年賀状は見ている —祖母の奇妙な“教え”—
お店に色とりどりの年賀状が並び始める季節になると、私はいつも、祖母が語ったとある”教え”を思い出す。
小学生の頃の私は、部屋は散らかしっぱなし、身だしなみにも無頓着という、どうしようもなくだらしのない子供だった。そんな私を見かねたのか、ある日、祖母がこんな話をしてくれた。
祖母によると、私と顔も性格も瓜二つと言われる叔父は、子供の頃、酷い癖を持っていたという。それは——鼻をほじる癖だ。
……それだけならまだしも、ほじった”何か”を、よりによって食べていたらしい。家でも学校でもその癖は治らず、祖母が注意しても全く聞かなかったそうだ。
ところが、ある年のお正月、その習慣に突然終止符が打たれたらしい。
元旦に届いたクラスメイトからの年賀状。そこには、あまりにストレートな一言が書かれていた。
「鼻くそうまいか」
これについて祖母は、まるで昔話のオチを語るように言った。
「悪いことはね、必ず誰かが見てるんだよ」
その声は、不思議なほど説得力があった。きっと、だらしなかった私への、祖母なりのユーモア交じりの戒めだったのだろう。
とはいえ、祖母はお茶目なところがあるので、この話が本当なのかは定かではない。祖母の作り話という可能性だってある。
叔父と私は仲が良いが、こんなことをわざわざ本人に確認する勇気もない。叔父は私と瓜二つと言えど、私よりずっと奇行が多い”正真正銘の変人”なので、聞いたら最後、とんでもない返答が返ってきそうで、それはそれで怖い。
けれど、祖母の言葉そのものは今でも心に残っている。
悪いことは誰かが見ている。逆に、良いことだって誰かがきっと見てくれている。
——年賀状というたった一枚の紙が、人との繋がりや視線をそっと思い出させてくれる。
だからだろう。今でも店頭に並ぶ年賀状を見る度に、ふと祖母の話が蘇る。真偽は分からなくても、あの時の昔話を語るような祖母の表情だけは鮮明に覚えている。
今度、年末に帰省したら、思い切って祖母に真相を尋ねてみようと思う。
もっとも、祖母のことだから「そんな話、したかしら?」と笑って返されそうだが。




