第十話 石の正体
第十話 石の正体
「大丈夫かラクー」
引き上げられた僕は引率の先生によって怪我がないかくまなく確認される。
「はい、けがはないみたいです」
「みんなは目的の広場を目指すが、おまえ達はどうする。ここで休んでいてもいいぞ」
先生は心配してくれるが、どこも悪いところはないみたいだから、遠足を続けるべきだろう。
そう伝えると、先生は、
「無理するなよ」
といい、みんなを先導するため列の先頭へと戻っていった。
「本当に大丈夫なのラクー」
再び歩き始めた僕に、フォーが声を掛けてくれる。
「うん、大丈夫だよ。
穴に落ちる前より元気なくらいさ。
フォーは怪我していない?」
「そういえば、さっきは疲れてふらふらしていたけど、今は返って元気だわ。ラクーも足取りがしっかりしているみたいね」
「そうなんだよ。なぜか疲れがなくなってて……
あっ、そうだ。穴の底の池で拾った石を見せっこしない?
どっちがきれいな石を拾えたのか気になっていたんだ」
僕はそう言うと、ポケットに入れて持ってきた青い石の内、一番丸い、きれいなものを一つフォーに渡す。
「まあ、きれい。青い宝石みたいね。それじゃあ私の拾ったのも見せるわね」
フォーはそう言うとこれまたきれいな楕円球の青い石を僕に渡してきた。
「これもきれいだな」
「でしょ。左右どちらかにいびつになっている石が多かった中でこれだけきれいなシンメトリーなのよ」
嬉しそうにフォーが微笑む。
「ねえラクー、せっかくだから交換しない」
「いいね。今日の記念の宝物にするよ」
「私もそうする」
僕たちはお互いの最高の石を交換すると、上着の内ポケットへとしまい込んだ。
薄暗い洞窟を滑らないように気をつけながら歩くのは、大人でも神経を使い普通より疲れる。まして、洞窟に入ってすぐに、僕が盛大に滑りこけて穴に転落し、フォーも僕の後を追って穴に飛び込んだことはみんなに伝わっており、先生達から心配されている。足下の悪さから一歩一歩に神経をすり減らして歩くことになるのでとても疲れやすいのだ。
最初はあれほど元気いっぱいだった同級生たちも、滑りやすさからの緊張が相まって相当な疲労を蓄積させていた。
「まだかなー」「疲れたよ……」
みんなが弱音をあげる中、なぜか僕とフォーの足取りは軽い。
「ねえ、ラーク。
みんな疲れているみたいだけど、あなたは大丈夫なの」
「うん、穴に落ちてからはなぜか疲れないんだ。
そういうフォーはどうなの?」
「わたしもなぜか分からないけど、全く疲れていないわ」
僕とフォーが自分たちだけ疲れないことを不思議に思っていると、先頭から歓声が聞こえてきた。
どうやらついたようだ。
そこは聞いていた以上に幻想的な空間だった。
ヒカリゴケと魔法でライトアップされた体育館程もある空洞に鍾乳石や石筍が最高のオブジェとして点在し、奥の方には石灰棚が発達してゆっくりと水が流れている。
全体として湿度が高く壁面は水分を含んでキラキラ輝いている。
気温も暑すぎず寒すぎずという具合で、洞窟の外の猛暑が嘘のようだ。
「よし、それじゃあここで昼食にして、1時間休憩したら帰るぞ」
引率の先生がそう言うと、同級生たちはその場に思い思いのグループを作り、持ち込んだランチボックスを開けて楽しげに食べ始めた。
「私たちも食べましょう」
フォーに促されて僕らもランチにする。
何人かの同級生と一緒に持ち込んだ食事を食べ、おかずの交換などをして盛り上がる。
中には、道中で食べられる植物を採集してきた強者もおり、よく分からない木の実や野いちごのような草の実を提供して話題を提供している。
そんな中、僕たちも拾ってきた石を見せて自慢することにした。
「これがラクーと拾ったきれいな石よ」
フォーはそう言って、僕の渡した青い石を内ポケットから取り出しみんなに見せた。
「うわ」「きれい」
周りの友達は石の美しさに歓声をあげる。
その声にこちらを見た先生たちの一人がびっくりしたように目を見開くと魅入られるように僕らのグループに近づいてきた。
「フォー、その石をちょっと詳しく見せてくれないかな」
「はい、先生」
先生はそう言うと、フォーから石を受け取り、光にかざしたりしながら熱心に調べはじめる。そしてしばらくするとフォーの肩を両手でつかんで興奮した様子で聞いてきた。
「これは間違いなく回復ブルークウォーツという魔法石の一種だ。
これは家から持ってきたのかい」
なんと、僕らが拾ってきた石は貴重な魔法石だったらしい。
「いえ、これはラクーと拾ってきたものです」
フォーの返事を聞いて先生は僕へと質問を変えた。
「ラクー、これはとても貴重な石なんだ。
この石はどこで手に入れたんだい」
僕はこのとき、正直に伝えるべきか悩んだ。貴重な魔法石があんなところにあることが知られたら……
あのきれいな洞窟は金儲けの道具にされて破壊し尽くされるかも知れない。それは嫌だ。
「はい、ここに来る途中で偶然拾ったものです」
僕はフォーの方をチラリと見ると、穴の奥の池底に敷き詰められる程ブルークウォーツがあったことには触れず、簡単に説明した。
「それは洞窟の中でかい?
それとも外でかい?」
「洞窟に入ってからですが、どのあたりで拾ったかははっきり覚えていません。
きれいだったんでフォーにあげました」
「そうか……
他にも拾った子がいないかあたってみよう」
先生はそう言うと、他の先生たちの集まっている場所へと帰っていった。
「フォー、合わせてくれてありがとう」
「うん、あの場所、きれいだったものね。あそこが荒らされるのは嫌だなと思って私も黙っていたの」
「あそこは二人の秘密にしないかい?」
「ええ、私もそれがいいと思うわ」
僕たちはお互いの目を見てクスリと笑った。
「そうか、回復の魔石か。それで私とラークだけが疲れなかったのね」
フォーは青い石を見つめながら呟いた。
確かに、回復ブルークウォーツは、僕らのポケットに何個も入っている。側穴の中でこれを拾っていたから疲れなかったと言われれば納得だ。
これって全部運に極振りした結果ののだろうか……
他に例がないので確証は持てないが、どう考えても他の原因は見当たらない。




