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なぜイランの核問題はここまで問題になるのか

〜イスラエル・パキスタンとの比較で見る中東核問題〜


①、イランの核開発


皮肉なことに、イランの原子力開発の出発点は、冷戦期にアメリカが同盟国イランに原子力技術を導入したことにあった。


1950年代〜60年代、アメリカは「Atoms for Peace」という政策を進めていた。

これは簡単に言うと、原子力を平和利用として同盟国に広めるという外交政策である。


この政策で、日本、イラン、韓国、台湾などに 原子力技術が導入された。


イランの場合、当時の国王パフラヴィーは、親米、近代化志向であり、産油国であるイランは、アメリカにとっては理想的なパートナーだった。


そこで原子力研究、原子炉建設、技術教育などが進められる。


1963年の白色革命は土地改革、女性参政権、教育改革、産業近代化などの「西洋型近代化政策」。


この流れの中で原子力の導入は広い意味では同じ「近代化プロジェクト」の一部であったとも言える。


当時のイランは石油収入を背景に、将来的に原子炉を20基以上建設する構想を持っており、アメリカや西欧諸国もこの計画を支持していた。


つまり当時はアメリカにとって、イランの原子力開発は「歓迎」されていたのである。


しかし1979年の革命で関係が崩壊した。


抑圧されていた反米感情が膨らみ、反米デモが激化。


反米政権誕生、大使館占拠事件、国交断絶。


ここからアメリカはイランを警戒する側になり、イランの核開発は「危険」なものだという認識に変わったのである。


さらに翌年勃発した「イラン・イラク戦争」がイランにトラウマを植え付けた。


イラン・イラク戦争(1980〜1988年)


この戦争でイラクは化学兵器を使用し、欧米諸国がイラクを支援、イランは国際的に孤立した。


イラン側の認識は「国際社会は誰も助けてくれない」。


ここで「核抑止力思考」が生まれた。


イランの主張は基本的に、


核兵器を持つイスラエル、パキスタン、インド。

加えて周囲を米軍基地に囲まれている。


だから自国の抑止力が必要。


つまり核開発は安全保障の論理なのである。


ただしイラン政府は現在も「核開発は原子力発電など平和利用のためであり、核兵器開発は行っていない」と主張している。


しかしアメリカ側はこう考える。


もしイランが核兵器を持つと、中東の影響力拡大(ヒズボラなど支援)。


となると中東の核拡散が起きる。


するとサウジ、トルコ、エジプトも核を持つ可能性がある。


つまり、俗に言う『核ドミノ』。


だからこの問題は、アメリカが全部悪い、イランが全部悪いという構図ではなく、安全保障のジレンマで、

簡単に言うと相手が怖いから軍備を増やす、それを見て相手も軍備を増やすという構造だ。


   ◇


②、イスラエルの核問題


では、なぜイランと対する、イスラエルの核兵器は問題視されないのか。


イスラエルの核兵器は「自国主導の開発」だが、技術的にはフランスの支援が非常に大きい。


そして アメリカは直接作らせたわけではないが、後に事実上黙認する立場になった。


イスラエルの核開発は1950年代に始まる。

主導したのはベングリオン、イスラエルの独立宣言をした初代首相兼国防相だった。


彼の考えはとてもシンプルで、


人口も国土も小さいイスラエルが、周囲のアラブ諸国に囲まれて生き残るには決定的な抑止力が必要であると。


その答えが「核兵器」だった。


核開発で大きな役割を果たしたのはフランスである。


1950年代、フランスはアルジェリア独立戦争、アラブ民族主義と対立しており、

イスラエルと協力関係にあった。


その結果、イスラエル南部にディモナ核施設が建設され、ここがイスラエル核開発の中心となった。


1960年代になるとアメリカは、「イスラエルは核を作っているのでは?」と疑い始める。


そこで施設査察を行い、圧力をかけた。


しかし最終的に1969年、アメリカ大統領リチャード・ニクソンと、イスラエル首相ゴルダ・メイアの間で暗黙の合意が成立する。


内容は、イスラエルは核を公式には認めない、アメリカも追及しないというものである。


これが核の曖昧政策(nuclear ambiguity)である。


つまり現在、イスラエルは核兵器を「持っている」と言われているが、「公式には認めない」という状態だ。


イスラエルは核兵器の保有を公式には認めていないが、多くの研究者は80〜100発程度を保有していると推定している。


ここが中東核問題の核心であり、なぜかイランだけが核問題として扱われるという構図。

だからイランは、なぜイスラエルは許されるのかという主張をよくするのである。


   ◇


③、パキスタンの核問題


ではなぜ、イランの隣国パキスタンは核を保有しているのか?


