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冷酷と噂の名家当主に嫁ぐことになりましたが、私はただの雑用係です  作者: 月森 かれん


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20話 藤村からの通告

 翌日、午後一時半。


 澪は藤村から呼び出され、彼の部屋で緊張した面持ちで正座していた。

 膝の上で両手を握り締めていて、わずかに震えている。

 

 藤村は澪の緊張をほぐすように穏やかな笑みを浮かべながら、話を切り出した。 


 「使用人の誰かから伺っているかもしれませんが、近々芙蓉街の金蘭亭という場所で夜会が催される予定でしてな。

そこに、澪嬢にも同行していただきたいのです」


 「昨日、藤咲さんから少し伺ったところです。

なんでも、律様の付き添いとしてニ人行かなければならないと……」 


 「おお、そうでしたか。

では改めて説明いたしましょう」


 藤村は嬉しそうに言って話を続けた。


 「その夜会は三週間後に催されます。

定期的に行われる貴族達の交流会ですな。

そこでは、律様や他の貴族達のお世話に従事していただきます。

 基本は律様のみですが、律様とご歓談されている方に飲み物をお出しすることもあります故、少し忙しいかもしれませんな」


 「そ、そうなんですね……」


 ――上手く出せるかしら?


 澪は不安になった。

と、いうのも桂木家に来てからは一度も接待を行っていなかったからだ。


 「澪嬢には家事をお任せしておりますが、決して従事態度が良くないわけではありませんぞ。逆です」


 「逆……ですか?」


 「はい。

澪嬢に接待をさせていないのは、他の貴族に貴女がここにいることを隠すためでございます。

 行き過ぎた配慮かもしれませんが、感の鋭い者は澪嬢を見ただけで「只者ではない」と思ってしまいます故」


 「私、表に出ていないのに……」


 ――それに、見ただけでわかる人がいるの?

雰囲気とかで感じ取るのかしら?


 目を伏せた澪を見て、藤村は目を閉じてゆっくりと頷いた。 


 「そうかもしれません。

しかし、澪嬢は桂木家に来てからは明らかに変化してきております。

中堅名家の気品が少しずつ表に……」


 「え?」


 澪は思わず藤村を見つめ返した。

藤村は驚くこともなく、優しい眼差しで口元を緩めている。


 「ええ。澪嬢は家で受けていたような扱いをされることはなくなりましたな? それに身だしなみも整えるようになり、少なくともここに来た当初の面影は見えませんな」


 澪は自分の全身を眺めた。

 毎日着ている給仕服は少し染みがついているものの、まだ新しい。

 黒髪も櫛を通しているおかげで少し艶が戻ってきている。 


 ――確かにあの時とは全く違うわ……


 澪は自分の変化に驚きながらもそう思った。

と同時に、実家でのボロボロの姿を思い出して恥ずかしくなった。




 「さて、話が逸れてしまいましたな。何か疑問等はございませんか?」


 藤村から尋ねられて澪は考える。

ふと、頭に嫌な未来が思い浮かんだ。


 ――社交場なら、もしかしたら義妹が来るかもしれないわ……。

私が桂木家に引き取られたことにますます憤っているだろうし、皆の前で怒鳴られたらどうしよう……


 澪は尋ねようかどうか迷った。

でもそうしている間にも、血の気が引いていって唾を飲み込む回数が増えている。


 「一つだけ、よろしいですか?」


 「はい。なんなりと」


 「その夜会には……朝比奈家は招待されているのでしょうか?」


 藤村は一瞬目を見開いたあと、軽く笑った。


 「ご心配には及びませんぞ。

金蘭亭での催事は五代名家とベテラン名家しか招待されないのです。

なので、ご家族と会う可能性はありませんな」


 「それは、よかったです……」


 キッパリと言い切った藤村を見て、澪は心の底から安心した。

それと同時に体も元の状態に戻ってゆく。


 「それと、これから三週間は桜井と共に家事に従事し、合間に作法を学んでもらいます。今回は桜井が付き添いますので、彼女の指示に従っていれば間違いはありません。

 なにしろ金蘭亭ですからな。貴族達の前でそぐわない行動をとるわけにはいきませんので」


 「し、承知しました」


 「とはいえ、あまり気負わずに。

それに律様が金蘭亭に新人を連れてゆくことは皆が知っております。

よほどの失態でなければ目を瞑ってくれますぞ」


 「よほどの失態……。飲み物を貴族達の服にこぼしてしまう、とかでしょうか?」


 少し顔が強張っている澪に対して、藤村は口元を緩めたまま話を続ける。


 「そうですな。服に飲み物をこぼしてしまえば、最悪弁償。

気の荒い相手だった場合は怒鳴られるでしょうなぁ」


 「ひっ!?」


 思わず悲鳴を上げた澪に藤村はなだめるように声をかけた。


 「弁償は最悪の場合の話です。大抵、皆様は最低一着は着替えを用意しておりますし、金蘭亭でも着替えを用意してくれています。

着替えてもらった後に洗い落とせば、染みにはならないでしょう」


 「で、ですが……」


 「澪嬢なら大丈夫でしょう。従事しているところを陰ながら見ることがありますが、所作が丁寧ですからな」


 「あ、ありがとうございます……」


 なんとなく丸め込まれたような気がした澪だったが、所作を褒めてもらえたのが嬉しくてお礼を言ってしまっていた。


 ――今度は、熱を出さない程度に頑張っていこう


 澪は心に誓うと、藤村にお辞儀をして部屋を後にした。

次回は1月24日に更新予定です。

よろしくお願いします

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