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神様のギフト、配ってます(ただし返品不可)  作者: 成瀬りん
第2章 星のように、紡がれて
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再会は馬車の中

 ――アリアは捕らわれた。


 今は馬車に詰め込まれ、他の罪人と共に牢獄に移送されている。

 アリアは遥か彼方、徐々に消えゆく街の影を眺めながら、ふぅ……、と一息ついた。


「あれ、アリアじゃん。お前、こんなところでどうしたの?」


 ふと、そんな声が聞こえた。

 アリアは静かに振り向いた。


「……。……ああ、情報屋じゃん」


 そこには、先日訪れた街で見知っていた情報屋――ザインの姿があった。

 ふたりとも囚人服を着ていたが、顔を見ればすぐに分かってしまった。

 アリアの言葉はそれ以上は続かず、微妙な沈黙が流れる。


「……間があったのはアレだが、覚えていてくれて嬉しいよ」

「その節は、大変お世話に……ならなかったけど。まぁ、会えて嬉しいよ、たぶん」

「相変わらずだなぁ……。それに、何だかタメ口になってない?」

「初対面でもないし、人となりも知ってるからねぇ。つまりは、まぁそういうこと」

「信頼の証だな!」


 再びの沈黙が流れる。

 ふたりをチラチラと見ている者もいるが、注目まではしていないようだ。


「――……ううぅ、何とか言ってくれ……」

「で、そういう情報屋は何してるの? 何か悪いことでもして、捕まっちゃった?」

「それはこっちの台詞なんだけどなぁ……。お前が牢獄に連れていかれるなんて、信じられないよ。

 ……で、俺はちょっとした野暮用さ。悪いことをしたわけじゃないぞ!」

「へぇ? それじゃ、わざと捕まったんだ?

 それにしては、大きなタンコブ作ってるねぇ」

「これだけは計算通りにはいかなかったんだよ……。油断したら不意を突かれて――

 まぁ、俺は向こうに着いたらやることがあるからな。お前とはこの馬車でお別れさ」

「ああ、そうなんだ。それじゃあたしからの餞別。

 そのタンコブ、治してあげるよ」

「お? サンキュー! お前、中身はそんなんでも神職者だもんな!」

「誰が治癒魔法で治すと言った? もちろん、こっちだよぉ?」

「え? ち、治癒薬? ちょっと待て、それは――――うぎゃああああっ!!」

「うるさいぞ、そこ!!」


 馬車の外の警備兵から注意を受けたザインは、タンコブのあった場所を押さえながら、ひとり静かに悶えていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 牢獄に着くと、アリアは所定の手続きを済ませて、女性用の牢に投獄された。

 最初は荒々しく、イヤらしく扱われていたが、どんどんスムーズに進むようになっていた。

 基本的にはアリアが協力的だったことと、何故か牢獄の人間がアリアに触れることが出来なかった……というのが理由だ。

 後者はもちろん、彼女の異能の『対象化拒否』によるものだが、それを知る者はここにはいない。


 一方その頃、ザインも男性用の牢に投獄されていた。その牢は、1室に10人ほどが入れられている。

 本来であれば、ザインは牢に入ることはなかったはず――協力者の看守がいて、ザインも看守になり済ますはずだったのだが……。

 ……どうやら最近、牢獄内のトラブルでその協力者は亡くなってしまったらしい。

 さらに絶望的だったのは、ザインが入った牢には、看守も扱いかねる大物がいることだった。


「おいおい、ここに来るのに持参金も用意してないとはなァ……。

 俺の名前はギデオンっていうんだが、この名前は知っているか?」

「は、はい! もちろんです! 大盗賊にして盗賊団の首領!! 知らぬ者などいませんッ!!」

「ほう、それは嬉しいねェ。その上で、舐めてもらったわけだよなァ?