出発点はインドだと言われている。


1974年、インドが核実験を行った。


これに対してパキスタンのの指導者ズルフィカール・アリー・ブットーは有名な言葉を残す。


「我々は草を食べても核兵器を持つ」


つまりインドへの抑止力として核開発を決めたわけである。


パキスタン核開発の中心人物はアブドゥル・カーン。

彼はオランダの核関連企業で働いていたときに「ウラン濃縮技術の設計図」を持ち出したとされている。

その技術を基にパキスタンの核開発が加速した。


パキスタンの核開発には中国の技術支援もあったと広く言われている。


理由は、中国とインドが対立しており、インドの牽制のためである。


冷戦期の1979年、ソ連がアフガニスタンに侵攻すると、アメリカはソ連対抗の前線基地としてパキスタンを必要とした。

そのためパキスタンの核開発に対してかなり甘い対応を取る。


1998年、インドが核実験をするとパキスタンもすぐに核実験を行った。


これでインド vs パキスタンは核保有国同士になったのである。


さらに、後になって問題になった出来事が起こった。

アブドゥル・カーンがイラン、北朝鮮、リビアなどに核技術(ウラン濃縮技術、遠心分離機設計、部品等)を拡散していたことが発覚したのである。

これは世界的な核拡散事件だった。


イランは1990年代には遠心分離機技術を入手していたと言われている。


一部ではアメリカがパキスタンの核保有を容認しなければ、イランの核開発は進まなかったのではないかという意見もある。


しかしアメリカにとって冷戦期の核問題は多くの場合、対ソ連、対中国、対地域敵国など地政学の優先順位で扱われていた。


つまり核拡散防止より冷戦の勝利が優先されたという面があるのである。


それにパキスタンからの技術流出が阻止出来ていたとしても、繋がりのあるソ連や中国から技術が流入していた可能性は否定できず、そもそもイランの地盤にはアメリカが持ち込んだ核技術がある。


   ◇


④、アラブ諸国の本音


では、中東の他の国々はこの核問題をどう見ているのか。


実はアラブ諸国の多くは、表向きは「核拡散反対」を掲げている。


しかし本音の部分では、別の安全保障計算も存在している。


まずイスラエル。


イスラエルは核兵器を公式には認めていないが、多くの専門家は核兵器を保有していると推定している。

アラブ諸国にとってこれは長年の不満の一つである。


なぜなら


「イスラエルの核は問題にならないのに、イランだけが問題にされる」

というダブルスタンダードだという認識があるからである。


そのためアラブ諸国の多くは、以前から「中東非核地帯」という構想を提案してきた。


これはイスラエルを含む中東全体で核兵器を放棄するという構想であるが、イスラエルは、安全保障上の理由からこの構想には消極的だ。


イスラエルの立場は明確で、「周囲の国が敵対的である限り、最後の抑止力を放棄することはできない」というもの。


一方で、イランの核開発に対してアラブ諸国は複雑な感情を持っている。


サウジアラビアや湾岸諸国にとって、イランは地域覇権を争うライバル。そのためイランが核兵器を持つ可能性には強い警戒感がある。


特にサウジアラビアは「もしイランが核を持てば、我々も核を持つ」と示唆している。


このため国際社会が最も恐れているのが

「中東の核ドミノ」


もしイランが核兵器を持てば、サウジアラビア、トルコ、エジプトなどが核開発を始める可能性がある。

そうなれば中東は、世界で最も核保有国が集中する地域になってしまうかもしれない。


このため現在の中東核問題は、単にイランとアメリカの対立ではなく、地域全体の安全保障バランスの問題でもある。


   ◇


こうして見ると、中東の核問題は単純な善悪ではなく、安全保障と歴史が絡み合った非常に複雑な問題であることが分かる。

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