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『せめて、忘れぬように──』

掲載日:2025/12/27

とりあえず読んでみてください。


あの夏の日から、

風の音がどこか遠くなった気がする。

午後の光のなかで、ふと縁側に腰をおろすと、白いカーテンがふくらみ、肩を撫でてゆく。

そのたびに、私は目を細めて、

あの日の彼女を思い出す。



たしか、

あのときもこんな風だった。

彼女はひとり、縁側に座っていた。

風がカーテンを揺らし、

それが肩にふれるたび、

彼女は遠くを見つめていた。

「……いつかと、同じ匂いがする──」

そうつぶやいたあと、言葉は続かなかった。

記憶は、思い出そうとするほどに、

夢のなかで読んだ、雨に濡れた手紙のように、言葉はにじんでいった。


 

私はそっと、彼女の隣に座った。

風の音だけが、ふたりのあいだにあった。

それは、

もう戻らない時間だった。

あの午後の光も、あの声の調子も。

失われたものは、綴られることなく、

ただ、胸の奥で、風のように鳴っていた。


 

彼女は、ふと笑って言った。

「ねえ、あのとき──私たち、何を話していたのかな…」

私は答えられなかった。

言葉は、もうそこにはなかった。

ただ、静寂だけが、やさしく私たちを包んでいた。


 

いま、私は立ち止まっている。

なぞるのではなく、喪失のなかに、

ひとつの祈りを置くために。

もう戻らぬものたちのために。


 

そして、

彼女が見つめていた、あの遠い景色を思いながら、

私はそっと目を閉じる。

風のなかに、かすかに残る

あのときの気配の名残を、


せめて、忘れぬように──






読んでくださった方々、ありがとうございました。

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