 ここでは俺がルールだ。看守なんて、俺に従う小物よ。くくくっ、これから良い暮らしが出来そうだなァ?」

「ひいぃ……」


 ザインがこの牢獄に来た理由は、このギデオンと接触するためだった。

 しかしそれは、自分が看守の立場で……というのが前提だった。同じ囚人という立場では、交渉なんて最初から上手くはいかない。


 ……ザインは借金を背負っていた。

 だからギデオンが隠し持つという秘宝を手に入れて、一発逆転を狙うべく危険な橋を――渡ろうとしたのに、まさかその橋が、最初から落ちていようとは。


 ギデオンの命令の元、他の囚人まで加わり、ザインは入牢の手痛い儀式を終えた。

 タンコブやアザをいくつも作ったあと、ギデオンからはようやく解放された。

 牢の隅でしくしくと嘆いていると、先ほどの儀式に加担していた囚人が、ザインの近くに寄ってきた。


「ギデオンさんも、いろいろとストレスが溜まってるからな。

 ふふふっ、ご苦労さん。俺らはしばらく助かるわぁ♪」


 つまり、しばらくはザインが牢内でのいじめの対象になる……ということだ。

 逆に、他の囚人はいじめる側にまわり、その分ここで生きていくには楽になる。


「く、くそ……。このままじゃ、悲惨な牢生活を送るハメになっちまう……。

 誰か、俺を助けてくれる人は――」


 ザインは考えた。しかし最初にいたはずの協力者は既におらず、恐らくそこから流れたであろう賄賂の行き先も、今は情報が何も無い。

 正直、詰んだ――……と絶望する中、ひとりの少女の姿が頭に浮かんだ。

 しかしその少女、アリアは恐らく離れた場所にいるはずだ。

 何故なら、男女で牢が分かれているのだから……。


 ……しかし、アリアに頼るしか考えられなかった。

 とりあえず、今できることは、外に合図を送ることくらい――


 ――カンッ、カンッ、カンッ

 ――カーンッ、カーンッ、カーンッ

 ――カンッ、カンッ、カンッ


「うるせェぞ!!」

「ひぃっ、すんませんっ!」


 夜中、ザインが牢の格子を叩いていると、すぐにギデオンの怒号が飛んできた。

 今日は諦めることにして、粗末で薄い毛布に入る。床の下が冷たい。

 明日の起床は早いだろう。

 今日のところはもう、さっさと眠ってしまおう――


 ……寝付けないまま、目を閉じて何とか眠ろうとする。

 しかししばらくすると、頬が引っ張られていることに気が付いた。

 また何かされているのか? ……そう思って静かに目を開けると、アリアがそこにいた。


「――何してんの?」

「ちょ、おま……っ。お前こそ、何で?」

「何か救援のメッセージが飛んでたから、気になって。何か知ってる?」

「ああ、アレは俺が飛ばしたんだけど――

 ……って、気になったところで普通ここまで来れるか!?」

「あたしは、普通のレベルでは語れないんでねぇ♪」


 ……確かにそうだった。コイツはそうだった。

 見れば外の看守が倒れている。鍵は閉まっているのを見るに、一度中に入ってから、改めて鍵を掛けたのだろう。


 ……いやしかし、女性用の牢とは距離もあったはずだが……さすが、神出鬼没というか、何というか。

 ザインとアリアのやり取りに気付いた他の囚人は、不思議そうに声を上げる。

 そんな中、ギデオンも例外ではなかった。


「おい、新入り! その女ァ、どうした?

 くくくっ、まだガキんちょだが、お前が連れて来たのかァ?」

「ち、違う! コイツは迷い込んだだけだ!」

「こんなところに迷うやつが、どこにいるッ!!

 ……まぁいい、お前の待遇も考えてやるよ。だから、大人しくソイツを渡しなァ?」

「断るッ!」

「おおー、かっこいいねぇ」

「言ってる場合か! とにかくお前、ここからすぐに出ていけ!」

「んー……。でも幸いなことに、あたしの目的もここにいるんだよねぇ。

 さすがだね、あなたの目的もこの人だったんだ?」

「まぁな!」


 よくは分からなかったが、ザインは誇った!

 ……誇ってから考えた。アリアの目的も、もしかしたら例の秘宝だった……?


