――異能は、『因果調律』。

 ……へぇ、これは――」

「しゃらくせぇ名前だな!」

「確かに親分、『調律』ってガラじゃないですもんね!」

「何だとォ!?」

「異能の名前の方に、男らしさが足りないっすよ!!」

「おお、確かにな! それだよそれ、同感だァ!!」

「詩文は嗜んでるのに、その認識でいいの……?」


 ギデオンとザインのやり取りに、アリアは少し呆れてしまう。


「――えぇっと。異能の効果は、本人なら分かるはずですが……どうですか?」

「ふむ……。これは、何だ。

 いわゆる結果に干渉する異能……なのかァ?」

「結果に、干渉? つまりどういうことですか!?」

「くくくっ、なら試してやろう。ちょっと俺のことを殴ってみなァ?」

「え、いいんですか?」

「おう! 全力で、顔面のど真ん中に来いッ!! 手は抜かないでいいぞ!」

「よく分かりませんが、分かりました! では――うおりゃぁ!! ギャァアアアー!!」


 ザインがギデオンの顔面を殴ると、そのままザインの顔面が凹んで吹き飛ばされた。

 少し離れた場所にザインは飛ばされたが、ギデオンは無傷で立っている。


「へへへっ。

 普通なら、『俺が殴られる』という行動に対して、『俺がダメージを受ける』……という結果があるだろォ?

 その結果を『俺を殴ったヤツがダメージを受ける』という風に変えたのさァ!!」

「え、えぇ……? それって、強すぎじゃないですか……?」

「うーん、これは強すぎだねぇ」


 とはいえ、このような概念系の異能は完璧ではない。

 例えば『自分が殴られたら、世界が滅びる』などの極端なことはできないし、本来の結果を大きく変えることはできない。

 今回でいえば、ダメージを受ける対象が変わった……という、ただそれだけなのだ。


「こうなれば、もう嬢ちゃんには負けないぜェ?

 俺は勝てもしねェが、負けもしねェ!」

「確かにそうですねぇ。ただ、あたしはもうここには用事が無いので。

 約束通り、『異能の天球儀』はもらっていきますからね♪」

「……くそっ。しかし今なら――」

「親分、引くべきときは引くべきですよ! コイツ、俺でも制御できないですもん」


 ギデオンは諦めの悪いところを見せかけたが、ザインの言葉を仕方なさそうに聞き入れた。


「――ちっ、仕方ねぇ。こうなったら、盗賊稼業で挽回するしかねェか。

 そこが落としどころだよなァ? 俺はもう嬢ちゃんに干渉しないし、嬢ちゃんもそうだろォ?」

「はい。距離があれば、ギデオンさんの異能は、あたしには影響しないでしょうし」

「え? ……それでいいの?

 親分の盗賊団、大活躍しちゃうよ……?」

「いいんじゃない? 情報屋もそこのメンバーになるんだから」

「おう! 一緒に最高の盗賊団を目指そうぜェ!!?」

「え、ええぇえぇー……」


 かくしてここに、大団円が訪れた――


 ……が、それは一瞬で崩れ去った。


「アンターっ!!」

「げっ、ヴィクトリア!?」


 突然、ヴィクトリアが現れた。

 牢の鍵を開けて、颯爽と入って――そして、ギデオンに抱き着いた。

 毛布に包まっていた他の囚人たちも、何事かと思って起き上がり出す。


「な、何でここに!?」

「あら、アリアさんも久し振り!

 お堅い看守はダメだったから、新人の看守を落として……。それで、出してもらったのよ~♪」


 アリアは先日祝福したクリストフを思い浮かべた。

 きっと彼とは別の看守が、ヴィクトリアの毒牙に掛かってしまったのだろう。


「――それもこれも、アンタに会いたかったからさ!」

「ちょ、ちょっと待て……! 俺とお前は、もう終わった仲だろォ!?」

「何を言ってるんだい? そんなわけ、ないじゃないか? いつの間に、そんな話に――

 ……そうだ、アンタの好きな耳元での囁き……。アタシ、凄くなったのよ♪」


 ギデオンは、ヴィクトリアを何とか振り払った。

 そして思い掛けず、ヴィクトリアの身体がアリアに当たる。


「にゃんっ!?」


 アリアの異能の『対象化拒否』は、当てる意図を持ったものは拒否できるが、偶然に当たるものは、しっかりと当たってしまう。


 そして今、その衝撃で……アリアの手から、『異能の天球儀』が宙に零れた。

 ギデオンは、とっさにそれを受け止めた。

 そしてそこに、ヴィクトリアがギデオンに抱き着いていく――


「――くそ、離れろ! 俺の異能『因果調律』で距離を――」

「――離さないで!? アタシの異能『魂の囁き』でアンタを――」


 ――2つの異能が発動した。

 1つは距離を遠ざけるため。1つは距離を近付けるため。


 ある意味で相反する異能の能力が、間近な距離で交錯する。

 そしてその中央にあるのは、未だに謎の多い魔導具、『異能の天球儀』――


 ――キイイイイイイィイイインッ!!!!


「――きゃぁっ!?」

「うおぉ、耳が――」

「うぉっ、俺の身体がァ――」

「あ、アタシの身体が――」


 つんざくような異音の中、アリアは咄嗟に、地面に落ちた『異能の天球儀』を拾った。

 しかし目の前で、ギデオンとヴィクトリアの身体を中心にして、周囲の石畳や壁、檻の格子が巻き込まれていく。

 ……そして彼らの姿は、すぐに見えなくなってしまった。


「な、なんだ!? おい、アリア!これは一体――」

「異能が暴走した……?

 本来ならあり得ない。でも、これの引き金になったのは――」


 アリアは両手に抱える『異能の天球儀』を見た。

 この魔導具の能力は、まだ全てを解析できていない。

 異能という難しいものを扱い、それにしては作りが荒く、劣悪な品質……というのが、アリアの所感だった。

 ただ、それにしても、まさかこんなことが起こるだなんて――


 ……アリアは目の前で巨大になりつつある化け物を見上げた。

 果たしてこれは、魔物なのか。人間の成れの果てなのか。

 囚人たちの目の前で、無機質なその外見は何も語ることはなかった。

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