21話 報告と練習
翌日、午前九時。
朝食の後片付けが終わって一段落したところで、
桜井が出勤している使用人全員を集めた。
「お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。
一件、私から金蘭亭についての報告がありまして」
「あぁ、そういえばそんな時期だねぇ。
四季に一回行われる定期夜会だろう?」
悠長に言う榎田に桜井は首を縦に振った。
「はい。
今回は、私と柏木さんが同行することになりました」
皆の視線が一斉に澪に向けられて、澪は思わず肩を揺らした。
――え? そんなに驚くことなの? 少し恥ずかしい……
「頑張って……。あなたは丁寧だから、きっと大丈夫」
「わ〜、やっぱり柏木さんだったね! 頑張ってね!」
「は、はい! 頑張ってきます!」
桐谷や藤咲から笑顔で鼓舞されて、澪の声が大きくなった。
「ちょっと早いかとも思ったけど、あと三週間もあるならいつも通りだね」
「はい。
ということですので、三週間後の夜会が終わるまでは、私と柏木さんは常に二人組で行動させていただきます」
「わかったよ。
そうそう、桜井さん。わかってると思うけど根を詰めなくてもいいからね。
練習しすぎて倒れられちゃ元も子もないから」
「はい。ほどほどに練習します。
さて、私は柏木さんに説明をしないといけないので、
少し席を外しても良いでしょうか?」
桜井の発言に澪以外の皆が当然といったように頷いた。
澪もつられて小さく頷く。
「では、私達は使用人棟の空き部屋に居ますので、何かあればお訪ねください。柏木さん、行きましょう」
「はいっ! よろしくお願いします!」
桜井は澪の返事を聞いて微笑むと、先導を始めた。
二人は空き部屋――澪が使用している部屋に入った。
部屋の中央にはいつの間に用意されたのか、座卓とお茶出しのセットが綺麗に陳列されている。
桜井は襖を静かに締めると澪に向き直った。
「すみません、澪様。この部屋は事情を知らない方達の間では空き部屋の認識なので、あのように発言いたしました。どうか気を悪くされませんよう……」
「い、いえ。お気にならさず! そ、それに私は今は雑用係ですので、普段通りに接してもらえると嬉しいです!」
澪は慌てて口にする。
――今は桜井さんと立場は変わらないのだから
桜井は澪の言葉を聞いて一瞬目を見開いたあと、柔らかい笑みを浮かべた。
「……ありがとうございます。
かなり変わりましたね」
「そ、そうでしょうか?」
「はい。
此処へ来た当初の貴女とは随分違います。声も大きくなりましたし、自分の気持ちを口に出せるようになってきています。もちろん、良い意味でですよ」
澪の胸に温かいようなくすぐったいような、何とも言えない良い気待ちが広がる。
――それは、皆さんが優しく接してくださるから。理不尽に怒られないからであって……
改めて、丁寧に指導してくれる桜井達使用人と自分を拾ってくれた桂木律に感謝した。
桜井は空気を変えるようにわざと一つ息をついた。
「さて、話が逸れてしまいました。まずは私がお手本を見せますので。柏木さんは座卓の中央で見ていてくれませんか?」
「は、はい……」
桜井はすっと立ち上がり、お盆と湯呑を手に取る。
それから流れるようにお茶を淹れ、あっという間に澪の前に白い湯気が上がる湯呑を用意した。
お茶の香りが澪の鼻に入って心を和ませたが、膝の上で握られた両手は震えたままだった。
――一つ一つの動作に隙がなかった……。本当に私にできるのかな?
澪の不安を感じ取ったのか、桜井が口元を緩ませる。
「もちろん、三週間後までにこの水準に達さなければいけないわけではありません。あくまで、一連の流れを間違えずに行えれば良いのですよ」
「間違えずに……」
「はい。
では、まずはお盆の持ち方からですね」
こうして、仕事の合間にお茶出しの練習が始まった。
次回は2月7日更新予定です。
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