敵に見えた世界で
校門の前に立つの、何ヶ月ぶりだろう。
久しぶりに着た制服の袖がやけに重く感じる。
逃げ出したい気持ちはまだある。
でも今日を逃したら、もう2度と行けない気がしたから一歩踏み出してみた。
そして教室の前で深呼吸をした。
「よし…」
誰に向けたわけでもなく、声に出してみたら、少しだけ勇気が出た。
教室のドアを開けると、ざわっとした空気が一瞬止まった気がした。
視線が刺さる。
胸がぎゅっと苦しくなる。
ああ、やっぱり来なきゃよかったかも。
目の前が暗く、周りの人がみんな敵に見える。
息が上がってくる。
来なければよかった…。
そう思って教室を出ようとした。
「……あ!」
そのとき、少し遠くから懐かしい声が聞こえた。
「久しぶりじゃん。」
声の主は、幼馴染だった。
私はハッとして顔を上げた。
「よく来たな。」
そう言って頭を撫でてくれた。
「……うん。」
私はなんだか照れくさくなって目を背けた。
私は目を伏せたまま、幼馴染の制服の袖をきゅっと掴んだ。指先が震えているのが、自分でもわかる。
「急に…ごめん」
私は手を離した。
「なんで謝ってるの?別に嫌じゃないけど。」
「え?」
気づいたら幼馴染の顔を見ていた。
ーーキーンコーンカーンコーン
もうすぐホームルームが始まる。
各々自分の席に帰って行く。
心の中で「嫌だ」と思った。
周りの人は敵に見える。
すると幼馴染は苦笑して、私の前に立った。
「大丈夫。今日は俺がいる。」
その一言が、不思議なくらい胸に染みた。さっきまで敵に見えていた教室の空気が、ほんの少しだけ和らいだ気がする。
「みんな、お前のこと敵だなんて思ってないよ。」
そう言葉を聞いて、教室を見渡す。確かに、想像していたような冷たい敵意ばかりじゃなかった。
「心配なら俺の席の隣来るか?」
私は一瞬迷って、それから小さく頷いた。
一歩。もう一歩。
まだ足取りは重いし、できるなら逃げたい。でも、隣に並ぶ影があるだけで、安心できた。
先生が入ってきて今日の連絡をしている。
少し縮こまって話を聞いていたら、急に突かれた。
「言ってなかったけど、無理だったら、途中で抜けてもいいからさ。」
幼馴染は前を向いたまま、声を落として言った。
「来たって事実だけで、今日は合格だよ。先生に言いにくかったら俺が代わりに言うからさ。」
その言葉に、喉の奥がきゅっと熱くなる。私は机の上で手を握りしめ、ゆっくり息を吸った。
……逃げたい気持ちは、まだある。でも今は、ここに座っている。
それだけで、今日は十分だと思えた。