「くそ、てめぇら、舐めやがって! ……おい、やっちまえ!」


 ギデオンの言葉に、牢内の囚人たちが静かに立ち上がり、ザインとアリアを取り囲んだ。

 この牢はギデオンの計らいで、他の牢よりも人数の割には広くなっている。

 ギデオンは少し離れた場所で、集団リンチを見るのが楽しみでもあった。


「すまないなぁ。従わないと、ウチらも酷い目に遭わせられるんでねぇ」

「暴れないでくれよ? お互い、さっさと済ませようや」

「顔には手を出さないでおいてやる。後々、そっちの方がいいからなぁ?」


 ――囚人たちの言葉に、アリアは一息ついた。


「さっさと終わらせたいのは、同感ですね。

 そちらが従わない理由、あたしは理解しましたので――」


「「「ぎゃぁっ!?」」」


 アリアの手元には杖が現れ、素早いスピードで振られていく。

 襲い掛かろうとしていた囚人たちは、一瞬で全員が倒されてしまった。


「……まぁ、こういう解決方法しかないですね♪」


 倒れた囚人を、アリアは杖の先で突いた。

 うめき声を上げはするが、すぐには起き上がれなさそうだ。

 その光景を目の当たりにして、ギデオンは静かに立ち上がる。


「ほう……。やるじゃねぇか」

「そちらから手を出そうとしたんですから、恨みっこは無しですよ?」

「恨みなんてしねェ。むしろ、それより――」


 ギデオンはアリアを睨みながら、高圧的に見下ろした。


「――まぁまぁ、そう興奮なさらずに。

 あたしはあなたに聞きたいことがあるんです。申し訳ありませんが、協力して頂けませんか?」

「なんで俺が、お前なんぞに協力しなけりゃいけねぇんだァ!?」


 ザインは、ふたりの目線が衝突する場所から少し離れて立っていた。

 いつも以上に丁寧なアリアに対して、粗暴に振舞うギデオン。

 このふたりを見ながら、ザインは強く緊張してしまう。


「世の中、ギブ&テイクですからね。もちろん、あなたの力にもなってあげますから」

「そんな必要は無いッ!

 しばらく暴れてなかったんだァ。楽しませてもらうぜェ!?」


 ギデオンはアリアの話を聞こうとはしなかった。

 こんな提案に乗ることはない。最初に痛めつけてやれば、あとは主導権を握れるのだ。

 ギデオンは指の骨を鳴らし、首の骨を鳴らし、アリアを威嚇した。


 大きな身体の盗賊と、小さな身体の女の子。

 客観的に見れば、どちらが勝つのかは一目瞭然――

 ……ではあるのだが、ギデオンはアリアに攻撃どころか、手を出すこともできなかった。

 ギデオンは混乱しながら、いろいろなことを試そうとするが、何もかもが上手くいかない。


「――手が出せん。

 よくわからんが……、お前は何かの達人なのかァ……?」


 改めて考えれば、牢の男たちを何人も、あっさりと倒しているのだ。

 さらに自分が手出しできない、この……何か。正直、得体の知れなさが気味悪く思えてきた。


「ちっ! 仕方ねぇ、話ァ聞いてやるよ。

 俺に話があるってことは、そのためだけにこの牢獄まで来たんだろォ?」

「えへへ、ありがとうございます♪」

「……それで、何の秘密が知りたいんだ? 答えてやるかは、内容次第だがなァ」


 ギデオンは頭をかいてから、不敵に笑った。

 その言葉と共に、牢の囚人たちはそれぞれの毛布に戻っていく。

 ……そうせずに話を聞いていれば、恐らくまたギデオンから睨まれてしまうだろう。

 命令は聞くものの、基本的にはギデオンとは接点を持ちたくない――それが、この牢の空気だった。


 ギデオンは自身の布団の上に座り、アリアにも座るように促す。

 その横で、ザインはしれっとアリアの横に座った。

 アリアは仕方の無さそうにそれを見てから、とりあえずザインの背中を軽く蹴飛ばした。

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